ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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15.愛の魔法

泥のように眠っている、というのはまさに今のエルファバのことだとハリーは思った。

 

エルファバは“力”を出す訓練を行うために出かけた数時間後、セドリックに横抱きにされて戻って来た。着て行った白のワンピースは泥だらけのボロボロになっておりハリーはギョッとした。

 

「あまりにも無理しすぎたんだよ。体に異常はない。」

 

心配そうなハリーにリーマスはそう言った。そのまま家の一番大きなソファに降ろされ、リーマスが杖を一振りすると毛布をかけてもらった。

一連の流れでいろんな音や動作があったにも関わらずエルファバが起きる気配は全くない。

だらりとした腕が毛布から見え、まるで気絶しているようだった。

 

レギュラスからの警告から騎士団の基地はすぐに移動された。ハリー、エルファバ、エディは隠れ穴に移動した。ボロボロな隠れ穴は満杯状態で人がたくさん行き来するだけで崩れそうだが致し方ない。今日また別の場所へハリーとエルファバは動かされる予定だ。

 

「どうするの?」

「もう移動するよ。姿くらましだと大変だけど、今回はポートキーでの移動だから、危険性はない…ただ、もう少しだけエルファバは寝かせよう。君を先に連れて行き、1時間後にはエルファバも追いかけて行くよ。」

 

ハリーのトランクをチラッと見ながらリーマスは答える。

 

「エルファバの“力”は…。」

「去年のホグワーツ全体を凍らせた時よりはだいぶ違うね。せいぜいここ全体を凍らせるまでが限界でね。エルファバも必死に頑張ってたけれど。」

「もし、ロンドンで炎の軍隊が現れたら…。」

「最終手段でマグルの消火部隊達には魔法大臣を通じて準備するように要請はしている。対策は取っている…我々魔法使いはマグル達を魔法で援護する形になるかな。魔法で対抗できない以上、被害を広めないためにもそうするしかない。」

 

エディはハリーとリーマスが話しているのを、廊下の暗がりに隠れてジッと聞き込んでいた。腕を組み、神妙な面持ちで俯いていた。

 

(エルフィーは魔法使えないんだ。という事は、今氷を作ることができる能力を持っているのは…)

 

「気になるか?」

 

暗がりから聞こえてきた低い男性の声に、エディは飛び上がった。

黒いローブを身に纏ったレギュラスはエディを無表情に見下ろしていた。身長が170と高身長なエディを見下ろすレギュラスは180以上と10センチほど身長差があり、エディも少し緩みながらも強気な声で答える。

 

「暗がりで何しようとしてるのおじさん。」

「話を聞いただろう。今騎士団は劣勢だ。マグルの力を借りるとはいえ、敵側もそんな事は承知済み。いくらだって妨害をすることはできる。このままだとロンドン中が火の海になるし、これを救助しようとしたる勇敢なる魔法使い魔女たちも同じような目に合う。」

「…あたしには何もできないよ。」

 

とぼけるエディに対し、レギュラスははあ、とため息をついた。

 

「この後に及んで、シラを切るのか。まあいいだろう。よければ、裏庭で話そう…どうも君の周りは面白いおもちゃを持っているようだな。あまり聞かれたくない話だ。」

 

エリーは少し考えて、裏庭の扉を開けたレギュラスについていくことにした。確かにフレットやその他伸び耳を持っている誰かがエリーとレギュラスの話を盗み聞きしていてもおかしくない。

 

隠れ穴から出ると、隠れ穴の中がずいぶんと騒がしいことに気づいた。

ミセス・ウィーズリーが慌ただしく、ぶつぶつ文句を言いながらエルファバの下に駆け寄る足音。

ミスター・ウィーズリーとシリウス、キングスリーの何やら白熱した議論が聞こえてくる2階窓。誰がハリーとエルファバを連れて、隠れ家に移動するか話している。

そんな住人たちに鬱陶しそうにどんどんどんと天井を叩く屋根裏幽霊。

 

対してエディが出てきた庭は風で葉が擦れる音以外何も聞こえなかった。まるでこの世界にはエディとレギュラスしかいないようだ。

 

「君が氷の魔女である事は分かっている。ある程度あの“力”の知識を持っていれば、君が、幼い頃に、エルファバの“力”に当てられたことを聞けば、推測は難しくない…話によるとその際に髪の毛が真っ白く変色したようだな。“力”を引き継ぐ典型例だ。」

「じゃぁ私がおじさんを凍らしたのも知ってるんだ。あんた確か魔法省にいて、エルフィーに罪を擦り付けて捕まえようとしてたよね。私だって知ってたんだ。」

 

エディは先手を打ち、少し早口で答えた。

自分の秘密について問われることは、なんとなく予想ができていた。

 

利き手に杖を握り、その上でいつでもレギュラスを凍らす準備をしているエディに対しレギュラスは半笑いだった。

 

「認めるよ。あの時は君のお姉さんと話す協力関係を結ぶということが第一優先だったんだ。ダンブルドアに阻まれた私たちは、強行手段を取るしかなかった。確かにそのためにお姉さんに罪を着せただけれども、君だってあのせいで自分が捕まるわけにはいかなかっただろう。」

 

エディは唇を噛む。

 

(確かに…あの時犯人があたしだってバレるなど全く思っていなかった。そもそも炎の“力”がベルンシュタインからルーカスに受け継がれているなど、全く発想もなかったし…。)

 

エディが叔父を凍らせる話は、迷宮入りするはずだった。

 

「それに正直言うと、君のおじさんのした事は当然の報いだ。」

 

先ほどより優しい声色になったレギュラスにエディはふと鼻を鳴らし、その手には乗らないと腕を組む。

 

「君は悩んでいるだろう?ここで自分が氷の魔女だと告白すれば、ロンドンを炎の海に包むことを阻止できる。しかも君はシーカーときた。君のお姉さんよりも俊敏に動けて、氷の力を持っていると言うのは騎士団に貢献できる。けれどここで今、氷の魔女だと白状すれば叔父さんを明確な殺意を持って凍らせた犯人が君だとばれてしまう…違うか?」

「あたし、別に人助けとか興味ないんだよね。正直、私が好きな人以外は死ぬが生きようが、どうでもいい。」

「君のお姉さんは君のことを友達思いの良い子だと言っていたけれど。いろんなエピソードを聞くよ。」

「あんたエルフィーとそんなに仲良かったっけ?」

「何回か逢引きしたんだ。あの子の彼氏には内緒にしてくれ…随分親密になってしまったから。」

 

レギュラスは少しおどけて言うが、エディーはそんなにレギュラス一瞥する。

 

(エルフィーは多分、自分の母親のことを出されたら、こいつを信用しちゃうだろうな。ただ最近の様子を見ると、あまり仲いいと思えないけど…確か、エルフィーの“力”と破れぬ誓いを結んでいた、とか。)

 

ここ数日のエルファバはあからさまにレギュラスと距離を置いている。その態度は聡いセドリックやリーマスだけではなく、多忙なミスター・ウィーズリーやハリーですら気づくほどだ。

 

「確かに昔のあたしは、そうだったかもしれない。ホグワーツのみんなが大好きだった。マグルとか純血とか血のことを何も考えずに生きていたけれど、去年それではこの世界では生きていけないとわかったの。あたしの親友は…元親友は、純血の勢力が構内で強くなったら、その瞬間から私をいじめ始めた。」

「あたしに卵を投げつけたり、他の友達に嫌なことを言ったり。挙句の果てには、あいつらは、あたしの大事な大好きな、お姉ちゃん、学校から追い出したんだ。エルフィーの話なんてたくさんあたしから聞いているはずだったのにあの気持ち悪いピンクのガマガエルの味方をした。友情は権力には勝てないってわけ。」

 

エディは捲し立てると、一呼吸置く。

 

「…去年は君にとって苦しい1年だったんだね。仲の良い友人から裏切られ、嫌な先生にあたり、」

「挙句に、自分のお姉ちゃんは学校から追い出されたしね。あれそもそもそれって誰のせいだったっけ?」

 

エディは嫌みたらしくそう付け加えた。レギュラスはそれに動じず、納得したようになるほど、と言った。

 

「だから君はドラコ・マルフォイに従うフリをしたというのか…いや、服従の呪文をかけられたのは本当か?ただ途中で服従の呪文は解けたはずだ…あまり強いものではない。あえてドラコ・マルフォイに計画に参加するフリをして君を裏切った者たちを一網打尽にして、毒薬で全員殺したというわけか。」

 

草原の中で、喧騒が鳴り響く。

 

シリウスたちは会議が終わったようで、さっきの獅子のような声とは打って変わり、談笑しているようだった。

ミスター・ウィーズリーが赤毛双子の悪戯を叱る声、ミセス・ウィーズリーがキングスリーを食事に誘っている。

 

「殺そうったって無駄だ。私は常に騎士団の管理下にある。私が消えたら誰かがすぐにわかるし、私と君が話しているという事実をこっそり他の人にも言ってある。だから君の手に持っている氷のナイフは捨てたほうがいい。」

 

エディはそう言われて左手が冷たいことに気づいた。

 

左手には氷の小刀が握られている。

 

完全に無意識だった。

 

エディはそれを草原のところに捨てた。

 

「それにしても君の計画と言うのは、ずいぶんとずさんだな。よく誰にもばれてないと言うものだ。いや、これからばれるかもしれない。でも、私と協力したら、ある程度の罪を回避できる。むしろちゃんと同情買ってもらえるよ。」

「何を協力すればいいの?」

「大したことではない。君がよくおしゃべりしている髪飾りを私に渡すんだ。」

 

強い風がエディの髪の毛をふわっと浮かばせる。風は鋭く冷たい。その風が通り過ぎた後、エリーの首筋には鳥肌がたった。

 

「まさかそこまでバレていると思わなかったのか?それについては、確実に誰も気づいていない。私が長年追いかけていた呪われた品の1つだから気づいた。」

「…私が持ってるものは別に呪われてなんかない。たまたま見つけた私に知恵を授けてくれるものだよ。」

「知恵を授けるといわれるロウェナ・レイブンクローの髪飾り…それはある闇の魔法使いによって、恐ろしい呪いにかかってしまった。それは知恵なんか助けない。ただ君のことを洗脳し、魔力や魂を吸い取ろうとしている。ホグワーツ生に毒を盛ろうと提案したのはその髪飾りか?そんな恐ろしいこと吹き込むものは闇の魔術しかありえない。」

「逆にあんたはこの髪飾りを、手に入れてどうしようってわけ?」

「私は破壊するつもりだ。何にも使わない。この闇の魔術にかかった品を破壊することが私の全ての目的であり、私の行動の意味だ。だからこうしよう。」

 

レギュラスはゆっくりと、エディが反射で攻撃しないようにローブから杖を取り出しもう片方の手はエディに差し伸べた。

 

「君の一連の行動は全てこの髪飾りによって引き起こされたことにしよう。君は1年前に髪飾りを見つけた、髪飾りからたくさんの知識を得た上に、ドラコ・マルフォイに服従の呪文をかけられていた。髪飾りと服従の呪文によって君は判断能力を失ったと言うんだ。私もそれに関してフォローしよう。実際そうだし、決して嘘ではない。」

「…1年前?おじさんを凍らせた私の意思だけど。」

「いいんだ。君がホグワーツに入学する1年前、ここの家の末っ子がこの髪飾りの持ち主と同じ人物に操られて大きな事件を起こしたが、ダンブルドアの計らいで無罪になったと聞いている。決して難しいことではない。」

 

エディはジッと、金縛りにあったように動かない。

 

「君はこれまでの罪をまだやり直せる…引き返せる。私は目標を破壊できる。さらに君は名誉挽回のために、氷の魔法を使ってみんなに協力すると宣言するんだ。どうだい?きっと君のことをみんな見直し、誰も君の信頼を落とさない。」

 

レギュラスは一歩、また一歩と歩み寄りエディの肩に触れる。レギュラスを見るエディの瞳は明らかに揺れていた。

 

「君はまだ若い。私は君と同じ年齢の時に例のあの人の片棒を担いだ。私はまだ若かったとはいえ、人殺しに加担した。この罪は一生消えないだろうけれど、今少しでもその罪を入れるように頑張ってるんだ。」

「…あんたとあたしじゃ、事情が違う。」

「そうかもね。でもすべてを正直に…完全に正直ではないかもしれないけれど、罪を告白したほうが良いと思わないかい?君は強がっているけれど、もう罪の重さに耐えられなくなっているはずだ。」

 

エディは細い息を細かく吐いている。それをジッとレギュラスは見守る。

 

「みんな、あたしがしたこと許してくれるかな。あたしたくさん人を殺したよ。誰も死ななかったジニーの時と訳が違う。」

「君に罪の意識がある限り、それを少しでも償いたいと思っているのであれば…許してくれないかもしれないけど、歩み寄ってくれるはずだ。君のお姉さんだって、どんな君にも歩み寄ってくれるはず。」

「あたしは、」

 

エルフィーとの記憶がエディの頭の中を一気に駆け巡る。

 

幼い頃の天真爛漫なエルフィー。周りより身体が大きく、みんなの頼れるリーダーだったエルフィー。白い髪を靡かせ、人と違う才能で公園や森、古びた廃墟への冒険に挑んでいたカッコいいヒーロー。

 

誰にでも分け隔てなく優しく、慕われていた最高のお姉ちゃん。

 

そんなエルフィーが部屋に篭り、自分と話さなくなった。無口になり、いつも虚ろでボサボサな髪の隙間からエディを覗く。

 

その瞳は怯えていた。

 

ホグワーツに行きだしてから、少しずつ元気になったエルフィー。

 

対して自分はどうか。

叔父を凍らせ、ガマガエルを永久にホグワーツへ閉じ込め、挙句に大量殺人。

 

「あ、あたし…。」

「エディ!」

 

エディは、はっとした。

 

リーマスは、焦ったように走ってきてレギュラスとエディの間に無理やり割って入り、無理くり作った笑顔でエディに早口でこう言った。

 

「モリーが皿洗いを君にしてほしい。そうだ。手伝いに行ってくれ。」

「う、うん。」

「エディ、」

 

レギュラスの呼びかけを無視し、エディは早足で隠れ穴へと歩く。追いかけようとするレギュラスの腕をリーマスはグッと強く掴んだ。

 

「エディに一体何を話していた?」

「なかなかいいタイミングで来てくれるじゃないか。」

 

レギュラスは嫌味たっぷりにそう言った。

 

「エディに何を吹き込んだ。」

 

リーマスの声は、今まで子供たちに聞かせたことがないような低く、

今にも殴りかかりそうな怒りを孕む声だった。

 

「いずれわかる。でも、これはみんなのために良いことだ。」

 

レギュラスはリーマスには興味がないと言わんばかりにふっと顔を逸らす。

 

「君は、割と中立な立場だと思っていたけれどさすがシリウスの親友だ。すっごい嫌なタイミングで邪魔してくる。」

「ずいぶんと子供たちを…エルファバとエディを混乱させている。我々に隠れて密会を重ねていたようだし。」

「別にエルファバは変な行動をとっていないだろう。」

「でも迷っている。あの子はただでさえいろんな思いも背負っているのに、もうこれ以上嫌な思いをさせたくない。」

 

リーマスとレギュラスはしばらく睨み合っている。

しばらくすると、レギュラスは、はあっとため息をついた。

 

「痛いよ。離してくれないか。」

「何を話した。エディに。」

「君はもう少し穏やかな人だと思ってたけど。」

 

ギリギリとリーマスはレギュラスの腕を強く締めていた。

痺れを切らしたレギュラスは、ついに杖をリーマスに向ける。

 

「……君らはどこまで知っている。エディ・スミスについて。ダンブルドアはどこまで話した。」

「………」

「私には話を強引に聞こうとして、自分はダンマリか。」

 

ガサガサっと、誰かが草むらを歩く音が聞こえた。

 

リーマスは反射的にレギュラスから離れ、臨戦態勢を取る。

レギュラスも同様に暗がりで杖を向ける。

 

「…誰だ。」

 

暗がりで、誰かがニンマリと誰かが笑うのが見えたー。

 

ーーーーー

 

深い深い眠りの中。

 

深海の中でゆらゆらと浮かぶような感覚のエルファバの身体は居心地が良かったが、突然そのエルファバの腕を何者かが掴みものすごい勢いで浅瀬へと引き摺り込まれたような感覚になった。

 

「ん…、」

 

急に入ってくるオレンジ色の光、エルファバの身体は鉛のように重い。

 

「ここ…、」

 

真っ白い無機質な部屋。来たことのない部屋だった。

エルファバのベッドとの前に小さい机が置かれているのみ。

 

エルファバが状況把握する前にヌっと半月型のメガネをかけ、白いヒゲを蓄えた深紅のローブの男性が視界に飛び込んできた。

 

「起きるのじゃ。エルファバとてもとても重要な話じゃ。」

 

エルパはぼーっとしながら何がなんだかわからないまま、

ダンブルドア校長がグッとエルファバの腕を掴み無理やりエルファバを座らせた。

 

まだ覚醒してない。エルファバは目の前にいるのが誰で、

何を言ってるのかは判別できなかった。

ゴシゴシ目を擦るエルファバに容赦なく話しかける老人。

 

「よく聞いてほしい。君がハリーを君自身を救うという話じゃ。」

「は…リー…?」

 

少しずつ、エルファバは目の前にいるのが校長であるアルバス・ダンブルドアで、なんだかとても切羽詰まった様子であり、少し慌てたように、しかしなんだか興奮したように真紅のローブからボロボロの羊皮紙を取り出した。

 

「今から話すことを誰にも話さないと約束してくれ。家族はおろか、友達にも…協力を求めるものにもじゃ。」

「…えーと、」

「頼む。」

「…はい。」

 

半ば強引に約束を結ばされたエルファバにダンブルドアは気にせず、話を続けた。

ボロボロの羊皮紙はところどころが焼け焦げ、真ん中には穴が空いている。

 

「これは君の育ての母君がくれたものじゃ。細かい魔方陣、ルーン文字、ゴドリック語、そしてこのようにボロボロで見にくい文字も…私はこの解読に数ヶ月ほど時間かかった。解読してもなお一体何を話しているのか、何の呪文なのか全く見当がつかなかった。しかし君が“力”をなくし、ミネルバとフィリウスが君のことを調べたときに、ここに書かれた言葉を全て解読し、この呪文のヒントが見つかったのじゃ。」

 

ダンブルドアは眼鏡を上げ、ボロボロの用紙を慎重にとは言いがたい勢いで開く。エルファバその容皮脂が破れてしまうのではないかとハラハラした。

 

「君の呪いは、かつて君たち祖先が小鬼を裏切った罰として与えられたものじゃ。君の祖先もベルンシュタイン家も感情によって周囲を燃やし…あるいは凍らせて、マグルからも魔法使いからも疎まれる存在になった。この呪いは本来であれば、剣や立て、小鬼製の金属にかける年数を重ねるにつれて、衰弱化している…しかし、君と言うイレギュラーな存在が生まれたことで、この呪いと言うのは、本来の力を取り戻したのじゃ。だからわしは答えに辿り着けた。」

 

校長はここまで捲し立てると、少し呼吸を整えた。そして次に話し始めた時は先ほどよりも落ち着いた口調で、エルファバに言い聞かせるようだった。

 

「感情により発動する呪い、すなわち心の揺れ…エルファバや、心が揺れる時と言うのはどういう時じゃ?」

「…悲しい時、不安な時、怒っている時。」

「そうじゃ。逆に心が落ち着く時はいつじゃ?」

 

この回答には少し時間がかかったが、エルファバは答える。

 

「本を読んでいる時とか、あとは大好きな人と一緒にいる時、とか。」

「その通りじゃ。恐ろしい過去が君を蝕んだが、友人や教授陣、騎士団の団員たちと関わることで君の“力”はどんどん安定していった。つまり君の呪いを解除すると言う事は、心の中に潜む不安、憤怒、疑惑、心痛を制する時なのじゃ。」

 

話の核心が迫る中、エルファバは心の中で、これから仏教徒にでもなったほうが良いとでも言うのではないかと思った。

 

しかし、そんなことをこんな大真面目な状況で言う人ではないと言うこともわかっている。

 

「心の揺れを制するもの…?それってなんでしょうか。」

 

そこまでで、真剣な雰囲気だった表情を変えた。

校長はニッコリ、まるで孫娘に語りかけるようにヒゲの中で顔を綻ばせた。

 

「愛じゃよ。エルファバ、愛じゃ。」

「愛…?」

「君は今言ったじゃろう。心が安定する時は“大好きな人と一緒にいる時”じゃと。愛は、わしが生涯をかけて、誰にも負けぬ最大の魔法だと説いたが、まさかここで出てくるとは…人生とはとても興味深く、非常にロマンがあるとは思わんかね?」

 

まるで新しいお菓子でも見つけたようなダンブルドア校長に対し、エルファバは随分と拍子抜けした。

 

「つまり…愛が私と…ハリーを救うと…?」

「そうじゃ。友人への愛、家族への愛、その他名前のない無数の愛。わしが長年に渡って、言い続けてきた説を今ここで証明する時が来たのじゃよ。」

 

再度確認した上で、エルファバは困惑した。

ここまで複雑なことが書かれた羊皮紙を持ってきたのだから、てっきり何か特別な呪文とか具体的な魔法の対抗策を提示してくるものだと思っていた。

 

(愛、だなんてとても抽象的なことを出してくるなんて…。)

 

エルファバが考えていることが分かったのだろう。

校長は髭の中で微笑んだ後、スッと立ち上がる。

 

「君がわしの言葉を理解した時、君もハリー、そしてこの先、恐ろしい運命に怯えている哀れな人々も、大勢救うことができるのじゃ。」

「私の呪いが愛で解ける、というのはなんとなく分かりました。ですがハリーや他の人たちの運命を救うというのはどういうことでしょうか?」

「今晩、わしが実践しよう。」

「…実践…ですか?」

「左様。成功するかは分からぬがの。これはわしとしても大きな賭けじゃ。今晩、わしの命が助かればこの賭けは成功といえよう。」

 

サラリと、まるで数シックル賭けるくらいの感覚で言われた言葉にエルファバは脳が制止した。

 

「…命?校長先生の?」

「そうじゃ。よくお聞き。炎の軍隊の襲撃に備え、わしは今からロンドンに向かう。じゃが流石に魔法が効かない炎の海に飛び込み、無事とはいかぬじゃろう…そこでじゃ。わしはこの身に君の身体を蝕む呪いを解呪する古代魔法を自らにかけた。これをご覧。」

 

校長は左手をスッとエルファバに見せる。

 

以前は黒く焼け焦げたように萎びていた手が、元の肌色に戻っている。

 

驚くエルファバに校長は茶目っけたっぷりに指をワキワキと動かした。

 

「ハリーから聞いておるな?分霊箱(ホークラックス)になっていた指輪には恐ろしい呪いが施されておったが、スネイプ教授により呪いをこの手に閉じ込めることでわしは一命を取り留めた…しかし、それはヴォルデモートが施し現代の魔法では解呪する方法はなくわしは死に行く運命じゃった…しかしこれはどうじゃ!わしの手は以前と変わらず、ますます健康的に、何事も無かったかのように動いておる!」

「それが、愛の魔法なのですか?」

「左様。1つこれが証明になったかの?」

 

エルファバはコクコク頷く。

 

(まさか…抽象的な話ではなく、本当に愛が魔法化できるということなの?)

 

「納得してくれたようで良かった。愛の魔法により、わしは恐ろしい運命から逃れることができた。」

「愛の魔法は、呪いを解く作用があるということですか。」

「そうじゃ…わしの推測が正しければ、現存する全ての呪いに。これは魔法界全てを揺るがすことになるじゃろう。」

 

エルファバの心臓がゾワっと音を立てて、全身が温かくなるのを感じた。徐々にそれは高揚に変わっていく。

 

(つ、つまり…私の“呪い”の解呪…誰も犠牲にしない方法が…!)

 

「次はわしが炎の軍隊と戦い、無事に生き残れるかじゃ。つまり元々身体にかかった呪いのみならず、迫り来る呪いにも耐えられるか…生き残れたら君に全てを教えよう。ここに記されたこと、そしてわしの推量とその答え合わせの全てじゃ。」

「先生のおっしゃる愛の魔法は比喩ではなく、本当に魔法で呪文や儀式があるものなのですね。」

「そうともいえるし、そうともないといえる。わしが帰って来たら話そう。」

 

ダンブルドア校長はエルファバの手を取り、愛の魔法について書かれた羊皮紙をそっと握らせた。

 

「今…教えてくださらないのですね。」

 

校長が今話す気がないと知り、エルファバは沸き立った血がシュンと静まるのが分かった。

 

思わず不満気に言ってしまったエルファバにダンブルドア校長は優しく微笑む。

 

「わしもこれでも不安なのじゃよ。さすがにもう115歳…若者にわしの知識を授けるという帰る理由を作らんと。」

 

目の前にいるのは世界最高の魔法使い。幾多の闇の魔法使いと戦い抜き、その名を知らしめた者だ。力強く敵に向かって立ち上がるその姿は115歳などと全く思えない。

 

しかしそういう校長はどこか弱々しく、急に年相応になったようにエルファバは思えた。

 

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