運命は先天的にお兄ちゃん子 ―歴代最少の契約者たち 転生先にて恩送り 作:yyuuss
カノンが人間状態に戻り、朝ご飯を食べ終えて、支度を済ましたクルウドとカノンとマヤカの3人は会話おしながらヤンセン食堂に向かって歩いている。
「ねえねえカノン、どうして枕状態に戻っていたの? あれじゃあ探しても気が付かないよ~」
「仕組みはよく分からないけど確か魔力がうんたらこうたらって言っていたよな」
素朴な疑問を口にするマヤカ。その声量は呟いているかのように小さいことからもマヤカも秘密がバレないようにと相当配慮していることがうかがえる。
「枕状態に戻ろうと思って戻ったんじゃないんだよね。ほら、昨日ニオラント・ミダで契約をしたあとに契約が成功しているかどうかを確認するために兄ちゃんの記憶を覗き見た時にさ、その2つのダブルパンチで私の魔力がこさぎ取られてしまって……。魔力が枯渇したことで枕状態になったんだと思う。ニオラント・ミダもそこそこ魔力の消費量が多いからね」
「記憶の鮮明化を選ばずとも念話とか視界共有とか他にもあっただろ」
カノンだって記憶の鮮明化が魔力の消費が激しいことを知っているはずだ。そこまでしてでも俺の記憶に興味があるのだとクルウドは感じ取る。ただ同時に、カノンをしてでも強制的に状態変化を引き起こすほどに魔力を使用しなければならないことに対して、クルウドは使いどころは考えものだと唸るのである。
「ニオラント・ミダって何? 魔法の一種?」
「これはまだ説明していなかったっけ。ニオラント・ミダは契約魔法のことだよ。精霊と人間が契約するときに使う魔術のことで、滅多に使われない魔術なんだ。ニオラント・ミダを行使する際には契約する者の間で魔法陣の光る色が違うらしくて私たちの場合は青紫色だったよ。あれは綺麗だったなぁ。ただ契約完了時に閃光が空に伸びるんだけど、私たちにとってはこの現象はとても不都合なんだよね。よほど僻地でない限りその閃光が見られてしまうから。しかも、王国レベルにもなると過去の膨大な資料もあることだし、もうすでに精霊と人間の間で契約が行われたことも察知されていて、おおよそ見当がついているかもしれない。そうなれば平穏な暮らしなんて夢のまた夢になっちゃう」
「カノン。ちょっとした騒ぎになっていたよ。何にも昨日の夜に入って間もなく、空に白い光が上がったと思うと眩しく光って消えたらしいとか。これって例の……契約魔法、ニオラント・ミダの影響だよね?」
「……うん多分そう。もう噂になりつつあるんだ……早いなぁ。契約魔法の詳細を知らない巷の人々は怪奇現象で事を済ませるだろうけど…………、教養の高い王国の重鎮や関係者の目は欺けないだろうから……私たちだっていうことが明るみにされないように祈るしかないよね……」
契約した時に打ちあがった光が既に噂になっていることを聞いて、カノンは悲壮感を漂わせる。オッセラには高い建物がそう多くない上に現代日本とは違い、暗くなった夜でも街にあまり光が溢れてかえっていないため、大分目立ったことには間違いない。
「……おいおい、困ったときの神頼みか。何か良い方法でもないものですかね」
カノンが祈るしかないと言い出すほどに事態は深刻さを極めているらしい。ただ、神頼みを戯言だと切り捨てるクルウド。もしまずい事態ならば祈るのではなく考えるべきだとクルウドは思うからだ。そして、その時絶対カノンの力が必要になるだろう。
「それってまずいっていう話だったわよね。運が悪ければ国王様や近衛騎士らの前で尋問形式で事情を糺されるとか言っていたし」
「王都まで行って詳しい事情を説明しなきゃいけなくなるだろうからかなり面倒ごとになると思う。もしそうなった場合にはマヤカも私たちの契約のことについて知っているから王都連行の巻き添えをくらうかもしれない。レイラさんもそうだけど、私のせいで皆を巻き込みたくない……、でも……」
「カノン、もう契約したのだから今更気を揉んだってどうしようもないだろ。俺たちが契約を交わしたことを気づかれなければいいだけだ。自信を持って堂々としていたらそう簡単に暴かれることもないはず。頼んだぞカノン、お前は我が相棒にして策士なんだからな」
しかしながらカノンは先程からのネガティブ思考を崩さない。あまりにもひどいので見ているこっちまで憂鬱になってしまう。そこでこの空気を払拭しようとクルウドはカノンのモチベーションを高めるためにも気にするなと伝えるとともにカノンは俺の相棒だと言ってみる。献身意欲の高いカノンならばその言葉だけでも気持ちは上向くだろう。例え悪い方向に導いてもなるようになるだけだ。
「ねえ聞いたマヤカ、今兄ちゃんが私のことを策士だと言ってくれた~。つまり、兄ちゃんにとってなくてはならない存在ってことだよね。これでライバル争いも私のリードが大きくなったね」
「少し落ち込んでいたから慰めてあげようと思っていたのに、カノン変わり身が早くない? ってこんな話をしている場合じゃなかった。ねえクルウド! 恋のライバル争いに負けるわけにいかないの。私にも何かいい名称はない? 私はカノンの策士に負けず劣らずの二つ名がいいな」
「……は? 二つ名? そんなもん無くたって生活には支障をきたさないだろ」
思ってもみなかった展開にクルウドは目を点にする。あくまでもクルウドはカノンを奮い起こそうと策士だと言ってみただけなのだが、カノンはあまりの喜びようを見せる。すっかり調子に乗ったようで恋のライバル争いも私が優勢だとマヤカを煽るカノン。それでマヤカの負けず嫌いに火が付いたようだ。
「じゃあクルウド君はなんでカノンだけには二つ名を付けたのかな? クルウドを支える身である以上私も二つ名が欲しいのになぁ……」
「それはカノンもさっき言っていたようにカノンが塞ぎ込もうとしていたから励まそうとしただけだって。別に、カノンを差別化しようとしたわけじゃないからさ」
つれない態度を取るクルウドに対して二つ名を要求するマヤカ。その目は本気だ。
「本当に? ……でもやっぱり欲しいものは欲しいって言い続けるからね」
「子供じゃないんだからさ、駄々をこねなくても。……いや4歳はまだまだ子供なのか。うーん、俺としてはマヤカには凛としていてもらいたいんだけどな」
二つ名なんて無くたって問題というスタンスを保っているクルウドの前でそれでも二つ名の取得を諦めきれないのかマヤカは強情を張る。普段は大人びているマヤカもこういう場面では年相応の態度を見せる。昔からマヤカが年相応の態度を取るのはクルウドがいる時だけだと相場が決まっている。しかし、転生2日目でそのことを存じて上げていないクルウドにとってはマヤカが甘えん坊に見えているらしい。どうやらクルウドはマヤカに凛とした姉さん気質を求めたいようだ。
「兄ちゃん。マヤカにも二つ名を与えてあげればいいじゃん。私だってマヤカだってそもそも兄ちゃんにわがままを言ったところで何にも悪くないでしょ」
「……いやいや、そのわがままを受けることになる俺のことを考えろよ。っていうかカノン、マヤカとはライバルだったんじゃないのか? なのにマヤカにも二つ名を与えたら優位性が消えてしまうだろ」
「兄ちゃんは大人なんだから私たちのわがままを聞く立場なの。……それにマヤカはライバルではあるのと同時に友達でもあるから。友達の肩を持つのは当たり前だもん」
ライバルの味方をするカノンに対して、それなら義理の兄妹である俺の肩は持たないのかよと思ってしまうクルウド。そんなクルウドを尻目にカノンとマヤカは2人ともクルウドにマヤカの二つ名を考えてもらおうと意気投合していた。この時期の友情はこうして育まれるのだ。
「そう言うのならカノンは二つ名の返上でもするってことで決着だな。これでカノンもマヤカも条件は同じになる」
「嫌だよ。私の二つ名は策士。策士カノン、語呂もいい響きだし気に入ったもん」
「カノンは取り下げる気はなしか……。となると二つ名だけど……、いい感じのものが思いつかないんだよな。ところでさ2人とも、見えたぞヤンセン食堂。こうして皆で仲良くおしゃべりしながら歩くとすぐ着くものだと思っていても案外時間が掛かるものだよな」
そうこうしているうちに目的地に到着する一向。2人で楽しく話し込んでいるカノンとマヤカとは対照的にやけに時間が掛かったと感じるクルウド。実際、クルウドの家からヤンセン食堂までは大体十分少々でたどり着くはずなのだが、不思議なことに倍以上の時間が掛かっている。まぁスマホや腕時計がないので本人たちにとっては確認するすべはないが。
「クルウド、こっちこっち。私たちはご飯を食べに来たお客さんではないから隣にある家の方の玄関から入るの。今度からも遊びに来るときはこっちの入り口から入ってね」
「……そうなのか。カノンと2人で来たら間違えるとこだったな」
クルウドはあれからというものマヤカの二つ名についてわりかし真剣に熟考していたので特に何も考えることなく店舗の入り口に足が向かっていた。しかし、クルウドたちはヤンセン食堂に用事があるのではなく、マヤカの家に遊びに行くのが目的である。一行は家の通用口があるという店舗の手前にある裏小路に入ってお邪魔することにする。
「料理屋らしくいい匂いがするよね。朝ご飯食べなければ良かったなぁ」
「あの朝ご飯もほとんどうちの店の料理だよ。オッセラでは朝ご飯を買う人の割合が多いからね」
今は営業中のこともありヤンセン夫妻は揃って厨房にいるとのことなので廊下を通って厨房に向かう。もちろんマヤカの苗字はヤンセンである。マヤカの家とヤンセン食堂は中で繋がっているらしく、家と店を隔てている扉が閉まっていてもマヤカの家の中では美味しそうな料理の匂いを微かに感じることができる。
「ちょうどお父さんにお母さんも厨房にいるじゃん~。たっだいま~」
「あら、マヤカおかえり。クルウド君もいらっしゃい。そちらの子は……」
「ようクルウド。その子の名前はカノンだったはずだ。そうだろ?」
ヤンセン夫妻にとってみれば娘が仲良くしているクルウドはいつもの顔ではあるが、転生したクルウドにとっては初対面で名前も分かっていないのでとりあえず会釈することにした。ヤンセン夫妻がいい人そうなのは見た感じで想像が付く。シーハみたいなお調子者が知り合いの大半を占めていないことに改めて安心感を抱いたクルウド、及びカノンなのであった。
次話のあとは閑話を挟んでから次章です。
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