剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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またまた新作書き始めた記念の番外編。
北神流『流入効果狙いの術』とも言う。
今回のやつは、剣姫転生に近いノリのオリジナルなので見てね!(ダイマ)

あ、今回の番外編自体は、大分シリアスです。


番外 if 日記の未来ルート

「遅い! 相手が、振り下ろす、前に、最適な、位置に!」

「はい!」

「おおおおおおおッッッ!!!」

「父も、遅い! フェイント、見抜いたら、即、攻撃!」

「くっ……! わかった!」

 

 私は今、2人の剣士に剣術を教えていた。

 一人はゼニスさん似の金髪の美少女、ノルンちゃん。

 もう一人は我が父、ロールズ。

 

 残酷な言い方になるけど、2人に大した才能はない。

 けど、モチベーションは凄く高い。

 加えて、私も人に剣術を教えるのは得意だ。

 元々それなりに得意だったところに、魔力眼による読み取りなんてチートが加わったおかげで、相手がどこにどういう力を込めてて、どこを修正すれば良くなるのかが手に取るようにわかる。

 

 その相乗効果を最大限に活かした厳しい修行を結構長いこと続けた結果、2人はそれなりの強者に至っていた。

 ノルンちゃんは三大流派全てで中級。

 総合力なら上級の下位くらいある。

 リトル師匠って感じだ。

 

 父も北神流上級に至り、他2つの流派も中級。

 ノルンちゃんには、師匠の形見であるクソチート武器も託してるし、2人揃えば聖級剣士を倒せると思う。

 才能の無い身で、よくぞそこまで強くなってくれたって感じだ。

 そのモチベーションの源泉を思うと、複雑な気持ちだけど……。

 

 

 現在、私達は北方大地の東端、ビヘイリル王国の片田舎にある村に住んでいる。

 ここに流れ着いた経緯は……思い出すだけで悲しみが沸き上がってくる。

 

 最初のキッカケは、剣の聖地での修行中に静香が危ないって手紙をもらって、急いでシャリーアに帰ったこと。

 そうしたら、静香の方は大丈夫な感じになってたけど、代わりにロキシーさんが危ない状態になってた。

 

 ロキシーさんの病名は魔石病。

 神級解毒魔術でしか治らない奇病。

 私は混乱しながらも、ミリス神聖国へ神級解毒の詠唱が記された本を取りにいったというルーデウス達を追った。

 そこで……。

 

『エミリー……ルディ達を、頼む……』

 

 致命傷を負って、死にかけてる師匠を発見した。

 後から聞いた話だと、最初は神級解毒の詠唱を書き写して帰ってくるつもりだったのに、肝心の詠唱を記した本が辞書くらい分厚かったせいで、書き写すのを断念して盗むことにしたそうだ。

 だけど、その本はミリス教団の至宝。

 そんなものを盗もうとすれば、当然奪い返しにくるに決まってる。

 下手人は殺されても文句は言えない。

 

 だから、師匠はミリスの騎士団にやられてしまった。

 ルーデウス達を逃がすために殿(しんがり)になって。

 

 そうして師匠が息絶える寸前の現場に遅すぎる到着をした私は、半狂乱になりながら追手を全員瞬殺して、なんとか師匠を助けようとして、それができなくて、泣きながら師匠の遺言を聞いた。

 遺言を言い切って、安心したような顔で逝った師匠を荼毘に付し、遺骨を土魔術で作ったツボに入れて、形見の2本の剣を持って、私はルーデウス達を追いかけた。

 

 結局、ルーデウス達と合流できたのは、シャリーアに戻った後だった。

 ロキシーさんは手遅れで亡くなり、ルーデウスと一緒に行動してたクリフさんまで亡くなり、その上師匠の訃報まで聞いた皆は泣き崩れてしまった。

 私は師匠の遺骨をシャリーアのお墓に埋葬して、形見の剣をノルンちゃん達に託して、クリフさんと師匠の死で心が壊れかけたお婆ちゃんを必死で抱きしめて、早まったことさせないようにして、ロキシーさんと師匠とクリフさんのお葬式に参列した。

 悲しさと悔しさを、なんとか堪えながら。

 

 

 次の悲劇は、姉の死だ。

 ルーデウスがやさぐれてダメ親父と化す中、アリエル様のお父さん、つまり現国王が重病っていう報せが届いた。

 王位が変わるタイミングがきたのだ。

 

 このために生きてきたアリエル様達は、当然戦いのためにアスラ王国へと向かった。

 姉もルーデウスの現状に後ろ髪を引かれながらも、ルーデウスが自暴自棄になって浮気みたいなことやらかしたのもあって、一度距離を取る意味でもアリエル様に同行。

 もちろん、親友の悲願を叶えたいっていうのが理由の大半だけど。

 私もそっちに同行し、帰ったらガツンと言ってやろうって姉と話しながら、アスラ王国に行った。

 

 ……ガツンと言ってやることは叶わなかった。

 アスラ王国王位継承戦。

 勝算は充分にあった。

 ペルギウスさんの取り込みにこそ失敗したけど、シャンドルという強力な手札は健在。

 既に冒険者ギルドを通した暗号みたいなメッセージで呼び出しをかけてたから、そう遠くないうちに合流できるはずだった。

 そのタイミングに備えて、アリエル様達は着々と準備を整えてた。

 

 けど、その途中で、政敵であるダリウスが強引な手に出たのだ。

 整合性とか一切合切無視で、後で無理矢理つじつまを合わせればいいとばかりに、レイダさんとオーベールさんを含む大戦力でアリエル様に奇襲をかけた。

 ありえない、そんなことしたら後でとんでもない問題になるはずなのにってルークさんが叫んでたのが印象に残ってる。

 

 ダリウスは、それだけの無茶をしてでも早期決着を図ったのだ。

 まるで、こっちに起死回生のシャンドルがいるってバレてたかのように、ダリウスは無理攻めを選んだ。

 私達にとって、その愚かな選択が致命傷だった。

 

 私はレイダさんとの真っ向勝負になって他を気にする余裕が無くなり、他の皆はオーベールさんを含む北神三剣士に蹂躙された。

 お守りにってノルンちゃん達に託されてた、師匠の形見のクソチート武器のおかげでレイダさんには勝てたけど、それが限界。

 私がレイダさんをなんとか倒す頃には、他の皆は全滅してて、辛うじて生きてた姉も、オーベールさんに深い傷を負わされるところだった。

 

 そんな状況で、敵の兵士に捕縛されたアリエル様は、私を見て言った。

 

『エミリー。シルフィを頼みます』

 

 アリエル様は自分の敗北を悟って、自分ではなく私達を生かす道を選んだ。

 私に選択肢は無かった。

 その時の私は、レイダさんとの死闘で満身創痍。

 オーベールさん達を倒して、アリエル様を救出できる力は残ってなかった。

 できるのは、アリエル様の言った通り、姉を連れて逃げることくらい。

 

『ごめん、なさい……!』

 

 私は師匠を失った時のように泣きながら、姉を抱えて逃げた。

 アリエル様を見捨てて逃げた。

 

 なのに、そこまでして姉を連れ出したのに、姉はオーベールさんの剣に塗られた毒に侵されていた。

 私の解毒魔術じゃどうにもならない。

 私は必死で足りない頭を回転させて、王都で暮らしてた頃に聞いた凄腕の治癒術師の存在を思い出して、その人に姉を治してもらおうとした。

 

 でも、ダリウスがアリエル様がクーデターを起こそうとしてたとかいうデマカセを広めたせいで、その人は姉の治療を突っぱねた。

 だから脅して無理矢理にやらせたけど……それでも姉は助からなかった。

 

 私は姉まで死なせてしまった。

 アリエル様に託されたのに、あの人を見捨ててまで助けようとしたのに、助けられなかった。

 

 そこに姉を追いかけてきたらしいルーデウスが来て、姉の亡骸を抱えて泣きじゃくる私を見て、呆然とした。

 泣きながら謝ることしかできなかった私に、ルーデウスは「この役立たず!! そんなに強いのに、なんで!?」って、あっちも泣きながら罵声を浴びせてきた。

 その通りすぎて、何も言えなかった。

 

 

 この一件で、ルーデウスと私の距離は完全に離れてしまった。

 ルーデウスはますます荒れて、娼館めぐりとかするようになり、そんなルーデウスを見てられなかったノルンちゃん達が出ていく流れになってしまった。

 責められてる私が傍にいたら、ルーデウスが立ち直る邪魔になると思って、私もノルンちゃん達についていくことにした。

 姉の死を気丈に耐えてる父と母と、生まれてきた息子(クライブ)のためにどうにか奮起したお婆ちゃんも連れて。

 

 私はアスラ王国に世紀の大罪人として某海賊王並みの懸賞金をかけられちゃってて、ノルンちゃん達もミリスの至宝を盗み出した伝説の大泥棒の家族。

 スネに傷を持ってる以上、あんまり目立つ場所には住めない。

 結果、流れ着いたのが北方大地の東端、ビヘイリル王国の田舎村。

 そこで思いがけない出会いがあった。

 

 なんと、昔ルーデウスやノルンちゃん達を助けてくれた大恩人、ルイジェルドさんがこの近くにいたのだ。

 彼の同族であるスペルド族の人達と一緒に。

 

 しかし、彼らは疫病に侵されていた。

 どうにかしようと、私はノルンちゃんの助言で一緒にペルギウスさんに土下座して助力を乞い、ペルギウスさんもルイジェルドさんには借りがあるってことで、魔族嫌いなところを無理して、しぶしぶ力を貸してくれた。

 

 ペルギウスさんの12の使い魔の一人、『洞察』のカロワンテさんの力でスペルド族の人達を診察し、病名を把握。

 でも、ペルギウスさんの力をもってしても、治療法まではわからなかった。

 私は貸してもらった転移魔法陣で世界中を飛び回り、これまた貸してもらった使い魔の人と一緒に治療法を探して回ったけど……結局、できたのはほんの僅かに苦しみを和らげる薬を見つけてきたことだけ。

 それ以上はどうにもならずに、ルイジェルドさん達を死なせてしまった。

 

 ままならない。

 だけど、一番ルイジェルドさんを大切に思っていたノルンちゃんは、私を責めななかった。

 むしろ、頑張ってくれてありがとうって、お礼を言ってくれた。

 自分は少しでもルイジェルドさんと一緒に過ごせて、最期を看取ることができたから、それだけで充分だって。

 泣きはらした顔のまま、そんなことを言ってくれた。

 

 それを見て私は思った。

 この子達だけは、絶対に守り抜こうって。

 

 

 

 

 

「お疲れ。ダメ出しは、したけど、凄く、良く、なってたよ」

「あ、ありがとうございます、エミリー姉さん……」

 

 修行の後。

 父は気絶し、ノルンちゃんは息も絶え絶えの状態でお礼を言ってくる。

 この子、本当に良い子。

 マジで幸せになってほしい。

 いっそ、私が嫁にもらってしまおうか。

 

「次はいつ行くんですか?」

「何か、起きなければ、ずっと、いるよ。静香の、方は、一段落、しちゃったから」

 

 最近は、ルーデウスの助力を乞えなくなった静香のために、大量の迷宮を攻略して魔力結晶を集める旅を定期的にやってたんだけど。

 異世界転移の最終段階が失敗しちゃった後、なんか静香は私の頭じゃ理解不能の謎理論を提唱して、帰れない原因が未来にあるんじゃないかとか言い出して、未来へ行くためにコールドスリープみたいな状態になっちゃったから、私はしばらくフリーだ。

 

 ちなみに、迷宮攻略は画期的な方法を発見したので、一人でもできるようになった。

 まず魔力眼を思いっきり使って、迷宮の心臓部である魔力結晶の位置を特定。

 そこへ向かって破断を撃ちまくり、まっすぐに穴を掘っていくっていう脳筋戦法をね。

 まあ、これで攻略できるのは、外から魔力結晶の位置を特定できるような浅い迷宮だけだし、そういう迷宮の魔力結晶は小さいんだけど、そこは数でカバーした。

 

 この方法なら、長期出張する必要もない。

 一日で10個くらいの迷宮を攻略(物理)できるので、ペルギウスさんに頼めば日帰りで帰ってこれるのだ。

 いない間に師匠達を死なせたトラウマもあって、できるだけノルンちゃん達の傍を離れたくない私としては、これは助かる。

 マジで思いついて良かった。

 私の頭脳も捨てたもんじゃない。

 

「ノルン姉ー! エミリー姉ー! お爺ちゃーん! ご飯できたよー!」

「はーい!」

「今、行く!」

 

 その時、ルーシーが私達を呼ぶ声が聞こえた。

 私は気絶した父を起こして、ノルンちゃんと一緒に現在のグレイラット家へと向かった。

 ちなみに、ウチとはお隣同士である。

 事情が事情だから、両家は家族同然の付き合いだ。

 

 私はこの2つの家が好きだ。

 ノルンちゃんがいて、ルーシーとクライブがいて、父と母がいて、お婆ちゃんがいて、ゼニスさんとリーリャさんがいる。

 一ヶ月に一度起きた時は、静香もよくご飯を食べにくる。

 ついでに、私が四苦八苦しながら作った不格好なお風呂にも入りにくる。

 

 守れなかったものは多い。

 だけど、全てを失ったわけじゃない。

 私は、この人達を守るために生きよう。

 世界最強の剣士になるって夢を諦めたわけじゃないけど、それを追うのはノルンちゃん達が天寿を全うして、ルーシーとクライブが独り立ちしてからでもいい。

 私にはエルフの血が入ってるんだし、それからでも充分に間に合うでしょ。

 だから、今は家族の団欒を……。

 

「「「いただきます!」」」

 

 そんな感じで、私の一日は過ぎてゆく。




このルートは、ノルンちゃんルートと言っても過言ではない。


・ノルンちゃん
ルーデウスという反面教師がいたため、自暴自棄にだけはならないぞとぐっと堪えた強い子。
それ以前に、物心ついた頃には父と共に転移事件の真っ只中、その後は天才どもに囲まれた凡人生活という地獄巡りな人生を送ってきてるため、それを乗り越えて大人になると精神力がヤバい。
このルートのエミリーが、師匠やシャンドル以上に尊敬した人物。
多分、本編エミリーも相当リスペクトしてる凄い子。


・ペ様
ルイジェルドに借りを返せずに死なせちゃった負い目があるので、結構協力的。
エミリーが治療法を探してる間、スペルド村とノルン達に護衛をつけてくれたりもした。
復讐鬼に付き合わせて、彼女達の細やかな幸せを壊すというのはさすがに気が引けるので、暴走ルーデウスのことは失踪して行方不明ということでごまかして、意図的に両者を遠ざけている。


・ルーデウス
エミリーへの罵倒は、後で滅茶苦茶後悔した。
しかし、エミリー達がビヘイリル王国に辿り着く頃には復讐鬼になっていて、シャリーアを飛び出してしまう。
ペ様がそんなルーデウスを危ぶみ、エミリー達の居場所なんぞ知らぬ存ぜぬで通したことで再会できず、謝る機会はついぞ訪れなかった。
まあ、大体ヒトガミのせい。


・エミリー
もし老デウスが過去転移を使わなかった場合、ノルン達が天寿を全うした後、ルーシー達を守るために第二次ラプラス戦役を戦うことになる。
オルステッドに師事できていないので、本編よりはかなり弱い。
それでも人族側最強の一角。
莫大な懸賞金がかかってるダーティ系強者。


・社長
今までのループと変わりすぎてるせいで観察に徹してる。
なので、エミリーを装備してヒトガミに挑むことはない。
何やってんすか社長ぉ!

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