世界から天才音楽家と呼ばれた俺だけど、目が覚めたら金髪美少女になっていたので今度はトップアイドルとか人気声優目指して頑張りたいと思います。(ハーメルン版) 作:水羽希
「――戻れない? それって……」
「うん、病気を治せた人がいない。不治病だってことだよ、治そうとしても死んじゃう人だっていた」
「なっ……!」
感情が抜け落ちたかのような表情のまま淡々と恐るべき事実を言いのける彼女。まさか、亡くなってしまう人がいるとは予想もしていなかった俺は絶句する。
いや、絶句どころか絶望。金藤さんの言うことが真実なら俺は死ぬまでこの姿だってことだ。男としての俺という存在はある意味死んだみたいなものじゃないかよ。くそ……っ!
唇を噛み締めて両手をギュッと握りしめる。まるで、現実に対する怒りや悔しさに噛み付き握り潰すかのように。ど、どうしてこんなことに……
「そ、そんなに泣きそうな顔しないで」
金藤さんが心配そうに気を使ってくれる。はは、俺って今そういう顔をしてるのか……泣きそうねぇ。大泣きしてもいいような気分なのは否定しない。だって――
「も、戻れないんですよ? 周りの人にはなんて言えばいいのか……そもそも信用してくれるのか……音楽だって本当はやらないといけないのに……」
「…………」
彼女は何も答えなかった。そりゃあ、女になった当初やあの服屋とかではなんだかんだ現実を受け止めていたけど冷静に考えてみるとやっぱり男に戻れないのは辛い。
アイドルになる、ならない――少しの間は真剣に考えてみたりもしたがやっぱりファンもいるし亜里沙もいる。改めて現実を突きつけられると葛藤を感じざるえない。
――どうしたいいんだろう? これから俺……その時だった……
「分かるよ、私も最初はどうなるかってすごく心配して怖かったよ」
目の前にいた金藤さんが優しそうな声で、心に響くかのような笛のような音の声を響かせる。表情はさっきの子供みたいなものではなく真剣で泣いた子供をなだめるかようなそんな顔。話は続く――
「でもね、春先生や新しい出会いだってたくさんあった。そんな人たちに支えられて私は今ここに居る。女の子も悪いもんじゃないよ? 男の頃の地位や名誉は全部なくなっちゃったけどねっ♪」
「そ、そんな軽々しく言っていいことなんですか?」
「うん! 無くなったらならまた作ればいい! 現に今は改めて声優やって新しいファンもたくさんできたし! んー、もしかしたら、男の頃よりも充実してるかも」
「そ、そうですか……って、へ? い、今なんて?」
ん? 俺の聞き間違えではなかったら声優って言わなかったこの人? 金藤結友……どっかで聞いたことがあったと思ったら大人気声優の……おいおい、まさか――!?
点と点が線で繋がる。人気声優の正体が男ッ!? しかも、有名人が目の前にいる!? 驚きのあまり震えた声がさっきよりも一倍ぐらいしゃきんとした敬語で尋ねる。
「あ、あのぅ? もしかしなくても、声優の金藤結友さん?」
「ん? そうだよ。せーゆーさんだよ私」
「えと、今期のアニメ出てましたよね?」
「うん、ヒロインのミルフィーナちゃん役で出てたよ。『我が、鬼よ! 今ここに顕現して真なる力を』――ってね!」
「カッコいいですよねー、あと、人気ソシャゲにも出てませんでしたか?」
「あー、長七神聖のカイゼリン・カリューア?」
「違います、最近の六星の方です」
「了解、『スターダストシャイン!』の方ね! あの子可愛いですよね」
「うん、イラストがあの有名な――って、マジで本物だぁ……やべぇよ」
さっきまで中身が男の少女だった彼女だったが畏怖と憧れの視線でしか見れなくなった。妙に声が普通ではないって思ってたら本業の方だよ。そりゃあ、あんな綺麗な声が出せるはずだぁ。
綺麗で透明で宝石のような輝きを持つ声。見た目も黒髪のとてつもない美少女だし――人気声優になれるだけのポテンシャルはもちろんある。
正体が分かりさっきよりも五割増しぐらいに大きく見える彼女。キリっとしたドヤ顔を自信満々な眩しいほどの表情で決める。
「ふふっ、どう? 凄いでしょ?」
「御見それしました――つか、人気声優の正体が三十歳の男性って」
「知られたら炎上不可避ですねぇ」
「他人事みたいに言わないでください。はあ、世の中ってとんでもないことがあるもんだなぁ」
「姫川さんも大概ですよ。世界的な音楽家なんて、私より全然凄いじゃない?」
「え? うーん、まあ、そうだけど――なんで知ってるの?」
「春先生から聞いた。凄いよね音楽家って、ハーフみたいだからぜひ私の事務所にも来て欲しいよ。実は絶賛ピンチで新メンバー募集してるの」
「そうなんですか。でも、自分は音楽のこともあるからこれからはどうなるか分かりません。女になったからさらば引退す! ってことは簡単にはできませんし」
それにドイツにはどうやって説明したらいいと……? 戻れないのだったら確かに生活のためにお助けするのはいいかもだけど説得できる気がしない。
つか、またメンバー不足ですかい。どこの業界も大変なんだなぁ。
ずっと立ち話をしていて足が痛くなったのでベットに腰かけた。金藤さんも俺につられて座り込む。彼女は布団の上で体育座りをすると何やら「むふふ」とした表情を浮かべて話しかけてくる。
「ふふふ、そこんとこはご心配なく。良くも悪くも姫川さんは男性の時のしがらみから解放されるよ」
「どういうことですか?」
「そのままの意味。詳しくは春先生から聞いてね! だからそんなに暗くならない明るく! せっかく可愛いんだから姫川さんは暗い性格やめた方がいいよ?」
「そ、そんな暗いですか?」
「うん、今話してきた感じ、気弱な女の子って感じだよ?」
「そうですか……あはは、本当は自分、結構明るい性格なんですけどねぇ」
「そうなの?」
「はい、本当は明るいですよ自分。堅物に見られるかもしれないけど、本当はもっとのびのびっとしてますよ? 男の頃は金藤さんとまではいきませんけど明るかったですよ? ふふっ」
先ほどとは打って変わって笑顔を浮かべて見せる。もちろん半分は嘘だけどね。
昨日まで――男だったときは良くも悪くも割と雑な性格で気も性格も生活も軽い感じの男だった。だけど、こうして身体が変わってしまって自分を少し見失ってしまったのかもしれない。
男の頃も軽い割には重い空気やネガティブなことに気をやられることもあったからな。今回もそのせいで自分の暗いところが出てしまったかもな。まっ、悲しむのもこれまでにしておこう……
「へぇー、てっきり元から暗いと……」
「金藤さんが明るすぎなだけじゃないですか?」
「そう? まー、よく友達からも元気すぎるって言われるしー、合ってるかも……?」
「ほら、やっぱりそうじゃないですか――でも、考えてみると配役もおバカな元気キャラ多いし」
「お、おバカ!? し、心外な! 私の演技がバカ役ハマりですとっ?」
「うん、だってほら、ミルフィーナは中二キャラだけど実は天然でアホやらかすし、カリューアも“土の上にも三年”とか“積分は一見にしかず”みたいな変なことわざ? みたいなわざと間違えてんだろみたいなこと言うし」
「う、うぅ、た、確かに……!」
「ふふっ、実は明るいんじゃなくてバカ過ぎてそう見えてるだけったり……?」
「やめろぉ! 心当たりがありすぎて胸に刺さるぅ……」
「はははっ、どうやら世界の真実を衝いてしまったようだな」
「そこでミルフィーナのセリフ……!?」
おっ、ちゃんとツッコんでくれたか。語録になるほど有名だから言ってみたけどちゃんと返してくれたな彼女。バカといったけどノリが良くて本当に明るくて元気な子だ。こっちも笑顔になれる。
それにこうしてヲタクチックな会話をしたのも久しぶりな気がする。亜里沙はアニメとかゲームにも興味ないし学生時代の友達とも会うこともないしな。彼が中身が男だということなのでこういうのも気軽に話し合える。
「金藤さん、ありがとうございます。元気が出ました」
「え? いきなりどうしたの?」
座ったまま軽くお辞儀をして礼をすると不思議なモノをみるかのような表情をする。まあ、金藤さんにはその気はなかったかもしれないけどこの会話で気が軽くなった。俺としてはこのことは感謝したかった。
「……なんでもありません。あっ、よければ声優業の歌とかも聞いていいですか?」
「歌? あー、いいよ。やっぱり音楽家としてはそこに食いつく?」
「もちろんです」
そう答えると今度はアニソンなどの話になった。そして、次にはソシャゲの話になり、舞台の話なり、ついにはこのヒロインが可愛いやら、同人ゲームといったただのヲタク話へと遷移していった。
気が付けばずっと二人で話し込んでいた。これぞヲタクトークというやつだろう。ついさっき会ったばかりなのにここまでくると完全に俺は金藤さんに打ち解けてしまっていた。
俺たち二人の熱の入った談笑が響き、笑い声が響き、金藤さんのヒロイン声が響く。時間感覚が薄れて気が付いたころには俺たち二人はベットでゴロゴロと横になりながら話すというここまで来たらもうマブダチと言えるほどになっていた。
「――……じゃないですか?」
「あぁー分かる。あそこでカリナちゃんを殺すべきじゃなかったよねぇ」
「マジでそれです。完全にあの後の戦いが茶番じゃないですか!」
「うんうん、死ぬほど分かるよぉ。だってあそこから――」
「ちょっと見ない隙にずいぶんと仲良くなったのねぇ、あんたたち……」
「「え?」」
俺でもなく金藤さんのモノでもない女性の声。聞き覚えのある声だった、声の主の方を見るとそこには呆れたような顔で見下ろしている気だるそうな赤毛の女医――ここに俺を連れてきた元凶の春先生がいた。
「すまん、ノックしても返事がなかったから勝手に入らせてもらった……で、何やってんのお前ら?」
「親睦を深めるために必要な女子トークだよ!」
となりに居た金藤さんが嬉々とした表情でそう答える。それを見た春先生は「ふ~ん」とつまらなそうな表情を浮かべると掛けていた眼鏡をおでこの方に引っ掛けると嘲笑を浮かべる。
「女子トークにしては凌辱モノとか同人ゲームとかのワードが聞こえてきたけどぉ?」
「あ、いや、それはぁ……」
いやいや外まで聞こえていたのかよ。あんまり女性には聞かせられないような話――てか、聞かせたらダメなヤツっ! ぐぬぅ、少し気まずいなぁ。
ベットから跳ね起きて正座をすると叱られた子供のように肩を縮ませる。金藤さんは別に何とも思っていないのかずっと寝たままニコニコとしていた。図太い子だなこの子……
ベットで正座する俺、ずっとニコニコしている金藤さん、そしてそれらを見下すかのように見ている春先生とそんなフォーメーション。最初に動いたのは春先生でヤレヤレとした仕草を見せると。
「ふぅ、まあ、仲良くなったんなら良かった。えーと、望愛くん? 改めてさっきは驚かせてすまん。あれはお前に忠告の意味も含めてやったことなんだ。さっきも説明したことだがな」
「ええっと、すいません、それについてなんですが……」
「ん? どうかしたのか?」
「せんせー! 姫川さんはさっきのことよく覚えてないみたいだよ? 私のことも忘れてたし」
「げっ、そうなのか?」
金藤さんの言葉を聞いた先生は俺に対して呆気にとられた表情をする。俺はそれに対して深くうなずくと彼女はぼさぼさの髪の毛を掻き毟るとまたまた肩をすくめてヤレヤレと口に出す。
「そっかぁ、じゃあ、もう一度言うな――えーっと、この病気の患者が狙われる。これは知ってるな?」
「はい、それは覚えてます。お金になるんでしたよね?」
「そうだ。完全なる性転換に若返り――解剖したり実験台にもされたりと何をしても儲かるお金の塊みたいなもんだ……あっ、さっきのは演技で実際に私はしていないからな」
「分かってます。でも、なんでそんな真似を?」
「よくあるんだよこれが……海外ではこうした例がな。お前らみたいに治療をしに来た患者をさっきのみたいに拉致する。実際にさっきのは東欧で起きたことをそのままやってみたんだ。どうだろ? 怖かっただろ? それだけお前は危険な状態だったってことだ。その怖さを忘れて欲しくないためにその身で体験してもらったんだ。気楽に第三者に話して亡くなった人間もいるからな」
淡々とした口調で話す彼女だが目はあの気だるさが抜けていて鋼のように硬くて鋭い真剣な目つきだった。俺は黙って先生の話を聞く金藤さんも真面目な顔になっていた。
「で、ここからは話は少し変わるが、この病気の被害者の保護、及び治療法の確立と研究のために各国はこの病気の患者には特別優遇処置を取ることにした。まあ、簡単に言えば患者は国が保護しますよー、治療法の確立にも努力しますよー、でも、研究には力をご協力くださいってな感じだ」
「なるほど、だいたい分かりましたが研究って何ですか?」
「ああー、ほら、やっぱり偉そうなこと言うけど若返りとか完全性転換とか凄いじゃん? いろいろ保護するけどそこんとこ少し協力してくれませんか? ――てな感じ。ほら、結友ちゃんが実際に今やってるのがそれ」
先生がそう言うと釣られて俺も金藤さんの方を見る。彼女は「そういうこと~♪」とニコニコとした顔をのままそう答えた。
「――まっ、研究って言っても検査と治療のついでみたいなものだけどなぁ ――と、検査で思い出したが望愛くんは正真正銘の少女化症候群で間違いないぞ? 寝ている間にいろいろさせてもらったが間違いないな。少女化のDNAもあったし、子供も産める体に完全に変わってる。確定だよ」
「そう、ですか……じゃあ、自分も金藤さんみたいに……?」
「ああ、月に一回は来てもらうことになるな。検査は異常がないか確かめること、治療は望愛くんがどうしたいかによって決まるな。こいつみたいに諦めて女の自分を享受していくのか、少しだけ男性ホルモンの注入などして抗うのか、それとも手術をして一か八かを試すか……そこはお前次第だな。まあ、どのみち今からいろいろと大変になる――まあ、私もサポートするがな」
「ありがとうございます……」
評価ありがとうございます。お気に入りなども本当に感謝です。応援がとても励みになっています。
そろそろ本作はアイドル編へと突入します。至らない点がたくさんあるかと思いますがどうかこれからもどうかよろしくお願いします。