運命は先天的にお兄ちゃん子 ―歴代最少の契約者たち 転生先にて恩送り 作:yyuuss
「くっそ、寝付けねぇ。こんな時間だっていうのに」
少しだけなら大丈夫だと思っていたのに夕刻のあんな中途半端な時間につい長いこと寝てしまったがために深生は今絶賛夜更かしコース中である。寝たせいでおなかも減らず晩ご飯も米とメインのおかずしか食べきれなかった。惜しいことをした気もする。
ただいまの時間はとっくにてっぺんをまたいで深夜2時。寝よう寝ようと努めてはいるが全然寝付けない深生はベッドに転がりながらスマホ画面をスクロールする。
(……うおっ。いつの間にか寝落ちしかけたな。寝落ちするにもスマホだけは充電しておかないと)
夜更かしすることどのぐらい時間が経ったのだろうか、一瞬眠ってしまって意識が飛びかけてしまった。いい時間だしそろそろ眠る頃合いだがその前に予定を確認する。寝坊をして小学校の時に楽しみにしていた学校行事に遅刻して参加できなかった日以降、深生にとって予定確認はほぼ日課みたいになっている。あとになって考えると小学校のくせに明らかに厳しくないかとも思ったりもする。
(明日は柴田の家に遊びに行く、そして今日の態度について謝る。冷静になれば人間素直になれるものだよな)
寝落ち寸前で耐えていた深生であったが、寝る前にトイレに行こうとして深生は遂に意識を失い眠りについた。
「うぅ、眩しっ。ってまたここかよ~。はぁあ~、どうもこの夢に好かれてるようだ。あんな思いなんぞ何度も体験したくないしよ、早く夢から目が覚めないかな」
明るい光に目をつつかれるようにして目を覚ましてみると眼下にはある街と湖が見えた。草木で一部が見えないが、街の形状、湖の大きさ、主要な街道とその位置を精査するにどうやら夕方に見た夢での世界と同一らしい。おそらくオッセラ郊外にある見渡せるぐらい高い山か丘にいるのだろう。ここには万能アイテムのスマホはなく、面倒ごとに巻き込まれる前に夢から抜け出す手がかりを得なければならない。街に向かおうとして不意にこの丘がどのくらい高いのだろうかと今にも崩れそうな崖に近づく。近づいたことにより草や岩など視界を遮るものがなくなると絵画のような光景が目の前に現れる。
「綺麗だ」
変な夢にさいなまれたとしても圧倒的に美しい景色の前にしてつい自然に言葉がこぼれる。忙しい毎日に追われてこんなに綺麗な朝日は最近全く見ていなかった。大都市に住んでいると見ることもないだろう。はるかなる湖も太陽の光が湖面を鮮やかに染めている。
ひとまず朝日に心を癒された深生はこれからの目標を夕方の夢で唯一会話ができたあの女性に会うことにする。自分一人の力には限度があるし、夕方の夢のように歩き回るのは面倒くさい。なんなら純粋にこの夢を楽しむ間にでも会えたら理想的だ。
写真として残しておきたいほどの見惚れる光景とはおさらばして深生は街へと下る。どう見てもオッセラは重要な都市なはずなのだが何故か狭そうな簡易的な詰所がポツンとあり、その中から老いた兵士が死にかけの魚のようにだらっと通行人を見ているだけで検問すら行われないのは前回に知っていたので、堂々と街の中に入る。詰所をチラッと見たら朝だというのに見張り役の兵士はまだ寝ている。
オッセラの街中は市民の大半が寝ている時間である夜が明けてしばらくは商品の仕入れや店の開店準備をする地元の露店や商店の人々がちらほらと外で働いている。朝を迎えて日が昇るにつれて少しずつ市民の姿が目立ち始め、日が完全に昇ったころにはいつも通りの賑わいを見せるのだ。
人ごみの中をうんざりしながらも深生は進む。涼しいという理由で朝から観光しようとしたが、通りにいる人の数に後悔することになった。オッセラではどうも朝ご飯を家で食べる人と外で買って食べる人に分かれているらしく、その割合は五分五分。となれば、たくさんの市民が朝ごはんを求めて屋台や露店、料理屋に集まっている。中でも人気の屋台となるとたくさんの人が並んでいるが目にも止まらない速さで一糸乱れることなく行列をさばいている。ここら辺じゃ見慣れない顔だとうちの屋台にいらっしゃいと誘い込まれそうになる。実に商魂たくましく人のことをよく見ているようだ。
(どういう根回しなんだ? 今回は姿が見えているらしい、実に不思議な)
オッセラの中でも露店がひしめき合っている通りを深生は進む。ただ先程から夕方の夢とはまるで違って歩いているだけで「買わないかい、かっこいいしマケてあげるよ」とか「そこのにいちゃん、一つどうだい」のように声を掛けられる。前回は散々無視したくせに、と卑屈気味になりながら深生はそんなの知ったことかと構わずに探索を続ける。
教会のようにステンドグラスがあしらわれたどこか懐かしい古びた建物、オッセラの中心部にあるやけにこだわられた大きな噴水、オッセラの街全体が360度見渡せる高いだけの塔。夕方の夢と合わせて有名どころを一通り見て回った。前回の時点でオッセラの地図を把握していたので道に迷うことなく観光もすぐ終わってしまう。昼までには現実に戻るヒントを持っていそうなあの女性とどこかで会えるかと予想していたのだが、まったくそれらしい姿は見つけられなかった。
(うぅ、夢の中でも腹は減るのか……。おかしい、夕方の夢では何時間歩いても空腹感なんぞなかったはずだが。妙にリアルなのは目覚めた時に落ち込み具合が大きくなるから嫌なんだよ)
どうも普通に暮らしている時のようにお昼頃に差し掛かるとお腹が空いてくる。この夢の中で目覚めた以降、朝から何にも食べていないどころか飲み物すら取っていなかったなと深生は思い返す。
近くの店で済まそうと周りを見渡すと所々に飲食店を見つけることができた。その中で一番大きそうな店に行くことにする。店先にあった看板を見るにこの店はヤンセン食堂というらしい。深生は食べられればどこでも良かったので迷うことなく店内に入る。この街ではどの飲食店でも朝方の方が混んでいるようで、このお店も昼時では7、8割ほどは埋まっていたが朝に見かけた光景とは違い、決して満席ではなかった。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか」
席に着いて間もなく店員さんが注文を取りに来たので時間をかけることもなく適当に日替わりランチを頼む。たくさんのメニュー札の中で日替わりランチセットは赤く大きめの文字で書かれているしこの店のオススメなのだろう。嫌いな食べ物もそうないし大丈夫だろう。
料理が来るまで手持無沙汰なので店の中の観察でもしてみる。店内は白を基調にしていてとても清潔感がある。しかも、料理屋ってことは油汚れや煙などによって白い壁が黄ばんだりして汚れるはずなのにこの店の壁はペンキを塗った直後から時が止まったかのように白く輝いている。
今度は店員の方を見るとどうやらホールは2人で回しているようだ。果たして人数は足りているのか、と思わざるを得ないほどに広い店舗で2人とはよほどホールの店員が凄腕なのだろう。そうでなければ朝よりはお客さんは少ない昼時でもこう上手くはいかないだろう。
「どうぞ、日替わりランチですね」
(おっ、米じゃないか。米だい、米だ。この夢の中においても米が食べれるとか幸せじゃないか。夢だから俺の思い通りに米が出てきたのかもしれないが、そうであっても白米は最高だよな~)
この夢の世界ではお米が主食であるようで、ライスを目の前にして深生は喜びを抑えきれずにいた。そのまま頂いても美味く、かつどのおかずを持ってきても何にでも合うお米は深生の好物の一つであり、日本人ならお米嫌いの奴はいないよな、とは深生の持論である。
大分おなかが空いていたようであっという間に平らげてしまった。食欲が満たされたので次にこれから如何にして前の夢で会ったあの青の女性を探し出すか考えてみたものも、スマホのような連絡手段もないのにその中で見つけるのは至難の業、もはや運に頼るしかなさそうだ。第一にその女性がこの街にいるかどうかも未だに不透明なのだ。
何か探し出すいい案がないものかと目線だけで周りを見回すと、店の一角でお客さんが金のコインでお会計している場面を目にした。
(……嘘だろ。この世界は俺の夢の中での架空の世界のはずなのにお金という概念があるって。自分の夢にもお金の概念とか取り入れるとか俺はどれだけ律儀なんだよ。しかし、お金なんて持っていないんだよなぁ……。いや待てよ、自分の夢なら俺の意向も反映されるからズボンのポケットにでも入っていたりして――、なんでコインの1枚もないんだよ、おかしい。自他とも認めるめんどくさがり屋なのに複雑なシステムになっているような夢が本当に俺の夢なのか?)
人々がお金を使って買い物しているところを一回も見なかったため、深生はお金が存在していないものだと思い込んでしまっていたのだ。慌てて現状打破の方法を見つけ出そうとしたが、この問題は簡単に解決しそうにない。
あわよくばとお金がポケットに入っていることを期待するも、ポケットには何も入ってはいなかった。このままお金がない状況では日替わりランチのお代が払えない。といってお金にかわるものも何も持ち合わせてもいない。服やズボンなら着ている分があるが、脱いだら裸になってしまうし論外だ。どういうわけか自分自身が見ている夢であるにも関わらず自分に不利な条件しか揃ってくれないようだ。
(どうにもならないよなぁ。謝り倒した上でランチの代金分ここで働かせてもらって見逃してもらうしか……。しかし、今回も後味の悪い夢だな)
客とお店間の信頼を壊すことになる無銭飲食は恐らくこの夢の中でも犯罪に当たるだろう。深生は前払いの食券制ならこんな単純なミスなど起こらなかったのにとも思いつつ、覚悟を決めようとした時、視界に探していたあの青髪、青い眼、青い服の女性が目に入る。
「やっと見つけたよぉ~。兄ちゃん一体どこを歩きふらついていたの。探しても全然見つからないし、勘も当たらないし大変だったんだよ」
「自分がずっと探していた青が映えまくっているこの前のお姉さんじゃないですか。グッドタイミング。ちょっとお願い事があるのですが聞いてくれます?」
自分のことを兄ちゃん呼びしたのは今までの人生において、夕方の夢で初めて会ったあの青の女性しかいない。ならばこの女性が夕方の夢で会った張本人であることには間違いない。もう少し彼女の登場が遅ければ、腹をくくって自分がお金を持っていないことをお店側に告白していたところだった。
「そりゃ私の信念的に駆けつけないとね。で兄ちゃん、お願いって何?」
「手持ちの金がないんだ。一時的にですが貸してくれたりしないですかね?」
もしも、この青の女性にここで断れられたとしたら、やっぱりお店側に正直に話すしかない。そうなれば夢から目覚めた後も立ち直れる自信がどうにもない。どうか神様よ、後味が悪い展開にならないように賜ってくれぇ。
「いいよ。じゃあ代わりに払ってくるから外で待ってて。私も兄ちゃんに話があるから」
深生にとって願ってもみなかった申し出ではあったが、いくらなんでもこの青の女性は自分のこと信頼しすぎしている気もしてならない。どうやったら一回しか会っていない人に対してそこまで気前よく行動できるのか教えて欲しいぐらいだ。そこまでするとは夢以外に現実世界でも会ったことがあったのかなぁ、と深生は思い出そうとするもそんな記憶はない。となると青の女性が自分に優しくしてくれる理由は単にお人好し以外考えられない。
「おごってくれたのは有難いですが、自分をどこに連れていくつもりなんですかね。話ならここで聞きますよ。それよりもこの夢の覚まし方を教えてほしい。自分にはこの夢の中にいる理由がないんだよ。ホントに」
自分の代わりにお支払いを済ませてもらった挙句、私のおごりでいいよと言われご馳走になった深生だったが、現実世界に帰りたくてもなかなか帰ることができないことに対する苛立ちや不安からつい声を荒らげてしまう。
今回は夕方の夢の時とは違って、彼の存在がこの世界にとって仮なものではなく現実になりつつあるのだが、そんなことを知らない深生はいつ現地の人々から無視されるかと内心気を揉んでおり、帰れるものなら速攻帰りたいと思っている。彼の言葉通りが示すように深生が夢の世界にいる理由は特にないはずだ。
「夢世界での体験はもういいの? それなら実行しようかな。じゃあ目的地変更するからこっちね」
「おいおいマジでどこに連れてくんだ!?」
深生の言葉を受けてその女性は方向変換をすると深生の手を引っ張りながら走り出す。2人とも子供なのならば、活発に遊んでいるかのように微笑ましく見えるものだろうが、実際は大人間近の2人である。街の人に奇妙な目で見られるが、その中を走り抜けていく。
「ここで何をするんだよ? おい、勝手に他人の家に入るとか不法侵入だぞ」
「いいからいいから。兄ちゃんあと少しだけ付いてきて」
こうして色々ありつつも青の女性に連れ回されて、目的地と思わしき場所に着いたが、そこはこの世界では一般的な変哲もない普通の家だった。青の女性はカギを使わずに扉を開けると深生を招き入れる。不信感もあったが、ためらいもなく堂々と家の中を進んでいくので深生はあとを追っておじゃますると隅の一室に案内された。
「立ってないで座りなよ。兄ちゃんも連れてきたし、これで準備は終わったぁ。よし始めていくよ。眩しいだろうから目をつぶっておいた方がいいよ」
青の女性はそう言うと部屋の机の上にあった道具を手にして座っている深生の正面に同じく座って、二人の間におもむろに置いていく。
「だからさ、自分これからの詳細も何をやるのかも全く聞いていないですけど。何をやられるおつもりで……」
このようなパターンにおいて、これから起ころうとすることにろくなことがないのは考えるまでもない。現に今感じているこの嫌な予感が深生の脳に危険信号を送る。そもそも夕方の夢の時もそうだったが、青の女性は今回も絶対に詳細を含め重要なことを隠しているに決まっている。
「詳細は後でいくらでも教えるから3,2,1で始めるよ。さぁ、心の準備はいいよね。ちゃんと目をつぶって、じゃあ3,2,1―」
急に心の準備はいいよねと言われて心の準備ができる人なんているわけがないのに、深生に有無も言わせる時間を与えずに青の女性が何かを始めると、白い光が急激に視界を覆う。深生は青の女性が何をするのかこの目で見てみようとも一瞬考えていたのだが、前触れもなく現れたその光に深生は思わず目をつぶってしまった。
そして、再び目を開けると深生は相変わらず屋内にいた。さっきまでいた部屋によく似ているが家具の配置も微妙に異なっているようだ。だが、一番明白に違う点はあの青の女性がいない代わりに小さい女の子が隣にいるということだ。
「ようこそこちらの世界へ。兄ちゃん、ぐすぅ、会いたかったよぉ~」
ふとその女の子と目が合ったかと思うと、間もなく彼女は第一声としてこう語りかけてきたのだった。
プロローグもこれで終えたので、深生とヒロインの掛け合いも本格的に始動します。次は2日後か3日後に。
皆さんが読む分には一話あたりどれぐらいの文字数がいいですか? これからの参考にします。
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