剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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番外 エミリーのハイキング

 ビヘイリル王国の戦いから数ヶ月。

 この前、その戦いの時のお詫びがしたいって言ってきたアレクが、目玉が飛び出るような値段の杖を二本も持ってきて冷や汗ダラダラになったのは記憶に新しい。

 

 まあ、私の冷や汗なんていくら流してもお釣りがくるくらい杖の性能が凄かったから良しとしておこう。

 そうじゃないと精神衛生上よろしくない。

 

 似たような値段の魔剣をオルステッドから貰った時は、こんなこと思わなかったのになぁ。

 何が違うんだろ?

 オルステッドの無限資産のせいで感覚が麻痺してたのか、それとも自分から欲しがったかどうかの差なのか。

 ……深く考えないようにしとこう。

 深く考えて、杖だけじゃなく魔剣にまで冷や汗を流すようにはなりたくない。

 

 

 と、まあ、そんなことがあって、私の装備に二本の短杖が追加された。

 この二つは剣帯の右側の部分に差してる。

 左側に愛剣『バースデー』、後ろの部分に魔剣『仙骨』、右側に短杖が二本。

 これで剣帯に空きスペースが無くなった。

 なんとなく、何かをコンプリートしたような気分。

 

 そんなパーフェクトフォルムになった私は現在、とある山の麓に来ていた。

 見上げれば、赤い鱗を身に纏った魔物の群れが上空を旋回してる。

 あれは中央大陸最強の魔物だ。

 単体でもトップクラスの強さを誇る上に、数百匹単位の群れを作るという悪夢みたいな存在。

 そう、赤竜である。

 

 その赤竜が群れてる場所と言えば、もうおわかりでしょう。

 ここは中央大陸を北部、西部、南部で分断する巨大な山々、赤竜山脈。

 400年前、『魔神』ラプラスが赤竜の群れを放ち、現在では列強上位くらいしか通行できない人外魔境。

 本日の私の修行は、そんな人外魔境を北方大地側から踏破し、西部にあるアスラ王国に抜けて、アリエル様のところにお泊りしてから往復して帰ってくることだ。

 

 

「よし、行こう」

 

 心も体も準備完了。

 右手に愛剣を、左手に風魔術の杖を持って、私は赤竜山脈へと一歩足を踏み入れた。

 

 その途端に襲いくる赤竜の群れ。

 こいつらは縄張りに入ってきた獲物は犬程度の大きさでも見逃さないって話だったけど、まさにその通りだった。

 奴らは制空権を有することの有利を最大限に使って、上空から一斉にブレスを放ってくる。

 

 不安はない。

 オルステッドは今の私ならできると言った。

 この人外魔境を越えられると言った。

 

 それに400年前を知るルイジェルドさん曰く、昔は列強下位でも赤竜山脈を越えられたらしい。

 でも、ラプラス戦役で三人の列強と多くの実力者達が死んで列強下位の質が下がり、

 ラプラスの封印と共に、世界有数の強者達が一堂に会して殺し合う世界規模の戦争が終わったことで、神級でも普通に死ぬような時代が終わった。

 

 そうすると、今のギレーヌやエリスさんみたいに、死ぬ気で研鑽する人達でも帝級や王級に到達した時点でどこか満足するようになって、神級に到達する人が減り、神級が必死こいて更に上を目指す必要もなくなって、そのせいで昔の列強に届く人は現れずじまい。

 

 シャンドルみたいに、やる気のある神級もいるにはいたけど、

 己をより高めてくれる同格に近いライバルも少なく、目標とすべき絶対強者の列強上位に至っては全員が行方不明か封印中。

 これじゃ強さも頭打ちになって当然だよ。

 

 私だって最初に師匠、次にギレーヌ、その次にシャンドル、その次にアレクやガルさんやレイダさん、今はオルステッドって感じで、常に自分より強い人達を目標にし続けてきたからこそ、ここまで強くなれたんだし。

 他の人達はそんな恵まれた環境を手に入れられなくて、成長を止めてしまった。

 

 結果、『最強』の名を冠する七大列強でありながら、下位の三人はドラゴンの群れすら突破できない、最強とは程遠い存在へと成り果てた。

 

 つまり、シャンドルやガルさんやジノくん、王竜剣アレクや全盛期ランドルフさんも、昔の列強下位に比べれば遥かに劣るのだ。

 そして、列強上位であるラプラスは、そんな昔の列強下位と比べても格が違う。

 

 ラプラスは赤竜達の王、『赤竜王』すらも従えていた。

 というか、ラプラスは赤竜山脈を赤竜まみれにした張本人なんだから、ある程度奴らを操れる力を持ってるってことだ。

 そんなラプラスと戦おうっていうのに、雑兵赤竜の群れすら突破できないようじゃ話にならない。

 

 今回の修行は、対ラプラスを見据えた第一歩だ。

 気合い入れていくぞー!

 

「水神流奥義『流』!」

 

 まずはブレスの一斉攻撃を水神流で受け流す。

 視界一面を覆う炎の壁をかき分けるように剣を動かす。

 

 そのまま足に力を込めて、ブレスをかき分けて突き破りながらジャンプ。

 更に左手に持った杖に魔力を送り込んで、以前とは比べ物にならないくらい少量の魔力で足下に衝撃波の魔術を発動。

 それを思いっきり踏みつけて、脚力と足の裏にぶつかる衝撃波の威力の合わせ技で、一歩で1000メートル近い距離をかっ飛んだ。

 

「北神流『花火』!」

 

 一気に上空の赤竜達の懐にまで到達する。

 そして、自分達で吐いた炎で視界が遮られたせいで、私の突撃への対応が遅れた竜どもに一発かましてやった。

 

 剣神流『疾風』+水神流奥義『剣界』!

 

「奥義『疾風剣界』!」

 

 単純な高速連続攻撃である剣神流の技を、同じ体勢から全方位へカウンターを放つための水神流の奥義の技術を使って打ち出す。

 それによって、私の近くにいる全ての赤竜に斬撃が入った。

 

「「「グギャァアアア!!?」」」

 

 片手持ちの上に、距離によって威力の落ちる斬撃飛ばしだったから、死んだ奴は一体もいない。

 けど、全員が前脚と一体化した両方の翼を斬り裂かれ、空から山脈に落ちていく。

 地を這うドラゴンに、空中を高速で駆ける私を捉えることはできない。

 立場逆転である。

 

「よっと」

 

 下で怒り狂ったような咆哮を上げながらブレスを放つ赤竜達を無視して先を急いだ。

 私の戦いはこれからだ!

 

 

 

 

 その後、私は数時間かけて赤竜山脈を突破した。

 赤竜以上の強敵がいるってこともなかったから、基本的には疾風剣界をぶっ放してるだけで勝てたよ。

 空を飛べなければ連なった山々を登ったり降りたりで数日かかったかもしれないけど、花火を使いこなす私なら直線距離で数時間だ。

 魔力もアレクに貰った杖のおかげで1割も消費してない。

 

 登頂成功してみればあっけなかったなー、赤竜山脈。

 まあ、相性が良かったってことだね。

 余裕だったし、帰りは花火を封印した状態でいってみようか。

 そうすれば良い修行になるような気がする。

 

 

 そうして、私は予定通りアリエル様のいる王都アルスまで花火ですっ飛んだ。

 そこでシャンドルやギレーヌやイゾルテさんと修行し(遊び)

 弟弟子のドーガに姉貴風を吹かせてマウントを取り、

 お泊りのために貸してもらったホテルのスイートルームみたいな部屋にガチの夜這いを仕掛けてきたアリエル様をベッドシーツで縛りつけ、

 縛られて鼻息を荒くするアリエル様を、引き取りにきたルークさんにパスし。

 そんな感じで一泊二日の旅行みたいなことを楽しんだ後、今度は徒歩で赤竜山脈を越えてシャリーアに帰った。

 

 さすがに徒歩だと苦戦して、装備がズタズタになってルーデウス製の胸鎧にまでヒビが入るくらいの激闘になったよ。

 不眠不休で戦い通しだもん。

 一週間徹夜ダッシュして空中城塞に乗り込んだ時と同じくらい疲れた。

 治癒魔術もそこそこ使った上に、寝て魔力を回復させることもできなかったから、アレクに貰ったもう一本の杖が無かったら魔力切れになってたかもしれない。

 

 あの頃に比べれば遥かに成長したとはいえ、やっぱり、どこまで行っても私はエルフなんだよね。

 スタミナお化けの不死魔族とか龍族みたいな戦い方はできない。

 最低でも休憩と仮眠は取らないと、どんどん弱っていく。

 

 今の私じゃ、赤竜山脈を正攻法で攻略するのはギリギリだ。

 花火で駆け抜けるか、魔剣でゴリ押すかすれば話は別だけど。

 こんなんじゃ、まだまだラプラスには及ばない。

 もっともっと修行だー!

 

 

 数ヶ月後。

 赤竜山脈に足しげく通って赤竜狩りを繰り返してたら、彼らは私を危険生物と認識したのか、私を見たら逃げるようになった。

 せいぜい、たまに群れの意向に従わないハグレ竜が襲ってくる程度。

 

 そのせいで攻略難度がめっちゃ下がって、有効な修行ができなくなっちゃったよ……。

 こっちから仕掛けて反撃を叩き潰せば修行にはなるかもしれないけど、それはなんか違うでしょ。

 私だって襲ってこない魔物を、素材が欲しいわけでも駆除依頼を受けたわけでもないのに虐殺するほど鬼じゃない。

 

 よって、赤竜山脈でのハイキングはこれにて終了である。

 残念。




【朗報】エミリー、赤竜山脈のフリーパスを手に入れる。


シャリーア帰還後の一幕。

エミリー「鎧、壊れちゃった」
ルーデウス「……それ付けたまま衝撃波で飛んだのか? 数十キロはあるんだけどそれ」
エミリー「む。確かに、花火とは、ちょっと、合わない」
ルーデウス「……もう何も言うまい。でも、これを機にもっと軽いやつと替えたらどうだ?」
エミリー「でも、軽くて、これより、頑丈な、鎧って、ある?」
アレク「話は聞かせてもらった! 僕に任せろ!」

アレク「素材を寄越せーーー!」
マスタートゥレント(また来やがった……!)

後日、エミリーの胸鎧はマスタートゥレント製の純白の木製鎧になりましたとさ。
ついでに、エミリーの体が成長する度に、アレクがマスタートゥレントに挑むのが恒例行事になったそうな。
しかし、胸部装甲が全く育たなかったせいで、サイズが合わなくなるまでにはかなりの時間がかかったらしい。
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