剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
エミリーがベガリット大陸で遭難してた頃の話です。
甲龍暦422年。
中央大陸北部『北方大地』にて名を上げた冒険者、『泥沼』のルーデウスは。
父パウロの元パーティーメンバーであるエリナリーゼ・ドラゴンロードから母ゼニス発見の報告を受け、今までのように母の捜索に必死になる必要が無くなり、推薦状をもらったラノア魔法大学へと入学した。
本当はパウロ達に合流するつもりだったのだが、夢に出てきたヒトガミがゼニスのいるベガリットにはエミリーが向かったので大丈夫だと言い、更に魔法大学に入れば、現在ルーデウスが患っている深刻な病も治ると告げてきたので入学を決意したのだ。
ちなみに、彼の患っている病の名は『ED』。
男としての自信の全てを根こそぎ奪い取っていく、恐ろしい病だ。
原因は転移事件で魔大陸に飛ばされてから、どうにか故郷のフィットア領に帰ってきた時。
一緒に旅をしてきたエリスと結ばれ、前世からの悲願であった童貞喪失を経験し、幸せの絶頂と思われたところでエリスが突然いなくなってしまったからである。
一言の別れの言葉すらなく、「今の私とルーデウスでは釣り合いが取れません。旅に出ます」という簡潔な置き手紙だけを残して。
ルーデウスはエリスに捨てられたと思った。
冷静に考えれば彼女の気持ちも推し量れたかもしれないが、童貞喪失という天国から、翌朝に彼女がいなくなっていたという地獄にフリーフォールした当時のルーデウスには無理だった。
これが、とあるポンコツの頭を盛大に悩ませることになる、5年に渡るすれ違いの始まりである。
そんなわけで女にトラウマを持ち、呪われし病に罹患してしまったルーデウスは、それをどうにか克服するべく、ワラにもすがる思いでヒトガミの助言にすがり、魔法大学へとやってきた。
そこで最初にやらされたのは、入学試験と称した在学生との模擬戦だった。
「ルッ……!」
「はじめまして、ルーデウス・グレイラットです。
何事もなければ、来期からあなたの後輩になります。
何か至らないところがあればご指導ご鞭撻のほどお願いします」
「…………え? あ、は、はい。フィッツです。よろしく」
相手の名前は『フィッツ』。
白髪のエルフの少年。
現在、魔法大学で唯一ルーデウスと同じ無詠唱魔術が使える天才だそうだ。
数年前まではもう二人いたらしいが、一人は高齢の教師だったために去年亡くなり、もう一人は何かしらの事情で長期休学中だとか。
まあ、ルーデウスには関係のない話である。
「始め!」
教師の合図により、ルーデウスとフィッツの模擬戦が始まる。
場所は魔法大学に設置された、聖級治癒魔術の魔法陣の中。
この中なら怪我を負ってもすぐに回復できるらしい。
即死さえしなければ存分にやれる。
フィッツは右手に短杖を、左手に短剣を構えた。
まずは右手の杖から魔術を放とうとする姿が、少し先の未来を見るルーデウスの魔眼『予見眼』に映る。
ここで負けたら学費無料の特別生の話が無くなってしまうのではないかと思い、ルーデウスは本気でフィッツに対処する。
「『
数年前に殺されかけた世界最強の男、『龍神』オルステッドが使っているのを見て覚えた、魔術を無効化する魔術。
正確には相手の魔術の発生源に向けて、それを乱して妨害するための魔力を放つ魔術。
これに対処するには、
そして、フィッツにその力はなかった。
「え!? あれ!? なんで!?」
普段なら素早く生成されるはずの魔術が出せず、フィッツが動揺する。
「さーて、なんででしょうね?」
その隙目がけて、ルーデウスは最も使い慣れた魔術である『
小指の先ほどの大きさで生成し、高速回転を加え、射出速度も高めに設定して放つ。
下手な場所にぶつけると回復の暇もなく即死させてしまいそうなので、頬をかするような軌道で射出。
しかし……。
「ッ……! 『
「なっ!?」
フィッツは左手に持った短剣で、ルーデウスの
見覚えがある。
水神流の動きだ。
防御とカウンターに特化した剣術流派。
あの短剣は飾りではない。
フィッツは魔術師ではなく、魔法剣士だったのだ!
「ハッ!」
動揺を静め、フィッツがルーデウスに向けて走ってくる。
凄いスピードだった。
ルーデウスの5倍は速い。
というか、往年のパウロよりも速い!
「くっ……!?」
しかも、これまた見覚えのある技をフィッツは使う。
止まったと見せかけて加速し、加速すると見せかけて止まり、右に行くと見せかけて左に曲がり、後ろに下がると見せかけて前に出る。
超スピードのせいで、魔眼に捉えることも難しい。
エミリーが得意とした北神流の『幻惑歩法』。
ボレアス家にいた頃、何度も何度も煮え湯を飲まされた技。
だが、それゆえに、ルーデウスはこの技への対処法を知っていた。
「『
「!」
凄まじい衝撃波を発生させる、風の上級魔術。
かなり強めのそれを全方位に向かって放つ。
回避性能の高い相手には面攻撃。
基本である。
「やぁ!」
だが、フィッツはそれすらも水神流の技で受け流してみせた。
短剣を振るい、衝撃波をかき分けるように斬り裂く。
しかし、さすがに至近距離から放たれた上級魔術を完璧には防げず、体勢が大きく崩れている。
ルーデウスはそこへ、ダメ押しとなる魔術を放った。
「『
「あ……」
最初に撃ったものと同じ岩の弾丸が、フィッツの頬をかすめて飛んでいく。
殺さないために、あえて外した。
それはフィッツも理解しているのだろう。
フィッツはそれ以上の戦意を見せず、両手を上げて降参した。
「参った」
「「「おおおおおおおお!!!」」」
魔法陣の外から歓声が上がる。
凄い戦いを見たって感じの熱気だ。
男としての自信を失っているルーデウスは、突然の大声にビクッとした。
「凄かったね、ルデ……ルーデウスくん。まるで敵わなかったよ」
「い、いえ、初見殺しで魔術を封じられたおかげです。まともに戦ったら、先輩の方がよっぽど強いですよ。足も凄い速かったですし」
ルーデウスはフィッツをヨイショした。
実際、魔術さえ使えていればフィッツが勝っていた可能性も高い。
あの足の速さというか身体能力は、パウロどころか旅の途中で相手をした『北聖』ガルス・クリーナーすら上回っている。
最後に見た時のエミリーと同等クラスだ。
剣術のキレも凄かった。
最低でも、水神流と北神流がそれぞれ上級はあるだろう。
この上、更に魔術まで使えていれば、彼は聖級の中でもかなり上位の力があるのではなかろうか。
ルーデウスが傷一つ負わずに勝てたのは相性によるところが大きい。
そんな先輩に目をつけられたら堪らないので、ルーデウスのコマンドは「へりくだる」一択である。
「そ、そんなことないよ。足の速さは
フィッツは何故か、やたら赤い顔でモジモジとしながら謙遜した。
マジックアイテムの力とはいえ、それを使いこなす技量があるからこそのあの強さだと思うが……。
というか、この先輩でも全然勝てないらしい妹さんとやらがヤバい。
絶対に敵に回したくないとルーデウスは思った。
「先輩! 本日はありがとうございました! 本日のお礼は後日キッチリとさせていただきます!」
「え? あ、うん。そ、そんなに気にしないでね」
90度。
直角のお辞儀で、ルーデウスはフィッツへの敬意を示す。
ルーデウスの入学試験はこうして終わり、これをキッカケにして彼とフィッツの……後に結婚することになるシルフィエットとの魔法大学での交流が始まった。
◆◆◆
これは入学からしばらくが経った頃。
「ファックなの……!」
「あちしらにこんなことして、ただで済むと思うニャよ! お前ニャんか、姉御が帰ってくれば一発ニャ!」
「姉御?」
校内1の不良として恐れられるリニアとプルセナが、魔大陸からの旅の途中で出会ったザノバに託したロキシー人形……ルーデウスが神のごとく崇拝している御神像を壊したと知り。
敬虔なるロキシー教の狂信者としてブチ切れて、ザノバと共にリニアとプルセナをボコボコにして、勢いで部屋に拉致ってしまった後。
二人の口から飛び出した「姉御」という言葉に、ルーデウスはまさか裏ボスが控えているのかと嫌な予感に駆られた。
「そうニャ! 姉御は『北王』ニャ! 100人の舎弟を引き連れたあちしらを一方的にボコボコにした化け物ニャ!」
「服従した私達は姉御のお気に入りだったの。私達に手を出したら、姉御が黙ってないの」
しかし、ルーデウスにはわからぬ話。
彼はちょっと怖くなってきて、翌日フィッツ先輩に相談した。
そうしたら、
「ああ、大丈夫。その子はボクの妹だから。あいつらの方に非があるってわかれば、制裁してもちゃんと納得してくれるよ」
「あ、そうだったんですか」
「うん。それにしても、あいつら。エミ……あの子がいなくなった途端、アリエル様に舐めた態度取るようになって一回シメたのに、まだ懲りてなかったみたいだね。ましてや、ザノバくんとルーデウスくんの大切なものを壊してたなんて……!」
「フィ、フィッツ先輩……?」
明らかに怒ってる様子のフィッツ先輩に、ルーデウスはちょっとビビった。
自分達のために怒ってくれているのだと思えば頼もしくもあったが。
「ルーデウスくん。あの二人へのお仕置き、ボクも一枚噛ませてもらっていいかな?」
「は、はい。フィッツ先輩が一緒なら心強いです」
と、そんな感じのことがあったりもした。
◆◆◆
それから、件のフィッツ先輩の妹の北王様の正体がエミリーで、つまりエミリーの姉であるフィッツ先輩はシルフィだったと知るまでに、しばらくかかった。
ルーデウスの交友関係が、あまり他の生徒達と接点の無い特別生ばかりだったこと。
シルフィが再会した直後に「はじめまして」と言われたことを引きずって、ルーデウスに自分を忘れられていたらどうしようと無駄にウジウジしまくり、エミリーの名前を出さなかったこと。
そういう理由があったとはいえ、凄まじい鈍感力である。
しかも、フィッツ先輩の正体に気づいてからも、シルフィがそれを明かさないのは何かしらの理由があるからだろうと深読みして、ルーデウスは積極的に問い詰めようとしなかった。
そのせいで、ジレジレとした関係が1年弱も続いてしまい、後でその話を聞かされたエミリーが盛大に呆れ返ることになるのだった。