運命は先天的にお兄ちゃん子 ―歴代最少の契約者たち 転生先にて恩送り 作:yyuuss
今回は閑話ということもあり、いつもとは文章の形式を変えてみました。会話がメインです。
話はクルウドが転生した日の夜に戻る。クルウドが晩ご飯の直後に寝た後、次に翌日も仕事があるシーハが床に入った。
というわけでリビングにはカノン、マヤカ、そしてレイラの3人が残り、女子トークに花を咲かせている。
「カノンが本当に精霊だなんて。どこからどう見ても人間そのものなのに……。実物なんですよね」
「やめてよ~、マヤカくすぐったい。今は魔力によって人間状態になっているんだよ。魔力が切れれば精霊の姿になるし。まぁ精霊の姿といっても枕状態になるんだけどね」
「精霊族を見る機会はそうそうないからね。カノンが精霊だってことをマヤカは信じられなくたって不思議なことじゃない。お偉い貴族でも精霊と話すことはできないだろうさ」
マヤカはカノンが本当に精霊なのかと触って確かめるも分からずじまいでいる。それもそのはず、カノンが人間状態の時は精霊でありながら姿は人間そっくりなのである。
「カノンは礼儀がしっかりしているし随分と人懐っこいから親しみやすいのよね。まるで精霊とは思えないぐらいに」
「精霊は親しみにくい種族なんですか?」
精霊についてあまり理解できていないマヤカがレイラに精霊のことを聞く。
「昔に人間族と精霊族が戦争をしていた話があるのよ。この世界の歴史として有名な事象なの。戦争直後は互いの印象は最悪だったらしくてね。それこそ人間と精霊の契約は500年以上も行われなかったのね」
「……でも、ファンタジーの小説では人間と精霊の契約した者同士は仲良く書かれていますよね。それはまるで戦争をしていたとは思えないほどにです」
「500年以上契約者は現れなかったのだけど、ある時ついにマラ・モロッカという人が精霊との契約に成功したの。それ以降は時々現れてきた契約者と契約精霊の活躍によって人間族の間では精霊に対しての悪印象が薄れてきたのだけど……」
レイラは人間族と精霊族との関係を語り始める。昔の時代に人間族と精霊族は一度戦争になったことがある。それは100年も続いていたものだ。
「だけど、ですか? その後に何か問題でも生まれたんですか?」
「新たに問題が起きたんじゃなくて、問題はずっと問題としてあったのよ。悪印象が解消されつつあったのはあくまで人間族側から見た精霊族に対してだけ。つまり、精霊族から見た人間族の印象は悪いままで何も変わっていなかったの」
「それじゃあ精霊は人間のことをよく思っていないということですか」
「私もカノンとは別の精霊には会ったことはないから確信は持てないのだけど、恐らくそのはずよ。歴代の契約者を書いた多くの書物には契約精霊は契約者以外とは友好的でなかったと記されているの。そして、その契約者の中には人間と精霊の戦争前の人もいるから」
「あまり人間とは親密では無かった上に、人間側と戦争が起きたとなると……。それなら悪印象であってもおかしくないですね」
戦争以後、精霊族は人間族との関わりを閉ざす者も数多くいた。それでも中には人間と仲良くなり契約した者もおり、それが契約精霊だ。
その契約精霊も誰でも良くて契約をしたのではなく、人間側の契約者の実力を十分に認めた上で契約に至っている。どの契約者も全員実力を兼ね備えているのだ。
「私が思っているより、固定概念として考えられてきた感じとは違ってカノンが気さくなようだから意外な気がしたのよ」
「カノンは人間が嫌ではないの? 私がクルウドとの関係者ではなかったらライバルとして見なかった?」
カノンはマヤカの言葉に首を縦に振る。マヤカがクルウドの知り合いでなければカノンとマヤカがこのようにライバルになることはなかった。
「私はまだ4歳なんだよ。そんな歴史があったことは知ってはいたけど人間に対して嫌悪感が全く無いんだよね。今だって人間の格好をしているほどだよ。それに私は人間族に敵意は持っていないし仲良くしたいとも思うし。シーハさんみたいに意地悪する人や相性が悪い人とは距離を取るだろうけどね」
「カノンも年齢の割には知識が豊富だよね。クルウドは転生する前の人生がある分博識であることは分かるのだけど……。カノンって本当に私と同じ年齢なの?」
「――そうだよ。私は兄ちゃんやマヤカと同じく4歳。知識が豊富なのは…………、私は頭がいいから? ……困らないためにも今こうしてここに来る前に色々と勉強したんだから」
「何、その謎の間は。あと何で疑問形になっているの……。……同じ年齢だというのは分かった。でも、クルウドの元に来るにしても、家族はよく了承したものよね。まだ幼い自分の娘を良い印象のない人間族の元に送るんだもの」
「……それは…………。……私が無理を言って離れたの。もちろん反対されたけど。それでも……」
年齢故なのか人間に対して拒絶感を持ち合わせていないカノン。実に人間らしい振る舞いをしている。
しかし、マヤカの質問に対して説明していくうちに徐々に言葉に詰まるカノン。何か話せない事情があるらしい。
「マヤカもそこまでにしておきましょう。マヤカ、私もカノンの過去に何があったのかは知らないわ。だけどね、クルウドが秘密を話すときも同じことを言ったのだけど、その過去のことを話したくないのならカノンは無理して話すこともないのよ。根掘り葉掘り聞くつもりもないし口外するつもりもない。だって私はあなたの家族なのだからね」
「レイラさん分かりました。カノンごめんなさいね」
「マヤカが謝ることはないよ。ただ、私の過去に関してはあまり触れないでほしいかな」
レイラの言葉で下を向きつつあったカノンの心持ちや表情が元に戻る。カノンの過去については聞かぬが仏なのかもしれない。
「暗い雰囲気になっちゃったし話題を変えましょうか。何にしようかしらね……。クルについての話にする?」
「いいですね」
レイラは場の空気を変えようと話題の転換をする。
「私ね、クルの髪色が黒なのはクルが転生してくるというサインだったのかなと今になって思うの」
「クルウドの髪は黒でしたね。確かに黒い髪って珍しいですよね」
「ええ、生まれた時には既に黒い髪色だったわ。それを見てシーハさんは不吉だとか言っていたのよ。もちろん私は怒ったんだけどね。我が子に対して不吉というなんてほんと酷いよね」
「あの~レイラさん、黒髪ってそんなに珍しいんですか?」
「うん、珍しいわね。少なくとも10,000人に1人もいないんじゃないの。茶色系とかはよく見るけど、クルみたいに真っ黒な髪の人は全然いないのよ」
「そうなんですか。そういえば、兄ちゃんは転生前も黒髪だったって言っていたよ」
「へぇ、転生前も黒髪だったんだ。レイラさんが言ったように黒い髪はサインだったのかもしれませんね。クルウドは黒髪が似合うし」
現代日本とは違いこの世界では黒い髪の人間はあまりいない。黒髪は不吉とのイメージがあるため、クルウドは黒い髪という理由で見知らぬ人には時々避けられることがあったのだ。
「ところでさぁ~、やっぱり女子だけの時は恋バナでしょ。2人ともクルが好きなんだよね。晩ご飯の時も隣の席をめぐってケンカしていたようだし」
「私たちはライバルですよ。マヤカは恋のライバルです。兄ちゃんには私という婚約者がいるのにマヤカは諦めるどころか道端で大声で好きだと告白していたんですよ」
「――ちょっとカノン何言っているの!? あっそうだ、これをレイラさんに聞くためにクルウドの家に来たんでした! どうしてクルウドの婚約者にカノンを選んだんですか!? 私はいつもクルウドのそばに居たのに」
リビングでは女子の集まりらしく話題は好きな人の話に移っている。カノンの言葉で羞恥心と共に本来の目的を思い出したマヤカが身を乗り出して、今まさにレイラにつかみかかろうかという勢いでレイラに質問する。手をテーブルについたときに大きな音がなったのだが、マヤカは気にすることなく迫る。
「カノンがいい子だったからクルと婚約してくれればいいのにと言ったらカノンが二つ返事で婚約しますって言ってきたからオッケーしたのよ」
「私だってクルウドと婚約したいですよ。レイラさん、カノンに言う前に私にも一言くれないと」
「ごめんごめん。でも、契約している者同士は普通一緒に居るものでしょ。婚約してもらっても問題ないかなって」
「私にとっては大問題ですっ~。将来私がクルウドと結婚しようと思っていたのに」
「今日初めて会ったけどマヤカもこういう行動を見せるんだね」
マヤカの子供っぽい言動にそう呟くカノン。それを聞いてマヤカは我に返り一旦椅子に座り直す。
「他にもね、自分の子供同士だったら相手方の承諾は要らないのも理由の一つとしてあるわ」
「確かにそれはそうですけど……。でもっ、私のお母さんお父さんならクルウドとの婚約ぐらいあっさりと認めてくれると思います。親同士だって日頃から仲良しなんですから」
「確かにお二人なら喜んでクルとの婚約話を受け入れそうね」
「ならカノンでなくて私で良かったじゃないですか!」
一回落ち着きを取り戻したマヤカだったが、この戦いは引けないとばかりにまたヒートアップする。
「落ち着いて落ち着いて。今のところ手続き上クルはカノンと婚約していることになっているけど、みんなが10歳を迎えて成人したら婚約は一時的に解消される決まりなのよ。そして、その時に婚約を破棄するか、あるいは成人後すぐに結婚をするか、もしくはそのまま婚約状態を保持するかを選ぶことが出来るの。最終的に誰と結婚するかはクルが決めることだから、どの選択を取っても私は支持するつもりでいるわ」
10歳で成人を迎えるということはこの世界の共通した認識である。その中でもジベック王国は特異的で成人になると婚約が一度自動的に解消されるようになっている。
「……なるほど、そのような仕組みなんですね。それならば、成人までのあと6年弱の間に改めてクルウドの気を私に向けさせるのみです。いくらカノンがクルウドの義妹とはいえ私の方がよく知っているのは確かだからね」
「マヤカ、兄ちゃんは転生したからね性格とかガラッと変わっているんだよ。だから一から知るつもりでいないと、兄ちゃんとすれ違いが起きるよ」
「口調だけでなくクルウドは中身全てが変わっているってことなの?」
「そういうこと。以前のクルウドのことはよく知らないから断言はできないけど、趣味嗜好が180度違っていてもおかしくはないかな」
「2人とも頑張らないとね」
「「もちろん(ええ)」」
カノンもマヤカも綺麗な返事をする。
「あらあら、私ったら余計に恋人争いに火を付けちゃったようだわ……。まぁ私の息子ですし、クルならカノンもマヤカもいい方向に導いてくれるでしょうけど……」
「……クルにとっては少し重荷かしら。でも、物事は大体なるようになるものなのよね」
どうやらレイラの心配は過熱する恋の争いに気を向けている2人の耳には入っていないようだ。
次話もガールズトークの続きです。
皆さんが読む分には一話あたりどれぐらいの文字数がいいですか? これからの参考にします。
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