運命は先天的にお兄ちゃん子 ―歴代最少の契約者たち 転生先にて恩送り   作:yyuuss

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次話の閑話で第1章がようやく終わります。


将来の夢

「初めまして。カノン・ベディ・エピローヴといいます。マヤカとは友達なのでこれからちょくちょく遊びに来ます」

 

「そうそう、カノンちゃんだったわ。ようこそヤンセン食堂へ。いつでも大歓迎よ。ほんっとレイラさんの話で聞いていたようにとっても可愛いらしい。水色寄りの青いサラサラした髪とか昔は憧れたものよ」

 

 マヤカのお母さんであるアビジャがカノンの髪を気に入ったようで何度も撫でる。カノンはくすぐったそうにしつつも気持ちよさそうにアビジャの手に髪を預けている。マヤカに目で合図するとマヤカが人物紹介を始める。

 

「クルウド、カノン紹介するね。こっちがお父さんでアルギン、お母さんのアビジャ。奥にいる、あ、手を振ってくれているのはうちの店で働いているサンクルさんね。朝の間の忙しい時間帯にはトンブさんもいるんだけど今は時間的にもピークも過ぎたからいないね」

 

 カノンだけでなく一見いつも通りのクルウドにも紹介すると言ったあたりマヤカの気遣いが垣間見える。それからというものカノンがスープや料理に使うソースの味見などして一通り紹介を終えたところで食堂を後にする。案内と言っても所詮食堂と、マヤカの家族と食堂の従業員であったので大して時間は掛からない。

 

「私たちは家の方に戻ってるね。またお昼になったら店の方に来る」

 

「分かったわ。もちろんカノンちゃんもお昼ご飯食べていくわよね」

 

「いいんですか。じゃあぜひ!」

 

 お昼ご飯をご馳走になることとなり、一旦食堂を離れる。クルウドは自身の父親以外はいい人揃いであることに巡り合う人の運は恵まれていることを実感する。

 

「あれ、もういいの? 顔を見せただけだけど」

 

「お父さんもお母さんもお店の営業があるからね。そろそろお昼でお客さんが入り始める頃だから忙しくなる」

 

 マヤカの部屋に上がらせてもらうクルウドとカノン。カノンが紹介がこれだけでよかったのかと尋ねる。一方でクルウドはマヤカの二つ名について熟考していた。

 

「兄ちゃん、ずっと考え込んでいるようだけどマヤカの二つ名の件?」

 

「そうだよ。さっきから色々と考えていた中で候補は複数あるんだけど一番良さそうなのは軍師。……うん悪くないと思う。マヤカ、軍師っていうのはどうかな……? 策士と軍師って似たような意味なんだけど、それはそれで似たところも多いカノンとマヤカの関係からしても合うと思うんだ。もし他のやつがいいのならまた考えることにするけど……」

 

「軍師でいいよっ。私は今度から軍師マヤカと名乗らせてもらおうぞ、ってね」

 

 軍師マヤカの響きが良かったのかクルウドが決めた二つ名なら何でも構わなかったのかは分からないが、マヤカは間髪を置くことなく自身の二つ名を決定する。

 

「それ人前で言ったら変な目で見られるだぞ。厨二とか言われるからやめとけよ~」

 

「ちゅうに? 何それ。クルウド、それはどんな意味なの?」

 

「……いや、知らないならそれでいいんだ……。知ったところで使う場面など無いだろうし」

 

「ふーん。よく分からないけど分かったことにしておく」

 

“厨二”という言葉を知らないマヤカが質問する。マヤカに対して積み上げていたイメージを崩さないためにも純粋なマヤカに“厨二”という言葉を覚えさせるわけにはいかないので知らないならそれでいいとやんわりと断るクルウドであった。これがきっかけでマヤカが厨二病にでもなったら大いに悲しむ。

 

「クルウドは転生してこっちの世界に来たんでしょ。この世界でやってみたいこととかあったりするの? 

「あ、それ私も聞いてみたいな。兄ちゃんの将来の夢はまだ詳しく聞いていなかったなぁ」

 

 昨日の夜はクルウドが早く寝てしまい話し合えなかったので、情報の獲得のためにも互いのことを聞き合っていた。

その中で将来の夢の話になる。まず、料理の腕の向上を挙げたのはマヤカだ。次にカノンが兄ちゃんと楽しく一緒に居ることだと言う。それを聞いて昨日も言っていたよなぁと思い起こすのはクルウド。改めてこの恋のライバルは強敵だなぁと再認識したのはマヤカである。

 

「俺の夢か? やってみたいことねぇ……何だろ……。うーん…………」

 

「どうしたの兄ちゃん? 何でもいいんだって。ほら兄ちゃんは既に17年生きてきたんだから夢の一つ二つはあるでしょ」

 

 最後にクルウドの番となるのだが、クルウドは自身の将来の夢を思い浮かべずにいた。いつまで経っても何も言わないのでカノンが心配する。

 

「……そうなんだけどな。17年も生きているとどうやっても自分の現実が分かってくるのさ。夢だってそう、この夢を追いかけて頑張ってみたところで実現不可能だとか自分には無理なんだろうなぁって」

 

「クルウドはその夢に対してどれぐらい頑張ったの? 色々な夢や希望を持った中で本気で叶えようと思って努力した割合は?」

 

 クルウドが諦めの言葉を口に出すにつれマヤカの表情が険しくなる。そして、真面目な顔をしてクルウドに問う。どうやら夢を簡単に投げ出すことに怒っているようだ。

 

「いや……、夢を追いかける前にばっさりと切り捨てることが多かったかな。大抵のものは時間の無駄だし、叶いっこないから」

 

「どうしてそんなことを言うの……。私の知っているクルウドは目立ちたがり屋で将来について語っているときには目を輝かせてかっこよかったんだよ」

 

「と言われても俺は転生前のクルウドについては全く知らないからなぁ。性格や人格だって思いっきり別人だし。それにここは転生前にいた現代日本とは生活とかもろもろ大違いだ。場所が変われば叶えられる夢の数も変わってくるし……」

 

 漠然とした夢を持っては努力をすることなくそうそうに諦めているクルウドに対して、マヤカは自分がよく知っていた深生が転生してくる前のクルウドの様子を今のクルウドと重ね懐かしむ。とは言っても転生後のクルウドやカノンは転生前のクルウドとは会ったことがないため反応がぎこちない。クルウドは困った顔を浮かべつつマヤカを見やる。

 

「それならまた一から夢を考え直せばいいだけのことじゃん。この世界は兄ちゃんが前に居た世界とは違うけど、その分向こうの世界では出来なかったこともできるからね」

 

 例えばの話だが、コンピューターの無いこの世界でプログラマーとかの夢を持っていたとしても叶う見込みはないということだ。所変われば品変わるといったように世界が違えば持つ夢も変わるはずである。

 

「確かにそうだな。うーん……。折角の異世界に来たのならやっぱり冒険とかしてみたいかな。転生前の世界だとどこに行ってもあらかた踏み調べられていたし、衛星写真とかでどこでも確認できたから冒険家も多くなかったんだ。だけどこの世界にはファンタジー小説のように冒険者として生計を立てている人も多いようだし需要はあるんだろ」

 

「いいじゃん。じゃあ将来は皆で冒険しようよ。そのためにも頑張らなきゃね」

 

「冒険は危険だし、命を落とすことだってあるんだろ。そんなものに初めからカノンを巻き込む気もないし危険な目に合わせたくはないんだけど」

 

 向こうの世界でできなかったことも出来ると言われて冒険してみたいと呟くクルウド。現代日本に居た時から転生といったら冒険、冒険=転生のイメージが頭に染みついている上に、この世界には魔人や獣人といった人間族とは違う種族が居ることが判明していたので漠然とした中でも旅にはいずれ出るつもりはあった。

 

「つまり、クルウドは1人で冒険する気なの?」

 

「ああ、そのつもりでいるけど」

 

 マヤカの問いに対してクルウドは当たり前のことのように答える。このままいけば彼女たちに自分のわがままに付きあわせる必要はないというクルウドの考えは揺るぐはずはなかった。

 

「昨日私が兄ちゃんと会った時に何て言ったか覚えている? 私はいつでも兄ちゃんを支えるってきちんと言ったよ。冒険の時の料理とか洗濯の家事一般は私に任かせておいて。家事は得意分野だからね」

 

「家事が出来るってさり気なくアピールしていくなんて……、流石策士カノン。私もクルウドが旅に出るのなら一緒に付いていく。それはカノンだって多分同じ。好きな人の近くにいないという選択肢は私たちの中にはないもの。ね、カノン」

 

 カノンに同調を求めるマヤカ。似た者同士故に考えていることは同じらしく、遠距離恋愛という選択肢はカノンもマヤカも頭の中にはないようだ。

 

「当たり前じゃん。私は絶対兄ちゃんと一緒に居るって決めているもん。そもそも兄ちゃんは私の護衛があるのに離れ離れになれるわけないよね。遠すぎて守れなくなっちゃうもん」

 

 カノンに指摘されてクルウドはどうしようかと悩む。クルウドの役割はカノンと一緒にいることになっている。いずれかは別れようと思っていても、カノンが拒否することが手に取って分かるためクルウドの思考は徐々にカノンを連れていく方向に傾きつつあった。

 

「護衛は名目上だっただろ。それにマヤカの場合ヤンセン食堂はどうするんだ。今だって繁盛しているのに継がなくてもいいのか?」

 

「元々うちの両親は2人ともオッセラ出身ではないの。お父さんも色々と各地を巡っていたらしいし、その道中に母さんと出会って身を固めようと移住してきてお店を開いたと言っていた。だから料理に関する知識の見聞を広げるためにも旅に出てみたい」

 

マヤカとしても冒険に出る積極的な理由を持っているようである。

 

「……それじゃあ冒険する時は3人で行くことにしますか。その時は一緒に」

 

「兄ちゃん、これは約束だからね。反故にしたらほんとに怒るからね」

「ええそうね。置いてきぼりは許さないから」

 

 最終的には女性陣に言いまとめられてクルウドは渋々といった感じで約束を交わす。カノンとマヤカはハイタッチして喜びを示す。今朝から兆候は見えたものもその様子を見てたった一日でそれほどまで仲良くなったことを知るクルウド。約束を結んだことで各人笑顔を浮かばせているのは気のせいであろうか……。

 

「あっ、でもその場合は兄ちゃんと私が婚約からそのままゴールインして結婚しているから、マヤカには悪いけど将来独身生活になっちゃうけどそれでいいなら皆で冒険がてら旅に出ようよ」

 

マヤカと2人で上機嫌だったカノンは何かを思い出したかのような素振りを見せると無意識に爆弾を落とす。

 

「……、カノンは何を言っているのかな? 第一、何故私が負ける前提になっているの? クルウドとは私が結婚するのだから独り身はカノンの方だからね。悔しさのあまり冒険に行きたくないって言ったとしても私はカノンのことは知らないよ~」

 

 不意を突かれて一瞬黙り込んだマヤカ。顔を上げると当然カノンに対して反論する。特に結婚の部分を強調しながら。この時のマヤカの目は笑っていなかったのは言うまでもない。

 

「……むうっ、マヤカも本気だね。だからこそ私だって負けはしないもん」

「……ふっふっ。私こそ3年前も前からクルウド一筋なの。たとえクルウドが転生して変わったとしても気持ちは揺るぐことはない」

 

「まだ結婚なんて数十年先の未来のことなのに断定するなよ。っていうか、お互いに言い合っていることが酷すぎない? それはいくらなんでも惨めすぎるだろ」

 

 クルウドはこういうと2人の気持ちを静めることになった。

 

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