世界から天才音楽家と呼ばれた俺だけど、目が覚めたら金髪美少女になっていたので今度はトップアイドルとか人気声優目指して頑張りたいと思います。(ハーメルン版)   作:水羽希

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序章
後戻りできない過去


「貴女はこのまま女の子のままでいたいの? それとも男に戻りたい?」

 

 目の前の少女は俺に向かってそんな言葉を発してくる。軽くて高い柔らかな声音のはずなのに重く響くように重圧なプレッシャーが襲い掛かってくる。

 

 まるで、この控室全体が抑圧されたかのような感覚。自分よりも小さなはずの彼女が大きく見えた。

 

「も、戻りたいのに決まってるさ。だって――」

「ふ~ん、じゃあ、今すぐ元に戻してあげようか?」

 

「…………」

 

 圧力に負けないように一生懸命声を出してみるが彼女がそう言うと簡単に黙り込んでしまう。

 

 残念だが口ではそう言っても自分の本心はそうではない。正直、もうどうしたら良いのか分からない。どっちを選ぶかなんて……

 

 居たたまれなくなり彼女から逃げるように視線を逸らす。長い金髪の髪が揺れて視界を掠める。

 

 一連の動作から彼女も重々承知のようで……

 

「ふふん、分かってるよ。貴女はもう気軽に決断できるような立場じゃない。どっちも大事だからね~、まっ、でも、時間切れ前までには決めておいてね? じゃないと取り返しがつかないことになるから」

 

 気軽そうにそう言うと彼女は軽い足取りで歩み始め、横を通り過ぎて部屋の出入り口に向かう。

 

 すると、「バイバイ♪」という楽観的な口調でそう言い残すと風のようにこの場から去っていった。

 

 どうしてこんなに大変な自分に対してこんな態度でいられるのか。一番分かっているヤツなはずなのにとてつもなく腹が立つ。

 

 なぜ、自分だけがこんなに理不尽な目に合わないといけないのだろうか。女になって今日まで慣れないなかでこんなに頑張ってきたのに。

 

 ――……もう! こんなことなら最初からやめておけば良かった。あの時に変な努力をしないで素直に諦めてしまえば良かった……!

 

 なんとも口に出しづらい後悔の念がグツグツと湧いてくる。

 

 身に纏っている華やかな可愛らしいアイドルの衣装とは正反対のどうしようにもない真っ暗で後ろ向きな感情。

 

 そりゃ、自分だって男に戻れるのなら戻りたい。でも、一概に友達――仲間を裏切るような行為はしたくはない。だけど、恋人を裏切ることだってしたくもない。

 

 もはや完全な手詰まり。このまま回答期限までずっと黙っておこうかな……? でも、アイツは答えがないととんでもないことになると言っていた。

 

「――くそっ! もっと早くからこのことに気づいておけば……っ!!」

 

 小さな手で握りこぶしを作りギュッと力を入れる。

 

 ――期限まであと十日しかない……


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