運命は先天的にお兄ちゃん子 ―歴代最少の契約者たち 転生先にて恩送り 作:yyuuss
「まだ早いからな。俺の胃袋の容量にも限界があるんだ。カノンだって作った以上は料理を残されたくないだろ?」
「そうだね、もう少し経ってからにしよっか。美味しく頂かないと食材にも失礼だよね」
「ああ」
カノンの一言で急に買い物に付き合わされること小一時間。カノンはお昼ご飯用だけでなく何故か数日分もの食材を購入したので家に着くころには二人とも両手は荷物で一杯だった。
それでも小一時間で済んだのはカノンが効率性よく行動したからだ。店に着くなりすぐに注文してすぐに受け取る。7、8件回っても一つのお店の滞在時間は長くて3分ほどで済ます。おかげでまだお昼になっていない。
「……昼まで時間があるし一緒に読まないか? 契約に関わる話なら俺だけじゃなくカノンも知っておくべきだろ」
「そう~? う~ん、アニメの続きでも見ようと思っていたんだけど、兄ちゃんが読むって言うのなら私も読む」
クルウドの記憶の中から鮮明化したアニメを見ようとしたカノンをうまいこと翻意させて、本を床に広げる。
日記であるから目次はない。本の厚みから推測するに2,000ページは優に超えそうだ。これから読破しようとする本を目の前にして鬱になる。それでも契約についてより深く知るためだとクルウドは発破を掛けて読み始める。
「兄ちゃん~。何か書いてあった?」
「『契約で新たに使えるようになった機能はとても奥が深い』とか契約の話であっても契約の機能の内容とは関係ないものも多いし、『視界共有は人間には使えない。しかし、視界共有するかどうかの権限は私たち人間側にある』みたいに既にカノンから聞いている機能について書かれていたりで中々参考にならないな」
俺は一人で目が痛くなるほど小さな文字と格闘しながらマラ・モロッカの伝記を読み進めている。
カノンは今記憶の鮮明化の機能を使って俺の記憶の中にあったアニメを見ているようだ。カノンも初めのうちは読む気満々で臨んでいたのだが、活字ばかりで見るのに退屈してすぐにドロップアウトしてしまった。
「そんな簡単に私の知らないような機能が書かれていることはあり得ないって。調子はどう?」
「日記帳形式で書かれているから読むこと自体が億劫だな。飛ばし飛ばしで読みたいけど契約についての一文一文を見逃すわけにもいかないし」
「『ニオラント・ミダと言って後に2人同時で魔法の行使をする時、魔法の威力や効果が数倍にも上がる』か……。これは初耳だけど、カノンはどう?」
目はしょぼしょぼとし始め身体は同じ態勢で読んでいたせいで筋肉が痛む。そんな辛い作業と引き換えにやっと契約の機能に関する新たな情報を得る。
「ニオラント・ミダ? え、契約する際に使ったあのニオラント・ミダ?」
「そうだよ。ニオラント・ミダって言うと魔法の効果が上がるらしい。知ってた?」
寝転がりながら頬杖をついてアニメを見ていたカノン。この機能の存在が意外だったのか顔をこちらに向けて確認を取ってくる。この様子だと知らなかったようである。
「私も初めて目にしたかな。うん、まだこれは使えそうな知識だね。……だけど、2人で魔法を行使するタイミングって全然ないよ。それに威力が数倍にも増した状態で魔法を使うものなら普通に目立ってしまうし……、そもそも数倍にするほどに桁違いの火力の魔法を行使する場面なんて敵に囲まれて絶体絶命の時とか、……あとは残滅戦をする時ぐらい?」
カノンは詳しく本の内容を確認しようとそそくさと立ち上がるとあぐらをかいている俺の膝の上にちょんっと座る。昔からクルウドがあぐらを組んで座っているとカノンはその上に座ってくるのだ。その一連の動作は流れるようである。
座る際に揺れる青い髪からふわっといい匂いがする。ただ、カノンも成長しつつあるので最近はちょっと重い……。
「残滅戦ね……。つまり使い道が全然ないのか。結局これもあまり意味のない知識ってことでいい?」
「そんなことはないと思うよ。ほらここを見て、『威力だけでなく効果も倍増する』らしいから。魔法だって攻撃系魔法が全てではないし、例えば攻撃用の魔法ではない回復魔法とかを使う前に2人でニオラント・ミダと言えば効き目が良くなるんじゃないかな」
「成る程。魔法であればニオラント・ミダの効果倍増機能がはたらくのか」
使い道がなさそうだと初めは切り捨てようとしたクルウドであったが考え直す。使う魔法の種類によっては使う機会もあるかもしれない。
魔法も攻撃系の魔法だけではない。契約する時に使用した契約魔法のニオラント・ミダだって非攻撃のものである。
「ねえ兄ちゃん。この効果倍増って機能だと思う?」
「……え? これもまた機能じゃないの?」
「機能……なのかな? よく分からないから機能っていうことにしておく」
カノンの質問に質問で返す。カノンはどうも納得ができないという表情を見せている。
「知らなかったことが悔しいとか?」
「――っ、そんなことは全然ないもん! 兄ちゃんを支えると決めた手前知らないことがあるのが嫌なだけで、この効果倍増という機能もそうだけど兄ちゃんが初めて知る契約に関わる情報は全て私の口から説明したかったの! だって私は兄ちゃんの契約精霊なんだもん」
「要は他人により契約の新たな機能が判明されたことが悔しかったんだな。俺はそんなこと気にしないのに」
「違う! 悔しくなんかないもん!!」
カノンが早口で喋っている時はすなわち怒っているというサインである。俺はカノンからの好感度が高い分喧嘩をする機会は滅多にない。
しかし、初対面の時から全く変わっていない父さんは何度カノンに捲し立てられていたことか。父さんも言動を変えれば嫌がられることもなくなるだろうに……。
「ごめんごめん、俺が悪かったよ。ねっ、機嫌直して」
「……兄ちゃんがそう言うなら許してあげる。兄ちゃんじゃなかったらずっと怒っていたんだからね!」
その滅多にない喧嘩も大抵1分足らずで仲直りとなる。俺としてもカノンと喧嘩する気は滅相もない。これは多分カノンにしても同様だ。もっともカノンの場合は今回みたいないざこざは喧嘩じゃないらしく、ただの言い争いとして捉えているようだ。
「でさ、兄ちゃん。攻撃系魔法は危険だから回復魔法を使って試してみようよ」
「何かするのか?」
「効果倍増機能のお試し」
「今からか?」
「うん! そりゃそうでしょ。思い立ったが吉日だよ」
カノンはパンと手を叩き俺を行動させようと促してくる。普段は互いにお願いは聞き合うが、今回はカノンのお願いでもできないものはできないと拒否しなくてはならない。理由は3つある。
「……俺回復魔法使えないんだけど。あと、試そうにも回復させる相手がいない」
「兄ちゃんも私もレイラさんに止められているもんね。私はここに来るまでにある程度魔法に関しては習っていたから回復魔法でも使えるけど、兄ちゃんはまだ本格的に教わっていないからなぁ」
カノンはオッセラに来る前からある程度魔法の知識は持っているので簡単な魔法であれば使える。時々レイラの立ち合いの元で魔法を学んでいるが、魔法に関してはカノンとは違って初心者であるクルウドはなかなか魔法の行使はさせてもらっていない。実践よりも知識や心構えの方が大事であるとか。
「不器用だから不安視されているのかもな」
「まぁ兄ちゃんは不器用だけど魔法は使えるようになるって。学校では魔法も勉強するらしいし。もうそろそろレイラさんも腰を入れて教えてくれるはず」
これから通う学校では魔法に関する授業もあるらしい。現代日本では習わなかった科目には興味がある。
「それにカノンは記憶の鮮明化を使っていただろ。人前で急に枕状態になったらどうするんだ? フォローしきれないぞ」
「大丈夫。今日はまだアニメ一本分しか鮮明化させていないから」
「アニメ一本分って……。全魔力中4割弱も消費しているのかよ!?」
繊細に描かれているものはモノクロのものに比べて鮮明化する際に使用する魔力の量が多いことが分かっている。
ちなみに1年前の検証ではカノンの場合、5時間程のアニメ1クール分の鮮明化で全体の約40%の魔力を消費するらしい。
「一番の問題はオッセラでは未成年だけでの魔法の行使は認められていないことだ」
「私の心配よりも規則の方が一番の問題なの!? 私が枕状態になる方が大問題だと思うけど!」
本日2度目の口喧嘩。カノンは自分のことを第一に考えてほしかったようで規則を重要視したことが不満のようである。ここでも若干早口になっている。
「ほら……、法律とか規則は守らなければいけないだろ。破ったりでもしたら皆に迷惑が掛かる。そうだろ」
「まぁそうだね」
ここオッセラでは許可なしでの魔法の行使は緊急時以外禁止となっている。未成年の場合は少々異なり大人の同伴のもとでのみ周りに害を及ぼさないと条件下のもとでのみ可能となる。
ただ、『害を及ぼさない』という一文が示す範囲は非常に曖昧だ。いわばグレーゾーンである。裏路地の空き地とかで火属性の練習をする不謹慎もいるものだ。
「この場合一番大切なことは魔法の行使を止めることだ。違うか?」
「そうだけど……。でもだからって! 兄ちゃんは私の心配をする方が優先でしょ!」
「……お、おう」
思ってもみなかったカノンの攻勢にクルウドは目を背けてたじろいだ。目を合わせづらい。
「兄ちゃん、何か言うことは?」
そう言うとカノンは口を少し尖らせ、俺の顔を両手で挟むと半ば強引に正面に向けさせる。見つめてられているってよりも睨まれている。
ここまで強攻的になるのも珍しい。そんなに俺の対応が悪かったのだろうか。
「はい、カノンが枕状態になる方が問題でした。申し訳ございませんないです」
あまり感情を込めずに謝ってみたら棒読みになる。火に油を注ぎそうになり、おたおたと慌てふためきつつ言ったせいで後半部分は大分変な表現になってしまった。
「棒読みだし、それに語尾がおかしくなってる。ふふ、兄ちゃんがふざけたせいで怒りも冷めちゃったよ。ふふっ」
カノンは左手を自分の首に回して肘で顔を隠そうとするが、笑い声までは隠せはしなかった。そして、徐々にツボにはまったようでくすくすと笑いを漏らす。このやり取りがそんなに面白かったのか?
「ごめん。ふざける気は毛頭なかったんだけど」
「もういいって。それよりお昼にしよ。あー面白かった~」
(俺はまだまだカノンのことを全然知らないようだ。それにしても最近のカノンにはどこか惹かれる部分があるんだよな。何が変わったんだろうか?)
「兄ちゃん、まだ~」
カノンに呼ばれてリビングに向かう。そして、今日もカノンが料理する姿を眺めるのである。
皆さんが読む分には一話あたりどれぐらいの文字数がいいですか? これからの参考にします。
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