剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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99 VS『闘神』

「『破断』!!」

 

 闘神が動き出した瞬間、私は遠距離から破断を叩き込んだ。

 肩に乗ったギースさんを守るように、闘神は私の一撃を六本の腕を盾にして防ぐ。

 鎧が少し砕けたけど、発動速度を優先して不治瑕を使わなかったから1秒としないうちに全快された。

 姉弟ってだけあって、アトーフェさんと同じ手合いだ。

 しかも、防御力がアトーフェさんとは桁違いな上に、鎧にまで自動修復機能がある。

 

 だけど、吹っ飛ばして多少の距離を稼ぐことはできた!

 さすがに、ロキシーさんとかスペルド族の人達とか、戦闘不能になった人達が多くいる場所で戦える相手じゃないからねあれは。

 

「ルーデウス!!」

「ッ!!」

 

 この中で一番良い作戦立ててくれそうなルーデウスに頭脳労働を任せて、私は闘神に突撃した。

 列強上位に一人で勝てるとは思ってない。

 それどころか、この場の全員でかかっても無理だと思ってる。

 

 だからこそ、私の仕事は時間稼ぎ。

 ルーデウスが何かしらの対抗策をひねり出すか、あるいは撤退が完了するまで、ひたすら時間を稼ぐ!

 ついでに、どうすれば倒せるのか色々試して、あわよくば列強三位の座を貰う!

 

「不治瑕北神流奥義『破断』!!」

 

 最高火力2連発。

 しかも、今回は回復封じ、不死殺しの斬撃。

 少しでも効果があることを願って、斬撃飛ばしではなく魔剣『仙骨』の刃を直接叩き込む!

 

 結果、私の一撃は闘神の腕の一本を両断した。

 

「ほう! 凄まじい一撃だ! しかも、カールマンの技か! 再生できぬわ!」

 

 あれ!?

 効いた!?

 確かに、闘神の言う通り、斬り飛ばされた腕が再生する様子はない。

 傷口は蠢いてるけど、腕も鎧も分離したままだ。

 

 これひょっとして行ける?

 相性最高とか、そういうパターン!?

 

「ぬん!」

 

 あ、無理っぽい。

 闘神が肘から先が無くなった腕を含めて、6本中4本の腕を体の中に引っ込めた。

 すると、ただでさえ大きかった闘神の肉体が更にむくむくと膨れ上がる。

 装甲もさぞ分厚くなってることだろう。

 もう破断ですら深手を与えられる気がしない。

 

 というか、その謎の生態も、それに対応する鎧も滅茶苦茶すぎない!?

 不死魔族の特異極まる戦い方にも即座に対応する黄金の鎧。

 これが闘神の代名詞『闘神鎧』か。

 ルーデウスが魔導鎧を開発する時に参考にしたっていうオリジナルの鎧。

 オルステッドの話だと、模造品の魔導鎧を遥かに超えるという最強装備。

 詳しい性能までは知らないけど、滅茶苦茶やばいってことは今のだけでよくわかった。

 

「ハァ!」

「!」

 

 闘神が拳を振るう。

 さっきより更に太くて逞しくなった腕による、大砲のような一撃。

 でも、今まで戦ってきた達人達と違って、技術は大したことない。

 スピードも速いことは速いけど、アレクよりも遅い。

 全然対処できる範囲。

 

「奥義『流』!」

 

 水神流の奥義で拳を受け流す。

 その拳が地面に突き刺さり、地面が爆発した。

 受け流した時の手応えでわかってたけど、奥義でも何でもない通常攻撃のくせに、なんちゅう威力!?

 龍聖闘気もどきがある私なら何発かは耐えられると思うけど、他の皆だと直撃したら確定一発で死ぬよこれ!

 しかも……

 

「ッ!?」

 

 流の真骨頂、受け流しからのカウンターを浴びせてみたけど、鎧の表面を削ることしかできなかった。

 その傷も瞬時に回復されてノーダメージ状態に戻る。

 だったら!

 

「もう一発! 『破断』!!」

 

 一縷の望みをかけて、三度最高火力の技を振るう。

 闘神はそれをガードもせずに胸で受け……鎧をギリギリ貫通する程度の結果に終わった。

 しかも、闘神鎧の回復力は不死魔族とは次元が違うのか、多少の回復阻害はできたものの、3秒で修復された。

 

「フハハハハハ! かすり傷である!」

「うっ!」

 

 反撃の拳を受け流しながら考える。

 無い頭を振り絞って考える。

 破断を食らわせ続けて、そのダメージで押し切れるかどうか。

 

 無理。

 手応え的に、鎧は修復されても、その中のバーディさんの肉体には傷が残ってると思う。

 でも、本人の言う通り、かすり傷程度のダメージだ。

 いくら回復封じの不死殺しの剣とはいえ、かすり傷の積み重ねであれを倒し切ろうと思ったら、何千何万回の破断を叩き込まなきゃいけないのかわからない。

 確実にこっちのスタミナが先に尽きる。

 

 これが『闘神』の力……!

 スピードは大したことない。

 パワーは凄いけど、充分に受け流せる。

 だけど、防御力と耐久力が尋常じゃない。

 相性最高の不死殺しの剣技があってなお、到底削り切れないほどに圧倒的だ。

 

 例えるなら、HPが1億とかある感じ。

 しかも、特定の攻撃以外によるダメージは自動回復ですぐに治る。

 どうやって倒せと!?

 

 これが列強上位の一角『闘神』。

 オルステッドとは方向性の違う化け物だ。

 でも、戦えなくはない!

 相性が良いっていうのだけは本当だ!

 

「ガァアアアアアアア!!!」

「オラァアアアアアア!!!」

 

 と、そこでエリスさんと師匠が応援に来てくれた。

 エリスさんは愛剣である『鳳雅龍剣』を手に、師匠は鬼神との戦いで折れた剣の代わりに、ガルさんの愛剣だった魔剣『喉笛』を持って、闘神に挑みかかる。

 

 使ったのは二人同時の光の太刀。

 エリスさんはちょうどいい位置にあった足を刈りにいき、師匠はギースさんだけでも仕留めようとしたのか、ジャンプして肩の上のギースさんを狙った。

 

「うぉ!? 怖ぇな、パウロ」

「チッ!」

 

 でも、師匠の攻撃は闘神の腕に防がれ、エリスさんの足刈りも私の通常攻撃と同じく、黄金の鎧を多少削ってすぐ回復されるだけの結果に終わる。

 

「北神流『色彩時雨』!」

「ぬ!?」

 

 だけど、闘神の意識が二人に向いた瞬間、いつの間にか上空をムササビみたいに滑空してたオーベールさんから、まだ持ってたらしいペンキ魔道具による色彩の雨が闘神に降り注いだ。

 直接攻撃じゃなくて、ペンキを目にでも浴びせて視界を奪うための技。

 

 上手い!

 と思ったけど、ペンキは闘神に当たる前にかき消えた。

 まるでヒュドラに魔術を無効化された時みたいに。

 あの鎧、まさか魔術耐性まであるの!?

 

「なんと奇っ怪な……」

「撃ち抜けぇぇええ!!」

「おぶっ!?」

 

 しかし、今度は奇っ怪なムササベールさんに意識がいって、多分目を丸くしてるだろう闘神の隙を突いて、ルーデウスの岩砲弾(ストーンキャノン)ガトリングがギースさんを直撃した。

 見れば、ルーデウスが予備の一式に乗り込んで、ガトリングをギースさんに向けてる。

 

「おー、危ねぇ危ねぇ。戦闘はからっきしのギース様にこの戦場は辛いぜ。とっとと逃げさせてもらうとするか」

 

 でも、何故かギースさんはガトリングを食らっても無事だった。

 今は闘神を目視するために魔眼をオフにしてるからわからないけど、何かそういうマジックアイテムでも装備してるのかもしれない。

 そんなギースさんは、すたこらさっさと森の中に逃げていく。

 

「待ちやがれ、ギースッ!!」

「我輩を前によそ見とは大物であるな!」

「くっ!?」

「師匠!」

 

 ギースさんを追おうとした師匠に向かって振るわれた闘神の拳を受け流す。

 その隙にギースさんはもう木々に紛れて見えなくなってた。

 あの人を取り逃がすとかやばい予感しかしないけど仕方ない。 

 列強上位を前にして他を気にしてる余裕なんかあるか!

 

「ルーデウス! 作戦は!?」

「とりあえず、なんとか無事だった予備の一式召喚用の転移魔法陣で、一式と入れ替えにロキシーをシャリーアに送った! 援軍がすぐに来るはずだ!」

 

 おお!

 さすが頭脳労働担当! 頼りになる!

 シャリーアにはオルステッドがいる。

 あの世界最強の社長が援軍に来てくれれば、さすがに負けはしないはずだ。

 

 あんまりオルステッドを消耗させるとヒトガミがせせら笑いそうだし、

 剣士としての矜持的にも、絶対強者には頼らず自分達だけで倒したいんだけど、

 私の拘りに仲間やスペルド族の人達の命運を乗せるのは違う。

 

「スペルド族の人達は村ごと土壁で覆って、ウィ・ターさん達に護衛を頼んだ! 後ろはそこまで気にしなくていい!」

「じゃあ、今は!」

「ああ! とにかく闘神に集中して時間を稼ぐぞ! 『泥沼』!」

 

 ルーデウスの魔術が闘神の足下を泥沼に変えようとして……魔術自体が消滅した。

 

「なっ!?」

「北神流『蛸墨』!」

 

 それを見て次に動いたのは、ムササビ状態を解除して地面に降りてきたオーベールさんだ。

 ペンキ魔道具とはまた別の、スポイトみたいな形した杖を構えて黒い水魔術を放つ。

 あの黒い水は墨汁だ。

 私との模擬戦でも何回か使ったことがあるからわかる。

 

 でも、さっきのペンキより遥かに勢いのあった墨汁鉄砲は、ルーデウスの泥沼と同じように、闘神鎧の発する黄金の光に阻まれるようにして消えた。

 

「ぬぅ……! やはり、この程度の魔術では攻撃にもならぬか!」

「それなら!」

 

 ルーデウスがガトリングを構える。

 

「撃ち抜けぇぇええ!!」

 

 岩砲弾(ストーンキャノン)ガトリングが起動。

 一発でも戦車を貫けそうな岩の弾丸が群れを成して闘神に迫る。

 それらは泥沼やペンキや墨汁と違って消されはしなかったけど、闘神鎧の表面をガリガリと削っただけで、有効打になってないのは明らかだ。

 すぐに修復されたし。

 

「蚊ほどにも効かん!」

「ガァアアアアア!!!」

「オオオオオオオ!!!」

 

 遠距離攻撃がダメと見て、いやダメだってわかる前からエリスさんと師匠が突っ込んでいって近接戦を仕掛ける。

 私もそこに合流した。

 オーベールさんもすぐに来る。

 神級の私に、正面戦闘なら帝級クラスのオーベールさんと、同じく帝級クラスのエリスさん、そして王級の師匠。

 これでどこまで通じるか……!

 

「ハッハァー!」

「シィ!」

 

 相変わらず、技術など不要だ! と言わんばかりの拳を繰り出す闘神の攻撃を私が受け流す。

 技術が無いおかげで、受け流すついでに力の流れも乱して、体勢を大きく崩すこともできた。

 その隙に他の三人が斬りかかる。

 

「奥義『砕鎧断』!」

「『光の太刀』!」

「『烈断』!」

 

 オーベールさんの砕鎧断で闘神鎧を砕き、そこにエリスさんの光の太刀と師匠の烈断が叩き込まれた。

 でも、それで与えられたダメージは私の破断で刻んだダメージより低い。

 そして、不死殺しの斬撃じゃないから1秒とかからずに全回復。

 ダメか!

 

「ふん!!」

「ハッ!」

 

 再びの力任せパンチ。

 水神流で受け流す。

 その隙に他の三人が斬り込んで、今度はルーデウスもそれに加わった。

 

「『電撃(エレクトリック)』!!」

 

 オルステッド戦でも見せた、電撃を纏った全力パンチ。

 それを三人がこじ開けた闘神鎧の穴に叩き込んだ。

 多分、予見眼で三人の動きを読んでタイミングを合わせたんだ。

 ルーデウスにこの魔眼をくれたキシリカさんには感謝しかない。

 

 ルーデウスのパンチが闘神を捉える。

 電撃魔術は闘気の鎧を貫通して肉体を痺れさせてくる魔術だ。

 三人の攻撃で多少なりとも鎧が剥がれて、地肌が露出してる部分に当たれば……

 

「フハハハハハ! 中々に痺れたぞ!」

「くそっ!?」

 

 効かなかったっぽい!

 普通に効果が無かったのか、それとも魔術耐性で威力が削がれたのか、闘神鎧の修復が間に合っちゃったのか。

 とにかく今の攻撃は不発に終わった。

 反撃にルーデウスを狙って拳が繰り出され……

 

「北神流奇抜派妙技『落涙弾』!」

「む!? こ、これは!? ぶえっくしょん!!」

 

 オーベールさんが袋を投げ、それが破裂して中に詰まってた催涙弾というか、辛子系の粉末が闘神の顔面に直撃。

 かつて、私の顔面を涙と鼻水塗れにして乙女の尊厳を踏みにじった攻撃によって、闘神はくしゃみを連発して動きが止まった。

 と、闘神鎧の防御を貫通した!?

 本日一番の有効打だ!

 チャンス!

 

「「「うぉおおおおお!!」」」

「ぬぉ!?」

 

 闘神の隙目掛けて一斉攻撃。

 闘神鎧を大きく砕く。

 でも、やっぱりすぐに修復されて有効打にはならない!

 せいぜい皆の攻撃で脆くなったところに破断を叩き込んで、鎧の下をちょっと深く斬れた程度だ。

 純血不死魔族にこの程度のダメージは無いも同然。

 これでもダメか!

 

 そうして何度か攻撃して、無駄に終わってを繰り返し。 

 元々ガルさんとの戦いで消費してたらしいオーベールさんグッズの在庫も尽きた頃。

 戦況が動いた。

 

「くっ!?」

 

 ルーデウスの乗り込んだ魔導鎧一式が、突如機能を停止したのだ。

 闘神の攻撃はかする程度だったから、そこまでのダメージを受けたわけじゃない。

 魔力切れによるガス欠だと思う。

 

 元々、一式は凄まじく燃費が悪かった。

 普通に戦ってるだけで、アホのようなルーデウスの魔力が一時間で空になるし、燃費最悪のガトリングを使ったり他の魔術を使ったりすれば、稼働時間は更に縮む。

 ルーデウスは闘神だけじゃなく、鬼神とまで戦って連戦してるんだ。

 ガス欠になるのは、むしろ当然の話だった。

 

「くっそ……!」

 

 そして、鬼神との連戦を乗り越えて戦ってた人はもう一人いる。

 師匠だ。

 ここまでは根性で動いてたものの、師匠もまたルーデウスに続いて体力切れで動けなくなった。

 

 残るは、私とエリスさんとオーベールさんの三人。

 私はまだ軽く息が乱れてる程度だけど、二人はもうかなり息が上がってる。

 この二人だってガルさんと戦った直後なのだ。

 帝級クラスでスタミナがルーデウス達よりあったからまだ戦えてるだけで、いつ限界がきてもおかしくない。

 

「ハァ……ハァ……!」

 

 そして、その限界もすぐに訪れた。

 激しい動きが多い剣神流のエリスさんのスタミナが先に切れる。

 

「くっ……! (それがし)も限界が近いか……!」

 

 オーベールさんも完全に息切れしてる上に顔色が悪い。

 見るからに限界寸前だ。

 これ以上は致命的なミスが起きかねない。

 

「オーベールさん! 他の、皆、担いで、撤退して!」

「し、しかし……」

「私は、まだ、大丈夫!」

「…………すまぬ、エミリー!」

 

 オーベールさんは私の言った通りに、他の皆を回収して、ルーデウスがスペルド族の人達を守るために作った土魔術の防壁の中に撤退してくれた。

 エリスさんの「離しなさいよ……!」って声が聞こえてきたけど、いつもの元気が無かったから、やっぱりこれで正解だったと思う。

 これで残るは私一人。

 

「一人になっても、まるで諦めぬか! その心意気や見事!」

「かかって、来い!」

 

 そこから、私と闘神による一騎打ちが始まった。

 他の皆が抜けた分の負担が一気に私にのしかかる。

 闘神の動き自体は単調で、受け流すことは難しくない。

 オルステッドやレイダさんと殺し合った時の方が、よっぽど神経を削られた。

 

 けど、いくら単調な攻撃でも神級の打撃。

 それを千発、2千発、1万発、2万発と絶え間なく打たれ続ければ、確実に私の体力は削られていく。

 対して、向こうはHPどころか体力まで無尽蔵なのか、全く動きが衰える様子がない。

 

 あと、どのくらい耐えればいいのかな。

 確か、ルーデウスがロキシーさんをシャリーアに送ったっていう予備の一式召喚用の魔法陣は、ザノバさんのところの工房にあったはず。

 

 あそこから体力の尽きたロキシーさんが、事務所まで助けを求めに行くのに何分かかるか。

 いや、工房に誰かいれば伝言を頼めるか。

 その伝言がオルステッドに伝わるまで何分だろう?

 事務所はシャリーアの郊外にあるから、普通の人の足だとそれなりに時間がかかるからなぁ。

 

 何かトラブルがあってオルステッドに伝わるまでに時間のロスがあれば、更に応援までの時間は伸びる。

 ええっと、オルステッドは確か今、スペルド族の疫病をどうにかするために、各国に連絡を入れてるんだっけ?

 さすがにそれはとっくに終わってるはずだけど、その後の行動次第では、伝言役の人とすれ違う可能性もあるかもしれない。

 そうなってたら多分、私は死んでるなぁ。

 

 極限状態なのに何故かやたらと回転する頭が、援軍が来るまでの大雑把な時間を計算する。

 この頭の回転も走馬灯の一種なのか、いつもは苦労する計算が割とスラスラできた。

 でも、それって言い変えれば走馬灯が発生するくらい追い詰められてるわけで……

 

「ッ……!」

 

 遂に疲労から私の動きにミスが出た。

 まだ体力は残ってるけど、ミスをするくらいには疲れてきたってことだ。

 

「かはっ!?」

 

 闘神はその隙を逃さず、右のボディブローが綺麗に私に直撃して吹っ飛ばされた。

 龍聖闘気もどきのおかげで耐えたけど、やっぱり痛い。

 早く態勢を立て直して構えなきゃ。

 それで、まずは治癒魔術を……

 

「え?」

 

 そう思ってたのに、私の体はふわりと優しく受け止められた。

 後ろに立ってた誰かに。

 

 その誰かは、何かの皮で作られたみたいな白いコートを身に纏っていた。

 顔を覆い隠すような、黒いヘルメットを身に着けていた。

 ちょっと魔眼を開いてみれば、映るのは今の私でも比べ物にならないほどの芸術的な闘気。

 こんな出で立ちの人が、世界に二人といるはずがない。

 

「オルステッド……」

「よくやった。あとは任せろ」

 

 頼もしいセリフと共に登場した世界最強の男。

 『龍神』オルステッドがそこにいた。

 臨戦態勢の彼を見て、闘神が豪快に笑う。

 

「フハハハハハハ! 遂に出てきたか『龍神』オルステッドよ!

 我が名は『闘神』バーディガーディ! ヒトガミの盟友にして、闘神の名を受け継ぎし者!

 貴様に一騎打ちの決闘を申し込む!」

「いいだろ……」

「ちょっと待ったぁ!!」

 

 ふぁ!?

 なんか最強同士のカッコ良いやり取りに水を差す、空気読めてない人が現れた!

 その人は「とう!」と声を上げてルーデウスが作った防壁の上から飛び降り、ポーズを決めて闘神に向き合う。

 

「我が名はアレックス・カールマン・ライバック! 『北神カールマン二世』なり!

 わけあって龍神殿に助太刀いたす! この決闘、私も参戦させていただこう!」

 

 シャンドルだった。

 「決まった」って顔してるけど、完全に空気読めてないよ。

 いや、オルステッドの消耗はできる限り抑えたいから、助かるけどさぁ。

 

「む、アレックスか。久しぶりであるな。だが、魔王の決闘に横入りとは関心せんぞ!」

「それは失礼、叔父上! しかし、こちらにも立場があるもので!」

「****! *******!」

「む!」

 

 そして、ここで更に乱入者が現れた。

 凄い勢いで上空から降ってきて、地面に亀裂を入れて砂埃を立てながらカッコ良い着地をした乱入者。

 その姿は、青い肌に、額から突き出た一本の角、コウモリみたいな翼。

 黒い鎧を纏い、大剣を構え、魔神語で話す女魔王。

 『不死魔王』アトーフェラトーフェ・ライバックがそこにいた。

 

「***! *********! ******!」

 

 相変わらず何言ってるのかわかんないけど。

 前に通訳してくれたシャンドルは、さっきは空気読めてなかったくせに今は空気を読んでるのか、カッコ良い感じにポーズを決めるアトーフェさんの言葉を通訳してくれない。

 

「ウフフフ、お祖父様達は相変わらずですねぇ」

「やれやれ、龍神、闘神、北神に不死魔王。

 おまけに死神、水神。果てはあたしらを倒した妖精剣姫。

 世界大戦でも起きてるのかねぇ」

「良いじゃないですか、お師匠様。この平和な時代にこれだけの戦いに巡り会えるなんて、武人として最大級の誉れですよ」

「ギースはいないのか? あたしは、あいつにケジメをつけに来たんだが」

 

 続いて現れたのは、またしても大物達。

 元七大列強第五位『死神』ランドルフ・マリーアン。

 水神流の頂点『水神』レイダ・リィア。

 次期水神候補筆頭、『水帝』イゾルテ・クルーエル。

 元Sランク冒険者にして『剣王』ギレーヌ・デドルディア。

 誰も彼も、一人で小国くらい落とせそうな達人ばかり。

 

「おお、なんとも凄まじい面子! 余が場違いに感じてしまいますな!」

「……うす」

 

 更に追加で『怪力の神子』ザノバさん。

 あと、なんか知らないけど、斧を担いだ巨漢の戦士。

 でも、闘気の質は帝級下位くらいある。

 味方っぽいし、どこにいたんだろう、こんな隠し球。

 

「エミリー、彼は『北帝』ドーガ。アスラ王国で見出した君の弟弟子だよ。

 本当は戦いの直前にお披露目したかったんだけど、まさかこんな急に決戦にもつれ込むとは思わなくて……」

「ああ」

 

 シャンドル、またもったいぶってタイミング外したんだ。

 唐突すぎて出落ちみたいになってるよ。

 可哀想なドーガさん。

 普通に強そうなのに。

 

 でも、なんにしても戦力が揃った。

 ルーデウス達は脱落しちゃったけど、それでも充分すぎるほどの戦力が。

 これなら、

 

「オルステッド、下がってて」

「む。だが……」

「これは、ラプラスの、予行練習」

 

 私は治癒魔術で傷を治してからオルステッドの腕の中から飛び出して、再び剣を構える。

 

「私は、『妖精剣姫』エミリー! オルステッドに、挑みたければ、私達を、倒してからに、しろ!」

「フ、フハハ、フハハハハハハハ!! 面白い! これだけの戦士達が一堂に会して我輩に向かってくるか!

 戦いが好きではない我輩でも、これは滾るものがあるぞ!」

 

 闘神ともあろう人が、どの口で戦いが好きじゃないとか言うのか。

 あ、でも、そういえばこの人って魔法大学に留学するくらい平和的な魔王なんだっけ?

 じゃあ、なんで戦って、って、ああヒトガミか。

 あいつ、ホント、マジで。

 

「いいだろう! 龍神の前に貴様らに決闘を申し込もう!

 我は『闘神』バーディガーディ! 全員纏めてかかってくるがいい!」

 

 そうして、闘神との本当の戦いが始まった。

 さっきまでの時間稼ぎじゃない。

 私達にも勝機がある、どっちが勝つかわからない、本当の勝負が。




・アトーフェ親衛隊
主要メンバーはキシリカ捜索のために出払ってて留守。
ネクロス要塞に設置した転移魔法陣を通って単独で事務所に襲来した手綱のない状態のアトーフェを、最近雇われた受付嬢のファリアちゃんが上手く誘導できなかったらシャリーアは滅んでたかもしれない。

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