家族になろうよと迫る幼馴染から逃れられない件   作:紅乃 晴@小説アカ

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家族愛と執着心はセットですか?別々ですか?

 

 

 

 

「遅かったじゃないか」

 

 

それは、ゆりかごに突入する直前だった。

 

なのはちゃんや、フェイトちゃん。そして機動六課の面々と共に行う六課としての聖王のゆりかご突入任務。

 

司令系統が麻痺しつつある中、ゆりかごによってもたらされる破壊行為を抑えられるのは自分達しかいない。誰に止められようとも、それが正しいことだと信じて踏み出そうとしていた私たちの前に、彼はゆっくりと残骸の上に座って待っていた。

 

 

「タカト……」

 

「秘書官を置いて勝手に行かんでくださいよ」

 

 

タカト・ハイラックス。彼との付き合いは長く、出会いは闇の書事件の前で、彼が管理局の魔導師であったことを知ったのは事件終結の後のことだった。事件の後、身柄の保護観察を行ってくれたのも、管理局への入局後、捜査官として歩き出したときも、そして機動六課の設立のために奔走していたときも。彼はずっと隣で支え続けてくれた。

 

闇の書事件で私にいい印象を持たない者からの揉め事も人知れず対応してくれていたり、シグナムたち、守護騎士の対応にも大きく尽力してくれて……彼は、私にとっては大きな支えになってくれていた。

 

そんな彼にこれ以上、迷惑をかけないために水面下でゆりかご阻止の戦闘指揮を執ろうとしていたのだが、彼にはお見通しだったようだ。

 

 

「ゆりかご直掩のガジェットは俺に任せてくれ。はやてちゃんはゆりかごの停止と破壊の指揮に専念を」

 

 

すでに準備はできていると、タカトは自らのデバイスを起動する。彼のデバイスは少々特殊だ。闇の書事件の際、消失するはずだったリインフォース・アインスの管理人格を取り込んだことで、元はミッド製のインテリジェンス・デバイスだったものが、ベルカのアームドデバイスの要素も組み込まれたのだ。

 

タカトのデバイスは二対の短槍。汎用性に特化したインテリジェンス・デバイスの中では珍しい近中距離を得意とする武器型のもの。

 

そして槍は腕装甲にも形状を変化させることができ、両腕に装備した際は手や腕の射出部から魔力光弾を放つことができる。

 

確かに近接戦ではシグナムにも勝るポテンシャルを発揮するのだが、数で勝るガジェットの軍団相手にタカトの能力は不利だった。

 

 

「はやてちゃん」

 

 

反対する私をまっすぐに見据えて、タカトは言った。

 

 

「君を必要としているのはここじゃない。だから、行くんだ。君を本当に必要としている場所に」

 

「タカト……」

 

 

それだけ伝えてタカトは背を向ける。

 

ガジェットの軍団はすぐそこまで迫っていた。数は100以上。ここであのガジェットを逃せば、ゆりかご内部に突入するはずのなのはちゃんや、フェイトちゃん、六課の面々に被害が及ぶ。考えている暇なんてなかった。

 

 

「……機動六課の司令官として命じます。タカト・ハイラックス。私たちがゆりかごを止めるまで、この場を守って!!」

 

「……委細承知!!」

 

 

ガシャリ、タカトの持つ二対の短槍がスライドカバーを開いてカートリッジを装填する。瞬間、魔力を迸らせて彼は飛翔した。その背を最後に見て、踵を返して走った。目指すは迫り来る聖王のゆりかご。あの大量破壊をもたらす兵器を何としても止める。

 

ゆりかごを停止させれば、それに追随するガジェットも止まるはずだ。あの数相手にたった一人で防衛線を挑む彼の手助けをするにはそれしか方法がない。

 

だからどうか。

 

 

「どうか、無事でいて……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数時間後にゆりかごは停止した。

 

なのはちゃんの手によって救出されたヴィヴィオ。聖王核を持つ存在が消失したことで、浮遊していたゆりかごは完全に停止した。

 

死闘とも言える戦いを乗り越えた機動六課の面々が休息する中で私は一人、大急ぎでガジェットが押し寄せていた防衛線へと戻った。

 

 

「なんや……これ……」

 

 

舞い戻って見た光景は凄惨に尽きた。辺りには壮絶なエネルギーで破壊され、瓦礫と化した街並み。そして山ほどのガジェットの残骸が広範囲に散らばっている。

 

しばらくそんな光景の中を飛んでいると、私はガジェットの残骸の山の上に立つ人影を見つけた。

 

安堵した。無事でいてくれたと。

 

そして、その人影が近づくにつれて私の安堵は別のものに上書きされていった。

 

 

「あぁ……あぁあ……そんな……嘘や……」

 

 

瓦礫の上に立っていた〝彼〟は、想像を絶する姿をしていた。

 

切り裂かれた傷。

 

曲がってはいけない方向へ曲がってしまった片腕。

 

堅牢だったはずなのに折れてしまった短槍。

 

バリアジャケットを貫かれた傷。

 

おびただしい血があたりに流れていて、倒れずに立っているはずなのに彼からは生きている気配を感じ取ることができなかった。

 

 

「嘘や……嘘や!嘘!!タカト!!」

 

 

ガジェットの残骸に足がもつれる。必死になって駆け寄って抱きしめた体はまるで糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

 

 

「タカト!!しっかり!!返事してや!!タカト!!」

 

 

すぐにタカトのデバイスを確認するが、本体もかなり傷ついていて明滅を繰り返すばかりで返事はなかった。すると、か細い呼吸音と共に血みどろの顔の中で、タカトが小さく口を震わせた。

 

 

「は……はやて……ちゃん……ゆりかご……は……?」

 

「あ……あぁ……うんっ……ゆりかごはちゃあんと、止めたで……」

 

 

ひゅうひゅうと息が鳴り始めてタカトはそっか、と微笑んでから咳き込んだ。すぐに背中に手をやってさするが、彼が咳と共に吐き出した血反吐に思わず小さな声をあげてしまった。

 

 

「そっか……よかった……戦った意味は……あったんだ……」

 

 

その声はどこか安堵に溢れていて、安心したような声だった。握っていた手から力が抜け落ちて、虚に開いていた目がゆっくりと降りた。ひゅうひゅうとなっていた吐息が途切れて……何も聞こえなくなった。

 

 

「タカト……?タカト!?嫌や!!目を開けてや!!タカト!!私を置いて……置いていかんといて!!」

 

 

肩を揺さぶる。声を上げて彼の名を呼ぶけれど、いつもはすぐに帰ってくる返事はない。彼は目を閉じたままで、もう言葉を紡いでくれない。力ない手がべちゃりと音を立てて地面に落ちる。足元には流れ出たタカトの血溜まりがあった。

 

嫌だ。

 

嫌だ。

 

嫌だ。

 

そんな子供じみた思考が頭を埋め尽くしていた。彼には助けてもらってばっかりだった。別れるはずの運命だった家族も守ってくれた。事件の件で後ろ指を刺されていた私のそばにずっと居てくれた。

 

それが当たり前だと思っていた。それがずっと続くと思っていた。優しい声も、温かな体温も、柔らかな目も。その全てが手からこぼれ落ちてゆく。ポロポロと音を立てて彼という形が崩れてゆく。

 

そんなのは嫌だ。嫌だ。嫌だ!!

 

 

「シャマル!!すぐに来て!!タカトが……タカトを……助けて……」

 

 

ぐちゃぐちゃになった思考のまま、後方で医療支援をしているはずのシャマルに連絡を入れることしかできなかった。何分、何時間待ったのか。時間の感覚なんて曖昧であったが、次に目を向けた先には救助用のヘリが頭上にやってきた時だった。

 

すぐに医療施設へと運び込まれたタカトは、そのまま隔離病棟へ運ばれ、緊急手術となった。

 

事件後の書類処理や、被害報告の書類。やらなきゃならない仕事がたくさんあったはずなのに、何も手をつける気が起きなかった。ただ、彼が治療を受ける最中、ずっと待っていることしかできなかったことが辛くて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

「なんとかリハビリは順調に進んでいるよ」

 

 

JS事件から一ヶ月後。

 

ミッドチルダ首都、クラナガンの医療施設のベッドの上にいる俺は、お見舞いに来てくれたはやてに近況を話していた。ゆりかご直掩のガジェットへの防衛戦は本当に死ぬかと思った。

 

まさかゼストによって機能不全に陥っていたはずのドゥーエが復活していて、俺を殺しにくるとは予想もしていなかった。背後からレジアスさんと同じように腹部を刃で貫かれた時はどうなることかと思ったが、咄嗟の判断で刃を叩き折ってドゥーエを蹴り飛ばしたおかげでなんとか致命傷にならずに済んだ。

 

え?腹部の怪我?折れた刃を抜くと失血で死ぬってリインフォースに言われたから刺さったまま傷口を無理やり塞いだ。結果、皮膚と刃が融着して大変なことになったけど。

 

腹部の大ダメージを抱えたまま残りのガジェットを相手にしていたら傷口が結局開くわ、防護貫通のガジェットの攻撃を受けるわで肉体がボドボドになって最後の方なんてほとんど記憶が残っていない。データを見れば戦ってたみたいだけどほんとに記憶ないから

 

えぇ……なにこれ知らん……こわってなったわ。

 

そんなわけで、ガジェットとドゥーエこと、ナンバーズの一人と戦闘をした結果全治二ヶ月の大怪我を負うことになりました。

 

しかし、そこはミッドチルダの脅威の科学力!!失った片目は義眼となってすでに神経同調も完了。粉砕された片腕も治って今は絶賛リハビリ中なのだ。

 

 

「まぁそんなわけで俺は大丈夫だから、はやてちゃんもしっかり寝て、休んでくれよ。な?」

 

 

その頃のはやては見てられなかった。JS事件の後始末のせいか、目の下にはべったりとした隈が浮かんでいたし、心なしかやつれているようにも見えた。俺がこういうと決まって

 

 

「私は大丈夫やから」

 

 

と、はやては言う。本当ならそばについて仕事の手伝いをしたいところだが生憎医者から「違法に退院したりすれば君の体を実験台にさせてもらう」というマッドな言葉を抱いているのだ。

 

とにかく無茶をするわけにもいかないので、はやてにも無理はしてほしくないのだ。

 

 

「ちゃんと寝るんだぞ、はやてちゃん」

 

 

忙しい業務の合間を縫って、こうやってお見舞いに来てくれてるんだ。その分を少しでも休息の時間に充ててもバチは当たらないだろう。にこやかにそういうと、はやては少し苦しげな顔をしてからにっこりと笑って「明日もくるわ」と残し、病室をあとにする。

 

うーむ。これは重症だな。とにもかくにもさっさと体を治してはやての手伝いをしなければ……。

 

 

【主タカトは……本当に、鈍いのですね】

 

 

リインフォースが何か言ってるけど、魔力切れand損傷で一週間前からやっと喋れるようになった相手にとやかく言われる筋合いはありませんけど?

 

それを言っちゃうと元闇の書の管理人格だったリインフォースと戦争が起こるので何も言わないが、とりあえず俺はさっさと体力を回復させて退院することを決意する。

 

とりあえず毎日片手で腕立て伏せと簡単な筋トレを続けていくか。

 

 

「ぎゃー!?ハイラックスさん!あなたはまだ絶対安静なんだからじっとしておいてください」

 

 

訂正、簡単な筋トレすらも俺は禁じられているみたいだからな、と答えるとリインフォースは困った顔を見せるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はやてちゃん、そろそろ休まないと本当に……」

 

 

執務室に戻った私に、リインフォースⅡがそんなことを言ってきた。けどそれくらいで考えを変えるほど、わたしには余裕がなかった。デスクについてすぐに仕事の準備に取り掛かる。やることは山のようにあるけれど、そんなものは正直関係ない。

 

 

「大丈夫やから、リイン。タカトのお見舞いの時間は絶対に確保するから」

 

 

まだ一ヶ月は入院が確定しているタカト。そんな彼から目を離さないため……また無茶なことをさせないために私は一日の数時間はお見舞いに時間をあけているのだから。

 

絶対に、もうタカトをあんな姿になんかせぇへん。絶対に私が守る……もう絶対に……家族を失わんために。

 

 

 

 

 

 

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