剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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番外 天下一武闘会

 この世界の剣術は素晴らしい。

 全人類の夢である斬撃飛ばしもできるし、人間の限界を超えたアクロバティックな戦い方は圧巻の一言に尽きるし、無詠唱魔術と組み合わせれば剣からビームだって放てる(使い勝手が悪いからまず使わないけど)。

 まさに前世の私が憧れてたファンタジー剣術そのものだ。

 エクセレント!

 

 しかし、そんな素晴らしいこの世界の剣術について、私はたった二つだけ不満に思ってることがある。

 一つは磨いた剣術を存分に披露して競い合える舞台、つまり武術大会的なものがないこと。

 磨いた力を披露したければ達人のところへ道場破りにでも行くか、戦争にでも参加するしかない。

 

 いや、武術大会的なものもあるにはあるんだよ?

 アスラ王国とかでも定期的に開催されてるし。

 でも、そういう大会は達人ではなく一般的な武芸者向けの大会だ。

 具体的に言うと中級〜上級くらいの人が主な参加者で、聖級剣士クラスが出れば優勝候補筆頭になっちゃう。

 そんなレベルの大会しかない。

 

 理由はわかってる。

 そもそもの問題として、王級以上の強者っていうのは滅茶苦茶少ないのだ。

 

 王級どころか神級がゴロゴロしてる龍神陣営に所属してると感覚が麻痺してくるけど、

 実際には神級なんて世界中を見渡しても20人くらいしかいない。

 その下の帝級だって100人はいないだろうし、王級ですら1000人には届かないと思う。

 この平和な時代、王級以上の強者っていうのは超絶希少種なのだ。

 

 そんな超絶希少種が世界中に散ってるわけだから、それを一箇所に集めて真の最強を決める夢の大会なんて開けるわけがない。

 例え強者達に大会に出場する意思があったとしても、地球と違って飛行機もないこの世界じゃ移動に年単位の時間がかかる。

 転移魔法陣?

 あれって一応禁忌扱いで秘匿されてるみたいで、使えるのは大国の要人とかオルステッドコーポレーションとかの一部例外だけだってさ。

 

 そういう悲しい事情もあって、私は天下一武闘会の開催は諦めてた。

 諦めて、大人しくウチの社員や協力者の皆さんと技を磨き合うだけに留めてた。

 

 でも、さすがに何年も何年も同じ面子とだけ戦ってるとマンネリ化してくるし、段々模擬戦じゃなくて本気の戦いがしたくなってくる。

 だけど、剣術における本気の戦いとは命の取り合いだ。

 それはそれで滾るものはあるけど、仲間の命を奪うのも仲間に命を奪われるのも嫌だし、そもそも仲間同士で殺し合うなんて不毛でしかない。

 

 というか、仲間じゃなくたって積極的に殺したいとは思わないよ私は。

 戦場での敵とか野盗とか相手なら躊躇しないけど、技を競い合う目的で誰かを殺すのはノーセンキューだ。

 

 本気で戦うとどっちかが死ぬ可能性が高いこと。

 それがこの世界の剣術に対する二つ目の不満。

 いや、これは私の贅沢だってわかってはいるけど。

 剣術が殺人術である以上、避けられない宿命ってやつだ。

 

 それでも寸止めとか考えずに全力を出し尽くしたバトルをして、なおかつ誰も死なない。

 そんな戦いをしたいなーって、ずっと思ってた。

 

 世界中の強者達が一堂に会して、皆が皆、己の全力を出し尽くして戦って、終わった後は誰も死なずに爽やかに健闘を称え合う。

 それが私の夢の究極形。

 

 という話を、私は割と色んなところでポロッとこぼしてた。

 模擬戦の時にはアレク達に、仕事終わりにはオルステッドやルーデウスに。

 空中城塞に遊びにいった時には静香に、アスラ王国に遊びにいった時はアリエル様達に。

 

 その結果、━━私の知らないところで、私の夢の実現が急ピッチで進められていたのだ。

 

 後から聞いた話だけど、最初にどうにかなりませんかと声を上げたのはアレクだったらしい。

 相談した先はオルステッド。

 オルステッドは真剣に頭をひねり、ふと事務所の備品の中に私の望みの片割れと合致するようなアイテムがあったことを思い出す。

 

 それは、ロキシーさんがシーローンでの戦いに赴く時に装備して、結局使われないまま再び倉庫にしまわれたマジックアイテム。

 『致命傷を一度だけ肩代わりする首輪』だ。

 

 もしも、これを量産することができれば、私の夢の片方は叶うんじゃないかとオルステッドは言った。

 しかし、マジックアイテムの効果を再現するのは非常に困難というか、まだ確立されていない技術である。

 さすがに無理だろうとオルステッドはアレクに言った。

 

 それでも諦めなかったアレクは他の人にも相談した。

 次に相談を持っていったのは、アレクの知る中で最も凄まじい魔道具の一つ『魔導鎧』を作ったルーデウスだ。

 ルーデウスもオルステッドと同じく無理だろうとは思いつつ、それでもアレクの熱意に負けたのと、私への諸々の借りを清算するために、ツテを使って色んなところに声をかけた。

 

 ルーデウスが声をかけたのは、クリフさんと静香とアリエル様と魔法大学の人達だ。

 結果、お婆ちゃんやオルステッドの呪いをどうにかしてしまった天才クリフさんからは、呪いと同質の存在であるマジックアイテムの研究レポートを。

 

 静香にはマジックアイテムの効果を既存の魔術に落とし込めるかもしれない代物として、異世界転移魔法装置の研究の副産物である魔法陣の改良に関する研究レポートを。

 

 アリエル様と魔法大学の人達には、二人のレポートと私の希望を伝えてプレゼンした結果、やる価値ありと判断させて研究費用と施設と人材を提供してもらった。

 

 そうして、何年も前に密かに身代わりの首輪の解析と量産、というよりマジックアイテムの解析と量産に関する研究が、魔法大学とアスラ王国にて始まったらしい。

 いや、別に密かにではなかったみたいなんだけど、研究室になんて立ち寄らない私は気づかなかった。

 静香との世間話でチラッとは聞いてたけど、まさかそんな本格的にやってるとは思ってもみなかったんだよ。

 

 更に、同時進行でアリエル様とルーデウスは転移魔法陣の禁忌指定を解除し、大国の間を転移魔法陣によって繋ぐという計画を進めていた。

 こっちは別に世界中の強者を集めたいっていう私の希望に沿ったわけじゃなくて、元々やる予定だったことらしいけど。

 転移魔法陣で流通がスムーズになれば凄い恩恵があるってことは私にだって想像できるしね。

 

 で、最近になってこの二つの試みは一定の成果を上げた。

 転移魔法陣はアスラ王国での試験導入を終え、王竜王国とかの大きな国にも置かれるようになったのだ。

 さすがに中央大陸以外にはまだ置かれてないけど、逆に言えば中央大陸の中ならかなりスムーズな移動ができるようになったって言っていいと思う。

 紛争地帯とかの例外は除くけど。

 

 そして、もう一つの身代わりの首輪の解析も完了し、研究者の人達は遂にその効果を再現することに成功。

 ただし、完全再現までは無理だったみたいで、現在可能なのは静香の異世界転移魔法装置並みに巨大な装置を作って、その装置の効果範囲内にいる人に対して身代わりの首輪を装備してる時と同様の効果を付与するって感じらしいけど。

 しかも、これ一つ作るのに超高品質の魔石とかを始めとした貴重な素材が山ほど必要で、量産とかは絶対に無理。

 そこんところは要改良だって言ってた。

 

 でも、これでも充分すぎるというか、関係者の皆さんは歴史に名前が残るレベルの快挙だ。

 実際、この装置の骨子になった理論を提供した静香の『七星魔女』という名声はめっちゃ高まり、クリフさんはミリス教団の中で一気に出世したらしい。

 

 で、アリエル様は完成したこの装置+面白がったペルギウスさんが提供してくれた結界魔術や転移魔術の技術に、追加で魔法大学でも使われてる治癒魔術の魔法陣の技術を存分に使って、アスラ王国の王都アルスに巨大な闘技場を作った。

 

 この闘技場の中では誰もが一度だけ致命傷を肩代わりされてダメージが軽くなり、その機能を発動させてしまった人は結界魔術で保護され、即座に転移魔術でリングの外に叩き出されて治癒魔術で治される。

 観客席もペルギウスさん印の帝級結界魔術で守られてるから、私の破断ですら直接刃で叩き込まない限りは壊れない。

 

「ふふ。どうですか、エミリー?」

「凄い……」

 

 こんなとんでもない代物を完成した後に見せつけてきたドヤ顔のアリエル様に、私は呆然としながら、ただただ凄いって言うことしかできなかった。

 現在、闘技場のリングの上では、エキシビションのようにアレクが魔物と戦って装置の効果を実証してくれてる。

 

 アレクが相手にしてるのは、私がこの世界で初めて見た魔物にして、師匠に弟子入りするキッカケになった二足歩行で4本腕の猪、ターミネートボアだ。

 危険度Dランク、中級剣士でも一人で狩れるレベルの魔物。

 ぶっちゃけ、アレクの相手をするには不足しかない雑魚だ。

 

 そんなターミネートボアに、アレクは北神流最強の奥義『破断』を叩き込む。

 オーバーキルなんて次元じゃない。

 ターミネートボアなんか千回殺してもお釣りがくる威力。

 

 なのに、ターミネートボアは死なない。

 盛大に血を噴き出しはしたけど、すぐにその体が結界に包まれて、数秒後にはリングの下に転移する。

 更には急速な勢いで傷が治って無傷の状態に戻っちゃった。

 他の魔物とも戦って同じように処理してるけど、その全てがターミネートボアと同じく無傷で生存してる。

 

「これがアスラ王国と魔法三大国の技術の結晶『コロッセオ』です。

 この技術を応用すれば本当に色々なことができるのですが、エミリーの興味を引く話ではなさそうですから割愛しましょう。

 あなたの喜びそうな話は、このコロッセオの利用法です」

 

 そうして、アリエル様は実に楽しそうな笑顔で語り出した。

 

「基本は騎士団の大規模演習などに使いますが……4年に一度、世界中の強者達を集めた巨大な大会を開きます」

「巨大な、大会……!」

「転移魔法陣によって流通に革命が起きた今、強者達がこの大会のために足を運ぶのも不可能ではないでしょう。

 あなたやアレクサンダー様のような七大列強に名を連ねる武人が参加を表明すれば、強者達を釣り上げる餌としてはバッチリです。

 いずれはこの大会こそが、七大列強の序列を決める夢の舞台になるかもしれませんね」

「凄い! 凄い! アリエル様!」

 

 私は思わず感極まってアリエル様に抱きついた。

 アリエル様が恍惚の表情で私の匂いを嗅ぎ始めたけど、全く気にならない。

 

 これぞまさしく、私の夢の顕現だ!

 まるで前世のオリンピックのような、私が薄らぼんやりと思い浮かべてた夢そのもの!

 それを実現してくれた人達には感謝しかない。

 私にできるお礼なら何でもする覚悟だ。

 

「ああ、この抱擁だけでもコロッセオを作った甲斐がありました……!

 このままベッドにお持ち帰りしたいです」

「いいよ! これは、それくらい、価値が、あるから!」

「!?」

 

 できるお礼なら何でもするという言葉に二言はない!

 やるならやれい!

 

「うふふ。うふふふふふ。ここまで嬉しいのは王位を得た時以来です。

 さあ、あなたの気が変わる前にイきましょう。

 大丈夫。優しく天国に連れていってあげますからね、エミリー」

「ちょ、ちょっと待って!? そういうのはよくないと思うよ!」

「あら、アレクサンダー様。邪魔をしないでいただきたいのですが」

「いや、邪魔するよ!? そんな羨ま……じゃなくて! それなら言い出しっぺの僕にだって権利が……でもなくて! ええっと、その……!!」

「エミリー、行きましょう」

「待って!?」

 

 その後、アレクとアリエル様がにらみ合いを始めてしまった。

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 早く大会開かれないかな!




・天下一武闘会こと、アスラ王国大列強武闘祭
帝級以上の認可を持つ者はシード。
それ以下はいくつかのブロックに分かれてバトルロイヤル形式の予選を行い、勝ち上がった者達とシード枠の強者達でトーナメント戦。

第1回大会の予選では、階位としては王級のエリスやギレーヌ、流派の認可は持っていないルイジェルドや鬼神などが無双し、強制参加させられたララが地味に生き残り、
決勝トーナメントでは嫁と子供に言われて出てきた当代剣神が無類の強さを見せつけたり、
不死魔王が暴れ回ったり、
北神二世VS妖精剣姫の師弟対決が勃発したり、
決戦用の魔導鎧『零式』に乗り込んだルーデウスが、息子の『剣王』アルスに削られ、次戦の『北帝』ジークハルト戦で敗れたり、
アレクが剣神を倒して列強の序列が入れ替わったりしつつ、
最終的にはエミリーが優勝。
その後、シークレットゲストとして登場したオルステッドに、エキシビションマッチで激闘の末にボコボコにされましたとさ。

アスラ王国は興行収入ガッポガッポな上に、周辺国家への示威行為ができて満足。
オルステッドコーポレーションは弟子入り希望の武芸者達が大量に入社して満足。
エミリーも最高の舞台で全力を出せて満足。
ヒトガミだけはオルステッドコーポレーションの戦力拡大で大激怒したという。


・エミリーと添い寝する権利
アレクとアリエルが喧嘩してるうちにお父さんが現れ、「もっと自分の体を大切にしなさい!」とエミリーがお説教されたことでウヤムヤになった。
なお、仲良くシェアしていれば、お父さんが来る前に二人とも天国に行けたもよう。
残念!

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