運命は先天的にお兄ちゃん子 ―歴代最少の契約者たち 転生先にて恩送り 作:yyuuss
『レイラさんは私が精霊だっていうことなら知っているから、あの子に対しても言ってもいいとして、兄ちゃんが転生したことまでもわざわざ話す必要はあるの? レイラさんもそれについては知らないんだから、彼女さえ口封じすれば解決するけど』
カノンはそう言うと彼女の家に指をさす。確かに言わせなければ秘密がばれることもない。
『転生のことを母さんに言う理由はこちら側の味方に組み入れたいんだよ。何かあった時の防波堤みたいな感じとして。今打ち明けるのと、転生者だってばれてから打ち明けるのでは、全く印象が変わってくるだろ。「転生してしまって困っています」とアピールでもしとけば助けてくれるかな、とか』
『そういうこと。悪くないと思うよ。嘘をずっと付き続けたくはないよね』
秘密を隠しておくことはある意味嘘を付き続けることに似ている。勇気を持って言えばすっきりすることもある。
『ああ。少人数のうちに限るのだが、秘密は2人より3人、3人より4人と人が多い程ばれてしまった時に感じる罪の重さが減るんだ。ずっと秘密を2人で抱え込むのも今はまだ耐えられるけど将来を見据えて考えるとなぁ。出来れば隠し通したいんだけど隠し通し続けるのは俺としても辛い部分もある……』
こういう秘密は心の中でくすぶり続ける。早めに暴露する方がいい場合も多い。
『さっき言ったことと矛盾するようだけど、秘密とは共有する相手が少なければ少ない程外部に漏れにくいことは常識だ。よって今回の場合は母さんとあの少女だけに伝える。母さんはカノンの勘を信じてだな。あの少女については秘密を知られてしまったという理由があるから話そうと思う。カノンはこれでいいか?』
『基本的に私は兄ちゃんに従うよ。変な言動をした時は絶対に阻止するけどね』
人とは何かしら理由がないと思い切って行動することが難しくなる。理由があれば動くことは容易くなる。
これで次に起こす行動の方向性が固まってきたので念話を切断して少女の準備を待つことにする。
「それにしてもあいつ遅いな。自分たちが相談している間だけでも十分に時間は経っただろうに」
「いつの時でも女の子の準備には時間が掛かるものなんだから。もう少し待ってみよ、――って言おうとしたら来たよ」
大事な話も済んだことでやることが無くなったクルウドもついに待ちくたびれる。2人とももうそろそろ寒さに身体に堪えてきそうだとのところで少女が裏口から出てくる。
「2人とも待たせちゃってごめんね。行こっか」
帰路に就いてもなかなか少女についての情報を聞き出せず苦労しているうちに家に着いたので中にはいることにする。それにしても外は寒かった。
「お帰りなさい。あら、マヤカちゃんも一緒だったの。そんなに荷物を持っているってことは今日は泊まりにきたのね。クルがカノンの歓迎パーティーに誘ったってとこかしら」
カノンのライバルとなったこの少女はマヤカというらしい。母さんがすんなりとマヤカのお泊まりを許可していることからマヤカと転生前のクルウドはさぞかし仲が良かったのだろう。
「クルウド、今日は帰りが遅かったな。そっちがレイラから話に聞いていたカノンに、あとはマヤカもいるのか。クルウドも女子2人を携えるとは――何て言うか……お前、両手に花だな」
(この人が父さんになる人物なのは大概予想が付く。しかし、この親父はいきなり何を言い出すんだよ。ああ、そんなこと言っちゃったらまぁカノンも構えるわな)
豪快に話し掛けてこられたのでクルウドはちょっとビビッてしまい、またカノンは明らかに引き気味である。この家に居るってことはお父さんに違いない。そうでなければ自分の親戚の類いか。
「いきなりそんなことを言い出すんじゃあなたに対する評価がだだ下がりです。―この人はシーハさん。私の夫で、カノンとクルのお父さんにあたるよ。さあさあ、みんな中に入りなさい。外は夜になって寒かったでしょ」
母さんが紹介を済ますとカノンは少しばかり警戒を解きつつも父さんとは目を合わすことなく一直線に部屋に向かう。ただ、カノンもわざと目をそらしたのではない。父さんという予定外の人物の登場にどう対応をしようかと計っているだけなのだ。
『兄ちゃん。レイラさんとマヤカには話すことは決めていたよね。でも、シーハさんはどうしよう。ついでとして加えて話しておく?』
『自分たちの家族とのことらしいから話すしかないでしょ。仮にも母さんが結婚した人だよ。どんな秘密だって気にすることなく一緒になって抱えてくれるさ』
マヤカや母さんには秘密を打ち明けることは契約の儀式の帰り道で既に決めていた。しかし、転生してから一回も見ることがなかったので父さんの存在は考慮の対象には入れていない。でも父さんも一応は家族だ。たとえカノンにシカトされたとはいえやはり家族であることには変わりはない。ならば話を聞いてもらうのがいいだろう。まぁ秘密を話したことで拒絶でも示そうとでもするものならカノンが信頼を寄せた母さんの夫としてはいささか不釣り合いとも言える。
「カノン、お~いカノンさん。無視しないでくれ。俺はずっと娘が欲しいと思っていたからカノンとも仲良くしたいんだよ。ああ、行っちゃった」
「カノンは繊細なところがありますからね。はじめの挨拶でそっぽを向かれたのでしょう。ですけど、私たちは家族になったんですから仲良くなれますよ」
一方でその父さんはカノンに口を聞いてもらえないことでしょぼくれている。事情は知っていても何だか可哀想に思えてくるが母さんが宥めているようなので心配ないだろう。やっぱりカノンは父さんに対してそっぽを向いていたのだな。
「カノンもふてくされることもないだろ。父さんの第一印象は良く思わないけどさ」
「両手に花だって言ったじゃん。気に食わない」
部屋に戻るカノンを追いかけてクルウドも部屋に入る。その部屋はカノン用の部屋ではあるが、自身の部屋がどこかもよく分かっていないクルウドがカノン用の部屋であることを知るわけがないので、ためらうことなく入っていった。
「そう言っていたけどさ、念話をするために無視する理由にはならないし気に食わないほどのものでもないんじゃないのか」
「兄ちゃんは私のものだし婚約者なんだよ。私があの少女と同列に扱われるのは嫌。私の方が立場が上だっていうのは一目瞭然なのに。あの発言は気に食わない。あとで撤回を要求してくる」
つまりカノンは、マヤカと比べられた時に婚約している自身の方が上に見られたいのらしい。そこで父さんが両手に花だと言ったことでカノンは同列として扱われたと思い不機嫌になったといったところか。でもこれって父さんの方が被害者なのでは……。
「カノンが婚約者なのは確定しているんだから気にしなくたって。……ひょっとして俺がマヤカに取られるとか考えているのか?」
巷に出れば俺とカノンが婚約していると知っている人の方が明らかに少ない。ましてはそもそも幼少期から婚約している例自体がそうないのだろう。これからのことを思うと父さんが言ったような言葉一つが気に障っているようではカノンの気持ちが持たなくなるのではと心配になる。
「――絶対に兄ちゃんは取らせない。兄ちゃんもマヤカになびかれないでよね」
「なびかれないようには努力はするよ。ただマヤカも可愛いからね。そうだな、2人とは他の人たちよりも友好的な関係でいたいよね」
クルウドはカノンを刺激させないようにと慎重に言葉を選んでいく。だが、カノンだけではなくマヤカとも仲良くしたいというのが本音ではあるため、マヤカになびかないという約束はどうしても出来ない。仕方ないので努力義務という形にとどめておく。
「私を差し置いてでも?」
いつもだったら自信満々に話すカノンのその声は少し心許ないように聞こえた。
「いやぁそういう訳ではないけどさ。ぶっちゃけるとマヤカの方がタイプなんだよ」
クルウドだってカノンもカノンで可愛いとは思っている。しかし、清楚さもあって真珠のように光り輝くシルバーグレーの髪色を持つマヤカの方がやっぱり好みなのである。このことをカノンには初めて伝えたのだが、カノンは幾分か喪心しているように見える。そうなっちゃいますか。
「クルウドってやっぱり私の方がタイプなんだ~。そうなら、カノンなんかよりも私のことを優先すればいいのに」
「マヤカか、急に入って来て驚かせるなよ。って、いつから盗み聞きしていたんだ」
マヤカがタイプなのだと言った直後、ドアが急に開いたかと思うとマヤカは今がチャンスとばかりに身体を近づけてくる。そのマヤカの表情は嬉しげに緩んでおり、意気消沈のカノンとは大違いだ。しかし、ドアを急に開けられるとドキリとするのでやめて欲しい。正攻法にノックしてから入ってきてほしいものだ。
「クルウドが部屋に入った直後ぐらいからかな。2人の時だとカノンはどんな感じなのか知りたいと思ってね」
「それはつまり丸々全部聞いていたのか。堂々と部屋に入って聞けばいいのに」
今までのカノンとの会話を全て聞かれていたことを知りクルウドは慌てて部屋での会話と行動を頭の中で再生する。そして、特に聞かれていたら不味いような重要な言動はなかったことを確認すると胸をなでおろす。今回は恥ずかしいことがなかったから良かったものの気を付けなければならないことを心に留めておく。
「それだとカノンが本音で話さなくなるよ。絶対猫を被っちゃう感じでしょ」
マヤカの行動は良くないことだと思いつつ、発言については確かにその通りだと思いクルウドは首を縦に振る。カノンは自分や母さんのように仲の良い相手に対しては何でも話すだろう。しかし、素性の知らない相手とはあまり会話をしなさそうだ。人見知りということなのだろうか。
「まぁカノンならそうかもしれないな。見知らぬ相手だと気を許さなそうだし。でも、カノンとマヤカは似た者同士で案外気が合いそうな気がするんだけどね」
クルウドは何気もなく呟いた気が合いそうとの言葉によってこの場の空気が冷凍庫ぐらいには冷たくなる覚悟はした。帰りの道中からずっといがみ合っているのだ。当の本人たちは快くは思わないものだろう。
「どうなんだろ、気は合うのかな。お互いクルウド一筋ってところは似ているのかも。恋のライバルでなければ仲良くはしたいかな」
「違うと思いたいのだけど、ただ兄ちゃんがそう言うのならそうなのかもしれないね」
2人とも機嫌を悪くして反論してくるのかと思っていたが、予想に反して素直に返してきた。カノンとマヤカの2人はこういうところで非常に気が合っている。
「ただ、兄ちゃんが絡んでくる話ではない場合に限るけどね。そうだよねマヤカ」
「ええ、クルウドとの結婚するハッピーエンドに関してだけはカノンに負ける気はないよ。私にとっては負けられない戦いだから」
俺が関わることになると是非とも負けたくないのは2人とも一緒のようだ。この様子を見たクルウドはこれをまさに息ぴったりと言うのではなかろうかとつくづく実感する。似た者同士絶対にいい友達になれるはずだ。
「ねぇカノン。私たち勝負しましょうよ。障害となりうるライバルが出てきたってことは争いが起きるのは必然でしょ。カノンなら逃げたりはしないよね」
「もちろん受けるよ。兄ちゃんには私の方がいいに決まっているし。そもそもマヤカには私と兄ちゃん婚約を解消させないといけないハンデがある分大変だよ。それでも挑んでくるのなら負かしてみせる」
マヤカの放った最後の一文なんて安易な挑発としか思えない。でも、カノンはそんなことを気にする素振りを見せることなく安直な様子で挑戦を受ける。
(路上で会った時から常々感じてはいた。3歳の女子同士がこんな会話をするものなのか? 絶対に年相応の会話じゃないよな)
この世界の教養水準が高いだけの可能性もあるが、それでも3歳前後にしては難しい単語を使って言い争っている。この年頃になると恋敵の存在を猛烈に意識し始めるのだろうか。
「バッチバチに言い争わないで2人とも仲良くしようよ。この世界には無いの? ほら、一夫多妻制とか。」
精神年齢がすでに2桁であるクルウドとしてはカノンとマヤカを含めた3人で仲良くして穏やかに過ごせれば理想だ。無駄な争いごとは面倒ごとに巻き込まるので好かない。最悪2人と結婚すればいざこざが収まって解決するのなら喜んで結婚もしよう。しかし、独占欲が強そうなので2人の仲が良好にでもならない限り中々厳しそうだ。
「国王様とか貴族とか偉い人は何人も妻はいるらしいし妾も取っている話は有名だよ。ただ、お金とか権力がある人がすることであって庶民で妻が複数人いる男性はほとんどいないよ。私のお父さんとかシーハさんでも妻は1人だけでしょう。えっ、私は妾なんて嫌だよ。誰がどう言っても認めないし断固拒否しますからね」
どうやらこの世界では一夫多妻制が導入されているらしく、上流階級の男性によく見受けられるようだ。ただ、複数の妻に対する扶助が難しいのか一般庶民には一夫多妻制は浸透していないとのこと。
「マヤカはもう私のライバルになったんだから妥協してもらっちゃ面白くない。肩透かしをくらった気分になるから諦めるのなら真剣に争ってからにしてよね」
「私はクルウドとの結婚願望を捨てる気はないよ。妥協もしない」
この2人は争いをやめる気はなさそうなのでしばらくのうちは見守ってみるのも手か。危ないことは起きないだろうしな。
「うん、そうこなくっちゃ。兄ちゃんもマヤカもリビングに行こ。さっきキッチンをチラ見したら色々と大皿に料理が盛られていたんだ~。きっと私の歓迎パーティーだから豪勢なんだよ」
「そうなの。レイラさんが作る料理も美味しんだよ。楽しみ~」
ほう、母さんが料理上手で困ることはないので純粋に有難い。転生前でも柴田に習っていたようにこっちの世界でも料理を教えてもらえば料理スキルを上げられるかも。
『兄ちゃん、私たちの秘密についてご飯を食べる前に話しておかない?』
『晩ご飯が楽しみなんじゃないのか。食べてから話したっていいんだぞ』
『食事して楽しんだ後に重い話はしたくないよ。それに兄ちゃん眠いんでしょ。ウトウトしているもん。やるべきことは早めに終わらせておこうよ』
精霊や転生の秘密を今日のいつ話すか決めてはいなかったのでこの際に決定しておく。相談の結果、カノン案の早めに言うことですっきりさせようとの意見を採用してご飯を食べる前の今から話すこととする。
「ねえ何で2人で見つめ合っちゃっているの。私を仲間はずれにする気。そうか、既に戦いは始まっているってことね」
クルウドもカノンも互いを見つめるつもりは毛頭なかった。ただ、カノンから念話を受け取った時にお互いが普段会話をする時のように相手の顔を見ていたことで、マヤカには見つめあっていると誤解されたようだ。
カノンが精霊だってことや俺が転生してきたことをこちらの世界での両親やマヤカはどう思うのだろう。
もうそろそろ転生直後の第1章は終えて、次の第2章に進みます。
皆さんが読む分には一話あたりどれぐらいの文字数がいいですか? これからの参考にします。
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