男女コラボは炎上する?男の娘なら問題ないよねっ!   作:ベジタブル

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作中の曜日・祝日は2019年の物を使用していますが、たまたまパッと取れる位置に19年のカレンダーがあったから使っているだけで、特に意味はないので、気にしないでください。


7月
1話


 

 

Vtuber。

YourTubeという動画配信サイトに動画を投稿したり、そこでライブ配信をする人たちの事をYourTuberと言うらしいが、つまりはそれのバーチャル版。

Virtual YourTuberでVtuberだ。

昨年の10月だったかに、ある1人の動画配信者が3Dモデルをトラッキングさせて撮影した動画を投稿した事が始まりだそうだ。

本人が言ったかファンが言ったかは知らないが、Vtuberという文化が興り、新しいもの好きのオタク達は「どんなもんだ」と飛びついた。

初めの内は3Dモデル自体や、撮影用の機材を用意するハードルの高さから、見るだけのものであったそのジャンルも、Life2D(略してL2D)という技術によって多くの人が発信する側に立てるようなものとなった。

L2Dというのは簡単に言えば、ある表情から別のある表情へと自然に変化するように設定しておく事で、1枚の立ち絵でありながらアニメのように――生きているかのようにキャラクターを動かす技術の事だ。

勿論、コレを作るのだって簡単な訳ではないが、3Dモデルをフルトラッキングする事に比べれば容易であった。

立ち絵を表示して配信活動をする、そんなの昔ながらの配信者と変わらない、virtualって感じがしない、3D技術の発展を妨げる云々、批判的な意見もあるが、沢山の人が楽しめるようになったという事は、それ自体も、それによって新たなサブカルチャーのジャンルが拓けていくという意味でもボクは良い事だと思う。

とはいえ、いわゆる『始祖』とやらが出てから、まだ半年と少ししか経っていない界隈だ、功罪の結論を付けようなんて、余りにも早すぎるのだろう。

ま、そんな業界だ、Vtuberというのは。

 

「なぁ...星那(セナ)、お前Vtuberに興味ないか?」

 

「んー、たまに動画を見るくらいかなぁ? ライブを見に行ったり、特定の誰かを推したり〜とかはしてないよ?」

 

いきなりそんなVtuberについて尋ねてくるのは、一緒に暮らしている叔父の浩哉さん。

普段は仕事が忙しくて、会社に泊まるか、深夜まで帰ってこないのに、今日は珍しく7時に帰ってきたから、一緒に夕飯を食べている。

勿論ボクが作ったやつだ。

 

「あぁ、いや、見るほうじゃなくてだな」

 

「?」

 

困ったように頬をポリポリとかく浩哉さん。

身内贔屓かもしれないが、渋い男前というか、所謂イケオジって感じの見た目だから、嫌に様になっているように思える。

まぁ、ちょっと草臥れてたり、生えっぱなしの顎髭で実年齢より老けて見えるのがちょっぴり残念だけど。

 

「えー...これはな? 職場でちょっと話題になったことなんだが、勿論、嫌なら断ってくれても構わないんだ」

 

なんだか妙に勿体ぶった前置きだが、一体どうしたと言うのだろうか。

まぁ、「おじさんの職場」と「見る側じゃない」というワードさえあれば、どういった話しかは自ずと見えてくるというものだが。

 

「おほん......星那、Vtuberになってみないか?」

 

「いいよー」

 

「軽っ!? 軽くない? もうちょっと迷ってくれてもいいんだぞ!?」

 

 

拝啓、お母さん。

ボクはVtuberをする事になりました。

 

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

そんな会話から1ヶ月近くが過ぎた。

今に至るまでの時間は、まぁ濃密で、大変なもんなんだなァと思いながらも、出来ることはしてきたつもりだ。

Vtuberとしての設定を詰めたり、浩哉さんと話し合いながら自室に機材を入れたり、体力作りの為に朝からランニングをしたり、ボイスレッスンをしてみたり、雑談の種を探してみたり、事務所の先輩方の配信やアーカイブを見てみたり......

そんな風に準備をしていたところで、ボクの分身となる立ち絵が完成したという報告があった。そこから事務所が新ライバーがデビューするぞと告知を徹底して、ようやく今日、7月13日にボクは視聴者の皆さんの前に立つことができる。

 

できる、のだが......

 

 

〇〇:しね

〇〇:はやく引退しろよ

〇〇:男とかいらないんだが

〇〇:アカリンが汚れる

〇〇:どーせオフパコ狙い

〇〇:消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ

 

 

絶賛炎上中であった。

 

どうしてこうなったか、というと話は簡単。

ファンが望んでいるのは「女の子」だからだ。

更に言えば、「女の子と女の子の絡み」も含む。

逆に言えば、「僕らの大好きなあの娘達に男の影なんて絶対要らない!」という事である。

 

今現在、人気のあるVtuberというのはその殆どが女性キャラクターだ。

「理想の女の子(アニメキャラ)とお話ができる」、そんな魅力を感じているファンたちにとって、女性Vはある種アイドルのようなものであり、処女性が強く求められる存在と言える。

勿論、多種多様なVtuberの中で、男の影がチラつくことを良しとしたり、そもそも男性Vtuberだったり、その男性Vとコラボしたりといった例外は多く存在する。しかし、それらは皆、殆どが個人で活動しているVtuberだった。

企業所属の商品(タレント)で、そのような活動をしている者は、未だに存在していない。

 

詰まるところ、ボクは『企業勢初の男性Vtuber』なのだ。

 

ボクの事務所の告知では「当事務所から新たなライバーが登場! 今回はなんと男性Vtuberだ!」みたいな事しか流しておらず、見た目はシルエットのみ、その他の情報は一切ゼロである。

そりゃあ、燃える。

アンチにも色々とあるのだろうが、今回の炎上は、殆どが既存ライバー達――僕にとっては先輩達――への愛が引き起こした事なのだろうと思う。(勿論純粋に騒ぎたいだけの人もいるのだろうが)

正体不明の男が、自分たちの愛する女の子の近くに現れたなんて、なるほど心配にもなるだろう。

そんなお節介な人達が、集まりに集まって7()()()

所属ライバー4人全員がチャンネル登録者数10万人を超える事務所の新人ライバーとはいえ、破格の視聴者数だ。

 

――上手くやるもんだなぁ...

 

今夜、恐らくVtuber業界で最も注目されているのはボクだ。

そしてこの配信が、ボクの所属事務所の命運を決める......とまではいかなくても、ある程度は左右する事になるだろう。

それほど大事なこの勝負。

 

()()()()()()()()()()()()

 

待機BGMを配信用のソレに変更する。

それだけの事で、元々速かったコメント欄の動きが、更に激しくなる。

数多の罵声がボクの目に入るが、大して()()()()()()()()()

今までのシルエットをかき消し、ボクの()()が用意してくれた、素敵な立ち絵を表示させる。

 

紺色のブレザーの下に白いパーカーを着て、更にその下からカッターシャツが覗いている。

首元には空色のネクタイが締められ、爽やかな装いだ。

透き通るような空色の髪は、男の髪型と聞かれて想像するより些か長く、肩にかかりそうな程だが、それを後ろでちょこんと括って纏めている。勿論、正面立ち絵の都合上、完全に後ろに垂れるのではなく、左から覗いている形だが。

おっとりとしたタレ目に、薄く笑みを浮かべる小さな唇は、幼く女性的で、「男性Vtuberのデビューだ」と言われて集まったはずの視聴者達の頭を酷く混乱させた。

 

 

〇〇:ファッ!?

〇〇:めっちゃ好み

〇〇:可愛いんだが

〇〇:ブス

〇〇:男の娘やんけ!!

〇〇:男性Vなんておらんかったんや

〇〇:いや、騙されるな、きっと声はおっさんだ!

〇〇:思ってたのと違う

 

 

よしよし、いい感じだ。

ミュートを外す前に、んんっと1つ咳払いをしておく。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を、更に気持ち高めにチューニングした。

今のボクは最ッ高にかわいい男の娘だ!

 

「皆さん、初めまして! Virtual SKY所属、新人男性Vtuberの五河(いつか)ソラです! よろしくお願いしますっ♪」

 

 

〇〇:かわいい

〇〇:かわいい

〇〇:正直アリ

 

 

「じゃあまずは自己紹介からしていきたいと思います。ボクは先輩方の通っている空創学園とはまた別の高校に通う、17歳の高校2年生です」

 

 

〇〇:ふーん、ぼっちじゃん

〇〇:テニスの皇太子様みたいに言うな

 

 

「あはは、まぁ、あそこは女子高ですからね、ボクは通えませんよ。男のコなので」

 

 

〇〇:男の娘だもんな

〇〇:きっしょしね

〇〇:バレなさそう

 

 

「Vtuberになったきっかけは...えっと、ボク、叔父さんと2人で暮らしてるんですけど、その叔父さんもお仕事が忙しくって、よく1人でいるんですね? だから、お家に1人でいる時も寂しくないようにって感じです」

 

まぁ、ただの1人っきりなら別に嫌じゃないんだけどさ......

ボロが出ないように、殆ど自分自身とリンクさせた設定にしてしまったが、闇深要素とか嫌がられないだろうか?

務めて明るく喋ってるから、暗くはならないと思うんだけど。

 

 

〇〇:あっ

〇〇:闇深そう

〇〇:同情誘ってもオスはオスだぞ

〇〇:海外出張とか? 主人公かな??

 

 

「あっ、生きてます生きてます、亡くなったりはしてませんよ! 両親と離れてる理由については、また機会があればお話したいな、と思います」

 

そんな感じで公式設定の解説を終えて、今度はツブヤイターなどのSNSで使用する配信やファンアートのタグを決めたり、リスナーさん達の呼び名を決めたりと、与えられた1時間の枠の中で、今後の活動に必要な諸々を決めていった。

途中、チラリとコメント欄を見てみると、批判的な意見...というか、最早ただの罵詈雑言といったコメントも度々見られるものの、好意的な意見に押し流されていって、そこまで目立っていないようだ。

こういうのを「カワイイは正義」って言うんだろうか?

 

「じゃあ......皆さんの事はオソラーとお呼びしますね。それから、配信タグは#オソライブ、ファンアートタグは#大空のキャンバスですねっ。是非、このタグでバンバン呟いてほしいですっ!」

 

うん、予めいくつか候補を出していたとはいえ、時間内にスムーズに決まって良かった。

ただ、個人的にはファンアートタグは#空耳とか#空目とか、ちょっと妄想過多になって面白そうだなぁと思ってたので残念だ。

分かりにくいというか、ホントの空耳や空目と混ざっちゃいそうという意見や、Virtual SKYの親会社がClear Canvasという名前である事などが上手く働いたのだろう。

配信中に言ってみたら視聴者さん...もとい、オソラーさん達の反応も良かったし、ソラを使った妄想ツイートなんかに付けるタグなんかで使おうかなぁ...?

 

「そろそろ、いい時間になってきましたね〜」

 

 

〇〇:いかないで

〇〇:早く引退しろ

〇〇:時間経つの早い

 

 

「この後すぐにツブヤイターアカウントの方を更新したり、マシマロを開設したりするので、そっちのチェックもよろしくね。あ、あと、最後に告知だけ」

 

SNSアカウントのアイコンやヘッダーなども黒塗りで、プロフィールも最低限の情報しか書いていないので、この配信が終わったらすぐに用意してもらった画像に差し替えなきゃ。

Virtual SKYはライバーに割と自由にやらせる事務所なので、SNSの管理もライバー自身が行える。流石に案件に関するツイートをする場合にはチェックが入るだろうが、それはまだ先の話だ。とにかく、この信頼を裏切る訳にはいかないから、出来るだけ慎重に、かつ効果的に呟いていきたい。

ちなみに、数少ないツイート(デビュー告知やアカウント開設のお知らせなど)には、とんでもない量の罵倒が届いているが、DMは開放していない為に、思ったよりもダメージは少ない感じになっている。

 

さて、この初回配信最後に伝えるべき告知が何かというと......

 

「なんとですね! 明日、明後日と連休な訳ですが、2日続けて、1期生の先輩方とコラボ配信をする予定になっております!」

 

 

〇〇:マ!?

〇〇:キターーー!!

〇〇:やめろやめろやめろやめろ近づくな

〇〇:今から楽しみ

 

 

「明日は二科(にしな) 悠希(ゆうき)先輩と三日月(みかづき) (みどり)先輩との3人で、明後日は一之瀬(いちのせ) 明里(あかり)先輩、四ノ宮(しのみや) (あおい)先輩の3人でお送りしますっ♪」

 

 

〇〇:おおーっ!

一之瀬 明里:よろしくね〜

〇〇:明里ちゃんおるやんけ!

〇〇:アカリンもよう見とる

 

 

コメント欄の反応はかなり好感触。

配信開始前には想像もできない手のひら返し感だ...

って、一之瀬先輩いるじゃん。

「見てくださってありがとうございます!」とお礼を言っておこう。

......さて、長かったようで短かった初配信もこれでお終いだ。

 

「それではオソラーの皆さん、今後とも五河ソラをよろしくお願いします。おつソラでした〜!」

 

 

〇〇:おつそら〜

〇〇:おつソラー!

〇〇:お疲れ様でした

 

 

 

 

 

 

[五河ソラChannel]

7/13(土)

【初配信】みなさん、はじめまして【Virtual SKY】

チャンネル登録者数:1.23万人




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