剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
戦いが終わり、『闘神』の称号を持ってるのは装着者じゃなくて闘神鎧に宿った自我そのものだから、闘神鎧を完全破壊しない限り列強の順位は変動しないって知って、
不治瑕の技でバラバラにしても当たり前のように全回復する鎧を完全破壊とか無理じゃん! ってことで、私がちょっと不機嫌になった後。
待ってたのは諸々の戦後処理だった。
割と多くの問題が残ってた。
スペルド族の疫病とか、バーディさんをどこに封印するかとか、闘神鎧をどうするかとか、捕虜になった鬼神をどうするかとか、まあ色々と。
とりあえず順番に語っていくと、スペルド族の疫病は治った。
治ったっていうか、気絶から回復したスペルド族達は普通に健康体になってたのだ。
私達が何かするまでもなく。
別に疫病の情報がガセネタだったわけじゃない。
本人達の口からちゃんと自分達は疫病にかかってたって証言が取れたし、何より彼らは病み上がりな上に操られて戦わされた反動で看病が必要なくらいには弱ってたから。
ノルンちゃんとか、献身的にルイジェルドさんや他のスペルド族の人達を看病してたし。
この劇的な快復の原因は一つしか考えられない。
『冥王』ビタだ。
あのスライムが何を考えたのかはわからないけど、どういう手段を使ってか彼はスペルド族を治したのだ。
オルステッドですら治療法のわからなかったスペルド族の疫病を。
もしかしたら、利用して人質にした上に無理矢理戦わせたことに対する、せめてものお詫びだったのかもしれない。
ギースさん然り、バーディさん然り、ヒトガミの使徒=悪人ってわけじゃないからね。
それを知ったオルステッドは愕然として、次のループがあったら冥王に協力を要請するなり、脅すなり、他の
スペルド族に関してはこんな感じ。
ただ、疫病にかかった原因はわからずじまいだし、とりあえず疫病発生の地からは離れた方が良いだろうって話になって、近場のビヘイリル王国に受け入れてもらうための交渉が始まった。
スペルド族の迫害は根強いから苦労しそうだって、交渉担当のルーデウスは疲れた顔で言ってた。
でも、おかげでルイジェルドさんが正式に仲間になったし、鬼神もギースさんの口車に乗って敵対しちゃったお詫びって感じで味方にできたし、悪いことばかりでもないみたい。
バーディさんはオルステッドが主導になって、私も知らないどこかに封印された。
知ってるのはオルステッドと他数人だけだ。
私に教えられてないのは、うっかりどこかでポンコツ晒して口を滑らせる可能性を考慮された結果である。
今更それに異論は無い。
闘神鎧の方は、オルステッド謹製の結界魔術の魔法陣をふんだんに使って、それをルーデウスの全魔力を使って起動させて、その上から更に土魔術で作った魔導鎧と同じ材質の岩石で覆ってガッチガチに固めた上で、ルーデウスが事務所の近くに作った迷宮ばりの地下通路の最奥に埋めて封印した。
多分、ヒトガミとの完全決着をつける予定の100年後くらいまでは破られないだろうとのことだ。
それでもまだ不安みたいけど、これ以上の封印となると、結界魔術の権威でもあるペルギウスさんに頭を下げなきゃ使えないってことで妥協したみたい。
いや、頭くらい下げればいいじゃんと思ったけど、まあ複雑な事情があるんでしょ。
オルステッドは頑なに五龍将を仲間にしようとしないからね。
ペルギウスさんだけじゃなくて、『技神』ラプラスとかも。
それが社長の判断なら、社員の私は何も言わないよ。
大きな問題はこれで全部として、他にも語っておかなきゃいけないような出来事はある。
とりあえず最初はアレクについて語ろうか。
正式に私達の仲間になったアレクは、武器の力に溺れたのを反省して王竜剣を手放した。
王竜剣は事務所の備品となり、アレクは普通の武器で私やオルステッドに挑んではボコボコにされ、レイダさんとは良い勝負をし、ほぼ引退剣士のランドルフさん相手に勝ってドヤッたり、オーベールさん達奇抜派と和解して染まりかけたりしつつ、
たまに黒歴史を掘り返されて悶えながらも少しずつ成長する日々を送ってる。
これにはシャンドルもニッコリだ。
まだ親子の仲はギクシャクしてるけど、今回の一件でシャンドルは孫のランドルフさんとも和解できたし、そのうち何とかなるんじゃないかな?
まあ、しばらくはダメ親父の称号を返上することはできなさそうだけどね。
だってアレクの奴、シャンドルを無視して、何故かウチの父に懐く始末だもん。
ある時、何故か殺気を迸らせた父がアレクをサシ飲みに誘って、帰ってきたらなんか二人が仲良くなってたのだ。
父がアレクに向ける視線は厳しくも温かい感じになり、アレクはまるで本当の父親のように父のことを慕い、母はそんな二人のことを微笑ましい目で見てる。
何がどうしてそうなったのかと母に聞けば「エミリーもそのうちわかるわよ。うふふ」と笑って誤魔化された。
嫌な予感がする。
親といえば、姉の出産も無事に終わった。
パパデウスはちゃんと仕事を片付けて出産に立ち会うことができたのだ。
ただ、生まれたその子の髪の色が緑で、昔の姉みたいにイジメられないか少し心配でもあるけど。
ちなみに、この件においては致命的にタイミングが悪かったせいで、ペルギウスさんとの間に少し揉め事が発生した。
それというのも、出産の現場にアルマンフィさんが乱入してきたのが悪い。
そのせいでルーデウスは、ペルギウスさんが生まれてきた子供のことを復活したラプラスだと思ってるんじゃないかって不安になり、私とオルステッドを戦闘要員として引き連れて空中城塞まで乗り込むことになった。
まあ、すぐに勘違いだって判明して大事には至らなかったけど。
それどころか、ペルギウスさんは生まれてきた子供に名前を付けてくれた。
前にそういう約束をしてたそうだ。
でも、ルーデウス達はその約束をすっかり忘れて自分達でも名前を付けちゃったので、ペルギウスさんが付けてくれた名前はミドルネームになった。
その子の名前は、ジークハルト・サラディン・グレイラット。
愛称はジーク。緑髪の可愛い男の子である。
何故かパックスの息子の小パックスこと、パックス.Jrと仲が良い。
紛らわしいことに、パックスの息子の名前もパックスなのだ。
息子とかに自分の名前を付けるのは割とよくあることらしいけど。
ちなみに、ルーデウスは戦後処理がどうにかこうにか終わった頃に、三人の嫁達と一時期乱れた生活を送り、更に二人の子供を授かった。
ロキシーさんの第二子であるリリと、エリスさんの第二子であるクリスティーナだ。
本当にパパデウスは子沢山である。
全員、このエミリーお姉ちゃんが鍛えてやろう!
そして、最後に語るのは一番重要な出来事。
なんと、静香の帰還用の魔道具『異世界転移魔法装置』が完成したのだ!
最終実験も全てが成功。
静香は知り合い全員と別れの挨拶を済ませ、私も抱き合って別れを惜しみ、そうして遂に元の世界に帰ろうとして……失敗した。
私はふらふらと部屋に戻った静香を、空中城塞が壊れんばかりのスピードで追いかけて抱きしめて慰めたけど、静香は別に落ち込んでなかった。
どうも、未来ルーデウスの一件の時に、最後の最後に失敗したっていう未来の自分の話を聞かされてたみたいで、静香は落ち込むより先に原因究明のための考察を開始。
同じタイミングで異世界に来たはずの私の転生と自分の転移の時期がズレてることとかを考慮して、同じ異世界人のルーデウスと共に私の理解の及ばない会話を繰り広げた後、帰れない原因が未来にあるんじゃないかという結論に達した。
いや、本当にこの時の静香の理屈はわけがわからなかった。
あのトラック事故の時に静香に抱きついてたはずの篠原くんも一緒に異世界転移してるはずで、
静香が私より後にこの世界に来た以上、篠原くんが静香より後にこの世界に来る可能性もあるわけで、
その未来で何かがあった結果、静香が召喚されたのかもしれなくて、
私達の転生の時は何事も無かったのに、静香の転移の時にだけ転移事件が起きた理由は、未来から強引に過去に干渉したせいで無茶が生じた結果かもしれなくて、
もし本当に未来に原因があった場合、静香は未来で何かしらの役割を果たすことになってるから今は帰れないとかうんぬんかんぬん。
ダメだ。理解が追いつかない。
私どころかルーデウスも完全には理解してない感じだった。
挙句の果てには、説明した静香本人ですら「8割は私の妄想だと思う」なんて言い出す始末。
でも、未来に原因があるんじゃないかって可能性を静香が一番信じたっていうのは変わらない。
信じた結果、静香はペルギウスさんの12の使い魔の一人、『時間』のスケアコートさんの能力で未来に行くことを選択した。
スケアコートさんの能力は、触れた対象の時間を停止させること。
使うと自分も動けなくなるそうだけど、これなら静香の停止中にも世界の時間は進み、静香が寝て起きたら未来にいたって感じになる。
起きるのはスケアコートさんの魔力が尽きるタイミング、一ヶ月に一度だそうだ。
静香はこの世界に来て以来不老になってるけど、この世界特有の病気を抱えてるから、こうしないと長くなんて生きられないからね。
寂しいけど、月に一回のお目覚めの日には必ず会いに行こう。
そんな感じで決戦後に起こった出来事も終わり、それから先の時間もあっという間に過ぎていった。
ノルンちゃんが昔から憧れてたっていうルイジェルドさんに嫁入りして、二人の娘であるルイシェリアが生まれたりした。
ルーシーが7歳になった頃、グレイラット家で家族会議が開かれて、
子供達は7歳から魔法大学に通わせ、そこを卒業したら今度はアスラ王国の学校に通うことが決まったりもした。
王竜王国とか『鉱神』とかを勧誘して、また仲間を増やしたりもした。
他にも、イゾルテさんとドーガ(年下と判明した上に弟弟子だから呼び捨てに変更)が結婚したり。
それを見届けて満足したようにレイダさんが寿命で逝っちゃって、イゾルテさんが新しい水神になったり。
私も母に結婚とかする気はあるのかって聞かれて、「ラプラスとヒトガミとオルステッドを倒すまでは考慮すらしないかな」って答えたら、
次の日からアレクが「絶対に生き残ってやる!」って叫びながらハードな修行に身を投じたり。
ルーデウスとザノバさんがずっと研究してた自我を持つ人形、
その第一号機は、未来に篠原くんが来た時のために、自分の姿を後の世に伝えておきたいっていう静香の依頼で静香そっくりに作られたんだけど、ルーデウス達の悪乗りでエッチな部分まで再現されて静香が怒ったり。
ジークがアレクに弟子入りしたり。
アイシャちゃんが、甥っ子のアルスと駆け落ちしたり。
成長したルーシーが、お婆ちゃんとクリフさんの息子であるクライブと結婚して、お婆ちゃん共々、クリフさんのいるミリス神聖国に行っちゃったり。
いつも弱々しい姿のお父さんの昔の話を聞いて、父の汚名を雪いで無念を晴らすって夢を抱いた小パックスが、
また色々と捏造エピソードを考えて「実は生きていたのさ!」ってことにしたランドルフさんと一緒に王竜王国に行っちゃったり。
そんな小パックスと仲が良かったジークが、色々事情があってついて行けなかったことに悩んで、うじうじして、1年くらい無職やってたり。
無職生活の末に決心したジークが小パックスを追いかけたり。
ララが20歳を越えても魔法大学の研究室でダラダラしてたり。
リリがザノバ商店に就職したり。
クリスティーナことクリスが、アリエル様の息子と結婚したり。
ララが突然何かを決意して家を出ていったり。
気づけば、数十年もの時間があっという間に過ぎ去っていた。
その理由は、闘神とギースさんを倒して以来、ヒトガミがびっくりするくらい大人しくなって、大きな事件が起こらなかったからだ。
小さなイベントはしょっちゅう起きてたし、グレイラット家がてんやわんやになる騒動とかもたまに起こってたんだけど、
戦力を集めてヒトガミの罠を潰しに行くぞ! 戦争だぁ! みたいなことが無かったから、あっという間に感じた。
とはいえ、それはあまりに濃すぎた若い頃の思い出に比べればって話だ。
振り返れば過ぎ去った時間相応の思い出がある。
楽しい人生だったよ。
いや、まだまだ先は長いんだけどさ。
そして、そんな先の長い私の人生に、また一つの転換点が訪れようとしていた。
今、私の目の前には今にも死にそうな顔をした老人がいる。
ルーデウスだ。
御年74歳。
この世界の人族では中々に長生きな方。
ちなみに、私の方も老化というか成長して、外見年齢が20歳手前くらいになった。
13歳の頃からは、大体10年で1歳成長するくらいのペースで歳を取っていった計算だ。
ようやく肉体が全盛期の入り口に差し掛かってきた感じ。
そんな若々しい私とは反対に、同い年のはずのルーデウスは種族の差で肉体の限界を迎えてるわけだけど。
「ルーデウス。今までご苦労だった。お前は安らかに眠れ」
「あとは、任せて」
そんなルーデウスに、隣にいるオルステッドと一緒にそんなことを告げる。
この部屋にいるのは私達だけじゃない。
そこそこ歳を取った姉に、何も変わらないロキシーさんに、寿命で亡くなったエリスさんにそっくりな曾孫のフェリス。
他にもルーデウスの子孫達が多くいる。
孫達に囲まれながらベッドの上で死ぬなんて、絵に描いたような幸せな人生なんじゃないかな。
「はは……まだ、寝るには早い時間ですよ。もう少し、起きていますよ。もう少し……ね」
そうして、ルーデウスは少しずつ、少しずつ、目を閉じていった。
本当に眠るように、微睡みの中に落ちていく。
穏やかに、とても穏やかに、永遠の眠りに落ちていく。
しばらくして、ルーデウスの体を包んでいた闘気になり切れてない魔力が、ただの魔力に変わった。
逝ったのだ。
「お休み、ルーデウス」
私がそう言った瞬間、皆がルーデウスの死を悟って、静かに泣き出した。
オルステッドも悲しそうに目を伏せてる。
でも、私はそうでもない。
満足そうで幸せそうな死に顔しやがって、羨ましいぞって感じだ。
きっと、今頃は先に逝った皆と一緒にお酒でも飲んで、思い出話でも始めてると思う。
ああ、でも、その手の話題は、ギースさんへの宣言通り数年前まで生きてた師匠とかから聞かされて、皆お腹いっぱいかな?
まあ、何にしても、今頃はあの世で皆と仲良くやってるでしょ。
あの世ってシステムが無かった場合は、また転生でもして、どこかで元気にやるんじゃない?
ルーデウスなら大丈夫だよ、きっと。
さて、ルーデウスは満足そうに旅立った。
残された私達は私達で頑張らないとね。
前々から準備してたラプラスとの戦争もじきに始まる。
そうなれば、ヒトガミもそろそろ何かしてくるでしょ。
また若い頃みたいな濃い生活が、いや、それ以上の激動の時代が始まるのだ。
気合い入れていこう。
「オルステッド」
「ああ、わかっている」
そうして、私達もまた歩き出した。
当面の目標は復活する『魔神』ラプラスの討伐。
そして、その後に控えるヒトガミとの最終決戦。
それが終わったら何の憂いも無くオルステッドに挑んで、いつかは勝って私が世界最強の剣士になってやる!
で、夢を叶えた後はどうしようか?
前に考えたみたいに妖精食堂でも開くか、それとも弟子でも取るか、はたまた昔母に言われたように結婚でもしてみるか。
まあ、何でもいいや。
前世ではできなかった
うん。悪くないんじゃないかな。
「さあ、行こうか」
━━To Be Continued
はい!
というわけで、剣姫転生一旦完結となります!
またしても息抜きとかオリジナル優先とかのたまっといて、毎日更新で突き抜けていきましたね。
自分でも驚きです。
だって、この後書き書いてるの、2021年の11月ですよ?
無職転生の二次が楽しすぎて、一日に数話のペースでストックが増えていき、それを全部予約投稿に突っ込んだ結果がこれです。
凄いね、こんなペースで書けるんだねって、自分で自分の本気にビックリですよ。
だったら今回みたいに、もしくはルーデウスみたいに本気出して、オリジナルも頑張れと……。
まあ、それは置いておきましょう。
二次創作とオリジナルじゃ難易度も桁違いなんだから、比べたってしゃーない。
この作品の続きに関しては、無職転生の続編が完結したら書くかもしれないです。
孫の手先生の作品は繊密すぎて、伏線とか凄まじすぎて、完結して全部が繋がってからじゃないと、とても二次創作として纏められる気がしないので……。
今回二次を書いてみて、無職転生という作品により深く触れたことで、作家としての格の違いを見せつけられて脱帽ですよ。
しかーし!
神作により深く触れたということは、それだけ私の糧になったということ!
私はこの経験によって更に高みへと飛翔するぞー!
もしくは消化し切れずにお腹を下して地に落ちるかもしれないけど、それでもこれだけの糧をありがとう無職転生!
そして、ありがとう、エミリー!
君のことは忘れない!
では皆様!
またオリジナルなり、他の二次創作なり、もしくはこの作品の続編なりでお会いしましょう!
番外編もちょっとは書いてあるので、そっちもよろしく!
さらばだ!