運命は先天的にお兄ちゃん子 ―歴代最少の契約者たち 転生先にて恩送り   作:yyuuss

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久しぶりの投稿です。ほんと打っていても手も指もかじかみます。ああ、春が恋しい。



春の導き

 どの世界においても春は一番多く出会いが訪れる季節である。この異世界でも雪解けを迎えてより勢いが盛んとなった人々の往来が、自然の生命力が、神の恵みもが春の息吹をもたらす。そして、土へ、海へ、空へと羽ばたきだしたその息吹の一つ一つが糧となってまた一つまた一つと新たな出会いを生み出すのだ。

 

 出会いもまた春の息吹なり。

 

 

 

 ここジベック王国第2の都市であるオッセラにおいても季節は廻って春の息吹が到来していた。

 オッセラの街の西から北側にかけては季節の度に色とりどりの景色を見せてくれる壮大で堂々たるガレオス山脈がオッセラと王国の中心部を隔てる壁のようにそびえたつ。その山脈から吹き付けられた冷たいおろし風が積もるには至らないほどの淡雪をオッセラの街に降り注いだ3月を過ぎ、代わって陽気で心地よい春の風が街中を包み込むように通り抜ける。

 オッセラの街の東側にある冬の間は湖面のほぼ大半が凍る湖も春となり暖かい光が水面に照らす。街の高台に立って見下ろしても反対側は存在しないかのように思えるほどに果たしなく水平線が続く湖の表面を覆っていた氷も薄くなりやがて完全に解氷した後の湖には漁船や人の影がちらほらと見える。

 

 学校初日。カノンに起こしてもらった。といっても日の出前から起きてしまってやることが無くなったカノンの話し相手として。まぁ起こしてもらえないと昼まで起きないこともあるから助かるんだけど、今日は……、うん起こすのが早すぎる。眠い……。

 

「こんな早くに家を出る必要なんてあった? 山を越えて徒歩1時間とかじゃないんだからさ、もう少し寝かせてくれても……」

「もう……、早寝早起きが基本なんだからね。兄ちゃんが寝すぎ」

 

 カノンはそう言うが、昨日は21時には床に入ったので9時間しか寝ていない。いつもならあと1、2時間は寝ているし寝ていたい。しかし、現代日本に居た時には6時間睡眠とか平気だったのにいつの間にか変わってしまった。この世界に適応したのということだろう。

 

 

「……弁当ってカノンが作ったんだよね?」

「無理に話題を作らなくていいのに……。兄ちゃんと一緒に居るっていうこと、私にとってそれが重要なんだから」

 

 俺がカノンと違って口下手な分、カノンから話してくれないと無口になってしまう。それが寂しくて話題を作ろうと話し掛けたのだがこちらの気持ちは見事なまでに見透かされる。

 

「ちゃんと弁当は作ったよ。今日は1人で作った」

「俺の弁当はいかほどに? あ、作ってもらって当然とか微塵も思ってはいないけど……」

 

 聞いてすぐに発言を訂正する。厚意に甘える分にはいいと思うが、当たり前だと勘違いするのは良くない。何気ない些細なことですれ違いは生まれてしまう。

 

「兄ちゃんの弁当? 私の弁当と一緒に包んじゃった。ほどくのも手間だし私が昼まで持ってるよ。お昼一緒に食べるでしょ」

 

 

 

 歩けば10分のヤンセン食堂までなら話さなくてもあっという間に着く。大通りの方を見てみたが、案の定行列ができていた。

 

「おはようございます! マヤカいます?」

「んー? 声小さかったかなぁ?」

 

 通用口からヤンセン食堂に入ってカノンが大声で挨拶をしたのだが返事がない。カノンの声量は小さくないはずだが聞こえていないだけだろう。奥に行くとアルギンさんが調理していたので声を掛ける。

 

「アルギンさん、おはようございます」

「おっ、カノンとクルウドか。いつもより早いな。……そうか今日から学校だったか。学校生活を楽しむんだぞ」

「マヤカはどこにいます?」

「ホールにいるんじゃないのか。ここを通ってホールまで呼びに行ったらどうだ」

 

 クルウドたちにとってマヤカの家だけではなくヤンセン食堂も自分の家の庭みたいなものである。その上、マヤカの家に遊びに行った時には昼休憩時の3時のおやつとしてのお茶会にも度々お邪魔させてもらっているので、ヤンセン食堂の従業員たちとは道端で会ったら話すほどに仲が良かったりする。だから従業員たちは厨房2人の姿を見つけても不審者扱いはしないし、いて当たり前のように接してくれる。

 

「マヤカを呼ばなくても学校が始まるまでまだ一時間半もあるんで十分に間に合うんですよ。マヤカが裏に戻ってくるまで待ちます。手伝いの邪魔をするのも気が引けるし」

 

 時計の針は7時を少し回ったぐらい。この世界での学校は9時から1限目がスタートするので時間にはまだ大分余裕がある。そもそも早く来た自分たちが悪いんだし、急かすような真似をする理由もない。

 

「多分呼びにいかないとマヤカの奴しばらく戻ってこないと思うぞ。今週一杯は猫の手も借りたいぐらいに大忙しだから」

「何か催しごとでも? それとも単に4月は忙しくなるとか」

「いいやそういうことじゃなくてな。実はトンブさんが昨日から風邪でさ。ホールや帳場の表の方の人数が足りないからアビジャがホールと厨房の掛け持ちをしているんだ」

「道理で人数が少ないと」

「ああ、すっかり春だっていうのに最近巷では風邪が流行っているから。季節の変わり目の風邪は怖いね」

 

 ここしばらくは暖かい日が続いていたのに先週からずっと寒かった。季節の変わり目では体調を崩す人はこの世界でも一定数いるらしい。そういえばサンクルさんはどこにいるのだろうか。朝の時間帯だけの勤務ならもういないとおかしい。

 

「ねぇ、サンクルさんも風邪? この時間ならいつもあそこで腕を振るっているのに」

「ああ、サンクルさんの場合は先週から腰痛で休みなんだ。ぎっくり腰をやっちゃってようで、しばらくは来られないようでね。医者にも安静にするようにだと」

「腰ですか……。それは辛いでしょうね」

「っていうわけで、厨房もホールも大忙しっていうわけなんだわ。いつもより全体的にペースが落ちているから結構時間が掛かるぞ。もちろんマヤカは学校に行かせるけどな」

 

「あらいらっしゃい、声が聞こえたから見に来たら2人とも来ていたのね。少し待っていて、マヤカを呼んでくるわ」

 

 どうやら従業員が2人もいない状況でとても忙しいらしい。いつもだったらアルギンさんよりアビジャさんの方がおしゃべり好きで構ってくるのに今日はあっさりとしている。アビジャさんがあんな感じでは、マヤカはホールの手伝いから手が離せないだろう。

 

 

「まだ時間はたっぷりあるので待っていますよ」

「駄目よ。待たせる訳にもいかないでしょ。すぐ呼んでくるから」

 

 マヤカの家の住居の方で待っていようかとも考えていたがその必要はないらしい。キリが良かったのかすぐにマヤカが来る。

 

「クルウド、カノン、おはよう」

「「おはよう」」

「早くない? まだ7時過ぎじゃん。まだ手伝いがあるからしばらく待たせることになるのだけど……」

「お店の方はどうなの? 忙しい?」

「俺たちのことは気にしないでいいから手伝いに戻りなよ」

「もう兄ちゃんったら。女性が大変そうにしている時はさりげなく手を貸すものなんだよ。分かってないなぁ」

「俺だってマヤカが困っているのならすぐ手助けする気はあるさ。だけど、マヤカ個人の問題ならともかくヤンセン食堂全体の問題なんだよなぁ。それに俺たち足手まといだろ」

 

 いつもの欠員がいない上で手伝う分にはある程度余裕があるが、今は欠員が出ている状態だ。そんな中で俺たちではサンクルさんやトンブさんの働きには及ばないだろう。決して商売はお遊び感覚では務まらない。

 

「そうやってすぐ尻込みする! ためらうことなく何事にもいけいけどんどんだよ」

「今まで何十回も手伝ってきているのに足手まといだと思っているの? クルウドもカノンも戦力だよ」

「クルウドって時々妙なところで弱気になるよね」

「昔からの癖みたいなものだな。気になる?」

「ううん、それが兄ちゃん。深生としてのクルウドでしょ」

「無理に克服する必要はないよ。似たようなのは誰にでもあるものだから」

 

 直さねばならないネガティブ要素を受け入れるところか最後は2人に励まされてしまった。かれこれ15年弱も続いた小さな頃からの癖は直したくても直らない。

 

「マヤカには会えたか。あれ、カノンは?」

「お店の手伝いをするんだってアビジャさんに許可取りに」

「もちろん手伝ってくれるのは嬉しいのだが……なんだか申し訳ないね」

「いえいえ。この食堂も自分の家みたいなものですから」

「おうそうかい。将来はマヤカと結婚するのか」

「マヤカとも結婚できれば幸せ者ですよね。でも俺にはカノンもいますし……」

「そうだよね。いやー、2人と結婚できればクルウドも悩むことないのにな」

「ほんとそうなんですよ。だけど、出来ないから悩むんですよね」

「親としてはマヤカを選んでほしいとは思っているさ。あの子、クルウド以外には眼中にないから」

 

 

「兄ちゃん何やっているの。兄ちゃんは帳場に回ってアビジャさんと交代。さぼっちゃダメだからね」

 

 中々ホールに現れない俺にしびれを切らしたのかカノンが厨房に覗きに来たのでそろそろ帳場に行かねば。日頃からお世話になっているのに俺だけ何もしないっていうのは何か違う。困った時はお互い様だ。

 

「じゃあ俺も頑張ってきますね」

「よろしく頼むよ。店もマヤカも」

「え? ……本気でした?」

 

 アルギンさんが先程からほとんど料理の方に付きっきりだった目をクルウドに向ける。口調はそれっぽかったので一瞬ビクッとしたけど、顔はにんまりしていた。

 

「冗談だよ、冗談。適度に付き合ってくれ。でもな、マヤカもなんだかんだでモテるんだよ。まぁその度に断っているらしいが。……クルウド、きちんとうちの娘のことも考えておけよ。2人は仲良しでそう大事にはならないだろうけど……。ふっ、女の本気の修羅場は怖いからな」

「ええ、肝に銘じておきます」

 

 

 

 こうして手伝い始めて1時間は経ち、8時を過ぎてもなお盛況のままのヤンセン食堂。現代日本で義務教育を受けていて計算はお手の物のクルウドは帳場に。カノンはマヤカと共にホールにて受け渡しや提供など諸々。クルウドとカノンが加わったことで今日一日のピークはいつもよりは時間が掛かったものの乗り切れそうだ。あとしばらくしたらクルウドたちが学校に行くために抜けても問題ないだろう。

 

「もうそろそろ俺たちは切り上げて向かおうか」

 

 荷物は厨房にある通用口付近に置きっぱなしなので取りに行こうとするとマヤカと目が合った。

 

「待ってクルウド! 今私たち3人が抜けると店が回らなくなっちゃう。あと5分……いや10分だけ手伝わせて」

「もう行きなさいマヤカ。あとは私たちだけで大丈夫だから」

 

サンクルさんやトンブさんの欠員を抱えたヤンセン食堂。まだ予想以上に混んでいる。今抜けてもアビジャさんの言う通り多少の影響は残っても恐らく上手く回るはずだ。しかし、手を抜くことが嫌いなマヤカとしては見過ごせないのだろう。

 

「どうする兄ちゃん?」

「……走れば遅れることはないはず。マヤカあと10分弱だけだぞ」

 

既に時刻は8時半をとっくに超えている。距離的には学校までは15分ぐらいで着くほどだからギリギリ。手伝いを区切り良く終わらせた3人は遅刻しまいと走るのだった。




景気よく元日に挙げたまでは良かったのですが……。しばらくは続きにいそしみます。

皆さんが読む分には一話あたりどれぐらいの文字数がいいですか? これからの参考にします。

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