剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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12 VSエリス

「エ、エミリー!?」

「誰よ、こいつ?」

 

 私を見て驚いた顔をするルーデウスと、怪訝そうな顔になるお嬢様。

 というか、ルーデウスには私が来ること伝えてなかったの?

 師匠あたりがイタズラ心出して伝えないように頼んだのかな?

 

「エリス、彼女は僕の幼馴染です。そして鬼……悪夢……滅茶苦茶強い剣士ですよ」

「……へー。なら、私と勝負しなさい!」

 

 ルーデウスのちょっとあれな説明を聞いた途端、エリスと呼ばれた野生のお嬢様がいきなり勝負を仕掛けてきた。

 いや、お嬢様なんだから野生じゃないんだけども。

 でも、目が合っただけで勝負を仕掛けてくる、某ポケットなモンスターのトレーナー並みに判断が早いよ。

 

 私はちょっとだけ困惑しながらギレーヌを見た。

 さすがに、貴族のお嬢様を無許可でぶっ飛ばしたらマズいことくらい私でもわかる。

 

「構わん。元々、お前はエリスにとって良い刺激になると思っていたからな」

「わかり、ました。じゃあ、軽く、手合わ……」

「ガァアアアアア!!」

「!」

 

 私が言い切る前に、剣すら抜く前に、お嬢様が突撃をかましてきた。

 まさかの不意討ち!?

 お嬢様の戦い方じゃないよ!

 

 だけどまあ、その程度で素直にやられる私じゃない。

 寝首をかいてくるチンピラ対策として師匠に叩き込まれた対不意討ちの心得を思い出し、慌てず騒がず瞬時に動揺を鎮めて持ってきた木剣を抜き、水神流の技でお嬢様の振るう剣を受け流した。

 

「!? ラァアアアアアア!!」

 

 体重の乗った攻撃を綺麗に受け流されてバランスを崩しかけたものの、お嬢様は即座に立て直して次の攻撃を繰り出してくる。

 目にも留まらぬ連続斬り。

 私が最初に師匠から習った(ぬすんだ)のと同じ技、剣神流『疾風』。

 

 それを全て真っ向から受け流しながら考える。

 なるほど。

 さすがはギレーヌの教えを受けてるだけあって、ルーデウスとの打ち合いを見てた時の印象より強く感じる。

 具体的には一撃一撃が予想以上に重い。

 あと、なんか攻撃のリズムが独特で、ちょっとやり辛い。

 色々考えて攻撃が浅く遅くなってたルーデウスとは真逆。

 まるで反撃された時のことを考えてないかのように深く、深入りし過ぎなくらい深くまで踏み込んでくるせいで、ちょっと感覚が狂うし押し込まれそうになる。

 魔術無しの姉でもどうにかなるかもって評価は訂正した方がいいね、これは。

 

 しかもこの子、師匠やギレーヌと違って闘気のコントロールが未熟なせいで、逆に私の魔眼で動きが読めないわ。

 まあ、魔眼に頼り切りっていうのも良くないし、魔眼が通じない相手を想定した練習と思えば私にとっても有意義。

 どんどん打ち込んで来いやぁ!

 

「この! なんで! 当たら! ないのよ!?」

 

 とはいえ、階級の違いはそう簡単には覆らず、お嬢様の剣は私まで届かない。

 お嬢様は多分、もうちょっとで上級に上がれそうな剣神流中級ってところだと思う。

 対して、私はお嬢様に対して使ってる水神流だけでも上級。

 しかも、攻める剣神流と守る水神流は、ジャンケンのグーとパーくらい相性が悪い。

 もちろん剣神流がグーで、水神流がパーだ。

 それを覆せるくらいの実力差がないと、基本的には水神流が勝つ。

 つまり、お嬢様は私に対して相性が悪いのだ。

 

「よ」

「あっ!?」

 

 そして、大体の動きはもう見切ったと判断した私は、前にギレーヌにやられたみたいに、カウンターでお嬢様の剣を弾き飛ばした。

 これで終わり……じゃないね。

 

「うらぁ!!」

 

 剣を失ったお嬢様は、剣が無くても拳があるわ! と言わんばかりに拳を握りしめて殴りかかってきた。

 だから、お嬢様の戦い方じゃない!

 

「うっ!?」

 

 その拳も避けて、木剣をお嬢様の喉に突きつける。

 でも、これでもまだお嬢様は止まらない。

 怒り狂った獣みたいな形相を浮かべて私の木剣を掴み、更に殴りかかろうとして……

 

「やめ!」

 

 ギレーヌの言葉で動きを止めた。

 めっちゃ不服そうに唸ってるけど。

 これ、目を逸したらその隙に殺られるんじゃない?

 狂犬かな?

 

「エリスの負けだな」

「まだ負けてないッ!」

「いいや、相手を本気にさせることすらできなかった時点で負けだ。それとお前、エミリーといったか?」

「はい」

「相手が貴族のお嬢様だからといって遠慮する必要はない。痛くなければ剣術など覚えないからな。私が許可する」

「わかり、ました」

 

 そんな私とギレーヌの会話を聞いて、手加減されてたことに気づいたのか、お嬢様はその真っ赤な髪色以上に顔を真っ赤にして怒りを爆発させた。

 

「舐めんじゃないわよ! 絶対後悔させてやる……! ルーデウス! 力を貸しなさい!」

「えぇ……」

 

 突然協力を求められたルーデウスが嫌そうな顔をした。

 まあ、ルーデウスは魔術とか剣術とか積極的に習ってはいたけど、戦い自体はそんな好きじゃなさそうだったからね。

 怒れる狂犬のお供をさせられそうになったら普通に嫌がるか。

 

 でも、

 

「私は、構わない。剣士と、魔術師。二人、纏めて、かかって、来て」

 

 その方が良い経験になりそうだし。

 上手く連携した剣士と魔術師のコンビは、一人二役をこなしてる姉相手ですら感じ取れるくらいに厄介だ。

 しかも、目の前のお嬢様とルーデウスは、総合力はともかく、剣士として魔術師としての個別の能力なら姉より上。

 それにちゃんと二人いるんだから、合わせれば一人二役の姉よりは遥かに強いはず。

 

 ギレーヌに挑む前の肩慣らしにはちょうどいい。

 普通に負けるかもしれないけど、それくらいの方がむしろ燃える。

 そんなことを思いながら、私は二人に向かってクイクイと手招きして挑発した。

 

「バ、カ、に、すんなぁーーー!!!」

「エリス!? ああもう、どうにでもなれだ!」

 

 怒髪天を突く勢いで突撃してくるお嬢様と、諦めて戦うつもりになったルーデウス。

 ボレアス家での戦い、第二ラウンドの開幕である。


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