世界から天才音楽家と呼ばれた俺だけど、目が覚めたら金髪美少女になっていたので今度はトップアイドルとか人気声優目指して頑張りたいと思います。(ハーメルン版)   作:水羽希

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ミニスカートって下着を見えそうで怖いよね?

「ノアちゃん! 着替え終わったー?」

「は、はい! ちょうど今終わりました!」

 

 試着室のカーテン越しから聞こえてくる坂橋さんに対してそう返事を返した。軽々とした彼女の声とは裏腹にここ試着室では重々しい空気が流れている。

 

 ――くそ、こんな格好を公衆の面前んで晒すのかよ……!

 

 羞恥心に塗れた自分の瞳をおそるおそる目の前の鏡に向ける。

 

 そこに移るのはさっきとは違う学生服を着ていない自分の姿――うるうると宝石のような青い瞳を揺らして鏡の中にいる金髪の女の子。

 

 白を基調としたフリフリがたくさんついた洋服を身に着けていて、胸元には大きなリボンがありゴスロリチックなそのデザインが俺の目に焼き付けられる。

 

 スカートの丈は完全にミニスカと言っても差し支えないレベルで太ももが大きく露出している。少し風がいたずらしたらこの布一枚下にあるあの下着が丸見えになると考えるとゾッとする。

 

 ――そう、このスカートの下にある“あの下着”がもしも見られてしまうと……

 

 頭の中でそのことを想像し――鏡の中の目の前の少女はカッと顔を真っ赤に染め上げて青い目を自分の下半身に向けて自身の姿を見てたじろぐ。

 

 恥じらいながらもじもじと足をくねくねとする仕草は露出した太ももあってか、異性だけではなく同性の女性すら目をがっちりとくぎ付けにできるほどの扇情的な魔力があった。

 

 例えば、恥ずかしいスカートから伸びるスラっとしているが、同時にふっくらと程よく肉が付いているまるびを帯びた女の子らしい脚とか、ニーハイソックスを履いているため強調される一部分露出した太もも――いわゆる絶対領域のところとか。

 

 まあ、結論……とにかく今の俺はとてつもなく魅力的な女の子になってしまったということだ。

 

 はっきりというと本当に可愛いし似合ってるし、坂橋さんも本当にコーディネートのプロだということはこの姿をみればよく分かる。今の俺も正直言うと好みのタイプではある。

 

 でもなあ、これ……実は中身は男の俺なんだぜ? そこが非常に残念というか、自分がやるとこんなに恥ずかしいというか……えっと、その、まあ、何が何だか分からない。

 

 とにかく変な気分になるとだけ言っておこう――……と、まあ、何はともあれこれで着替えは終わったので坂橋さんに今度は散髪して貰うことになるのだけどいったいどんな髪型にされるのか……

 

 ツインテール? それともパーマとかかけられてウェーブロング? お姫様みたいな姫カット? あえてざっくりと切り払ってショートとか? 三つ編みとか? ちょっと考えるだけでもこれだけある。

 

 ああ、いったいどんな髪型にされるのか……ふふ、楽しみ――って、俺はいったい何を!? いやいや、髪型のことでこんな――……いろいろありすぎて変になってしまったのか俺?

 

 突如、湧き上がってくる謎の喜びの感情。髪型なんかにこれっぽっちの感情も抱いていなかったはずなのになんで……?

 

 変な感情。思わずわしゃわしゃと髪の毛を掻き毟る。金髪の長髪が視界の中で揺れ動き照明の光を反射して輝く。体と心のギャップで揺れ動きざわめく自分に対して試着室は静寂で静か。

 

 まるで気持ち悪さを覚えるほどのその楽しいという感情。なんでこんなことを思ってしまったのか? そんな疑問を考えようとは思ったが時間と人間は待ってはくれない。

 

「ノアちゃん! どうしたのー? 遅いよー?」

「――あ! すいません! 今出ます!!」

 

 パッと彼女の声で現実に引き戻されると脱ぎ散らかした服を回収する。

 

 制服を拾い上げて、スカートを拾い上げて、現在俺が履いている下着とは打って変わって地味なデザインのパンツを拾い上げ――外界と隔ていていた赤い色のカーテンを勢いよく開けて外に出る。

 

 明るい店内の光とともに亜里沙と坂橋さんの姿が目の中に飛び込んでくる。二人とも俺の姿を見るなり輝かしい太陽なような笑みを見せた。

 

「ああー! ほらほら!! すっごく似合ってない?」

「ノアちゃん可愛いー! 私の目に狂いはなかったわ!! ねっ、こっち向いて!」

 

 俺の姿を見て喜び笑う亜里沙と坂橋さん。二人は気づいていないかもしれないけど大声で騒いだせいで他のお客さんや店員さんの注目も集めてしまい少し見られていて恥ずかしい。

 

 男でミニスカの姿を晒すなんて――うぐぅ、大切なモノを失ってしまった気がする。頼むから二人とも子供みたいにキャッキャッ言うのはやめてくれ。ホント恥ずかしい……もう。

 

 思わず二人から目を反らして明後日の方角を見る。誰もいない床のシミをジーっと。その不自然で恥ずかしがってる姿を見た亜里沙はツンツンと俺の脇腹を突く。

 

「ノアさん~? もしかして恥ずかしんですか?」

「あ、当たり前だろ! こ、こんな服……人前なんかに……」

 

「えー、でも、ノアさんって私にこういう格好してって昔よく言ってましたよねー? 好きじゃなかったんですかぁ?」

「し、してもらうと自分がやるのとは違うだろっ! ったく……」

 

 ここぞとばかりに挑発してくる後輩を鋭い目つきで睨みつける。

 

 しかし、彼女はそんなのは全く効きませんと言いたいかのようにクスクスと女の子特有の笑い声を聞かせてくる。ここが店ではなかったらいろいろと文句を言いたかったがこれ以上は坂橋さんもいるのでやめた。

 

 俺自身も女々しい姿を晒したくなかったので熱い感情を押さえつけるかのようにして押し殺すと平然を装う。醜態を隠せているのかは分からないけど赤くしているよりかはマシなはずだ。

 

「じゃあ、今度は髪の毛切るからこっちに来てくれる?」

「は、はい! こちらこそよろしくお願いします!」

 

 手招きしてくる彼女に対して改めて挨拶を交わすと今度はお店の美容院へと足を向ける。

 

 亜里沙とはここで一度お別れとなり俺たち二人で向かうこととなった。移動中にいろいろと坂橋さんと会話を交わしたがこれといって普通の世間話の範疇を出ることはなかった。

 

 ただ、どんな髪型にするのかと聞いた時に「ふふ、とっても可愛く」と答えられた際には、いったいどうなるものかとこのあとのことを心配せずにはいられなかった。

 

 ――まあ、彼女のことだからあんまり変なのにはしないだろう。それがこの服装みたいに注目を浴びるかどうかの問題は抜きにして。正直、ここまで来たのならばっちり仕上げて欲しい気もする。

 

 歩き動くミニスカートからスラっと伸びる奇麗な足を眼前にそんなことを考えていると目的の場所に着いた。ここもたくさん若い女の人がいて店員さんたちが忙しそうに働いていた。

 

「――えっと、ノアちゃんは一番奥のあの席に座ってくれる?」

「分かりました」

 

 坂橋さんにそう言われると奥の方――お店側から見て一番右手にある席に座る。坂橋さんとは散髪するための道具を取りに行ったためしばしのお別れ。

 

 一人取り残された俺はスタッフと他のお客さんの注目に晒されながら指定した席に向かう。黒色の座席に座ると目の前の大きな鏡にミニスカ姿の可愛らしい金髪の女の子が写った。

 

 さっき試着室で見た通りの服装だが……スカートが短いせいで股を閉じて座らないと下着が見えてしまいそうだ。もう、男の俺がこんなことに気を使わないといけないなんて……ちくしょう!

 

 女の子との大変さを身に染みて感じつつぎゅっと内股になる。これからはパンチラの危機にも怯えないといけなきゃと――ちょうど今後のことを考えていたその時だった。

 

「あらあら、なんて可愛らしい子なの……!」

 

 突然、見知らぬ人の声が隣から聞こえてくる。左の方を見るとパーマを掛けている二十代ぐらい――俺や亜里沙よりも少し年上ぐらいの黒髪の女の人が俺のことをぼーっとした表情で見ていた。

 

 ――か、可愛いって……さっきも言われたけど赤の他人にそう言われると少し嬉しい気もするな。ま、まあ、とりあえず――

 

「えっと、その、ありがとうございます……」

「ふふ、どういたしまして! ――えっと、貴女ってもしかしてハーフで合ってる?」

 

「えっ、なんで分かったんですか?」

 

 一発で日本人とドイツ人の混血であることを見破られて驚く。男の時もそうだったが俺は日本人よりもドイツ人の遺伝子が強く出ていて青目で金髪。よく純血だと言われてきたのに。

 

 驚いて呆気にとられている俺に対し、彼女は白い歯を見せてニヤリと笑った。

 

「ふっ、実は私、ちょっとそういう仕事してて分かっちゃうのよ!」

「へー、どんな仕事をしてるんですか?」

 

「貴女みたいなハーフの女の子をたくさん見る仕事よ。でも、こんなに綺麗で可愛らしい子は初めてかもしれないわぁ。ぜひ、うちに来て欲しいわっ……!!」

「……? 来てほしいってどこにですか?」

 

 素朴に疑問を返すと彼女は溢れて抑えきれないのか、人前だというのに子供のような幼いような笑顔を俺に晒す。いったい、どうしたんだこの人? 変な人なのか……?

 

 さっきとは別の驚きだが彼女はお構いなしに変なことを口走る。

 

「――ああ、いけないいけない! ごめん、ふふ、ちょっとまさかこんなところで見つけられて――私もう――だめだめ、この子はまだ入るって決めてないじゃないの! ああ、でも、この子が来てくれたら本当に――」

「だ、大丈夫?」

 

「う、ん? あ、ああ、ごめん! えっと、名前教えてもらってもいい?」

「え、な、名前? なん――」

 

「こらー! 店内での勧誘はうちではお断りですよ!!」

 

 名前を教える間もなく会話は打ち切られた。乱入者は戻ってきた坂橋さんだった。霧吹きを持って散髪用具を身に着けとなりにいた女性を見下すように睨みつけていた。

 

「か、勧誘? それってどういうことですか?」

 

 状況を呑み込めないが坂橋さんにそう尋ねた……

 


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