世界から天才音楽家と呼ばれた俺だけど、目が覚めたら金髪美少女になっていたので今度はトップアイドルとか人気声優目指して頑張りたいと思います。(ハーメルン版) 作:水羽希
「――んっ……うぅ」
真っ暗な暗闇に光がまぶたを貫いて差し込んでくる。うなされるかのように目を覚ました俺はゆっくりとまぶたを持ち上げる。水中の中で目を開けたかのようなぼやけ方をしていたが次第にはっきりと鮮明に見えるようになってきた。
――ここは……どこだ? あれからどれほど時間がたったのだろう? 眠っていたので分からないけどずいぶんの間気を失っていた気がする。昼か夜かもわからない。
――俺はどうなってしまったのだろうか?
――亜里沙は無事なんだろうか?
――ここはいったいどこなんだろうか?
さまざまな疑問が頭の中を駆け巡るが考えていてもしょうがない。自分の頭だけでは奴らの目的なんか分かるはずなんかないし、とにかく目を覚まして状況把握が必要だ。
「よいしょっと……」
石のように凝り固まった体を動かして上半身を起こす。体にかかっていた掛け布団がずるずると体から滑るように落ちていく。体を包んでいた暖かな空気が発散され冷たい外気に体が晒される。
「ふぅ……」
深いため息を一呼吸挟んだあとに肩を持ち上げたり下げたりして固まった上半身をほぐす。どうやら快眠という訳ではなさそうだ。喉も妙にカラカラしてるし少しだけ重い倦怠感がある。それに妙に左腕に何かヒリヒリとした痛みがある。
「――ったく、なんでこ……あれ?」
痛みの正体を知ろうとして左腕を見てみたところ自分が着ていた服が変わっていたことに気づく。あのお店で買った派手なモノとは違って病院の――手術の時に着るような薄手のワンピースのような服に代わっていた。
あの医者が眠っている間に着せ替えたのだろうか? だったらあのド派手な下着を見られたわけなんだが……まあ、恥ずかしいがそれどころではない。アイツがいうことが本当なら俺の命が危ないことになる……そうだ、ここは危険なんだ。早く逃げ出さないと……!
どんどんと記憶が蘇ってきた俺はすぐさまにベットから降りて地面に足を付ける。そのまま裸足のままペタペタと地面を踏んで歩いて部屋の中を一望した。
部屋はそこまでは大きくない。十畳……? それよりか少し広いぐらいだ。
下を見ると白い床、前を見ると無機質なコンクリートの灰色の重厚な壁。上を見ると天井には蛍光灯があり部屋を明るく照らしていたが、なんだか空気が重く暗いように感じられた。
窓は一切なくてドアが二つある。一つはベットのすぐそばにある大きなスライド式のドアで部屋の奥の方には普通の大きさのモノが一つ。
ベットの向かい側には金属製の大きな銀色の台があり、そこにはさまざまな注射器など医療器具やよく分からない機械が散乱して置いてあった。
――と、まあ、だいたい気になったのはそれぐらいだけだ。あとは俺のベットの隣にあるカーテンに四方八方仕切られた謎の空間。いったいあそこには何があるのかと気にはしたが俺が今やるべきなのはこれではない。
ペタペタと白くて細い足を前に出して扉の前まで移動する。ぶかぶかの服の袖から伸びる手をドアノブに伸ばして掴み、ガチャガチャと音を立てて扉を引っ張てみるが……
「――くっ、やっぱり開かないか……っ!」
だいたい予想はついていたが開かなかった。俺を大金だと思っている連中がみすみす獲物を逃がすわけないか。こうなるとあっちも開かないよなぁ……でも、確認だけはしておこう。
くるりと大きな扉に背を向けて今度は小さな方に前身を向ける。そして、そのまま向かおうと――した瞬間。カーテンで仕切られていたあそこから人の声がした。
「ハル先生ぃ……もう、戻ってきたの?」
「……!?」
――え? ここに人がいたのかよ? 気づかなかった……!
まさか、こんなところに人がいるとは思わなかった俺はカーテンに対して身構える。声からして女の子のようだけどさっきのあの医者とは違う若い少女の声。しかも、とてつもなく綺麗な美声であり透き通った真珠のような――たぶん、この声の持ち主は声を鍛えてる。
――訓練しないと絶対に出せない声、聞いただけで分かった。いったい何者なのだろうか? その綺麗な宝石の持ち主はカーテンの中からひょこっと顔を出して登場した。
「――ん? お? おぉっ? 起きたんかっ!」
「え? あ、まあ、そうですけど……」
「ずいぶん寝てたよね~、もう、一日たったよ? 泥のように寝てたよねー」
「え? そんなにっ!?」
予想外な事実が帰ってきて声を荒げる。たくさん寝てたとは思ってたけどそんなに寝てたのかよ俺……こうなってくるとここが病院かも怪しくなってくる。遠くまで運ぶには十分な時間だ。
アイツももう帰らせる気がないって言ってたし、本格的に不味くないか? まさか、ほぼ一日の間無防備を晒し続けていたなんて。このまま解剖とかされて殺されてしまうのか? い、いや、まだだ! 諦めるなんてことできるわけがない……!
落ちかけていた心にもう一度火をつける。目の前の少女はカーテンを片付けながらそんな俺のことを不思議モノを見るような目で見ていた。
「……? どうしたの? そんなしかめっ面して」
「い、いえ、気にしないでください……え、えっと、貴女もあの医者に連れてこられたんですか?」
「医者? 春先生のこと?」
彼女は首を傾げながらあの時のナースが言っていた名を呟くように口に出した。俺はその言葉に対して深くうなずく。
「そうです。自分はあの人に眠らされてここに連れてこられました。貴女も――」
「ふふっ、違うよ。私は先生に検査してもらってるだけだよー」
「け、検査? それって無理やり――」
「ううん、自分から頼んでだよ。貴女は初めてだからああなっただけだよ? 春先生も酷いことしてごめんって謝ってたじゃん? ――でも、アレ怖いよねぇ、私たちに怖さを教えてためって言ってるけど過激だよ。私も最初の頃は女の子になったせいで大変な――」
「え、えっと、すいません。どういうことですか? は、話が全然見えないんですけど?」
何が何だか分からない。この一言に尽きる……おそらく、この子も俺と同じ病気ということはさっきのことから分かるけど、何だこの温度差は? あの先生が俺に謝ってた? 怖さを教える? 意味が分からない……どういうことなんだこれ?
「――ん? もしかしてらさっきのこと記憶にないの?」
「は、はい、あの、眠らされてからは……」
「私の名前は? 分かる?」
「い、いえ、全然……」
「ふ~ん、じゃあ、混乱するのも無理ないか。確かにあの時はふにゃふにゃだったからねぇ……まっ、でも、安心して別に貴方含めて危険な目に合う訳じゃないわ。むしろ、頑張って治してくれるよ? ――まっ、じゃあ、忘れたんなら改めて自己紹介からしようか!」
彼女はそう言うと俺の前に飛び出すようにやって来る。黒くて長い髪の毛が揺れて波のように空中で舞う。白くて健康的な肌にぱっちりとした黒い目に長いまつげ。身長は今の俺よりも少し大きい。服は俺と同じピンク色の検査着で同じ格好をしている。
そして、何よりも彼女の突出したモノ――
「私は
ん、どこかで聞いたことある名前のような……? ま、いいか。とにかく、この明るくて聞いているだけでも気持ちが晴れるかのような美声。
本当に綺麗な声だ、この子が歌を歌ったりしたら本当にいい音楽が作れるだろう。素晴らしい……が、それよりも気になることがある。
「こちらこそよろしくお願いします……えっと、金藤さん。さっきも言ってましたけど、貴女って自分と同じなんですか?」
「同じ? 何が?」
「え、えと、病気ですよ。同じだったら中身は当然……?」
「ん、あーそういうこと? 男だよ? 三十歳の」
「……!? そ、そうですか……」
分かってはいたがやはり――し、しかも年齢も上だなんて。パッと見は本当に年相応の女の子にしか見えないんだけど。中の人が特殊なだけなのか?
目を丸くして目の前の元男の少女を見つめる。彼女は先ほどからの笑顔を絶やさずにずっと幼くて心からの笑み顔に浮かべている。
「ん? どうしたの? もしかしたら、私のこと疑ってるの?」
「い、いえ、そんなことは――」
「いーのいーの隠さなくても~、先生にも完全に女の子にしか見えないってよく言われるもん。同じ病気だって言われても疑っちゃうよね。それに私って可愛いから可愛くするのが一番じゃない?」
「は、はぁ……」
「ふふ、姫川さんだってそのうちに変化がくるはずよ? まあ、それを受け入れるか受け入れないかは貴女次第だけどね」
「……自分は男のままがいいです」
「えー、私はこんなに可愛いからなりきっちゃえばいいと思うのに、金髪少女だよ? なれて嬉しくないの?」
「確かに、新鮮な体験ですけど……自分は男であり、それに男の姫川望愛の帰還を望んでいる人間は大勢います。ずっとこのままでいるわけにもいかないんです……」
「そっか、まあ、私だったら楽しむけどね。実際に可愛い服着てたからそれなり楽しんでたのでしょ?」
「…………」
そう言われて何も答えられなかった。楽しんでいたかそうでないか? 複雑な気持ちだったからだ。確かにおしゃれは男の頃よりもずっと楽しめると思った。ああいう風なことは男にはできない。
――でも、分からない。どっちがいいなんてなんか……絶対と決めつけるということは……だけど、戻りたい。俺は音楽家、帰りが待つ人もいる。亜里沙にしろ応援してくれるファンにしろ、だから戻らないといけない今はこう強く思っている。
俺は現にここにこれを治すためにやって来た。でも、眠らされて検査されて……何が何だか分からない。でも、ひとまずは解剖されたり殺されたりはしないと確認できただけでも良かった。
あとは春先生という人から詳しい事情を聞くだけ――のはずだった。一度は止みあがった心の雨だったが、再び大降りに降り出すことになる。彼女――金藤さんのこの一言からだった。
「――私は大変だと思うよ? ずっと男を保つなんて」
「どういうことですか?」
「治す方法がないの。今までいろんな治療をしたけど治った人がいないの……」
読んでくださりありがとうございます。また、お気に入り登録などで応援したくださり本当に感謝しております。
お知らせですが、本作はそろそろアイドル編へと続いて参ります。旧作と一転してスピードを重視でやっていきます。次回以降はテンポよく進んでいきますのでどうかこれからもよろしくです。
稚拙な文ですがここまで改めてありがとうございます。なろうの方もそろそろ動き出します!