世界から天才音楽家と呼ばれた俺だけど、目が覚めたら金髪美少女になっていたので今度はトップアイドルとか人気声優目指して頑張りたいと思います。(ハーメルン版) 作:水羽希
赤毛の女医
病気にかかってそれを治すために向かうところ。つまり、病院に俺は亜里沙と二人でやって来たのだけど本当に大丈夫なのか? そんな心配事で胸がいっぱいだった。
保険証もないし自分の身元を保証するモノは一切ない。完全に今の俺は無戸籍という状態であり十分な医療を受けられるのか本当に心配だった。てか、女になるって本当に病気という類なのか?
もしかしたら、ろくに取り合っても貰えずに追い出されたりとか? なんとか医者に診てもらうことは成功したけど“自分が男だと思い込んでいる女”として処理されたりなんてことも。
ドイツの方が診断書をもらって来い。そして、証明しなければサボりで晒し首にするっていうからここに来たが……憂鬱だ。いざ、こうして待合室で待っているとどんな診断を受けるのか不安だ。
膝に置いてある両手に自然と力が入る。その下には丸くて大きな白い太ももにミニスカート。
現実は何も変わらない。時間も過ぎていく――ちらりとコンクリートの柱にかかっているアナログ時計に目をやる。こういう時って時間は遅く感じるよな。まだ、ここに来てから三十分も経っていない。
横を見れば長い廊下に淡々と並べられている長椅子。その椅子の前には診察室がずらりと向き合うように設置してある。扉の前には番号が書いてあり一から十番まで、呼ばれ次第そのどれかに入る。
いったい、何番に入れと言われるのか? 周りの人たちは次々と呼ばれているがなんか妙に俺は呼ばれない。やっぱり、保険証も身分も証明できないから後回しとか……? 絶望的だろくそー!
「……はぁ、もうだめだぁ……」
塩対応確定。亜里沙がいたらまだ心細くなかったけど、アイツはなんか他のところに呼ばれて飛び出していった。何か重大な病気を宣告される前みたいな気分だよ。ちくしょう。
そもそも、どう考えても治療法なんて無さそうだし、ノアちゃんのまま生きていくことだって覚悟せねば。ははは、プロ音楽家の最後は女の子になるってか? うぅ、嫌だぁ……
「――姫川さーん! 姫川さんは居ますか?!」
「……は、はい!!」
一人で落ち込んでいたところ名前を呼ばれる。廊下の奥……ちょうど長椅子が置かれなくなり階段を上って別の階に移動する場所。そこから彼女の声は聞こえてきた。
「あれ? あそこって診察室なかったはず?」
変な違和感を覚える。診察室から出てきてないってことは奥に見えるナースさんは階段か廊下の突き当りにある非常口から出てきたことになるんだけど。もしかしたら、俺だけ別の階……?
「……? 外人のお嬢ちゃん、いかないのかい?」
「あ、ああ、すいません……!」
ボーっとしているととなり座っていたおじいちゃんにそう言われてやっと行動に移した。席を立ち外見ゆえに周りの視線を集めてしまうのでそれに耐え、ナースさんの元へとスタスタと移動した。
「
「は、はい! こう見えても日本人なんです! 驚きました?」
「はい、びっくりしました……ハーフの方なんですか?」
「お母さんがドイツ人なんですよ。ドイツ語だってもちろんいけますよ?」
「へぇ~、金髪で可愛らしいし憧れちゃうわぁ。ずいぶん国際的な子たちがこの病気ねぇ……
――……それにしても男の子で望愛って……ずいぶん可愛らしい名前なのねー」
「――ッ!? な、なんで俺のこと……?」
驚きとともに背中をぞわぞわと蛇が這うかのような嫌悪感が襲う。なんでこの人、男ということを知って……いやいや、ええっ!? どうして……はぁ!?
「ふふ、驚いているみたいね。詳しことは春先生に――いくよ、着いてきてね?」
そう言うとクルリと背中を向けると会談へと向かって歩き出す。驚きのさなかにいる俺は返事を返すこともできずに無言のまま彼女についていく。
階段を一段、一段と上って二階へと出る。そこはつくり的には一階と同じだったが下のよりか廊下は長く、彼女が歩いていくその先の奥の方にポツンと何も書かれていない扉があった。
暗い廊下にただ一つだけ灯されたランプの下にある部屋。ちょっと不気味で二人で歩いているとはいえここは少し怖いところに思えた。すれ違いざまに小さな窓を覗くと外は雨が降っていた。
「着きました。中へどうぞ……」
そういうとスライド式のドアを開けて俺を招き入れてくれる。どうやら彼女は中に入らないらしくここでお別れとなった。
なんで俺だけ違うところなのか? ここは何の部屋なのか? 不安だらけだったが彼女が言った言葉の理由。知りたいことも同時にたくさんあったので引き返すわけにも行けないし、もしかしたら治療方法があるかもしれない。そんな期待を胸に中に入る。
「ふふ、来たわね。今月で貴女を含めて二人目よ~、いったい何が起きてるのかしら?」
室内に入ると同時にそんな声が俺を出迎えてくれた。中はいたって普通の診察室。荷物を入れるカゴに寝台、先生が座る机とレントゲンを貼るホワイトボードみたいなヤツ。
俺は手荷物は特に持ってはいなかったで先生に向かい合うように置いてあった黒い椅子に腰かける。彼女――眼鏡を掛けたぼさぼさの赤毛にダボダボの白衣を着た女医がそこにいた。
「よ、よろしくお願いします……」
俺は少し戸惑いながら彼女に頭を下げた。人は見かけで判断したらいけないって分かってるけどこの人はなんだか医者っぽくないっていうか……見ただけで不思議と分かる変な人だった。
「うんうん、えーっと、姫川望愛さんだったけ?」
「はい、そうです」
「ふ~ん、望愛くんって呼べばいい? もしかしたら望愛ちゃんにもうなっちゃったぁ?」
「なるって……どういうことですか?」
「ん、そのままの意味だよぉ。そんな服着てたら女の子になっちゃったのかと思ってねー」
「なってませんって、これは、その……不可抗力というか……その」
「ふ~~~ん、じゃあ、まだ、男の子ってことで望愛くんって呼ぶねー?」
「…………はい」
なんだよこの人は。喋り方も変だし、テンションも若干おかしい……いや、結構おかしい。でも、表情はずっと真顔のままだ。なに、この人……?
「ふふ、変な人過ぎてびっくりしてるって表情だねぇ?」
「そ、そんなことないですよ?」
「ううん、私にはわかるよー? 気を使わなくてもいいからね?」
「使ってませんって」
「あらあら、そうなのー? 優しいのね――まあ、いいわ。そろそろ本題に入りましょうかぁ。貴方がどうして変わってしまったのか……その理由を教えるわぁ」
彼女はそう言うとそばにあった机の上からA4サイズの紙の束を手に取ると気だるそうな眼付きのままぺらぺらと紙をめくっていく。五枚ほどめくったところでピタリと手を止めると「えーと」と呟きながら指先で紙を表面をなぞっていく。
「……んー、君のかかった病気は間違いなく少女化症候群。突如男性が少女へと変身してしまう病気。DNA単位での変化が見られて臓器含めて細胞単位の若返りも確認されている……日本国、いや世界からごく少数だけど報告がある立派な病気よ」
「ということは、自分以外にも患者がいるってことですか?」
「いるわよぉ、しかも――っと、まあ、それはまたあとの話ってことでぇ。話を戻すけどさっき貴方の連れの人から聞いた証言と照らし合わせるとこの病気で間違いないってことは確実ねぇ」
「え? 亜里沙がここに来てたんですか?」
「ん、正確に言うと私が会ったんじゃなくてさっきここに来たナースの子が話したんだけどねぇ。その亜里沙っていう子にはいろいろ聞いたあとに悪いけど先に帰ってもらったわぁ」
「帰った? ど、どうして俺に黙っ――」
「私がそう頼んだのよぉ。慎重に進めないといけないこともあるし、それに貴女は