剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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11 ボレアス家

 ロアの街には、私の足なら一日とかからずに到着した。

 簡単な地図を貰って説明も聞いてたけど、想像以上に近かったっていうのが素直な感想だ。

 これ、来ようと思えば姉一人でも来れそう。

 だから、師匠達は頑なに姉にルーデウスの居場所を吐かなかったんだね。

 

 とりあえず、城塞都市という名に違わず街全体を覆っている城壁の入口である大きな門に向かい、そこで師匠に預かった紹介状みたいなのを見せて通過。

 けど、この先も他の街に行く度に師匠の紹介状を当てにするのもあれなので、師匠にオススメされた通り、まずは冒険者ギルドに向かって冒険者登録をしておいた。

 

 この数年でなんとか覚えたきったない字で必要書類を書き、登録完了して冒険者カードっていうのを貰う。

 大体の街だとこれが通行証の代わりになるらしい。

 ちなみに、冒険者にはS〜Fまでのランクがあって、登録したての私は当然最下位のFランク。

 現役時代の師匠とゼニスさん、ギレーヌなんかは最上位のSランクだったらしい。さすが。

 いつかは私もその域に……いや、冒険者として登り詰めるより剣士として強くなりたいかな、うん。

 

 そんなこんなを経て、私は改めてギレーヌが滞在してるというこの街で一番大きな建物……というか城みたいな建造物。

 アスラ王国のフィットア領というらしい、このあたり一帯の領地を治めている領主様の館へと向かった。

 最初にギレーヌがそこにいるって聞いた時はちょっと首を傾げたよ。

 いや、世界的に見ても上位の剣士であるギレーヌが領主様なんてお偉いさんに雇われるのはわかるんだけど、なんでそんなところにルーデウスをぶち込むことができたのかが不思議で仕方なかったんだ。

 

 そこんところもうちょっと深く聞いてみたら、なんと師匠が領主様と親戚であることが判明。

 師匠のフルネームはパウロ・グレイラット。

 そして、領主様の名前はサウロス・ボレアス・グレイラットっていうらしい。

 ボレアスってミドルネームの意味はよくわかんないけど、確かにどっちも同じグレイラットだ。

 つまり親戚のコネを使って、師匠はルーデウスをここに放り込んだわけである。

 っていうか領主様の親戚とか、師匠ってもしかしなくても貴族出身? とかも思ったよ。

 でも、師匠があんまり話したくなさそうにしてたから、それ以上の深入りはやめた。

 

 ということで、色々考えてるうちに領主様の館に到着。

 ここでも師匠の紹介状を見せて中へ入らせてもらう。

 そこから先は、ギレーヌと同じ獣耳のメイドさんに案内されて、まずは館の主人みたいな人に会わされた。

 まあ、家にお邪魔しておいて、そこの主に挨拶しないって失礼だもんね。

 もっとも、私が会ったのはフィリップさんっていう師匠と同い年くらいのイケメンで、正確には館の主人である領主サウロスさんの息子さんで、この街の街長みたいだけど、それでも私みたいな庶民からすれば雲上人だ。

 

 フィリップさんへの挨拶は、特に何事もなく終わった。

 私の片言にも貴族の礼儀作法知らないことにも怒らずにいてくれたよ。

 師匠から何か聞いてたのか若干興味ありげな目を向けられたけど、それだけだった。

 

 そうして色々と用事を終わらせてから、ようやくギレーヌのところへ向かう。

 案内してくれる獣耳メイドさん曰く、今の時間は庭でルーデウスとお嬢様なる人物に剣術を教えてるらしい。

 そのお嬢様に関しては、来る前に少しだけ師匠に情報を聞いた。

 なんでも貴族令嬢とは思えないほどのジャジャ馬で、ルーデウスはそんなジャジャ馬娘の家庭教師という名目で送り込んだんだとか。

 当時7歳の子供にやらせることかと思ったけど、まあ、色々事情があるんでしょ。

 

「やぁああああ!」

「うっ!? ぐっ!?」

 

 そんなことを思いながら到着した庭では、ギレーヌに見守られた見覚えのある茶髪の少年と、見覚えのない赤髪の少女が剣を交えていた。

 少年の方はルーデウスだ。

 見てなかった2年の間に成長してるけど、面影が無くなるような時間じゃないからすぐわかる。

 

 で、ルーデウスと戦ってる赤髪少女の方がお嬢様とやらかな?

 年齢は私達より2歳くらい上って感じで、ルーデウス相手にかなり一方的な試合運びをするくらいには強い。

 まあ、ルーデウスは魔術無しの剣術オンリーで戦ってるみたいだけど。

 でも、ルーデウスの剣術の腕も2年前よりは遥かに成長してるから、やっぱりお嬢様が強いってことに変わりはない。

 

 さすがに、魔術ありの姉には届かないだろうけどね。

 最近の姉はさすがは私、というかこの剣術に必要な才能を全て詰め込んだようなハイスペックボディと血を分けた実の姉と言うべきか、剣術の才も開花させて、上がりたてとはいえ既に水神流中級。

 吹っ切れた師匠から叩き込まれ、遂に北神流上級の認可を受けた私がそっちも教えたことで、北神流初級すら会得して、それをルーデウス式魔術と絡めるという、とんでもない成長っぷりを見せてるからなぁ。

 下手したら魔術無しでも、このお嬢様とそこそこ渡り合えるかも。

 

 というか、今の姉は魔術ありのルーデウスより強いのでは?

 少なくとも今見た限り、互いに魔術無しの剣術勝負なら確実に姉が勝つ。

 ルーデウスも剣術の腕が上がってるとはいえ、それでもまだ剣神流中級の中でも弱い方に見えるし、師匠が叩き込んだ水神流に至っては忘れかけてるんじゃないかと思うレベルだ。

 魔術に関してなら、今の姉でも昔のルーデウスに勝てないほどの差があるけど、その差を剣術で埋めればワンチャンあると思う。

 

「ハァアアアア!!」

「うごっ!?」

「やめ!」

 

 あ、そんなことを思ってるうちに決着がついた。

 お嬢様の木剣がルーデウスの頭部を強かに打ちつけ、それを近くで見守っていたギレーヌが試合終了を言い渡す。

 そして、今の試合の良かったところと悪かったところを二人に伝えた後、ギレーヌはこっちを向いた。

 

「それと、今日は客が来ている。おい! そんなところにいないで、早くこっちに来い!」

「お邪魔、します」

 

 ギレーヌに呼ばれたので、三人のいる庭先へと出ていく。

 さて、ルーデウスはともかく、ギレーヌと貴族のお嬢様にはちゃんと挨拶しなければ。


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