世界から天才音楽家と呼ばれた俺だけど、目が覚めたら金髪美少女になっていたので今度はトップアイドルとか人気声優目指して頑張りたいと思います。(ハーメルン版) 作:水羽希
元男と元カノのショッピングデート
あの配信のあとくたくたになった俺を亜里沙はショッピングに駆り出した。
「すっげーな、あれ……」
「おっ、俺、あんな子を目の前で見れるなんて……」
「なにあれー! 外国からの留学生の子とか!?」
「ねっ! 絶対にそうじゃない!? 日本の制服着てるし!」
大学生ぐらいの男二人組。制服を着た女子高生の二人。あー、聞こえてるぞ? まったくもう、ここに来てから嫌というほど聞いた声が再び俺を襲ってくる。
来る人、すれ違う人、目があった人、そうでない人もみんなみんな俺に対して何かしらのアクションを起こしてくる。
先ほどのように聞こえないと思って遠目で俺の容姿を褒めたたえる人もいれば、声は出さないが明らかに俺を見て驚いたり、見とれたり、憧れたり、鼻の下を伸ばしたり――ああ、もう嫌だ。
「ふふ、ノアさん人気者じゃないですか。こっちも恥ずかしくなっちゃいそうです」
となりにいる
彼女も俺に巻き添えを食らう感じで大衆の視線に晒されて困っている様子――のだが、亜里沙は気づいていないのかもしれないが、こちらを見てくる野郎どものなかには意識して亜里沙を見てるヤツもいる。
まあ、分からんでもない。亜里沙は実際にすっごく美人だから見とれてもしょうがない。俺だってこいつの可愛らしさに惹かれて付き合ってたんだし……って、今はそんなことはどうでもいい。
「おい、なんでこんなことになってんだよ? 買い物に集中できてねぇじゃねぇかよ?」
「ははは、ノアさんの破壊力が想像以上でしたね。私の学生時代の制服を貸したのは失敗でした……」
そう小声で言い、どうしようにもない乾いた苦笑いを浮かべると俺の着ている制服をまじまじと見つめる。
俺も彼女の視線に釣られて自身を纏っている服に目がいく……大きな赤いリボンが胸元に結んである可愛らしいセーラー服にひらひらとしたスカートも完備。
なぜ、俺がこんなものを着ているかというと、服を借りる時に亜里沙が言うには昔着ていた服はすべて妹にあげたか処分したらしく今の俺が着れそうなのは中学時代の制服だけだったというオチ。
まー、じゃあ、仕方ないのでこれを着て今の俺の合う服をショッピングセンターに買いにいきましょうとなり現在に至る。リアル金髪少女が日本の学生服を着るというのは世間的には効果は抜群だったらしく、このようにあっという間に通行人の目を奪っていきましたとさ。落ち着かねぇ……な。
「まぁ、好意的に見られるってのは悪くはないんじゃあ……?」
「そうでもないぞ、緊張するし、現に買い物に集中できないじゃないかよ」
「でも、ほら……自分の見た目が認められるってよくないですか?」
「よい……のか?」
「私は可愛いって思われたりされるのは嬉しいと思いますよ。ノアさんは違うのかもですけど」
「う~ん、そんなもんか?」
「少なくても私の周りでは――それに学生の風を感じられるのもいいじゃないんですか?」
「学生ねぇ……」
見た目や側はそうかもしれないけど中身は二十代後半の男だからな。学生気分とかよりも……女装? いや、今は女だから違うか。あえて例えるならコスプレ……か?
腕組をしながらそう考えこんでいると亜里沙がニコッと笑みを浮かべる。
「ふふ、それにしてもノアさんとショッピングだなんて久しぶりですね!」
「そうだな、最近は仕事で忙しかったからな」
「演奏会に合唱……日本でこうして買い物するのもずいぶんと懐かしい気もします」
「だな、よく思えば本当に学生以来じゃないか?」
「あー、確かに高校ぶり? なんだかあの頃のデートを思い出してしまいますね……」
少し照れながら遠い向こう側を見つめる亜里沙。俺もつられて遠いあの頃を眺めるかのように思い出をゆっくりと思い浮かべていく。
「ははっ、あの頃は本当に毎日が楽しかったよな」
「うん、音楽の練習とかはすっごく大変だったけど、二人でコンテストとかコンクールに出たり」
「こうして二人で出かけたり」
「時には二人そろって先生に怒られたりなんかもしましたね!」
「そんなこともあったなぁ……まっ、アレはほとんどお前のせいだったけど」
「いやいや、アレはほとんどノアさんのせいでしょ?」
「ウソ言うなよ! 音楽室の掃除とかよくさぼったりしてただろ?」
「してないわよ!! ノアさんの方がさぼってた!」
迷いもなく強くそう言い放つ頑固な後輩。こいつ……やっぱり変わってないな。
「…………」
「…………」
俺たち二人の間に無言が続く。お互いに歩きながら睨み合いこのまま喧嘩――とはならずにギスギスとしたのは束の間。亜里沙が突然噴き出すように笑い始めた。
「ぷ……あははっ! こういうのも懐かしいですね。こうやって喧嘩もよくしましたね」
「せっかくのデートなのに喧嘩とかしまくったよな」
彼女の微笑みに対してこちらも笑みを返しながらそう言った。さすがにこの年になればこの程度のことで喧嘩ということはない。
でも、昔は出かけに行ってよく結構な頻度で喧嘩するけど仲直りが早い。これが俺たち二人の良くも悪くも仲の良い親密な関係性だったな。
――あの中学時代からずっとずっとの――……あっ、そういえば、今の亜里沙の彼氏とはうまくいってるのだろうか? 久しぶりに聞いてみようかな。
「……なあ、お前の――」
「あっ! 付きましたよ! あの店です!!」
聞こえなかったのか現カレのことを聞こうとしたがお構いなしに話題をお店のことへとすり替えられる。まっ、急いで聞くようなことでもないし、あとでゆっくりと聞けばいいか。
そう決め込むとさっきのことは忘れ、足を止め目的の店の外見の様子を窺う。
それはかなり大きな店でこのエリアにあるどの店よりも一回りも二回りもでかい。ガラス張りのなので中に入っていく客や中にいる人たちのことをよく観察できた。
楽しそうに店員さんと談笑する若い女の人、十代ぐらいの女の子がグループでキャッキャッと買い物を楽しむ様子。パッと見は十代や二十代の女性の人が多かった。亜里沙曰く、「私のお気に入りのお店!」らしい。
まあ、それは納得。外見は可愛らしい装飾が目立ついかにも女性用ってな感じだしな。扉の前にはいかにもの女性層を狙ったデザインの看板が設置してあって――あなただけのファッションを見つけませんか? という美人なモデルさんが写ったモノが置いてある。
ふむ、それにしても『あなただけのファッション』ねぇ――どういうことだ? と、気になったので看板に近寄って何が書いてあるのか見てみる。
……どうやらここは美容院や服屋、さらにはアクセサリーや化粧品屋などが一体となっており、お客さん一人一人に対してよくファッションの組み合わせを厳選して提供してくれるらしい。こんなところ来たことないからいまいちピンとこないけど。
う~ん、アイツにいったいここで何をされるのか? と、少しこれから訪れる未来に恐れを抱きつつ店の中をジロジロと見ていると、亜里沙が手招きをしながらお店に入っていく様子が目に留まる。
仕方ない。ずっと学生服を着てるわけにもいけないし――と、俺はお店の中へと進んでいった……