世界から天才音楽家と呼ばれた俺だけど、目が覚めたら金髪美少女になっていたので今度はトップアイドルとか人気声優目指して頑張りたいと思います。(ハーメルン版) 作:水羽希
ニタニタと気味の悪い悪魔のような笑みを浮かべる彼女。明確に室内の空気がさっきとは違ったものになり不気味で恐ろしく思える空気が漂っていた。
「……ど、どういうことですか? 帰れないって……」
細々としたか弱く震えた少女の声が自分の口から発せられる。背中にはまるで脊髄を舐められたかのような悪寒が走り、俺の顔はおそらく恐怖で引きつっていただろう。
怯えた女の子が不安な姿でそこにいたら普通はなだめようとしたり怖がらせないようにするだろう。しかし、目の前の真っ赤な目を持つ赤毛の女性は違った。
「そうよ。貴方はもう二度と外には出れない。この病気の人間は人権が無くなったも同然。もう、姫川望愛という人間は私の所持物。被検体も同然なんだからぁ……」
真っ黒な泥のような笑みを見せる。医者としてこれはどうなのか? なんと彼女は恐怖を煽るかのように恐ろしい表情を浮かべて急き立てるように話しかけてきた。
「はぁ? 被検体? もう、からかうのはやめてください! ふざけないでください!」
「ふざけてなんかないわよ? 本当のことよぉ、この病気の患者の末路はこうなるっていうことは」
「末路? それを治すためにここに……」
「治すねぇ……結構なことだけどぉ、残念だけど治らないわよぉ? せめてもだけど医学の発展のためにその命――私に預けてくれないかしら?」
「ほ、本気で何を……? 命とか発展とか……正気なんですかっ?」
訳の分からないマッドサイエンティストみたいなことを口走る彼女に対して怒声が混じった声をぶつける。だが、彼女は小娘がいくら吠えようが無駄だと言わんばかりに微動だとしない。
椅子の背もたれに深く背中を預け、机に頬杖つき、赤い目がこちらをジッと見つめていた。まるで待ちに待った獲物が来た。そんな眼が自分に向けられている。
「ふふっ、悪く思わないでねぇ――……だって、これは仕方のない犠牲なんだからぁ」
「……さっきから犠牲だとかいったい何なんですか?」
「そのままの意味。よく考えてごらんなさい? この病気のことを……細胞レベルでの若返りに完全なる性転換――人類がまだ到達できていないことを二つもこなせる病気。これにかかった子を解剖とかしたら医学が発展したりとか思わないのぉ?」
「思いません! 仮に本当に医学が発展するとしても人を踏みにじるような方法は――」
「残念だけど認められるのよぉ? 実際にこの患者は高額で海外では取引されてるのぉ。お金の塊みたいなモノなの。だって体を調べればすごいことが分かるかもしれないからねぇ。元凶のウイルスだったりDNAだったりが観測されるかもしれないし……生きてれば数億、死体でも何千、目とか手でも――」
「も、もうやめてください! ほ、本当にお前――お前たちは人間なんですかっ? 人の命を何だと思ってるんですか……?」
「そうねぇ、かけがえのないモノだけどぉ……治療法や医学の発展にとっては仕方のない犠牲。現に何人かは手術台に寝っ転がったのよ? そして、私はそれを切ったのぉ……フフフ」
「――ッ!?」
驚きのあまり声が出なかった。なぜならコイツはこんなことをしているのに心の底から笑っていたから。比喩とかそんなものを抜きにして本当に悪魔だ。どのみちここにいたら本当に命すら危うい。
――じゃあ、俺にできることとしたら逃げること。なんとか警察とかに逃げないと……!
「――ッ!」
「あら……?」
室内に椅子が倒れてガシャン! という音が響く。身の危険を感じた俺はこの部屋から逃げようと入ってきた扉の方へと向かって全力で向かう。
どうして病院ぐるみでこんなことをしているのか? 自分の思ったより大変な事態になってしまった――そんな後悔とどうして自分なんだッ!? という想いを噛み締める。亜里沙も心配だ。ここから出たらアイツの顔を見たい。もしかしたら、アイツも無事じゃないかもしれない。
軽はずみで起きたこの事件。ここに来なければ巻き込まれることはなかった。
――だが、もう全てが遅かった。もっと想像力を働かせて自分でこの病気を調べるなりなんなりをすれば良かった。敵のど真ん中にいて逃げられるはずがなかったのだ。
――ゆえに脱出ルートなんて塞がれていたのだ。現実は開かない扉を俺に示してきた。
「あ、開かないっ……! くそっ!!」
「無駄よぉ♪ 逃げられるわけないじゃん?」
「く、来るなッ!? こ、こんなことをして許されると思うなっ!」
もう隠す気もない男口調で彼女に対して叫ぶ。刃物のように鋭く彼女を睨みつけるが悪魔は止まらない。こうなったら力ずくでもここから逃げる。
「う、うおおおおおっ!」
「……あらあら? 血の気の多いことねぇ」
扉に背を向けて悪魔と対面すると握りこぶしを作って殴りかかる。狙うは顔面の鼻の頭――男の頃の巨体とそこから繰り出されるパンチなら倒すことができたかもしれない――が、今は違う。
「――よっと、女の子がそんなことしちゃいけないよぉ?」
「っ! は、離せッ!!」
情けないことに軽くハエをあしらうかのように受け止められてしまい、逆に彼女に腕をつかまれてそのまま羽交い絞めにされてしまう。こうして密着すると体格の差が大きく最初からかなわない相手だったとひしひしと感じられる。
「ふふ、気持ちは十分だけどぉ、十代前半の女の子腕力じゃあ私には勝てないわぁ」
「ん、んっ! 痛いっ!! くそっ! 離せッ!」
体をぶんぶんと振り回したり、足に力を入れて抜け出そうとしてもびくともしない。体格に差がありすぎる。子犬がライオンに喧嘩をしているようなものだ。勝負にもならない。
死の恐怖。理不尽な現実。亜里沙の心配。ついにはそれを醜い声にして叫ぶしかなかった。それも虚しく部屋に響くだけだ。ついには暴れ疲れて体に力が入らなくなってくる。
「はぁ……はぁ……離してくれ」
「嫌だよぉ♪ ――それに警察とかに逃げたとしても無駄よ? グルだからねぇ……貴女は終わりよ」
「ふ、ふざけるなぁ! こ、こんなの認めないッ!!」
「はいはい、次は研究所で会いましょうねぇ? ――……じゃあ、眠らせろ!」
さっきまではふわふわと態度を一貫していた彼女だが急変し口調が厳しいものへと変わる。
命令を聞いてかあれほど開かなかった扉はあっさりと開き、そこから何やら布切れを持ったナースが部屋に入ってくる。俺のぐったりとした体を入ってきた彼女に向けるとハンカチを俺の口にあてがう。
「――ごめんね」
「…………」
抵抗しようとしたが無駄だと悟った俺はそれを受け入れた。何かの薬品なのだろうか? 甘い匂いがする。なんのにおいだろ? わからない……もう、お、おれ……だ……め。
すぅーっと蝋燭が消えるかのように意識が無くなる。最後に聞こえたのは――
「オーケー、あとはあの子と同じ地下に運んでおけ――絶対に見――な! DNA検査――を――」
……という途切れ途切れのセリフのみだった。
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――何か音が聞こえる。ぺらぺら……ぺらぺら……と、これは紙をめくる音? 誰か本でも読んでいるのだろうか。目を開けたいけどまぶたが若干重い感じがする。
「――ん――うっ……」
音が気になり重い石を持ち上げるような感じで目を開ける。光――真っ暗だった視界に電気の白い明りが目に入ってくる。見慣れない天井だ。
どうやらどこかに寝かされている様子。感覚的にはベットかな? 暖かくて気持ちいい。それにしても、俺、どうしてたんだっけ……?
「おっ? お目覚めかー? へぇ~目は青色なのかぁ」
「……だれぇ?」
寝ぼけているのか変にぼやけた声を出してしまう。光が眩しくて見えにくかったけどよく周りを見ると黒い影がどんどんと鮮明になっていって――それが女の子の顔だったということが判明する。
「ふふ、声は結構高めで良いねぇ……憧れるよ」
「…………」
「んー? もしかしたら、麻酔がまだ抜けてないのかー? もしも~し?」
妙なハイテンションで寝起きの俺に接してくる謎の女の子。どんどんと意識が戻っていっているのか彼女の顔がはっきりと見えるようになってくる。
黒くて大きな目。整った顔立ちだがあどけなさが残る幼さがどことなく感じられる顔。長くてスッとした髪。みずみずしくて触りたくなるような白い肌。小学生? いや、中学……十代前半ぐらいだろうか……?
「……若い……が、がくせいさん……?」
「う~ん、正解だけど不正解! 貴方と同じで中身は成人男性の女の子だよ?」
「そっかぁ……って、え?」
まさかの同胞なのか? 驚いて身を起こしていろいろと聞き出そうとしたいが思うように体が入らなくてリアクションに欠けてしまう。もしかしたら、夢なのかこれは……?
少しぼやける視界の中仰向けのまま彼女を見つめる。本当はいろいろと聞きたい。でも、一度ははっきりと覚醒した意識だったが次第に意識とともに薄れていく。まぶたもまた重くなっていく……
「……どうやらまだ麻酔が残ってるみたいだね。大丈夫、安心してひと眠りしてて……また、あとでたくさんお話ししよ」
そう言って黒髪の少女はニコニコと笑みを浮かべると彼女は腕をこちらに伸ばしてはだけていた掛け布団を治してくれる。ここはどこなんだ? 君は誰? 亜里沙はどうなった?
――そもそもこれは夢の中なのか? 分からない。意識がなくなる。そう考える余裕もなく俺は再び意識を手放した……