世界から天才音楽家と呼ばれた俺だけど、目が覚めたら金髪美少女になっていたので今度はトップアイドルとか人気声優目指して頑張りたいと思います。(ハーメルン版)   作:水羽希

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喧嘩が絶えないメンバーたち

 だいたいあの部屋から移動してから随分と経った気がする。いったいどれだけ歩くのか? 大企業の社内を移動するのはある意味公園の外周を歩く散歩よりもいい運動になるかもしれない。毎日通うと言われれば少しだけ面倒くさいなと思っちゃうけど。

 

「――ふぅ、やっと着きました。ここでみんな練習してるはずよ」

「はい、なんだかすごく緊張します」

 

「大丈夫、ちょっと個性的な子が多いけどみんな良い子よ……入ろうか?」

 

 青木さんの言葉にゆっくりと頷くと彼女は練習中と書かれた扉を堂々と開けて中へと入っていく。俺はそんな彼女の背中に着いていき扉の中へと吸い込まれるようにして入室した。

 

「みんな、おはよう――って、あれ? 練習は?」

 

 だだっ広い部屋の中に青木さんの腑抜けた声が響き渡る。

 

 中は小さな体育館のようになっていて下手の入り口で靴を脱ぐスタイルになっている。だいたい三十人ほどぐらいは余裕で入ってしまうぐらいの大きさの室内の中でたった四人の女の子たちがジャージ姿のまま二人一組になって何かあったのか睨みながら向き合っていた。

 

「あ、青木さんっ! 大変なんですよっ!? また、二人が喧嘩して……止めてくださいッ!」

 

 ブロンズ色の髪色をした女の子がこちらの方までやって来くると奥の方を指さす。け、喧嘩って……しかも、またって言ってることは何度も起きているってことだろ? 喧嘩絶えないアイドルグループなんて大丈夫なのかよ? 空気もなんだかピリピリしてるし。

 

 肉食獣同士の戦いを見守るかのように青木さんの背中に隠れて奥の方へと目をやると確かに何かを言い合っているようだった。銀髪の髪と金髪の髪が荒ぶるように揺れていた。

 

「もう、今日は望愛ちゃんも来てるのに……いつも喧嘩して……っ!」

 

 喧嘩の様子を見ていた青木さんは盲点を突かれたかのように呆れた表情をすると肩をすくめながら喧嘩の爆心地へと向かっていた。ずいぶんとヒートアップしているの声がどんどんと大きくなる。

 

「アンタが私の言う通りに踊らないから失敗したんでしょ!? この没落貴族!」

「聞き捨てなりませんわね。平民風情がこの英国貴族の(わたくし)を侮辱するなんて!!」

 

「ふんっ! もう、私は限界よ! アンタらみたいな下手糞なヤツとはもうやれないわっ!!」

「こちらこそ同じ意見です。低レベルに合わせていた私が愚かでしたの、これからはずっと私は自分の好きなようにやらせてもらいますわ」

 

「ちょっと、アンタたち! いい加減にしなさいッ!!」

 

 初めて聞いた青木さんの怒声がビリビリと響き渡る。さっきの楽しく三人で談笑していた彼女はここにはいなかった。しかし、結構……いや、たぶんこの子らやばいぐらいに仲が悪いぞ。本当にこれでやっていけるのかよ? 一緒に歌うのにこれじゃあ絶対にダメだ……

 

 アイドル初日からチーム分裂の危機に出会わすなんて……靴を脱いだ俺はその様子をジッとした目つきで見守る。隣で心配そうにこの光景を見ていたブロンズ髪の少女と一瞬だけ目が合う。どうやら俺のことが気になっているようだがすぐに目を離して四人の方へと注目を向ける。

 

「青木さん、(わたくし)はこの下品な方たちとはやってられません。抜けさせてください。もしくはこの無能なリーダーの解雇を要求します」

「こ、こら! エレナっ! やめなさいっ!」

 

 青木さんが金髪の女の子の対してそう言うが銀髪の子は反応してしまう。銀髪の子は火山が噴火したかのように顔を真っ赤にしてさっきよりも大きな声で怒鳴る。

 

「はあっ!? あ、アンタ! 私にぶっ殺されたいの?」

「エリザも殺すとか絶対に言ったらだめっ!」

 

 青木さんが頑張って必死に止めに入るが喧嘩は止まらない。金髪の子はこんなにもドロドロとした居心地の悪い場所にも関わらず、暑い中でアイスを食べて涼んでいるかのような住んだ顔をしてる。

 

「ふむ、殺すですか……やはり下品で低劣な方ですね。脅迫罪で訴訟を起こしましょうか、きっと、我が一族の優秀な弁護士が貴女にお似合いな刑務所にお入れになさってくださるでしょう」

「やれるもんならやってみろ! この猿知恵女!」

 

「汚い言葉を使ってあたかも強者のように振る舞う。弱者の典型例ですね、ダメな人間になったらいけないという見本で全国の学校で流しましょうか? 客観的に見て動物的なのは貴女でしょう――心底、貴方たち二人には疑問を覚えずにはいられませんね。こんな低レベルな――きゃああっ!?」

「このクソ女!! 本気で死にてぇのかッ!?」

 

 銀髪の女の子の堪忍袋の緒が切れて我慢の限界に達したのか容赦ない暴力が襲った。顔を叩かれて上半身を押されて吹っ飛ばされた金髪の子はドンッ――と、鈍い音を立てて床に倒れる。青木さんも流石に怒ったのか「やめなさいっ!!」と今日一番の大声を出して殴った彼女を取り押さえた。

 

 今あの子結構ヤバい音出して倒れたけど大丈夫かよ? さすがに見てられねぇな……俺は倒れた女の子の方へと駆け寄ると様子を窺う。唇が切れて出血してるのか口元が少し赤くなっていたがすぐに起き上がり取り押さえられている銀髪の子をさっきの涼しい顔とは違って心から呪うかのような目つきで睨んでいた。

 

「流石に本気で怒りますよ? 私に血を流させるなんて……」

「アンタがあんなこと言ったのが悪いのよっ! ――もう! 離してッ! 悪いけど、もうアンタたちとは練習はできないわ!」

 

 よく見ると涙目になっている彼女。それを睨む金髪とブロンズ髪の女の子。銀髪の子を取り押さえている青木さん。それを見守る赤髪の女の子。んで、完全に蚊帳の外の俺。

 

 ホント、話に全くついていけてない。青木さん以外は全員初対面だからどういう人たちなのかも分からないし、この喧嘩が何がどうやって起きたかも全く予想がつかない。

 

 ただ、状況から整理すると結構な頻度でこの子ら喧嘩しているみたいだ。こんなんじゃあ、アイドルになる以前の問題じゃないのか? 面倒くさいところに来てしまったなぁ……

 

 ことの成り行きを見守っていると青木さんが銀髪の子を離した。すると、ずっと傍観する側に回っていた赤い髪の子がやって口を開いた。

 

「……青木さん、私たちは今日は第二室の方にいきます……行こ、エリザ?」

「同感、行きましょ……! ――じゃあ、またね。元、チームメイトさん」

 

 少し落ち着いたのか普通の声でそう言うと、解放された彼女は一緒にいたもう一人の子を連れてここから去って行ってしまった。去り際の嫌みに腹がったのかここに残った二人はムスッとした顔をしていた。

 

 バタンと扉が閉まる。嫌で冷たい居心地の悪い重い空気と俺たち四人だけがここに残された。嵐が去った後のような何とも言えない静寂さだった。

 

「エレナちゃん大丈夫?」

「ええ、少し血の味がしますけど体の方は大丈夫ですわ」

 

「ティッシュ使う?」

「お言葉に甘えて……まともなのはレティシアさんだけですわ」

 

 金髪の子とブロンズ髪の子は仲が良さそうにお互いを慰め合っていた。二人はあの子らと比べて仲が良い方なのか? 微笑みを交わし合っているし……どうやら単純なことじゃなくて結構複雑そうな問題だな。

 

 だが、しかし、最悪な顔合わせになってしまったな。さっき出ていった二人は俺のこと覚えてすらいないだろ……? たぶんだけど、認知すらされてなかったと確信できる。何のための挨拶だよと感じてしまうが一番の被害者は青木さんだろう。

 

「はぁ……こんなに酷いのは初めて……」

 

 亜里沙も言っていたがマネージャーというのは本当に神経を使うみたいだからこんなふうになっていたら身も持たないだろう。

 

 糞居づらい空気だな……みんなから一歩引いたところでボーっとこの光景を傍観し、突っ立っていると青木さんがトボトボとした幽霊のような足取りでこちらに歩み寄ってくる。

 

「はぁ……望愛ちゃんには本当に申し訳ないわ……ごめんなさい、いつもはこれほど酷くないの」

「あ、は、はい、しかし、大変なことになりましたね」

 

「まったく、マネージャーとしてどうすれば……あー、彼氏もできないしなんでこんなことに……望愛ちゃんが来たと思ったらまたまた大変なことになった、本番は近いのに全然まとまらないし、このままだったら私――左遷されて……そ、それだけは何とか阻止しないと! うぅ、今回のは酷すぎるよ……うぅ……」

 

 大事なモノを無くしたときみたいな追い詰められた表情をしている青木さん。最後らへんは何言ってるか分からなかったけど……その、マネージャーも大変だな。俺もここに入ると決めた以上は仲直りの手伝いをしていきたいんだが――

 

「叩くなんて……サイテーだよねあの人たち」

「私は本当のことを言っただけですのに」

 

 ダメダメだな。彼女ら二人はこの子らも完全にさっきの人たちを目の敵にしてしまっているみたいだ。ずいぶんと骨が折れることになりそうだなぁ……最悪、どっちの中にも入れずに共通の敵にされていじめ――いや、そんなことを考えるのはやめておこう。

 

 二人で話す少女、頭を抱える青木さん、そして、いろんなことに頭を駆け巡らせる俺。それぞれバラバラに全然違うことをしていたがそれもとある一言によって終わることとなる。

 

「ああもう! なんで貴女たちはそんなに仲が悪いの!? 暴力沙汰にもなっちゃったしどうするのよっ!?」

「大丈夫ですわ。もう、彼女は傷害罪で訴訟を起こせますわ。貴族に逆らった報いを受けてもらいます」

 

「だから、そういうことじゃなくて! どうしてエレナちゃんはそうドライなの? さっきのもそういうところが原因じゃなの?」

「ち、違いますわ。私は正しいことをしただけ……もう、さっきのはどうでも良いと思いませんか? 私はそれよりもずっとその子が気になってなりません」

 

「私も気になっていましたの。見たところ私たちと同じみたいですけど――もしかしたら……」

 

 やっと二人が食いついてくれた。よし、来たぞ! と、意気込んで俺は一歩前に出て自己紹介をする準備をする。ここはやっぱり中身が大人であるがうまくみんなをまとめていくべきだな。入ると決めた以上はこのユニットに貢献していかないと。

 

「はい、私は――……」

「この子は望愛ちゃんって言うの、貴女たちと一緒の新入組よ。本当はあの二人を入れて今日は仲良く自己紹介しようと思っていたんだけど……喧嘩しちゃってたからこんな感じに」

 

「そうでしたの? ごめんなさいね。見苦しいところをお見せしてしまって」

「……あ、ははは、気にしてないのでいいですよ……とほほ」

 

 青木さんに先を越されて紹介されてしまった。まあ、いいや、二人の表情をから見ると悪い印象を抱かれてる感じではなさそうだ。よしよし、ここから上手く溶け込めていってなんとかみんなの仲を良くしていければなんとか持ち直せるか?

 

 考えふける俺に金髪の子が歩み寄ってくる。

 

「うふふ、じゃあ、私も紹介させていただきますわ。私の名前はエレナと言います。お母様のイギリスの高貴なる貴族の血と日本の大企業の社長であるお父様の血を引く完璧な人間でございますわ。同じ新入組として頑張っていきましょうですわ」

「は、はい、よろしくお願いします……」

 

「ふふ、大船に乗った気分でいなさい」

 

 その大船、仲間と撃ち合って沈みそうなんですけど……まあ、いいや。

 

 彼女は俺とは違ってどちらかと白色に近い金髪をした女の子。イギリス貴族の末裔らしいエレナさんは自信満々な様子で自己紹介してくる。目は俺とは違ってエメラルドグリーンで釣り目気味。背丈や体格は俺よりも少し大きい。

 

 髪型は長い髪を後ろで止めてポニーテール。残念ながら来ている服がジャージなために華に欠けるけど振る舞いや行動などに身から溢れる気品がある感じがする。子供の割には振る舞いが丁寧だったり、一つ一つの仕草や動作だったりに高貴な自信が含まれているような……でも、どこか棘があったりようにも感じられるたぶんこの子の身から溢れるプライドの高さがそう感じさせているのだろうか。

 

 エレナさんのとなりに今度はブロンズ色の少女がやって来る。

 

「私はレティシアって言います……あ、いちおう出生のことを言うとお父さんが日本人でお母さんがフランス人です。特に貴族とかそういうのはないけどアイドル活動頑張ってます!」

「こちらこそよろしくお願いします! レティシアさん!」

 

 今度は金髪ではなく綺麗な銅色の髪の毛が舞った。目は俺と同じ青い色をしているが彼女の方が薄いような気もする。髪はそこまで長くなくてレッスン中に髪を結ぶ必要がないぐらい、ボブカットというやつだろうか。

 

 エレナさんとは違ってどちらかというと金藤さんのような性格のタイプと見た。二人とも、こうやって見てみると普通だけど何がそんなにこの子を喧嘩に入り浸ってしまうのか?

 

 とにかく、まだまだよく観察していく必要がありそうだ……




 今回もありがとうございました。もしかしたら、一部書き直すかもですがその時はまた軽くチェックしてくれると幸いです。
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