運命は先天的にお兄ちゃん子 ―歴代最少の契約者たち 転生先にて恩送り   作:yyuuss

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ライバル

「あっ、クルウドじゃん。今度うちに遊びに来る? それとも私が遊びに行った方がいいよね。レイラさん優しいし」

 

 契約の儀式も終え、大通りに出ようかとの辺りで一人の少女に声を掛けられる。

 

「おい、カノン。自分たちの前にいるこの少女は誰だよ? まだこっちの事を何にも知らなすぎてろくに会話にならないぞ」

 

 気安く話してきたこの少女はシルバーグレーの艶やかな髪や優しそうに見える眼が印象的で、その髪の長さはボブといったところか。余程性格が悪いとかじゃなければこういう女子は一目置かれるようなクラスのマドンナのポジション候補の人気者だろう。自分から見てもカノンよりもこちらの少女の方が清楚さがあって、好みのタイプではある。

 

「……えっと~、私も転生前の交友関係については分からないや。ってことで兄ちゃん、うまくこの子についての情報を引き出して。ファイト」

 

 カノンなら何か知っているかと思ったが、転生前の交友関係は記憶の中に網羅していないようだ。この少女の名前や性格ですら分からないので、地道にでも聞き出す他ない。

 

「クルウド、今お兄ちゃんって呼ばれなかった!? ということはクルウドの隣にいるのは妹ってことなの? でもクルウドに妹なんていたっけ。レイラさんたちも兄妹がいるってことは全く言っていなかったけど……」

 

「おう、そりゃそうだよ。こいつは最近新しくできた……義妹なんだから。これから宜しく」

 

「あーそうだったんだ。ふ~ん義妹かぁ」

 

 クルウドがカノンのことを義妹だと紹介したところ、少女は品定めするかのようにカノンのことを観察している。

 

『兄ちゃん、彼女の目線を見るにこの子は兄ちゃんの妹であるこの私に興味を持っていそうだから私が話してみる。私が自己紹介すれば向こうも自己紹介せざるを得ないよね』

 

 クルウドが自身とカノンの関係が怪しまないようにと策を練っていると、カノンから私が自己紹介するからと念話が飛んできたので、カノンに任せることにする。

 

「まず先に私が自己紹介しますね。私はカノン・ベディ・エピローヴと申します。年は兄ちゃんと同じく3歳ですが、私の方が生まれた時期が遅いらしいので私が妹になりますね。そして、兄ちゃんの婚約者です。レイラさんにきちんと許可を頂きましたので、ほとんど正式に近い婚約です。兄ちゃんと一緒に居る機会も多いので、これからよく会うかと思いますがよろしくお願いします」

 

 カノンはさり気なく自身がクルウドの婚約者であるアピールを自己紹介に入れていく。

 

「こ、婚約者なの!? ねえクルウド、どういうこと。なんでクルウドもレイラさんもこの子を選んだのよぉ」

 

「ひょっとしてあなたは兄ちゃんのことが好きなのですか。しかしながら、兄ちゃんにはもう私という正式な婚約者がいますから、きっぱりと諦めてください」

 

「本人がいる前で言わないでよぉ。あぁ、聞かれちゃったじゃない。恥ずかしいー」

 

 どうやらこの少女はクルウドのことが好きらしい。カノンに見抜かれて少女は顔を赤らめる。クルウドも少女の赤面姿を見て、これは初恋だなと理解する。

 

「その様子なのなら私の勝ちですね。好きな人に好きだと言えない時点で勝負にすらなりません」

 

 意中の人に好きだと言えないからっていうだけで負けだとは思えないのだが、カノンが少女を嘲笑うかのように勝利宣言する。少女は先程から赤らめていた顔を更に赤く染めると彼女自身に言い聞かせるように叫ぶ。

 

「――私だって……。私の方がクルウドのことを愛してる!」

 

 この子、今俺のことを愛しているって言った? クルウドはタイプの子に告白されて嬉しいのだが、唐突で全く理解が追い付かない。でもこの少女に鞍替えしたらカノンがどれだけ怒ってくるかは想像できるし、どちらも今もなお張り合うほどに負けず嫌いっぽいのでケンカに発展しそうだ。

 

「……大きく出ましたね。私のライバルになるのなら、相手はこれぐらいがいいのかも。ただ、あれだけ大声を出せば周りの人に見られているんだけどね」

 

 流石のカノンも少女のこの大胆な宣言には言葉が詰まったようだ。だが、カノンも負けずにお返しとばかりにあの宣言が通行人たちに聞かれていたことを本人に伝える。

 

「えっ本当に。……ああ~、物凄く恥ずかしい。これじゃあ笑い者にされて外へお嫁に行けなくなるじゃん。ということだからクルウドが私のことを貰ってくれるよね?」

 

 カノンに言われて初めてこの状況に気づいた少女が周りを見回して睨みつけると、野次馬と化していた通行人たちは目を合わせないようにこの場から去っていく。そして、嫁に貰ってくださいと相変わらず衝撃的な発言を口にする。

 

「だから、兄ちゃんの婚約者はこの私なの。もう空いていないから他をどうぞ」

 

「そんなに怒らないでって。今のは恥ずかしすぎた余り吹っ切れたからわざと言ってみただけだからさ。でもね、急に現れたと思ったらクルウドを誘惑して婚約したという女に私が負けるわけがないの。私とクルウドの間にはあなたが知らないような今までの3年間があるんだからね」

 

 少女はそう言って今まで過ごしてきたという3年間があることをカノンに自慢している。やはりこちらもこちらでカノンに負ける気はないようだ。

 

「残念だけど、兄ちゃんは一度転生しているから、あなたが過ごしたその3年のことは全く覚えていません。つまり、あなたの思い出は兄ちゃんを引き留めるのに何にも役に立たないよ。これで本格的に諦めてもらえますよね」

 

「おいカノン。何さらりと俺が転生したってことを話しているんだよ!? この負けず嫌いの精霊め。転生初日にいきなり秘密をバラしていくとか、そんなに俺の人生を険しいものにしたいんかい!」

 

 確かに今のクルウドには転生前でのクルウド自身の3年間の記憶はない。それは紛れもない事実であるが、俺が転生したってことを包み隠さずに堂々と言っていい理由にはなるまい。クルウドにとってこれではサポートどころか迷惑でしかない。

 

「あっ、兄ちゃんごめん。決して迷惑をかける気はさらさらなかったのだけど、こればかりは意地を張らずにはいられなかった。でも兄ちゃんに対しての私の思いは本物だよ。私が兄ちゃんの1番になりたい」

 

「転生? 精霊? 一体どういうこと?」

 

「……なんで私が精霊だと知っているの……? 貴方は天才少女とかですか」

 

 出会って間もない少女に精霊だと指摘されてカノンもまた動揺する。

 

「んなことないよ。私はここの食堂の娘だよ。今クルウドがそう言ってたから聞き返しただけなんだけど……。私悪いことでもしちゃったのかな」

 

「単純に兄ちゃんの馬鹿! 思い返せば、あれほど言わないようにって何度も忠告していたのに精霊だって口走るなんて信じられないよ。あと、負けず嫌いってどういうことなの」

 

 

「なぁ、今日はもう遅いし、暗くなっているから明日になったらもう一度話し合うのはどう? 親御さんだって心配するでしょ」

 

 カノンから怒りという集中砲火を受け、思い返すとカノンが精霊だと言ってしまったような気がしてクルウドは我に帰る。このまま怒られ続けるのは嫌だったので、話題を変えて矛先を収めようとする。

 

「あとで叱られるのもねぇ。分かった、すぐお母さんからクルウドの家に泊まる許可を貰ってくるから少し待っていてよ。店は目の前だし3分もあれば説得できるから」

 

 クルウドは秘密に関してはお互いに非があったのでこれから要相談という形でカノンと仲直りする。景色に目を向けるとすっかり日は落ちつつあり、空は地平線付近を赤く残してほとんど一面を暗くしている。少し時間が過ぎればじきに夜になるだろう。

 

「お母さんが泊ってきてもいいって言ってくれたからこれで問題は解決。クルウド、あとは……カノンだったっけ。暗くなるし、早いとこ行こうよ」

 

「……その格好で行く気か。夜になってきたし少し外に出るだけでも身体を冷やすぞ。あと見た感じ手ぶらのようだが、泊まるのに着替えとかもっていかなくてもいいのか」

 

 少女は先程と同じくまるでちょっと軒先に出る感じのようなラフな格好のまま、泊まるための荷物すら持たずに出てくる。初対面の少女ではあったが、一応心配して声を掛けておく。夜になってそれほどまでに寒いのだ。

 

「そうだね。さっきみたいに3分でとは言えないけど出来るだけ手短に準備を済ませてくるからしばらく待っていてくれない」

 

 

 

「先に帰っちゃう? こんなに寒い中待つのも嫌だし。それに多分あの子、私たちの家の場所知っているよ」

 

「ここは待って3人で帰るべきだと思う。彼女を一人にしてしまうと転生や精霊という秘密を他の人にうっかり洩らされるかもしれない。自分たちにとっては機密であっても、彼女にとって転生や精霊とかの情報は重要ではないからさ。それについ口が滑る可能性も否定できない」

 

 少女がそう言って食堂である実家に戻ってからとっくに5分ぐらいは過ぎたあたりで、カノンが2人で先に帰らないかと提案してくるが、クルウドは即座に却下する。クルウドとしては自分たちの秘密を他の人に言われないように監視しておきたいのだ。

 

「兄ちゃん。こういう秘密裏で進めるべき話題の時こそ念話の機能だよ。私がさっき一度使っていたでしょ、あんな感じで使えば周りの人に気づかれることなく会話ができるよ。魔力は微量ながら消費はするけど、物は試しで兄ちゃんも使ってみようっ」

 

 クルウドもカノンも自分たちの秘密についてはあの少女だけならまだしも他の不特定多数の人々にまで聞かれたくはない。ともあれば声に出さずして会話することが出来る念話機能が使えるようになったことは非常に効果的である。

 

『こんな感じで念話しようと思えば通じるのか?』

 

『うん、兄ちゃんもなかなか上出来の方だよ。話題を元に戻すけど、転生も精霊もばれてしまったのはどうしようもないし仕方ないとしても、どうやって誤魔化す? それとも、正々堂々と正体を明かしちゃう?』

 

『……どうしたものかなぁ。どちらとも上手く誤魔化しきれればいいけど……。ところで、カノンが精霊だということは母さんに言っていただろ。契約した自分に言うのは当然だとして、カノンはなんで母さんにも言ったんだ?』

 

 クルウドはカノンが母さんに精霊だと明かした理由を聞く。自分が精霊だということは誰にも言わないで秘密にしてとお願いされたのに、どうして母さんには自身の正体を明かしたのだろうか。

 

『私の経験としてレイラさんには言っても問題ないかなって思ったからだけど。実際物怖じせずに快く受け入れてくれたし、結果としては良かったよね。―私の直感だと、レイラさんにはあの笑顔の裏に数多くの修羅場を潜り抜けたかのような凄みがある気がする。本当いつでも頼りにできるほどに』

 

『なるほどな。……もういっそのこと母さんとかあの子とか関係者全員を巻き込んでしまうか。決して諦めたんじゃなくてさ、カノンの勘を信じて打ち明けるのも手かと。こっちはお前と契約の儀までも交わしたんだ、時々なら相棒の直感に従ったっていいだろ。明かす内容はカノンが精霊であることと、もう一つは俺が転生してきたってことをな』

 

 クルウドがそう言うとカノンは驚いた顔をしてクルウドの方を見る。恐らくはクルウドが転生したことを話すと言ったことが思いがけないものだったのだろう。

 

 ただ、クルウドとしても浅慮さから述べたものではない。初めは半信半疑ではあったが、クルウドはカノンが自分と一緒に居たいという気持ちも、契約精霊というパートナーとして自分のことを支えていきたい思いも、そのためなら積極的に行動する信念も、この1日を過ごしながら感じていた。そんなカノンがクルウドの母さんであるレイラのことを秘密を教えても問題ないと判断したのだ。実際に精霊だと明かしてもカノンのことを追い出さなかった実績もある。

 またクルウドの認識として少女の方はクルウドのことを愛しているほどに好きだということはそう簡単には揺るがないだろう。そんな少女が果たして好きな人の秘密を他人に話すとも考えにくい。カノンに対する少女の評価は不安材料ではあるが、そこは何とか黙っていてもらう予定だ。

 

 カノンの意向次第ではあるものの、クルウドはこれらの理由から母さんとその少女の2人ぐらいなら秘密を打ち明けてみても大丈夫だと考えた上で、どうせなら巻き込んでしまおうかとカノンに話したのである。

 

 




読んで下さりありがとうございます。
この小説内においてはクルウドとカノンの間での念話を、二重鍵括弧『』で表すことにします。

今回出てきた少女とカノンが作品紹介のタグにあるようにダブルヒロインにあたるので、これからの出番は多くなってきます。

じきに簡単なアンケートをしようと思うので、回答してもらえれば嬉しいです。

皆さんが読む分には一話あたりどれぐらいの文字数がいいですか? これからの参考にします。

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