剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「勝っ、た……?」
「くっそ、オレの負けだ」
時が経ち、8歳の誕生日を迎えて少しした頃。
私はギレーヌの使っていた必殺技の劣化版みたいな技をようやく習得し、それを見た師匠に卒業を賭けた真剣勝負を持ちかけられた。
本気で私を殺す気なんじゃないかってレベルの、かつてないほどの気迫を漲らせて襲いかかってきた師匠。
剣神流の技、水神流の技、冒険者として磨いた狡猾な立ち回り、更には姑息だから嫌いって言ってた北神流の技まで存分に使って、師匠は本気の本気で私を倒しにきた。
その師匠を、私は激闘の末に倒した。
紙一重だった。
身体能力的には生まれついての体質もあって互角だったし、単純な技の精度でも師匠と互角と言えるレベルまで私は成長したけど、実戦経験の差だけはどうしても大きく劣り、戦いは終始私の劣勢だった。
ギレーヌから盗んだ技が無ければ、間違いなく負けてたと断言できる。
だけど、勝利は勝利。
私は今日、師匠を超えた。
「あー、くそ。負けたってのにあんま悔しくねぇや。闘争心が衰えてるのかね。
オレも歳を食ったってことか。昔はお前みたいな才能の塊見たら嫉妬しか湧かなかったのになぁ」
地面に大の字に寝転がり、嘆くような口調だけど、どこか清々しい顔の師匠。
そんな師匠に対し、私は自然と口を開いていた。
「多分、師匠が、悔しく、ないの、私の、剣が、師匠の、剣だから。
師匠は、私に、負けたんじゃ、ない。
剣士と、しての、師匠を、師匠と、しての、師匠が、超えたんだと、思う」
私の言葉に、師匠は目を丸くした。
これは紛れもない私の本心だ。
私の根幹を支えてるのは、師匠から教わった剣術だ。
前世で培った剣道という土台と、魔眼っていう才能を受け皿にして教え込んでくれた師匠の剣が私の根底に根付いて支えてる。
盗んだギレーヌの技だって、ベースになったのは師匠から教わった無音の太刀だ。
「私が、凄いんじゃ、ない。私を、強くした、師匠が、凄い」
そこまで言ってから、私は師匠に向かって深く、深く頭を下げた。
「ありがとう、ございました。私を、ここまで、強く、してくれて」
心からの感謝を込めて、心からの尊敬を込めて、師匠にお礼を言う。
そんな私を見て、師匠はちょっと目を丸くしてから、照れたような顔で私の頭を撫でた。
「なるほどな。言われてみりゃ、お前の動きにはオレの面影ばっか見えたわ。
自分が1から育て上げた弟子が立派になってくれたんだ。そりゃ師匠として、悔しさより嬉しさの方が先に来るよな。
……こっちこそ、ありがとなエミリー。お前みたいな奴の師匠になれて幸せだったよ」
「師匠……」
「卒業おめでとう。だけど、お前はまだ剣術でオレを超えただけだ。実戦では剣術だけじゃどうにもならないことも多い。
罠にハメられて、剣を振るう前に負けるかもしれない。あるいはもっと簡単に、寝首をかかれてそのまま死ぬかもしれない。
こうなったら、そういう時の戦い方までオレが知ってる全部を叩き込んでやる。
そもそも、お前にはまだ魔物との実戦とかもやらせてなかったしな。剣術部門は卒業だが、まだまだ学ぶことは多いぞ。覚悟しとけ」
「はい!」
そうして、私は師匠の修行剣術部門を卒業し、剣士として大きな一歩を踏み出した。
そこから先は、宣言通り師匠が生きてきた中で学んだ色んなことを徹底的に教えられ、師匠と同じパーティーで冒険者やってたゼニスさんにも教えられ、魔物との実戦経験も積み。
1年が経って9歳になる頃には、現役時代の師匠とゼニスさんを足したくらいの実力だと当の本人達に認められるまでに成長した。
もちろん、それは技術や知識だけの話で経験が足りないから、まだまだではあるんだけど。
それでも、今すぐに冒険者を始めてもやっていけると太鼓判を押された。
ただ、私のポンコツっぷりは矯正し切れなかったので、教えられたことをちゃんと実践できるかは別問題とも言われたけど。
そこは師匠超えの剣術と差し引きでチャラってことになった。
ポンコツとチャラになるまで鍛え上げた剣術を誇るべきか、そこまで鍛えた剣術がないとチャラにならないポンコツを恥じるべきか……。
それはともかく。
前々から話に聞いてた冒険者っていうのは、冒険者ギルドってところが出してる色んな依頼を片付けるために、様々なところに行く何でも屋だ。
つまり、魔物とか野盗とかが跋扈するこの世界を自由に旅できるほどの能力を持ってるってこと。
その冒険者になれると言われたってことは、村の外へ行っても大丈夫だと言われたようなものなのだ。
後日、私は師匠と両親に許可を貰い、ギレーヌとついでにルーデウスが待つ『城塞都市ロア』という街に徒歩で旅立った。
もちろん、ルーデウスとの接触禁止令が出てる姉には内緒で。
さあ、いざ行かん剣王のもとへ!
私の冒険はこれからだ!
パウロは息子が自分の剣術を継いでくれなくて行き場を失ってた情熱をエミリーに注ぎ込んでくれた感じです。
このタイミングじゃなければ、ロキシーの師匠みたいに、普通に弟子の才能に嫉妬してたかもしれませんね。