運命は先天的にお兄ちゃん子 ―歴代最少の契約者たち 転生先にて恩送り 作:yyuuss
今日は良い1日になると思っていた。学校生活に胸躍らせていたからかいつもより早く起きてしまった。レイラさんより早かったのだから超が付くほどの早起きだ。元々弁当を作る予定でいたので日の出前から作りかかろうとして我ながらひらめく。普通の弁当箱じゃなくて重箱なら 1人1つの重箱だと多くて食べきれないので2人で1つ。絶対目立つだろう。同時にマヤカが不機嫌にもなりそう。重箱だなんてと兄ちゃんは反対しそうだから起きる前に完成させた。兄ちゃんは朝に弱いから基本的に私が起こす係だし余程手間取らない限り十分に間に合うし間に合った。ヤンセン食堂で手伝いをギリギリまでこなして、その後は初日から遅刻という失態を招かないようにと学校まで3人で全力疾走。兄ちゃんが一番息を切らしていたかな。
ここまでは良かった。あいつに絡まれる前のここまでは……。
一目惚れか知らないけど、馬鹿な男が口説いてくる上にあろうことにいきなりお茶に誘ってきた。……いやあんたとは初対面だし、兄ちゃんという婚約者がいるから無理。それよりも問題なのはあの馬鹿が無神経にぐいぐい来るから、兄ちゃんが不安がっちゃってるんだよね。やきもちを焼いてくれるのは嬉しいけど、心配もさせたくない。
私は昔から兄ちゃん一筋なんだもん。他の男になんぞよそ見する気はないから兄ちゃんとの時間を邪魔してほしくないのに……。
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「おはようマヤカ。いつも変わらず綺麗だねっ。おやっ、マヤカの隣にいるお嬢さんもとてもかわいらしい。特にその青い眼は実にチャーミングだ。今度僕と一緒にお茶でもどうだい?」
女子2人が学校がどんなところかが気になり時々きょろきょろとしつつも和気あいあいと雑談をしながら教室に向かう。既に3人とも同じクラスだっていうのは確認済みだ。今日は1年生のみ学校登校日らしく愉快な声はあまり聞こえない。
1年生の教室は奥にあるので長い廊下を歩いていると赤髪の男子に元気よく声を掛けられる。マヤカの名前を知っていて挨拶をするあたり赤髪の奴はマヤカの知り合いのようらしい。この少年は髪と眼が赤くそれがトレードマークのようである。あとパッと見た感じは良い服を着ているなと感想を抱くぐらいだ。
「はい? 何かおっしゃられましたか」
「うんっ、そうだとも! 僕は多くの女子と知り合いなのだが、君はその中でも抜きん出て可愛すぎるんだ。是非とも次の休みにでも2人きりでお出掛けはいかがかい?」
「確かに周囲の目を見張るぐらいにだと自覚していますが……。いきなり口説くのはいかがなものでしょうね」
いきなり大胆な行動に打って出た赤髪の野郎。あまりにもいきなりだったのでカノンでさえも困惑を隠せていない。しかし、話し返すカノンの声には黒い感情が確かにこもっていた。それはつまりクルウド以外とはデートする気がないカノンにとってこの話自体うざったいものである。
「うっ、お嬢さんが気分を悪くされたのならそれは申し訳ない。ただ君を決して怒らせるつもりは全くないんだ。マヤカ、僕は悪い奴ではないだろっ!」
「ここで私に振ってくる!?」
「マヤカは彼女とは仲が良いのだろう? おや、見た感じ君が一番仲が良さそうに見えたのだが……。僕に振り向いてくれるように手伝ってもらえないか」
「十中八九断られると思うわ……。それでも私は手伝わなければならないのかしら?」
「もちろんだともっ! わずかながらにでも可能性があるのなら僕は決して諦めたりなどしないっ」
その赤髪の野郎はこれから自分の独壇場だと言わんばかりに希望に満ち溢れた様子でカノンの表情はシーハに対して向けるものと同じく関わりたくない この様子なら間違いなく赤髪の野郎が好かれる訳がない。父さんだって未だに警戒されまくっているのだから。
「ねぇ、十中八九という表現は言葉の綾なのだけど……」
「言葉の綾だったのならば何も問題はないではないのでは。さぁマヤカ、頼む」
「あぁ……私が馬鹿だったのね……。エルネ、あなたがカノンの対象に入る余地なんて1ミリもないわ! 私の親友かつライバルを甘く見るべきではないのよ」
「ほぉう、僕を退けたマヤカがそこまで言うとは……。しかし、マヤカはこの僕がそう簡単に引き下がるとでも思っているのかい? あの時のように二度も同じミスは犯さないのがこの僕なのさっ!」
「うわぁ……何よその自信……。まるで何事にも屈することのない主人公キャラみたいじゃないの」
「正真正銘僕も主人公さっ! 皆一人一人が主人公なのは当たり前のことだろう。第一この僕がキャラクター的立ち位置で終わるわけなかろう」
知り合いであるマヤカにも呆れられ注意されても赤髪の野郎はめげることはない。これまでの言動的にはいかにもポジティブ要素を全て詰め込みましたみたいなキャラである。
「あーそうですか。とりあえず私のいないところでやってくれません……。ホント朝から疲れるわ」
「長い時間家の手伝いをしていても疲れたと口に出さないマヤカが……。もう面倒くさいからちゃっちゃと紹介だけ済ませて教室に行こ。私もこんなことに時間を割きたくないもん」
「はぁ~……。仕方ない。こいつはエルネ。今やり取りしたようにこっちの気持ちを考えない上にどこまでも我を貫くタイプ。つまりは我が儘っていったところね」
「顔は……まぁ悪くはないけど、振り向くほどでもないよね。いかにも毎日女とつるんでいますっていう顔じゃん。私興味ないよ」
「うん、予想通りの反応。私も対象ではないよ。そもそもエルネの登場でカノンの気持ちが揺らぐとは思わないし、紹介する必要もないとも思ったけど」
「こんな奴が顔見知りだなんてマヤカも運がないね」
息ぴったりの軽快なトークを繰り広げる2人。散々な言われようなエルネがショックを受けていそうだと目線を向けてみたら案外平然としている。距離的に聞こえているはずだから、エルネ自身に自覚があるのか、あるいは図太いだけか。
「そうなのよ。知り合いの数自体が多い分必然的に変人も多いの。たくさんの人と接するのは実家が料理店で繫盛しているっていう証なんだけど」
同じ割合でも分母が多くなるにつれて分子も大きくなるっていう意味だろう。マヤカが変人って言うほどだからエルネは変人なのだろう。俺としてもカノンが嫌がる相手とは関わりたくはないかな。
「君たち僕のことを忘れていないかい? それに僕は変人ではない!」
「うん忘れてた! えっと名前は変態だったよね? じゃあ紹介も終わったしこれでいいよね」
「正直すぎて清々しいわね。勝手に格上げしているし」
「さっきより酷くなってる! 僕はエルネだ。エルネ! あと変態でもないぞ!」
変人から変態へと格上げされたエルネ。本人は変態扱いされてたことに抗議しているが、カノンが嫌がっているのにこんなにしつこく付きまとっている時点で変態だと言われても仕方ないとも思う。
「マヤカと、……カノンで良かったかい? 僕のことは――」
「容易く私の名前を呼ばないでもらえる!」
カノンが教室に歩みを進めるのを見て、エルネはここが自分のターンだとばかりに名前の確認をしようとして……させてもらえなかった。
「はいっ!」
「カノンやるね~」
「……へぇ? え、僕は名前さえも呼ばせてもらえないのかい!?」
カノンの大声につられてエルネの素が出てきた。実にあっけない声である。
「当たり前じゃないの! 私とあんたは赤の他人! それに好感度がゼロどころかマイナスでしかも上限突破するほど評価が低いの。その状態で――」
カノンも口調が乱雑になり最後の方はよく聞き取れなかったが、誰がどう見てもヤバい状況だっていうのは分かる。当事者たちを囲むように周りにたむろっていたギャラリーが1、2歩後退している。野次馬の中には恐怖感から足がガクガクさせている生徒も見受けられる。
「扱いが雑過ぎない? 僕はオッセラの街の貴族の息子なのに……」
エルネも心が折れかけ始めてきたのか嘆こうもカノンは勢いそのまま追撃する。周囲のことなんてお構いなしだ。
「あんたの親が貴族だからってなんであんたが偉く気取っているのよ! 肩書なんてどうでもいいわ」
「うぅ……」
「カノン、ちょっと言いすぎ。顔の良さと貴族の子息のアドバンテージを除いたらエルネは単に自信過剰で人の話に耳を貸さない女たらしの救いようもない奴よ。だけど、そこまでいったら自分の尊厳を失うわ。一度深呼吸してみなさい」
暴走気味のカノンも親友に止められては少し冷静になるしかない。流石マヤカ、カノンの扱いには馴れていると褒めたいのだが……。如何せん話の内容が悪すぎた。あの赤髪の野郎も大分ダメージを受けたようで顔に覇気がない。しかも、マヤカ本人には自覚が無いってところが恐ろしい
ギャラリー「あそこまで罵詈雑言言われると……」や「とうとう皆が思っていることを言ってしまったな。代弁してくれたってとこか」とか「あの優しいマヤカにまでそう思われていたのね」などとはっきりと物申したことを称賛している生徒もちらほら居る。相手が貴族で口に出せない部分があるのだろうか。
周りの生徒の反応からマヤカも時間差で自分が何を言ったか
「エルネごめんなさい! 正直に言えば本心が漏れてしまったの。この通り悪気はないからさ。気にしないで!」
結局本心なんかい。これは更に傷付くだろ。まぁマヤカの場合は謝った分マシなのかもしれないが。ちょっと
「カノンだけではなくマヤカからも罵られるとは……。まったく想定外のダメージだ。だけど僕は寛大だから許してあげよう。それにここで諦めなければならない理由もないし挽回する機会はたくさんあるんだ。僕たちはまだ1年目。つまりっ、学校に通う期間はあと3年もある。出来るだけ早く君と仲良くなりたいから僕は頑張ることにするよっ。まずはお話からだねっ」
カノンが黙った僅かな時間の間にすっかりと元通りになったエルネ。どこからそのような気力が復活するのか……。俺とは違って何度ぶちのめされてもへこたれないポジティブな姿勢にはつい感動を覚えてしまった。
ギャラリーからも「負け犬の遠吠えだな」と揶揄するものもあったが、「悔しいけど何かかっこいいぜ」「絵になるな」「あいつの辞書には諦めの文字が無いのかよ」といった俺と同じように称えてしまう声も多かった。
「はぁ……、こういうのは慣れっこなので気にしませんが、やはり礼儀はわきまえるべきです。しかしただ、これはきっちりと断言しておきます。ごめんなさい、あなたと付き合うことは絶対ないです。私には愛しの婚約者がいますから。絡むだけ無駄ですよ」
呆れて先に匙を投げたのはカノンだった。エルネの粘り勝ち? とは見えなくても結果的にはエルネの勝ちなのだろう。絡むだけ無駄と言われても絶対絡むに決まっている。
一部の男子からは案の定「ざまあみろ」とか「婚約者ってマジかよ」といった驚きを持ったものや、「俺実は狙おうと思ってたのに畜生!」などとカノンに対しての淡い恋が早々に実らなかったものもいたようだ。
「おいお前たち、教室に入らず廊下で何をやっているんだ? 既に予鈴はなっているんだぞ、早く自分たちの教室に戻れよーぉー。そして、きちんと学生であるという自覚を持てよーぉ~」
虎に目を付けられた草食動物ごとく蜘蛛の子を散らすように生徒たちは自身の教室に戻り始めるが、野次馬と化していた群衆が多く廊下からは人混みが中々消えない。
俺らはというと自分たちの教室の前に居たのですんなり教室に入れた。教室に入る直前にエルネに絡まれたのだから当然ではある。
「俺はこの2組の担当のサンメだ。とっとと席に座れよーぉ~。お前ら初日から遅刻なんて嫌だろ」
この先生は俺のクラスの担当教員らしい。サンメ先生の語尾は独特だが、その発する言葉の威圧感が凄い。正確には語尾だけが異様なほどに気合が乗っているとでも言おうか。
「兄ちゃん。私はいつまでも兄ちゃん一筋なんだから」
皆さんが読む分には一話あたりどれぐらいの文字数がいいですか? これからの参考にします。
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