剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
私『
小さい頃に見たアニメの影響で、剣を振るってド派手に戦うキャラに強く憧れるようになった。
飛天○剣流を使いこなす伝説の人斬り。
海賊王の右腕である三刀流。
オレンジ頭の死神代行。
某大泥棒の仲間にしてなんでも真っ二つにする13代目。
その他諸々。
彼らの勇姿が私の脳裏からは離れない。
その想いに突き動かされるまま、幼稚園時代はチャンバラ遊びを繰り返し、小学生時代からは親にねだって剣道を始めた。
最初こそ剣を振るのが楽しくて仕方なかったけど……少し成長すればこれじゃないと感じた。
私が求めてたのは、アニメのキャラ達のような剣を使ったド派手なバトルだ。
だけど、剣道は自らを鍛えること、他者と競うことを目的とした競技剣術であって、命を賭けた斬り合いをする本物の剣術ではなかった。
そもそも現代社会で命懸けの斬り合いなんてできるわけないし、万が一、億が一、そういう古流剣術を教えてくれるような人に巡り会えて、合法的に命のやり取りができる紛争地帯にでも行ったとしても、ここが現実世界である限り、私が真に憧れたアニメのような人間の限界を超えたド派手バトルをすることなんて絶対に不可能なのだ。
現実とフィクションの区別がつく年齢になった私は、自分の夢が絶対に叶わないと知って静かに絶望した。
それでも、私は剣道を続けた。
一度始めたことを簡単に投げ出すのはよくないと親に言われたからでもあるけど、一番の理由は、望んでいた形とはまるで違うとはいえ、未だに胸を焦がす憧れに少しでも近い場所にいたかったから。
もうね。憧れが強すぎて、剣を握ってないと禁断症状が出るんだよ。
プロ野球選手に憧れて夢破れたけど、野球自体はどうしてもやめられないほど好きだから、仕方なくアマチュアの団体に入るみたいな感じかな。
いや、どんなに頑張っても理想に届かない私の絶望は、そんな例えの比じゃないんだけどさ。
でも、そんな強迫観念にかられて剣を振り続けたおかげで、最近では並み居る男を抑えて最強の学生剣士と呼ばれるようになった。
素直に嬉しくはあるけど、やっぱり心は満たされない。
最近流行りの異世界転生でもして、剣と魔法の世界に行けないかなーと本気で考えてる自分がいる。
もう高校生だというのに、未だ立派な中二病患者だ。
憧れとは、かくも度し難い。
だが、そんなことを考えていた私に奇跡が起こる。
「オギャー! オギャー!」
今、私の隣では綺麗な緑の髪をした赤ちゃんが元気に泣いていた。
緑の髪。
現実ではお目にかかったことのない色だ。
赤ちゃんである以上、染めてるということもない。
しかも、
「*ー、****。************」
その赤ちゃんを抱き上げてあやす金髪の男性。
彼は聞いたことのない言語を話してるけど、何より驚くべきは、彼と赤ちゃんの耳が人間とは思えないほど長く尖ってることだ。
言語だけなら知らない国の言葉かとも思う。
剣道に逃げ、もとい没頭してた私の学業の成績は底辺を這ってたから、正直これが英語とかでもわかる気がしない。
でも、長く尖った耳は別だ。
こんな種族、地球にはいなかったと断言できる。
極めつけは……
「****、********……」
何やら気遣わしげな声をかけながら、私を抱き上げる綺麗な女性。
この人は別に耳が尖ってる訳でもなく、割と普通の外見をしてる。
でも、問題はそこじゃない。
仮にも女子高生だった私を、この細腕で軽々と持ち上げてることだ。
この人が見た目に見合わない怪力を持ってるとかでは、多分ない。
単純に、今の私が小さくて軽いのだ。
比喩でもなんでもなく赤ん坊のように。
ここまで説明すればおわかりだろう。
なんと、私はマジで異世界に転生したらしい。
それも耳の長い種族(恐らくはエルフ)なんてものがいるファンタジーな世界に。
記憶をひっくり返せば、原因はすぐに思い出せる。
キッカケはあまりにもお約束な展開。
暴走トラックに跳ね飛ばされて死んだことだ。
なんか痴話喧嘩してた同じ学校の制服着てる人達に気を取られた隙に、背後からのアンブッシュで一撃だったよ。
いくら鍛えてても、命の危険を想定してない競技用の鍛え方じゃ、本物の命の危機には対応できないってよくわかりました。
で、「あ、これ死んだな」って思いながら意識が消えたと思ったら、気がついたら赤ちゃんになってたわけだ。
最初は普通に混乱したし、隣で寝かされてる恐らくは兄弟と思われる緑髪の子と一緒になって泣いたりもした。
だけど、私は割とすぐにこの第二の人生を受け入れた。
むしろ、この人生にこそ前世では叶えられなかった希望を抱いたと言っていい。
だって、エルフなんてファンタジーな存在がいる世界なら、もしかするともしかするかもしれないのだ。
剣を手に、並み居る強敵をド派手な技でバッサバッサと斬り伏せる。
そんなファンタジーな剣士がいるかもしれない。
そんな剣士に私がなれるかもしれない。
若くして死んだ前世に未練がないと言えば嘘になるし、死に別れた前世の両親や友達には悪いことしちゃったなとも思うけど、この熱く燃え上がる胸の高鳴りを誤魔化すことはできない。
ああ、やはり憧れとはかくも度し難い。
それでも、この憧れに身を委ねることができるかもしれないということが、誇張抜きで死ぬほど嬉しい。
私は! この世界で最強の剣士になる!
好きなことでナンバー1になる!
「おー!」
「!? *、**********?」
突然大声を出した私に、私を抱き上げてた女性(多分、今世の母)がびっくりしてしまった。
あ、ごめんなさい。
最近は双子のお世話で育児ノイローゼになりつつある両親を煩わせないために大人しくしてたから、突然大声出したりなんかしたら驚かれるよね。
情緒不安定な子と思われたかも。
とりあえず体が成長するまでは、この素晴らしい世界(予想)に産み落としてくれた家族に感謝して、精一杯恩返ししておくとしますか。
親不孝しちゃった前世の両親の分まで。