世界から天才音楽家と呼ばれた俺だけど、目が覚めたら金髪美少女になっていたので今度はトップアイドルとか人気声優目指して頑張りたいと思います。   作:水羽希

9 / 10
スカウトされちゃった!

 

「あー、この人ね。アイドルマネージャーなの」

「アイドルマネージャー? アイドルって……あの?」

 

 頭の中でよくあるアイドル像を思い浮かべる。キラキラのステージで歌い踊る美少女たちに観客たちの熱気と声援。

 

 俺も音楽家としてステージによく立つが同じステージで発表する俺たちとは違った存在。

 

 そのステージを作っている関係者が目の前にいるなんて……さっきと違い彼女が変な人ではなく立派な人に見えた。一音楽家としてはとても興味があるしステージを作る人間に悪い人はいないと思っている。

 

 くぅー! そんな人と話せるチャンスがくるなんて。目の前の鏡の中にいる金髪の少女の宝石のような青い目がよりいっそう輝きを増した。

 

「あ、あの! よければアイドルマネージャーの仕事についていろいろ教えてくれませんか!?」

「え? もしかしたら結構食いつきがいい……?」

 

「はい! 俺、音楽好きなんですっごく興味があります!!」

「は、はぁ……」

 

 パーマの女性は口をあんぐりと開けて驚いている。後ろにいた坂橋さんも急に豹変した俺を見て驚きを隠せずにいた。

 

「ま、まあいっか! この子が乗り気なら簡単に勧誘できそうだし」

「こら~、それとこれとは話は別よ。お仕事のお話をするだけならいいけど、ここでビジネスの話はやめてよね?」

 

「分かりましたー、えっと、アイドルマネージャーの話だっけ? いいよ、たくさん教えてあげる!」

「ありがとうございます!!」

 

 笑顔でそう言う彼女に対して晴れやかにお礼を述べた。やった! こういうのは現場で働く人に聞くのが一番ためなるからな。ラッキー!

 

 どんな話を聞けるのか楽しみで胸が膨らんだ俺は彼女に耳を傾ける。坂橋さんが俺にエプロンをかけ同時に散髪をしながらの雑談会になった。

 

 彼女――青木さんの話はどれもが面白そうで楽しそうで興味の泉が湧き上がってくるかのように俺はアイドル話にのめり込んでしまっていた。

 

 裏方の仕事。アイドルの練習や曲の決め方に踊りといった振り付けはどうやって作っているのか。

 

 普段なら聞きようのない裏の裏のまで……今日、ここまで来てどれほど良かったと感じたか。子供心を思い出したかのように素直に聞き込んでいく俺に対して青木さんのトークはより激しさを増していく。

 

「もう、完全に私が入る余地ないじゃないの……」

 

 髪の毛を切っていた坂橋さんがしょんぼりとしながらそう言った。途中までならなんとなくでついてこれた彼女だったが俺と青木さんの話が深くなればなるほど会話に参加する機会がなくなりついには二人だけの話になってしまった。

 

 ついには青木さんがパーマを掛け終わったのにも関わらず、別のお客さんに席を譲った彼女は立ち話をしてでも俺たち二人の話は続き――……

 

「へぇ~、音楽プロデューサーってそんな風に曲を作っていたんですかー!」

「うんうん、普段はあんなにどんくさいのに曲を作るときはホントに凄いのよ? グループのこととかを精密に細かく分析してその子にあった曲をそりゃあ完璧に作っちゃうんだから!」

 

「グループってアイドルのですよね?」

「うん、アイドルはチームプレイだからその子のってよりもグループで作るってのが定跡よ?」

 

「なるほど~そうなんですかー? ……あっ、そういえば青木さんってマネージャーなんですよね!? どんなユニットのマネージャーなんですか? 有名だったりするんですか?」

「え? えー、あのー、その……へへへ、ちょっと困ったなぁ……」

 

「……? どうしたんですか?」

 

 ここに来て表情に曇りを見せた彼女。いったいどうしたんだろうか? 言いにくいことなのか? 疑問に思っているとずっと口を閉じていた坂橋さんが突然口を開く。

 

「えーと、青木さん、言いにくいのなら私からノアちゃんに私から教えてあげてもいい?」

「あはは、いいですよ。ここまで聞いてくれたんですから……」

 

「分かったわ。あのね、よく聞いてね? 実は青木さんの担当ユニット……解散の危機なのよ」

「――え?」

 

 言いづらいことだからネガティブなことだとは予想していたがそこまでだったとは。

 

 こっちの業界でも成功する人もいれば成功しないで終わっていく人もいる。よく音楽を目指す人間は山のようにいるがその道のりは思ったよりも険しい。なぜなら、演奏家などもそうだが音楽というのはとってもお金がかかる。いろんな意味で。

 

 例えばだが、もし、今の俺が音楽家になれなかったらどうなってただろうか……? 

 

 俺も小さいころからたくさんのことをしてきた。お金もかけてきた。でも、失敗して落ちればそのかけてきた時間やお金は水泡となる。考えただけでもぞっとする……

 

「あ、あのぅ……それって結構やばい感じですか? 何とかなりそうな感じですか……?」

 

 俺は恐る恐る彼女にどの程度のモノかと尋ねてみる。すると、心配を掛けたくないのか見るのが痛々しいほどの作り笑いを浮かべると。

 

「ちょっと、ピンチかも? ハハハ、抜けちゃう子もいるし、やめる子もいるし、スポンサーも離れちゃうし……」

「それってやばいじゃないですかっ!? どうするんですか……?」

 

「う、うん、なんとか今は社長のおかげでもってる――でも、五人中二人しか残ってないから新しい子探してて――……こういうこと」

「あ、あー、だからかぁ……」

 

 彼女にそう言われてやっと理解できた。なぜ、勧誘を行っているのか? その理由が。

 

「んで、ノアちゃんどうかな?」

「え? 何がです?」

 

「ほ、ほら! ここまで来たら分かるでしょ?」

「え? えー? 分かりますけど……う、う~ん……」

 

 青木さんから羨望の眼差しで見つめられる。改めてこうしてスカウトされると……ど、どーしよ?

 

「お願いっ! ノアちゃんなら絶対にいける! だから――」

「で、でも、自分は……」

 

「みんな本当にいい子なの! 私、あの子たちのこと助けてあげたいの! だからーー」

 

「はーいはーい! 話はそこまで!! 続きはお店の外でやってね? ……青木さんも気持ちは分かるけど、ノアちゃんは中学生よ? 子供んなんだから混乱しちゃうわよ?」

 

「ぐぬぅ、分かりました……! えっと、ノアさん!!」

「は、はい!!」

 

 急に大声で名前を呼ばれて驚いてしまう。鏡の中には綺麗に整えられたミディアムロングの髪型をした金髪の子がびっくりしている様子が――あー、いつの間にか終わってたのか……って、今はそんな場合じゃないな……!

 

 散髪が終わったことを確認すると椅子から降りて青木さんと向き合う。

 

「これ! 私の連絡先です! よければ連絡してください!! 助けてください! お願いします!!」

「りょ、了解しました……!」

 

 電話番号とメールアドレスが書いてある紙を受け取る。俺が受け取ったのを見ると青木さんは「それでは!」と、風のようにこの場から去っていた。

 

 そんな彼女の背中を見守って呆然と立ち尽くしていると坂橋さんが切った髪の毛を片付けながら呟くように話す。

 

「まー、あの子もチームを守りたいって想いがあるから悪く思わないであげて」

「は、はい、分かってます……」

 

 彼女にそう言い返すとこのお店で起きた騒動は終わりを告げた。

 

 

 

「――という話をさっきしてたんだけど、どう思う?」

「いきなりですね。普段なら私もノアさんがしたいっていうのなら止めませんけど、状況が状況ですからねぇ……」

 

 亜里沙はしかめっ面をしながらそう答える。

 

 あれから店をあとにした俺たちは次の目的の場所へと進みながら先ほどまでの話で盛り上がっていた。

 

 春の並木を歩いて心地よく温かい空気のはずなのにスカートに入ってくる風はなんだか冷たく感じられる。通行人にもじろじろ見られるし疲れるわ。

 

 心に何かが突っかかる感覚を抱えつつ春の青空の下で会話を続ける。

 

「今はこんな体になってしまったから休止中――ってことになってるんだよな?」

「はい、今はそういうことになってますね。もちろん早く治すように原因究明に全力を尽くせと言われてますが」

 

「治せって……一般の医者はこんなのに対応できるのか?」

「でき――ないと思いますよねー、まあ、私は一生ノアさんがこのままでもいいと思いますけど?」

 

「縁起が悪いこと言うなよ。さっきから通行人にチラチラ見られてて疲れるんだけど?」

 

 見世物を見るかのようにこちらを見てくる通行人に対して目をやると亜里沙もその人を見る。主に男性中心で俺をなめるような視線で見てくる。きっと、風のいたずらで俺が卑猥な姿を晒さないかとかでも考えてるんだろ? 野郎どもが……ちくしょう。

 

「ふふ、モテモテですね。アイドルもまんざら悪くないんじゃないんですか?」

「ふざけんな。アイドルはいいとしてこんなのは認めんぞ」

 

「えー、アイドルはいいんですか?」

「ま、まあな、ちょっとどんなのか興味あったし」

 

「ふ~ん、それってそのユニットを助けたいって意味で? それとも音楽好きっていう意味で?」

「……両方」

 

「ふふふ、ノアさんらしいですね。でも、無理かもしれませんよ?」

「――でも、聞いてみないと分からないだろ?」

 

「そうですね。とりあえずは性転換した原因……それを見つけてからですね!」

 

 亜里沙がそう言うと俺たちはとある場所へと向かった……


▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。