運命は先天的にお兄ちゃん子 ―歴代最少の契約者たち 転生先にて恩送り   作:yyuuss

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青く深く、枕の精霊は枕に戻る

 クルウドが自身の家族と幼馴染のマヤカに対して、自分は転生してきて今ここに居るんだと打ち明けた日の翌日の朝。クルウドは色々と慣れないことが重なったことで疲れているだろうから休ませてあげようとの女性陣3人衆のご意向のおかげで、朝早くから起こされることもなく日が昇ってからも数時間後まで眠ることができた。

 もうそろそろ起きないとは思いつつもまだ外も寒い。まだしばらくは暖かい布団の中でのんびり過ごすことに決めたクルウド。二度寝すべきかと考えるもふと目に付いた本でも読もうかと一瞬だけベッドから離れて本を手に取ると急いで布団の中に戻る。案の定今は12月であるので部屋の中でも寒かった。

 

「クル。カノンを見なかった? マヤカが起きてきたときには部屋にはいなかったらしいの。私も見ていないのよね。どこ行ったのかしら」

 

 レイラはどうやら部屋から聞こえる物音でクルウドが起きたことを理解したのだろう。クルウドにカノンが見当たらないことを伝える。

 

(カノンがいなくなった? 転生初日である昨日でも俺のことを好き好きアピールして自分から離れようとはしなかったカノンが? ……俺が想像できる以上のことが起きているのかもしれない)

 

『カノン、どこにいるんだ。何も言わずに出掛けたらみんな心配するだろ』

 

 とりあえずクルウドは最初の手段として念話を飛ばす。離れていても電話のように連絡が取れる念話ならどこにいても出てくれるだろうと思ったからだ。昨日何度か使った時には何事もなく繋がったし念話が使えるのは既に証明済みである。しかし、念話を飛ばしてみるも、カノンからの返事が一向に来ない。

 

 念話が通じないのなら直接歩いて探すしかない。クルウドは太陽が昇ってから時間が経っているにも関わらず外も中もまだ寒いので正直布団から出たくはなかった。ただ一方で誰にも行き先を教えずいなくなったカノンの行方も気にもなったので再び潜り込むことがないように布団を思いっ切り蹴って起き上がる。

 

「うわっ、何するの兄ちゃん!? 布団を取り上げるなんてひどい。うぅ、寒いよぉー」

 

「うおっ、びっくりした! 急に話し掛けるなよ。……あれ、この声はカノンの声だったはずだよな。―でも声だけで姿が見えないんだけど、何処にいるんだよ。これって念話が飛んできているのか?」

 

 クルウドが勢いよく起き上がってみると聞こえてくるのは寒いと嘆く少女の声だけ。声の主はカノンであるはずとクルウドは部屋の中をくまなく探すもトレードマークの青い髪や眼はもちろんのこと肝心の姿が見えない。

 

「違うよ。ほらここに居るでしょ。ねっ、ほらここだよ、ここ」

 

「録音の類いかそれとも監視の類いかは分からないが早く出てくるか居場所を教えてくれよ。母さんもマヤカも心配しているんだぞ」

 

 初めのうちは真剣に探していたクルウドは徐々にいたずらではないかと疑い始める。既に扉が付いている棚も押し入れも繰り返し何度も確認した。それでも見つからなかったので、クルウドはうんざりする。

 

「そこに枕があるでしょ。布団の中にある枕の方が私」

 

「布団の中に枕? でも寝た時に使った枕はここにあるしな……。あれ……、何故に二つ目の枕があるんだ? しかも寝た時には無かったはずの枕だし……。あっ、これってもしやカノンの枕状態バージョンか、成る程」

 

「うん、そういうこと。ってことで兄ちゃん、布団返して、寒い」

 

 クルウドはベッドに腰を掛けると布団の中にあった方の枕を手に取り近くで確認する。その枕の色は青空を凌駕するほど蒼穹に染められており、枕らしくとても軽い。カノンの枕状態バージョンは正面から見ると縦30cm、横も30cmほどだろうか、座布団として使っても悪くない大きさである。あくまでも枕としては普通の大きさではある。しかし、人間状態の少女姿の時と比べるとどうしても小さく感じてしまう。

 

「そういえば昨日、枕の状態でいるとか言っていたけど枕状態のカノンはこんな感じなんだな。で、いつこっちの部屋に来たんだよ。マヤカと寝ていたんじゃなかったのか」

 

「夜中トイレに行った時にこっそりと来た。寒かったんだもん」

 

「カノンにも布団やベッドが用意されていただろうに。」

 

「……兄ちゃんと一緒に居たかったから。それだけじゃ……だめ……?」

 

「……そうかい、分かった分かった。ひとまずカノンを見つけたし、母さんたちに報告しに行くぞ」

 

 クルウドに涙目を浮かべながらじーっとクルウドを見つめる枕状態のカノン。いつの間にかクルウドの膝の上に座っていた。明らかに懇望されていることを悟ったクルウドは一度溜めたあと少し目をそらして答える。契約した効果だろうか、枕状態でもカノンの気持ちが分かった気がした。

 

「待ってよ。私はまだ枕状態のままなんだけど……」

 

「……昨日打ち明けたんだし別に気にすることもないだろ。また探しに行かせて徒労させる訳にもいかないし」

 

 クルウドはヒョイと枕状態であるカノンをお姫様抱っこするように持つ。クルウドとしてはこの枕がカノンである以上つまむように持つのも失礼だよなと抱えたのだが、前触れもなくお姫様抱っこされたことにカノンは機嫌をよくするのだった。

 

 

「母さん。カノン居たよ」

 

「私もレイラさんもあれだけ探したっていうのに……、で、カノンはどこに居たの?」

 

 カノンを探しに外に出ていたら呼び戻さないとなと思っていたクルウドだったが幸いレイラとマヤカは家の中に居た。特にマヤカの方はカノンのことが心配だったのかクルウドの元に駆け寄ってくるほどだった。

 

「ほらよ。普通に隠れていやがった」

 

 手に持っていたカノン(枕状態バージョン)を見せると、母さんはそういうことかと合点がいったようで朝食の準備に取り掛かり始める。しかし、枕状態のカノンを見せたところですぐにそれがカノンだと気づく人はそうそういない。マヤカもその一人だ。

 

「それってただの枕じゃない。クルウドもずっと寝ぼけていないでちゃんと探したらどうなの。」

 

 一方でマヤカはというと怪訝の表情を浮かべつつも、自分がふざけていると思ったのか怒る。マヤカはしばらくの間ずっとカノンを探していたようなので、青い枕を目の前に出されてこれをカノンだと言うのなら普通だったら怒って当然だ。

 

「兄ちゃんは間違っていないよ。一応私のことを探していたもん。それにマヤカも私が何の精霊かっていうのは知っているでしょ」

 

「えっ、カノンはどこなの」

 

 誤解を解くためにマヤカにどう説明しようかと悩んでいたところ、カノンが助け舟を出してくれる。しかし、枕状態のカノンの姿を知らないマヤカにとっては、正にカノンの声は聞こえど姿は見えず、という状況であり当惑する。

 

「だから目の前に居るでしょ。まず私の質問に答えた」

 

「カノンは確か枕の精霊だったでしょ。ん、…………その枕ってもしかしてカノン?」

 

マヤカにも昨日の夜に自分たちのことは話していたのでマヤカは迷いなくすらすらと答える。この枕の正体に思い当たる節が出てきたようで枕状態のカノンに顔を近づけ観察すると、不思議がる素振りを見せつつもカノンの名前を出す。

 

「そうだよ! マヤカとは昨日あれだけ話し合ったから仲良くなったと思っていたのに。気づいてよ」

 

「……うん、ごめん。クルウド、これは流石に……気づかないよね?」

 

「そんなの気づかないだろ。……現に俺もすぐには分からなかった。似ている要素なんて、カノンが人間状態の時の髪や眼の色が枕の色と同じく青いことぐらいしかないんだからさ」

 

 クルウドの顔を見て同情を誘うマヤカ。マヤカはクルウドならカノンの機嫌を直せるかもと期待してクルウドをわざと巻き込む。マヤカも初めはレイラを仲間にしようと考えたが、レイラはすぐに青い枕がカノンだと判別したためにクルウドしか頼れなかったのだ。クルウドもマヤカと同じくすぐには気が付けなかった同士、肩を持つことにする。あれで気付けと言われる方が無茶である。

 

「それでも兄ちゃんなら分かると思ったのに……。兄ちゃんだけは初見でも気づかなきゃ」

 

「カノンももう過ぎたことを責め立てても仕方ないのよ。まぁクルもカノンはあなたの契約精霊であるんだからきちんと気づいてあげないと」

 

「……すまない。でも、もう枕状態のカノンも確認したし次からは間違えないから。許してくれ」

 

 マヤカに加勢したはいいのも、カノンだけでなくレイラにも契約者なのだから気づいてあげないとと白い目で見られてしまい気まずくなって謝罪するクルウド。マヤカが「こればかりは気が付かなくてもしょうがないよ」と暖かい目線を向けてきたので謝る必要はあるのかと若干迷ったのだが、後味が悪くなるのを防ぐためにも正直に言ったのだ。

 

「それじゃあ揃ったことだから朝ご飯を食べて出発しよ~」

 

「マヤカ、どこか行く予定でもあるのか?」

 

「マヤカと一緒にヤンセン食堂に朝ご飯を買いに行ったのよ。その時に会ったアビジャさんがクルとカノンも遊びにおいでと強く勧めてくるから連れて来るわってついつい言っちゃった。ということで朝ご飯を食べたら行ってらっしゃい」

 

 クルウドは当初近所の把握も兼ねて自宅のある北地区を中心にオッセラの街をぶらぶらと散策でもしようと考えていた。しかし、予定がすでに決まっていたのなら散策はまた今度にすればいい。どこに行くのかと尋ねると行き先はマヤカの家でもあるヤンセン食堂とのことらしい。距離も近いのでさほど時間は掛からないだろう。

 

「アビジャは私のお母さんのことね。お母さんはカノンのことが気になっているんだと思う。ああ、何にも心配することはないよ。精霊と転生の秘密は話していないから。紹介がてらに私の家においでよ。……、でも、カノンは現在枕状態なんだった。秘密の保持のためにもこの姿じゃ行けないよね」

 

 マヤカは気を遣ってあらかじめ秘密を漏らしていないことを告げた。クルウドはきちんと口止めが守られていることに対して胸をなでおろす。これからもマヤカには秘密をばらされないように努めてもらいたい。

 

「人間状態を維持する分の魔力は回復したし、今からでも戻れるよ」

 

 マヤカの言葉にカノンの現状を慮ることになるクルウドたち。このままの枕状態では外に出して紹介は到底できない。もう一度カノンが人間状態になってから出かける必要がある。考慮していなかったことに改めて考えを巡らそうとする。しかしどうやら、カノンはすぐ人間状態に戻ろうと思えば戻せるらしい。この場で人間状態に戻ろうとしたのだが、カノンに待ったが掛かる。

 

「カノン、自分の部屋で変身してきなさい。素っ裸にでもなったら困るでしょ」

 

「……そうだった。状態変化の時は服がなくなるんだった。……でもこの部屋にはレイラさんに兄ちゃん、マヤカしかいないからここで変えた方がすぐ朝ご飯も食べられるし楽じゃない?」

 

「いや、だめだからねカノン。クルウドは転生したとはいっても一応は男の子だからね。私と一緒に部屋に行くの」

 

「兄ちゃんとは婚約もしているし私は見られても――」

 

 マヤカはカノンの言葉を遮るように枕状態のカノンを拾い上げると部屋に入る。普段から気の利く女性陣もこういう場面ではなかなか期待できないもので折角のチャンスも不発に終わった。今クルウドが感じていたものとは自身の不運さと換気のために窓から入ってくる冷たい風だけであった。

 




今話で第1章終了でも良かったのですが、早いところマヤカの家庭状況も分かった方がいいと思ったので後1,2話を経て第2章に入ります。

皆さんが読む分には一話あたりどれぐらいの文字数がいいですか? これからの参考にします。

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