世界から天才音楽家と呼ばれた俺だけど、目が覚めたら金髪美少女になっていたので今度はトップアイドルとか人気声優目指して頑張りたいと思います。(ハーメルン版)   作:水羽希

19 / 21
天才音楽、アイドルなる!
アイドル生活の始まりの朝


 あの日からだいたい一週間ぐらい経ったかな。俺は完全に今までの姫川望愛としてではなく、まったく別人として人生を歩むことになった――これからは人畜無害な可憐な花として生きていく……と、言ってもあんまり実感はないけどな。

 

 仕事は無期限休業だし家にいてどこにも行く当てがないから無職みたいにだらだらとぐーたら……そりゃあ、体は性別が変わってしまうほどに変化したけど中身の変化はあまりないから劇的に性格が変わった訳でもないしなぁ……もともと休みの日は寝てるだけの人間だったし……

 

 ベットに横たわりながらスマホの電源を入れる。現在、朝の八時――と、今日も九時間睡眠か。なんかこの体になってから寝つきがいい気がする。肩もこらないし腰も痛くなりにくいし若返ったという実感がこれでもかと感じられる。あはっ……若いっていいなぁ……

 

 スマホの電源を落とすともう一度仰向けになって目を閉じる。布団の中の温もりとまぶたの裏に側に残る淡い眠気が心地よい。でも、だからといって別に眠いわけでもない体の中から溢れんばかりの生き生きとした生命力みたいなものが感じられる。

 

 あー、目覚めもいいし憂鬱な仕事もないし、こんな心境で朝を迎え入れられるなんて……よーし! 今日もたくさん遊ぶぞーっ! ……ふふ、なーんちゃって……そろそろ音楽の方もしないと腕がなまっちゃいそうだな――と、目を覚ましていつも通りに歯を磨きに行こうとしたその時だった。

 

「――え? あ、あはは……お、おはよー?」

「――え?」

 

 目を開ける。

 

 少女の気の抜けた挨拶。

 

 肺が瞬きの間止まる

 

 黒目がぼやける天井――くっきり女の子の顔を映し出した。

 

「え?」

「え? ――って、ちょ――ッ!?」

 

 突然の乱入者――一瞬だったからよく分からなかったが見たことある顔だ。

 

 俺はそのまま布団を蹴飛ばしてゴキブリを見た女の子のようにその場から離れる。

 

「――いてぇ!?」

 

 ベットから降りるときに腰を強打してしまって凄く痛い。ったく、誰だよ? と、サンタクロースもびっくりな不法侵入をしてきた人物を座ったままの視線で見上げた。

 

 白くて綺麗な脚、ちょっぴり短い黒色のプリーツスカートにお揃いで同じ色のジャケットを着ていて胸元には赤いリボンが結んである。

 

 窓から漏れ出る朝日を背に物語に出てくる神様みたいな幻想的な光景で、女の子は――人気声優の少女がびっくりした表情でこちらを見ていた。俺はお尻を摩りながらふらつきながらも立つ。

 

「……いてて、誰かと思えば金藤さんじゃないですか……」

「ご、ごめん、そこまで驚くとは思わなかった……」

 

 学校の制服に身を包んだ金藤さんが申し訳なさそうに舌を出して愛想笑いを浮かべていた。俺はパジャマ姿のまま立ち上がりくちゃくちゃになったベットの上を片付け始める。

 

「もう、凄くびっくりしましたよ……で、どうしてここに来たんですか?」

「あーえっと、その……あ、あ、あのぅ……」

 

「……? どうかしたんですか?」

 

 金藤さんらしかぬもじもじとした態度。体をすくませて怯えるうさぎみたいな声が引きつっていてとてもたじろいでいる様子だった。俺は床に転がってた枕を拾い上げてそれを片手に首を傾げる。

 

「どうかしたんですか?」

「えっと、わ、わ、私――あ、あああああっ! 本当にごめなんさいっぃ!!」

 

「へ? は? え? ちょ、ちょっと! なんで謝るの!?」

 

 不意打ちのお手本のような膝をくっつけて綺麗な九十度の角度で謝ってくる彼女。え? な、なんで謝ってくるんだこの子!? 意味が分からんぞ!?

 

 完全に面食らって口をポカンと開けてしまうが彼女は何度も謝ってくる。

 

「すいません! すいません! あの日のことは本当に悪かったです! 無視しないでください! 自分と同じ子がいると思ってついつい調子に乗ってしまって……! な、なんなら私があの下着を穿いて姫川さんの前でなんでもするから! バカにしていいからああっ!」

「お、落ち着いて! ど、どういうことなんですか? ちゃんとゆっくり話してください」

 

 激しく荒ぶる彼女に対して暴れ馬をなだめるかのような感じで落ち着かせる。よく見るとこの子泣いてるし……本当に中身は三十の男なのか? この人は……?

 

「ふ――ふぅ……ご、ごめん、取り乱して……」

「えっと、どうしたんですか? 金藤さんらしくないですよ? 泣いたりなんかして……」

 

「泣くのに決まってますよ! あの日からずっと姫川さんに無視されて――嫌われちゃったのかなって思って……ぐすっ……」

「あの日……? あっ、あの事ですか?」

 

 綺麗になったベットで二人で腰かけるとあの時のことを思い出す。そう、あの日のあの病院での下着の件のことだろう。あの後、金藤さんに「スケベ」やら「むっつり」とからかい続けられた結果、最終的には俺がへそを曲げて無視すること決め込んでしまった。そして、あの日から喧嘩別れみたいな状態になっていた。

 

「――ご、ごめんなさい、姫川さんのこと凄く傷つけてしまって……」

 

 再び頭を下げて室内に響く彼女の謝罪の声。声優だからか声に熱情が入っていて聞いてるだけでこっちが申し訳なく感じてしまう。その点は流石といったところだ。

 

 う~ん、でも、正直寝たら忘れるこの望愛様。全然気にしてない、別に金藤さんもかなり反省しているみたいだしこれ以上彼女を苦痛に追いやる理由は存在はしない。じゃあ、ここは――首を振る。

 

「ううん、気にしないでください。謝ったのならそれでもういいですよ」

「ゆ、許してくれるの……?」

 

「はい、もちろんです。もう、何も思ってませんよ? 自分もあの時は大人げなかったと思いましたし」

 

 単語一つ一つが口から出されていくたびに、本心を伝えていくたびにと枯れた花が活力を取り戻していくかのように元気になっていく彼女、日が差したような眩しい笑みをこちらに向けてくる。

 

「あ、ありがとうっ! もう、絶対に嫌がることはしないよっ!! あー、良かったぁ……もう、一生口をきいてくれないと思ってたよ……今日も無視されるかと思ってて……」

「ははは、そこまではしませんよ」

 

「で、でも、一昨日の夜に偶然に駅前で声かけた時は無視されて――それで私……」

 

 嫌なことを思い出したのか顔が曇り方をガックシと落とす。でも、そんなことよりもって、へ? 駅前で俺に声を掛けた? いやいや、どういうことだ?

 

「すいませんが、人違いじゃないですか? 私は一昨日は薬のせいで外出できませんでしたし」

「へ? ほ、本当? じゃ、じゃあ、アレは――え? でも、どう見ても姫川さんだったはず……? ど、どういうことなんですか?」

 

 気が動転したかのように目がオロオロと揺れ泳ぐ彼女の瞳。いや、それはないはずだ。あの薬のせいでとんでもないことになっていた俺は絶対に外には出れない。出たら社会的に死んじゃう。無意識のうちに外に出ることもできないぐらいだし、金藤さんの見た人は他人の空似だろう。

 

「ひ、人違いじゃないですか? 絶対に外には出れませんし」

「――ドッペルゲンガー?」

 

「まさか、そんなはずは……はは、さすがにそれはないですよ――えっと、ところでどうしてここに入れたんですか? 鍵は女になってからは人一倍気を付けているのですが……」

 

 話がややこしくなりそうだったので強引に話を切り替える。彼女も気持ち悪くなったのかこの話はやめていつも通りの状態に戻った。

 

「あー、実はね、さっきここに謝りに来た時に亜里沙って言う人と会ってここ、開けてくれたの」

「亜里沙に? アイツ確か今日は仕事なはずだろ……?」

 

 電話ですでにベルリンの方に話は通したが俺は事実上の音楽界隈からの追放的な意味で名簿から除籍された。だが、亜里沙は当然まだあそこに所属してるし別の仕事がもうすでに始まっているはず。

 

 そもそも日本にすらもういないと思っていたが――そうでもないのか? 金藤さんの言うことが本当ならまだここで仕事、もしくは休暇を取っているということになるが……あとで聴いてみるか。

 

「それにしても、亜里沙って人凄く美人さんだったなぁ――ねぇ、二人はどんな関係なの? ……うふふ、もしかしたら恋人さんだったり?」

「元、恋人です。大学時代の終わりぐらいに別れてからはビジネスパートナーみたいな関係だったんです」

 

「おーいわゆる元カノってやつ? あんなに可愛い子が彼女だったなんて姫川さんも意外とやるねぇ――私なんか男の頃はずっと童貞……彼女なんてもできやしないし、灰色の人生だったよ」

「ふふ、いいでしょ? でも、今の金藤さんにはたくさんファンがいるじゃないですか?」

 

「いるけどさぁ、やっぱり未練あるよなぁ……自分の貞操観念に……アイツは逝ってしまったの、自分の宿命を果たせずに……」

「カリューアのセリフですね。自分は――いや、宿命は果たされた。生きるという守るという立派な天性を果たして――って、返せばいいんですかね?」

 

「おお、メルフィルのセリフ! ふふ、姫川さん結構、声マネうまいねー!」

「オペラとかの演技派もしてましたから――残念ながらメルフィルの限定ガチャは当たりませんでしたけど……」

 

「ぷはははっ! 自分は当たりましたよ? カリューアは当たらなかったけど」

「自分の演技した役は出なかったんですねー」

 

「まあ、メルフィルは強いからいいけど……でも、不遇のカリューアをいじめるヲタクは許せません。あの子、私すっごい好きなんですよ。もう、はらわたが煮えくり返る……ぐぬぅ……」

「だな、弱いけど叩きが過ぎますよ、アレは……」

 

 またまた二人でヲタクトークを繰り広げる俺たち。結局は次の行動を移せたのは三十分経った後からだった。

 

「すいません、着替えと歯磨きしてきますね」

「いってらー!」

 

 ニコニコとしている彼女を残して俺は着替えと歯を磨きに洗面所へ向かう。その間、金藤さんにはさっきの部屋で待っててもらうことにした。

 

 洗濯機の前に立つとパジャマを脱ぎそれを入れる。脱衣所の引き出しに入ってた着替えを取り出して身に着けていく――あ、ちなみに下着はあのあと自分で無難なモノに買い替えた。あんなの着てられねぇし、スカートを履く以上リスクが高すぎる。

 

「……う~ん、やっぱりスカートは慣れそうにないなぁ……」

 

 鏡の中にいる金髪の女の子が意にそぐわない表情をしている。ひざ丈の赤いチェック柄のスカートに上は半そでの白いポロシャツ。適当に合わせてきてみたけどいまいち女子の服装はどうすればいいのか分からない。まあ、別に気にすることもないしこれでいいか。

 

 分からなかったら亜里沙とか金藤さんに聞いてみればいいし、そう思った次に俺は歯磨きを済ませて顔を洗い待たせている金藤さんの元へと急いで戻った。

 

「おー、おかえり! ――う~ん、もうちょっと可愛いの着れなかったの? この間のミニスカやつは髪型からして気合入ってたのに……」

「アレは他の人にやってもらったんです。それに可愛いっていうのがいまいち分からなくて――……って、何を見てたんですか? ずっと壁の方をボーっと見てたみたいですけど?」

 

「ん? あー、アレだよ。あそこに掛かってる賞状。あれって姫川さんのヤツでしょ?」

「ん――? あっ、そういえばこんなのあったなぁ、うん、これは自分のですよ」

 

 彼女が指さす方を見るとそこにはたくさんの症状が掛かっていた。居間の端に飾ってある今までの俺の努力の結晶。実家の方にもたくさんあるがここに一部だけ飾ってある

 

 全日本ピアノコンクール最優秀賞。サキソフォン独奏金賞。東アジア歌唱コンクール特別優秀賞……あと、他にも写真などがたくさん飾ってある。金藤さんはそれらを羨望の輝きを持った目で見つめていた。

 

「凄いよねぇ、全部優勝とか金賞――逆にそれ以外はないのか?」

「ないですね、確か子供も頃のヤツはいくつかはあった気がしますが……」

 

「うわぁ~やっば……本当に世界的音楽家なんだ――あっ、これって男の頃の姫川さん?」

「ん、あー、そうですよ、どうですか?」

 

 飾ってあった写真に食いつく本当に子どもの女の子のような彼女。指さす方向にはサックスを持って黒髪の女の子と一緒に映る金髪の男の姿があった。だいたい、高校生ぐらいの時のヤツだな。

 

「すっごく背が高いねー、となりの女の子と比べると小屋と豪邸ぐらいの差があるよ」

「ど、独特なたとえ方ですね……高校生の時でもう185㎝はありましたから」

 

「185ッ!? はは、男の頃の私と20㎝も違う――……今はこんなにちんちくりんなのに……」

「ちんちくりんって……確かに今は金藤さんよりも背は若干低いですけど……失礼ですねぇ」

 

「だって本当に今は小さいじゃないですか――ん? あれ? もしかしてこの隣にいる女の子って」

「よく分かりましたね。隣に居るのは高校時代の亜里沙ですよ」

 

 となりで一緒に映っている黒髪の女の子――当時、十五歳だった亜里沙だ。今の彼女とは違い髪型は肩にかかるぐらいで短めで俺の腕に寄りかかって満点の笑みを浮かべピースをしている。

 

「ずいぶんと仲が良さそうですね。若干、今の亜里沙さんと雰囲気が違う……?」

「あぁ、あの頃は本当に凄いぐらいに落ち着きがなかったからな。こうしていつもスキンシップしてきて大変だった。今の金藤さんよりも元気ッ子でしたね」

 

「マジですかッ!? 今の亜里沙さんは大人の女性って感じだったのに……」

「今はかなり落ち着いたからな。でも、たまに悪乗りするけど」

 

 あの下着のことを思い浮かべながらそう言う。でも、アイツ、大学時代まではハチャメチャな性格だったよな……? 大人になって急に変わったと記憶している。何か劇的な変化でもあったのか?

 

 言われてみると不思議なこの感覚。なんだろうか……? と、思っていたがすぐに考えを止めた。まあ、社会人になって自分も変わらないといけないと思ったんだろう。人間ってそんなもんだ。

 

 昔は昔、今は今は、確かに昔の亜里沙も今にないところがあって良かった。写真に入り浸りながらそんな遠いころの懐かしさに目を細めていると金藤さんが突然こちらに振り向くと思えば両手で俺の肩をがっしりと掴んでくる。俺は小動物のように体を震わせた。

 

「きゃっ!? い、いきなりなんですかっ?」

「うんうんっ! この実績にこの音楽能力ッ!! 絶対にいけるよっ!! ――ねぇ、今ってもう音楽の仕事やめたんでしょ?」

 

「え? あー、うん……除籍されたから引退したみたいな感じだけど……それが?」

「じゃあさ! 私みたいに声優とかアイドルしてみない!?」

 

 え? あー、あいどる? そんなこと青木にも言われたなぁ……すっかり忘れてたって――……

 

「――えっ、ええええ!?」




 今回もご愛読ありがとうございました。またまたお知らせですが章のタイトルを変更するかもしれませんのでご了承ください。次回もどうかよろしくお願いしますです!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。