剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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オルステッドと戦ってから、アスラ王国の政争が始まるまでの間の話です。


番外 お風呂にて

「あ”ぁぁ〜〜」

 

 現在、私はグレイラット邸に設置されてるお風呂に浸かって、おっさんのような声を上げていた。

 この世界には、日本みたいに湯船にたっぷりのお湯を張るタイプのお風呂が少ない。

 そりゃそうだ。

 ガスも水道も無いんだから。

 水魔術と火魔術を使えば簡単に沸かせるんだけど、誰しもが魔術を使えるわけじゃないからね。

 魔道具って手もあるけど、あれは手に入る場所が限られてる上に、地味にお高い。

 

 結果、お風呂があるのは王宮とか貴族のお屋敷だけになる。

 庶民は基本的にお湯で体を拭くか、そうじゃなきゃ水浴びだ。

 魔術も魔道具もありふれてるシャリーアであっても、それは変わらない。

 お風呂の魅力を知らないと、作ろうって気にならないのかもね。

 なんてもったいない。

 

 しかし、このグレイラット邸は話が別だ。

 何せ、この家をリフォームしたというルーデウスは、お風呂の魅力に取り憑かれた元日本人。

 魔術も使えて沸かす労力も少ない、土魔術で湯船を作るのも簡単となれば、設置しない理由がない。

 

 おかげさまで、私はお風呂の恩恵にあやかれているというわけだ。

 しょっちゅう銭湯感覚で入りにきては感動してる。

 元日本人として、十数年ぶりのお風呂は心に染みた。

 剣の聖地に行く前は、よく静香と共にこの感動を噛みしめてたものだ。

 

 だが、このグレイラット銭湯には一つだけ問題がある。

 入ってると、大抵誰かが乱入してくるのだ。

 いや、銭湯と考えれば何もおかしくないんだけど、孤独で救われる感じの一人風呂が恋しい今日この頃でもある。

 

 いっそ、ウチにも設置しようかな?

 私もルーデウスには到底及ばないとはいえ土魔術が使えるし、時間をかければ湯船くらい作れるはず。

 改築費用は、まだまだ余ってる迷宮貯金と、オルステッドから貰う予定のお給料でどうとでもなるし。

 いや、でも、無料で入れる銭湯が近くにあるのに、自宅にも設置するっていうのは、いくらなんでも無駄遣いかな?

 

 そんなことを考えてる間に、本日の乱入者がやってきた。

 姉か、ロキシーさんか、それともノルンちゃんかアイシャちゃんか。

 ゼニスさんとリーリャさんかもしれない。

 ルーデウスと師匠じゃないはずだ。

 前回間違って入ってきた時に最後通告をしてるし。

 

 しかして、私の予想は外れた。

 入ってきたのは、原色のペンキをぶちまけたような真っ赤な髪をした格差社会の権化。

 裸になると、より一層の戦闘力の差を痛感させられる()怖の大王。

 つい先日からこの家に住み始めた、ルーデウスの三人目の妻。

 エリスさんだった。

 

「ふん! 邪魔するわよ」

「あ、はい。どうぞ……」

 

 堂々と入ってきて、堂々と体を洗い始めたエリスさんを見て、私は湯船の隅で縮こまった。

 き、気まずい……。

 エリスさんには、とことん嫌われてるからなぁ。

 嫌われる理由もわからなくはないし。

 

 やがて、エリスさんは体を洗い終わって湯船の中に入ってきた。

 グレイラット銭湯の湯船は、何人かで入っても余裕があるくらい大きいけど、それでもヤバいほど気まずい。

 早く出よう。

 ああ、でも、お風呂の魅力から中々抜け出せない……!

 まだ入ったばっかりだったんだよ!

 それに久しぶりのお風呂だったんだよ!

 

「……あんた、結構傷が残ってるのね」

「え? あ、はい」

 

 なんか、エリスさんが複雑そうな顔で私の体の感想を言った。

 チラチラ見てくるから、すわそっち系の人か、でもルーデウスと結婚してるからどっちもイケるタイプか、そういえばアスラの王族貴族はアリエル様のごとき変態だらけだって話だったなとか思ってたけど、どうやら違ったらしい。

 

 確かに、私の体には13歳くらいの幼い外見に見合わない古傷がいくつかある。

 斬り傷と火傷の跡。

 紛争地帯で聖級剣士や青竜にやられた時の古傷だ。

 治癒魔術でも古傷までは消せない。

 一回削ぎ取って治せば別だけど、わざわざそこまでする気もない。

 

 静香には痛ましそうな目で見られたけど、名誉の負傷だって言って胸を張っておいたら、何も言われなくなった。

 代わりに、なんかしばらく静香が優しくなったんだけど、それも今は置いとく。

 

「当時は、余裕、なかった、ので」

 

 丁寧に治癒魔術をかければ、古傷が残ることはあんまりない。

 実際、エリスさんの体にも目立つ傷はないし。

 でも、私がこの傷を負った時は、自分の傷より死にかけの父の治療に魔力を使わなきゃいけなかった。

 自分の方は最低限、雑に治してたから、こうして古傷が残ってるのだ。

 

 まあ、そもそも、当時の治癒魔術の腕前はギリギリ初級って感じだったから、どっちみちだったような気もするけど。

 それに古傷自体も、ギレーヌみたいなカッコ良い感じだし、大して気にしてるわけでもない。

 

「ふーん……」

 

 エリスさんは、よくわからない表情で相槌を打った後、

 

「上がるわ」

「え? もう?」

「何よ。悪い?」

「い、いえ、別に……」

「ふん」

 

 なんか即行でお風呂場から去ってしまった。

 え、えーっと、何がしたかったんだろう……?

 とりあえず、私はもうちょっと浸かってても大丈夫、だよね?

 

 

 

 

 

 後日。

 なんかエリスさんの私に対する当たりがちょっと柔らかくなった。

 こ、これが裸の付き合いの力。

 あんな短時間で関係を改善してしまうとは、やっぱりお風呂は偉大である。

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