世界から天才音楽家と呼ばれた俺だけど、目が覚めたら金髪美少女になっていたので今度はトップアイドルとか人気声優目指して頑張りたいと思います。(ハーメルン版) 作:水羽希
もし、アカウントを変えて生放送に参加していたらこんなことにはならなかっただろう。一人の女の子ユーザーが現れて終わり。これだけの話だ。
でも、現実はもう何も変わらない。本当は男なのにノア=女の子という構図ができあがり、それはもう変えようのない事実となってしまった。
亜里沙のことをさんざんバカ呼ばわりしたが、俺もたいがいかもしれない――ってか、この場をなんとかして収めないと完全に配信が俺の話題一色に……
[もう一度声聞かせて~]
[俺も聞きたい]
[チャンネル登録した]
[ノアさんの好きなアニメってなんですか~?]
――……ダメだ。完全にもう手遅れだ。ほほろさんもゲームそっちのけで俺に対する話題で盛り上がってる。
『もしもーし! ノアさん? 返事をしてください!』
どうやら呼ばれているみたいだ――俺はゴクリと生唾を飲み込む。ゲーム機を握っていた手にはじわっと汗が現れ、全身の血液が凍らされたかのようにスーッと冷たい悪寒が背筋を走った。
もう! 俺は舞台専門でこういうネットでスポットが当たるのに耐性はあんまりないんだよ……ってもそんなことは言ってられないし――
「は、はい! き、聞こえてますよ!! ちょっと眠たくてボーっとしてました!」
と、平然を装って返事を返す。もう、正直どうしようもないので生主のほほろさんに頼るしかない。
できるだけ負担にならないように頼む! と、願うしかないが彼もまた男だった。鼻の下を伸ばしたような声が耳に入った。
『へへ、本当に声可愛いですね~、若々しくて――って、気になったのですけどおいくつなんですか?』
「え、え? え~と、そのぅ……」
返答に困って自信なさげな声が漏れる。だからこういうの苦手なんだって!! 俺は音楽家であってこういうのはあんまり無理なんだって!!
しかも、実年齢は24歳だけど、今の身体は何歳かって分かる訳ねーだろ! いったい、なんて答えればいいんだよ!!
この感情をぶつけるところが無くて火山が噴火する如くに心の中で罵倒する。睨みつけたスマホの画面では……
[声可愛すぎて草]
[え~? 声優さん!?]
[困ってる声も可愛いいいいいいいいいいい]
[
[声優の金藤結友さんよりも声好きかも]
[女性に歳を聴くの失礼ですよ?]
[いや、声優のゆみりんだろそこは!!]
チャット欄も盛り上がっているようで――おほほほ……こんちくしょう……! きっと彼らの脳内では俺はきっといかがわしい妄想に晒されているのであろう……くそぉ。
ギシギシと歯ぎしりをして女になってしまった自分のことを呪っているとほほろさんが申し訳なさそうな声を出す。
『えっと、すいません。年齢を聴いたのは失礼でしたね……』
「あ、いえ、事情があって言えなくて……」
『そうでしたか。軽率な質問でしたね……すいません。あの、違う話ですが音楽がお上手で声が綺麗ですのでもしかしたら声優さんでしょうか?』
「あ、ち、違いますよ? 音楽をやっているただの女の子ですよ~」
絶賛、世界で活躍中の――と、心の中で付け加える。このあともこんな感じの無難な会話が続いていく。
ゲームではなくなったが、比較的しばらくは平穏でなんとか終われそう……んなわけないだろ。案の定こちらは良くてもチャット欄に妙な兆しが生まれていた。
[ゆみりんにそっくりな声で音楽もできるなら絶対にせいマジ上手い]
[それ思った。歌って欲しい]
[ノアさんのせいマジ聞きたい]
[もはやゲーム関係なくて草]
と、なにやら嫌な予感が漂ってくる。あ、これ絶対に歌わされるヤツだ。ちなみに、せいマジとは今期の大人気アニメのOPの略である。ポップさが売りの人気曲。
まあ、そんなことはどうでもいい。だから、何度も言っているが舞台での発表はともかく不特定多数のネットでのこういうやり取りはまったく耐性がない。興味はあるけど……
ともかく、まあ、ここは強引にでもゲーム配信に戻っていただかないと……そもそも、ゲーム目当てで来てる人も居るからダメじゃないか。うん、これは俺が正しい……
「ほほろさん、そろそろ――」
『おっ! せいマジか。いいですねー……ノアさん、急だけど歌えますか?』
「…………」
――どうしてこうなった……