剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「あ”ぁぁ〜〜」
ルーデウスが逝って、いよいよ世界情勢がきな臭くなってきた昨今。
私はこれからの戦いに備えて英気を養うべく、温泉という名の世界の宝に浸かって、おっさんのような声を上げていた。
現在地はミリス大陸にある青竜山脈。
その麓近くにある温泉。
因縁深い青竜の名を冠してはいるけど、奴らは10年に一回くらいのペースで産卵と子育てに訪れるだけらしいので、ピークじゃない今は姿が見えない。
来たとしても、この温泉よりもっと上の方に来るそうだ。
あいつらは基本的に雲の上が生息域だから。
じゃあ、なんで紛争地帯で最初に出くわした時は地上にいたのかというと、
オルステッド曰く、ヒトガミが使徒をそそのかして上空に聖級以上の魔術を撃たせ、それがピタ○ラスイッチ式に連鎖して、最終的に青竜が地に落ちたんだろうって。
ヒトガミ、あいつ、ホント、マジで……。
近いうちに、ぶった斬ってやるからなぁ!
まあ、今だけはそんな恨みも温泉に流そう。
わざわざ転移魔法陣まで使って温泉に来て、あんなモザイクのことなんか考えたくない。
それに、今日は辛い修行の日々を乗り越えた
「うっひょー! 広ぇー! 泳げるぜー!」
「や、やめなよ、ラピス……。他の人達の迷惑だよぉ……」
向こうで元気に泳いでるのと、消え入りそうな声でそれを止めようとしてるのは、双子のようにそっくりなウサ耳の獣族娘コンビ。
北聖『双剣』のラピスラズリ。
二つ名からわかる通り、ナックルガードの後継者だ。
ラピスがナクルの曾孫で、ラズリがガドの曾孫。
大分血は離れたはずなのに、あの二人だけは何故か往年のナックルガードみたいにそっくりなんだよなぁ。
まあ、そっくりなのは見た目だけで、中身は性格も得意分野も違うんだけど。
ただ、才能って意味だと、それを数値化した場合、多分二人はピッタリ同値だと思う。
実際に剣を教えた私の感想としてはね。
二人とも凄まじく将来有望な剣士だ。
あくまでひいお祖父ちゃん譲りの、二人揃ってのコンビネーションの秀逸さが評価されてのものとはいえ、8歳にして既に北聖だもん。
おまけに、ラピスは剣神流上級、ラズリは水神流上級の認可まで持ってる。
第二次ラプラス戦役の中でうっかり死ななければ、最終的に神級に届きうる才能だと、個人的には思ってる。
なお、それだけの才能を持ってても、二人とも欠片も慢心してない。
何故なら、『強くなりたいなら、ネクロス要塞より、剣の聖地より、まずはそこへ行け』と言われるようになった我らが龍神道場には、
二人がかりで手も足も出ない、それどころか短い獣族の寿命だと、全部使っても届かないかもしれない強者が無数にいるからだ。
そんな絶対強者の一角が、ここにも一人いる。
「温泉というものは初めて入りましたが……中々にいいものですね、師範」
私のことを師範と呼ぶ妙齢の女性。
顔に孔雀の入れ墨があり、体には無数の鱗が生えている、長身の半魔族。
彼女こそは、龍神道場の生み出した最高傑作の一人。
『奇神』オリベイラ・コルベット。
オーベールさんと魔族のお嫁さんの間に生まれた一人娘で、彼の称号と全ての技を受け継ぎ、
更に魔族の血によって先代を超える身体能力を持ち、
おまけに、ルーデウス式カリキュラムを幼少期から学んだことによって結構な魔力総量まで持ち、魔術も私より上手く使いこなすという、まさに傑物。
いや、この子、マジで凄いんだよ。
何せ、アスラ王国の大列強武闘祭で、一回私から列強の地位を奪ったことあるからね。
まあ、その戦いは個人戦で殿堂入りした私が、団体戦に個人でぶち込まれた時に、アレクとオリベイラがチームを組んで向かってきた時の話ではあるけど。
それを差し引いたって、肉体年齢が全盛期に差し掛かってきたパーフェクト・エミリーちゃんをぶっ倒したのは凄い。
今の私って、神刀無しのオルステッドと同じくらいには強いのに。
しかも、オリベイラは私と違って頭の方の出来も良いし、身長も高くてスタイル抜群だし、完璧超人にもほどがあるわ!
唯一の欠点は、オーベールさん譲りの奇抜スタイルを本気でカッコ良いと思ってて、服装のセンスが致命的にダサいことくらいか。
普段着からして虹色の極彩色で、目に痛いし。
でも、温泉でシンプルな薄着(混浴だから水着っぽいものを皆着てる)になると、強調されるそのタワワな果実に嫉妬の炎が燃え上がる。
私なんて成長しても『無』だというのに!
おわかりだろうか?
『貧』ではなく『無』なのだ。
エルフは種族の特徴として肉つきが悪いから、『貧』ならまだ私も納得できる。
実際、姉もお婆ちゃんも『貧』だった。
だが、『無』は納得できない!
ラピスとラズリも獣族らしく、まだ8歳なのに格差の片鱗が見え始めてるし、世の中は理不尽に満ちている!
ちっくしょー!
「あの、師範……
「あなた達にはわかりませんよ、オリベイラ。私達、持たざる者の気持ちはね。
大丈夫ですよ、先生。私だけは先生の味方です」
「チ、チィ……!」
「先生……!」
私はこの場にいる最後の弟子と心を通じ合わせ、絆を深めた。
彼女は北王『光と闇』のチィ・ター。
見た目は12歳くらいの水色髪の美少女で、昔の私のごとき幼児体型。
ラピスとラズリと違って片鱗すらない、私と同じ『無』の一族。
しかも、彼女はこれ以上成長する可能性が著しく低い。
何せ、彼女の実年齢は私やオリベイラほどじゃないけど結構いってて、30を越えてる。
チィはウィ・ターさんの孫なんだけど、あの人が惚れて結婚までこぎつけた相手が、ロキシーさんと同じミグルド族の女性だったのだ。
ロキシーさんを見れば明らかだけど、ミグルド族っていうのは、成長しても人族で言う14歳くらいまでしか育たない。
おまけに、ウィ・ターさん自体が、成長しても子供にしか見えない
そんな二つの種族の血をこれでもかと濃く受け継いでしまったチィは、12歳くらいから完全に成長が止まってしまったというわけだ。
あと、剣術の方は子供体型というハンデを覆し切れず、王級で頭打ちとなってしまった。
才能はあったし、龍神道場というこれ以上ない環境もあったんだけど、そこがチィの限界だった。
まあ、その代わりに、この子は基本七種の魔術(昔は六種だったけど、ルーデウスが雷属性を新しく追加して七種になった)全てでも王級だし、魔力総量もめっちゃ多いから、凄い強いんだけどね。
限界とは?
ちなみに、彼女が『光と闇』の二つ名を持ってるのは、ウィ・ターさんの称号を受け継いだからって理由だけじゃなくて、
普段は穏やかで優しいんだけど、戦闘になると性格が豹変することから、あまりに極端な二面性になぞらえて『光と闇』のチィ・ターと……
「先生。何か変なこと考えていませんか?」
「ナニモ、カンガエテ、ナイヨ」
まあ、とにかく。
この4人がララに続く、私の直弟子達だ。
ララは剣術というより、近接戦に持ち込まれた場合の対処法って意味の技術を徹底的に叩き込んだから、純粋な剣士としての弟子は、この4人が初めてだね。
いや、4人とも私に教わる前に、かつての北神三剣士をベースにした技術を既に習得してたから、私の後継者候補ってわけじゃないんだけど。
『妖精剣姫』の名を受け継いでくれる子に関しては、絶賛募集中だ。
まだまだ私自身が現役だし、気長に探す予定である。
ちなみに、最近の私は晩年のルーデウスのように異名が増えて、『姫神』だの『姫龍帝』だのと勝手に呼ばれるようになったから、
ちゃんと一番気に入ってる『妖精剣姫』の名前が残ってくれるか、若干心配だったりする。
「そういえば、先生。アレクさんとは、どこまでいきましたか?」
「それは某も興味があります」
「えぇ……」
と、そこで二人がいきなり話題をぶち込んできた。
温泉に来てまで、その話しなくちゃダメ?
この二人は長命種の血が入ってるとはいえ、人族換算だと行き遅れもいいところだから、同じく行き遅れまくってる私のそっち方面の話に興味があるのはわかるけどさぁ。
なお、若いどころか幼いラピスとラズリは蚊帳の外だ。
ラピスがバタフライで温泉に津波を起こして、ラズリが流されてた。
「あんまり、進んで、ないと、思うよ。
この前、お風呂で、鉢合わせた時、この傷、見て、硬直、してたし」
男女で裸を見せ合う機会なんてまずないから、何十年もの間、アレクが見ることのなかった私の古傷だけど。
最近になって、ちょっとした事故が発生して見られ、結果アレクは硬直してた。
個人的にはカッコ良い傷だと思うけど、やっぱり女として見たら、マイナス要素の塊だと思うんだ。
ちなみに、アリエル様は王宮の大浴場を使わせてもらった時に突撃してきて、一瞬の硬直の後に新しい扉を開いたかのように恍惚の表情を浮かべてたんだけど、それはさて置く。
あの人は、あらゆる意味で例外だと思った方がいい。
「それ絶対、アレク殿は惚けただけだと思いますが……」
「うふふ。帰ったら汚物として火魔術で消毒してあげましょうかね。先生とのお付き合いは、プラトニックなものしか認めませんよ」
「師範、この過激派は無視してください。大丈夫。師範の裸はとても魅力的です」
「嫌味か……!」
「だから、某の胸に殺気を送らないでいただきたい!?」
「なんの話してんだ、お師匠ー?」
「き、きっと大人の話なんだよ……」
オリベイラとチィと騒いでるうちに、ラピスとラズリも寄ってきて、結局この話はウヤムヤになった。
愛だの恋だの裸だの、子供の前でする話でもないからね。
まあ、なんだかんだで、この子達と一緒にいる時間が私は好きだ。
かつての北神三剣士にならって『姫神三従士』を名乗ってるこの4人は、第二次ラプラス戦役で私と一緒に戦う気満々だし、
この子達と一緒なら、どんな苦難も乗り越えていけそう。
激動の時代が始まる少し前。
平和の象徴である温泉に浸かりながら、私はそんなことを思った。
『奇神』オリベイラ・コルベット!
『双剣』のラピスラズリ!
『光と闇』のチィ・ター!
4人揃って『姫神三従士』!!
・龍神道場
各分野のエキスパートが揃う世界最高の修行場。
どんなに才能のない奴でも、諦めずに血の滲むような修行を10年単位で続ければ、何かしらの分野で聖級にはなれると言われるほどの魔境。
ただし、そこまでの根性を持ってる奴は稀。
・この時点のエミリー
省エネモードの社長とほぼ互角。
魔剣を使えば、社長がちょっとだけ魔術を使い始めても勝てる。
社長が本気になっても数分くらいなら粘れる……かもしれなくもなくもない。
アレク&オリベイラが倒したのは、もちろん魔剣なしエミリー。
・アレク
めっちゃ強くなってる。
エミリー打倒は7割方アレクの力。
・七大列強
大列強武闘祭、及び、その後に確定で行われる場外乱闘によって、割と頻繁に入れ替わっている。
龍神道場で定期的に行われるガチバトル(多対1を含む)でも入れ替わるので、エミリーとアレクも、実は何回も列強の座から引きずり下ろされている。
社長ですら、いくら仲間内の戦いだから魔力がもったいなくて使えなかったとはいえ、複数回に渡って失冠し、その度に鍛え直すという修羅の国状態。
技神さん大満足。