剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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デスゲームものの新連載始めたので、記念の番外編です。
恒例の北神流『流入効果狙いの術』。

時系列は紛争地帯でサラさんを助けた後くらいです。


番外 エミリーと世界最強の剣

「おお……」

 

 私は今、全長2メートルはある巨大な剣を持ち上げていた。

 外見年齢13〜14歳程度、まだまだお子様程度の身長しかない私には合わないくらい巨大な剣だ。

 ぶっちゃけ、この剣と私の相性はそんなに良くない。

 今まで普通サイズの剣を好んで使ってきたのもあって、この大剣じゃ実力の八割程度しか出せないと思う。

 

 剣への愛が邪魔してるのか、槍とか斧とかを使うと素手より弱くなるので、曲りなりにも剣の一種であるこれはまだマシな方だけど。

 普通の剣が適合率100%、徒手空拳が70%、魔剣『仙骨』が120%、剣以外の武器が10%以下、この大剣は80%って感じ。

 適合率とかパーセンテージに直すと、なんかカッコイイよね。

 

 でも、この大剣はそんな80%程度の適合率で、オルステッド(素手)くらいなら倒せちゃうのではと錯覚するくらい圧倒的な力を感じる。

 

「まずは自重を軽くするところから始めよう。僕も最初はそこから覚えた」

「わかった」

 

 この剣を長年使ってきたアレクのレクチャーに従いながら、剣に込められた力を発動。

 その力の名は『重力魔術』。

 かつて、ベガリット大陸で旅をしていた頃、私が三桁じゃ利かない回数ボッコボコにされた反則魔術。

 

 アレクのレクチャー通り、剣から流れ込んでくる力に身を任せて、こうやって使いたいっていうイメージを剣に送るイメージ。

 たったそれだけで、私は重力魔術を使うことができた。

 体が異常なくらい軽い。

 今なら脚力だけで青竜とこんにちはできるかも。

 

 それだけじゃない。

 やろうと思えば、この剣の中に宿る膨大な魔力を自由自在に扱えそうだ。

 この剣、ルーデウスほどじゃないけど、それでも私の魔力総量の何倍もの魔力を内包してる。

 その全てが思いのまま。

 全然全くこれっぽっちも、この剣を扱うための修行とかしてないのに。

 

「こんな、簡単に……」

「そうなんだ。まるで、剣が使い手を全力で支えてくれてるような感じがするんだよ。父さんがこの剣を手放した理由が、今ならよくわかる」

 

 「さすが、魔界の名工の最高傑作」と言いながら、訳知り顔でうんうんと頷くアレク。

 なるほどね。

 確かにこれは、アレクが調子に乗って迷惑系主人公になるのもわかる。

 シャンドルが武器に頼るな主義に目覚めるのもわかる。

 

 握るだけで圧倒的な力を使い手に授ける、世界最強の剣。

 なんなのこれ。

 ホントになんなのこれ。

 もう殆ど麻薬でしょこれ。

 

「『重力歩法』」

 

 私はアレクが使ってた縦横無尽の立体機動をやってみた。

 衝撃波移動の上位互換みたいだと思った技。

 そのイメージを持ったままやったのが良かったのか、物真似の技はあっさりと成功。

 

「おお、さすがだね」

「えぇ……」

 

 できちゃうんだ……。

 衝撃波移動を覚えようとした時は、何度も何度も交通事故を起こして体がミンチになるような思いを味わいまくって、最終的にシャンドルの指導があってようやく完成したのに……。

 その上位互換は、補助輪つき自転車どころか三輪車をこぐがごとく簡単に使えるとか……。

 

「…………」

 

 試しに世界最強の剣を地面に突き刺して手放し、今の感覚を自分だけで再現してみようとする。

 私は闘気のコントロールに一番自信があるけど、魔術のコントロールにもそれなり以上に適性があるみたいで。

 魔力眼で見た上に、我が身でも発動して魔力の流れを覚えた魔術なら、時間をかけて練習することで無詠唱で再現できる。

 

 聖級治癒魔術とかも、オルステッドが書いてくれたスクロールに魔力を通して使いまくることで感覚を覚えて、それで詠唱での不完全な発動をサポートして、そっくりそのまま再現した。

 もちろん、こんなのは正規の習得方法じゃない。

 昔から魔力眼で観察した闘気の流れを真似するってことをやり続けた経験を流用した裏技だ。

 それも大抵の魔術は詠唱したら一発で発動、次からは無詠唱で使えますっていうルーデウスには遥かに劣る。

 上級とか聖級とかの高位の魔術になってくると応用も利かないし。

 

「……失敗」

 

 まあ、そんな私なので、当然一発で重力魔術の再現なんてできるわけがない。

 だけど、わかることもあった。

 本来の重力魔術は難易度が高い。

 おまけに、消費する魔力もそれなり以上に多い。

 重力歩法みたいな複雑な技を使うためには、尋常じゃない技術と魔力を要求される。

 

 オルステッドが『使い勝手が悪い』って言うわけだよ。

 この戦術は、剣が技術も魔力も補ってくれるからこそできる芸当だ。

 それを自分の力と勘違いすれば、剣を無くした時、本当に何もできなくなる。

 

「どうだい?」

「頑張っては、みるけど、効果、薄そう……」

 

 興味があって手を伸ばしたけど、これを練習するくらいなら、もっと他に優先して伸ばすべき技術が山のようにある。

 まあ、片鱗だけでも使えれば強そうだから、他の技術の合間に努力は続けてみるけども。

 

「君、強すぎ」

 

 私はそんな反則装備、『王竜剣』カジャクトを再び持ち上げながらそう呟いた。

 このチートめ。

 こんなの魔王に挑む勇者が最後の試練を乗り越えた時に手に入れて、魔王との最終決戦でしか使われちゃダメなやつだよ。

 それを『北神』の称号と一緒に唐突にポンと渡しちゃうからアレクが歪むんだ。

 反省しろ、シャンドル。

 

「……でも、最後に」

 

 私はちょっと好奇心に駆られ、王竜剣を全力で構えた。

 まだまだ全盛期には程遠い幼女体型とはいえ、現時点で既にパワーの化身である『鬼神』マルタさんと同等の怪力を誇る私が、世界最強の剣を全力で振るったらどうなるのかに興味があった。

 

「ちょ!? エミリー!?」

「奥義『重力破断』」

 

 念のために地面に向けた振り下ろしではなく、空に向けた横薙ぎの破断を選択。

 それは英断だった。

 だって、私が繰り出した斬撃は━━雲を吹き飛ばして、空を割っちゃったんだから。

 

「な、なんだ!?」

「天変地異か!? 魔力災害の前兆か!?」

「有識者達を集めるんだ! 早くしろぉ!!」

 

 シャリーアの方から、人々の混乱の声が聞こえてくる。

 それすら耳に入らず、私は王竜剣に魔力を吸われてクラクラする頭のまま、ただただ自分で起こしたとんでもない現象に絶句していた。

 

「「…………うそぉ」」

 

 アレクと二人揃って、そんな声が出た。

 チートにもほどがあるでしょ……。

 うん。この剣は封印確定だね。

 最終決戦の時以外は、事務所の一番セキュリティーが厳重なところに封印しておかないと。

 世界最強の警備員(オルステッド)も配置しよう。

 万が一にでも盗まれたら世界が滅ぶぞ。

 

 私はアレクの視線から顔を逸し、町から聞こえてくる喧騒に冷や汗を流しながら、現実逃避気味にそんなことを考えた。

 

 

 

 

 

 その後。

 私はシャリーアを混乱の渦に叩き込んでしまったことを、関係者の皆さんの前で頭を下げて平謝りした。

 

 更に後日。

 たまたま斬撃の直線上に来ていた空中城塞の結界にヒビを入れたということで、私はペルギウスさんに土下座した。

 

「いいか。ケイオスブレイカーが戦闘態勢であればこうはならなかった。

 戦闘態勢の我が城は、貴様の攻撃程度ではビクともせんのだ。

 それを忘れず、ゆめゆめ調子に乗らぬことだな」

 

 ペルギウスさんは気持ち早口でそんなことを言って、寛大にもお説教だけで許してくれた。

 前にやらかした時、次は無いって言ってたのに、凄まじく器の広い人だ。

 私は謁見の間の床に頭をめり込ませながら、改めて謝罪と感謝の言葉を伝えた。

 

『私、寝てる間に打ち落とされかけたんだ……』

『ごめん、静香。いや、ホント、マジで』

 

 最後は、静香のコールドスリープを維持してるペルギウスさんの使い魔の一人、『時間』のスケアコートさんが謎の攻撃に対する備えで出払ってしまい、そのせいで叩き起こされた静香に土下座した。

 危うく、事故で親友を殺してしまうところだった……。

 

 力を持つ者は、それを制御できるだけの精神を持たねばならない。

 この日、私はそんな当然の心構えを、改めて胸の中に強く刻み込んだ。




・ケイオスブレイカー戦闘態勢
さすがに、400年間ずっと戦闘態勢で飛び回ってるとは思えないので、普段は省エネモードで運行してると考えました。
前回も今回も、省エネモードじゃなければ結界は無事だったでしょう。多分。
ペルギウスさんの言葉に嘘は無い。


・王竜剣+エミリー
危険物。
闘神鎧という特級の危険物を破壊したのは、同等の危険物だったのだ!
なお、威力ならエミリーが使った方が出ますが、総合的な戦闘力なら成長後アレクが使った方が上です。
王竜剣の力をどれだけ引き出せるかって意味で。


・エミリーの剣への愛
アニメにも漫画にも、剣士以外のカッコイイキャラはいくらでもいるし、そういうのも普通にカッコイイと思うけど、やっぱり剣が一番で、他の武器を使うと浮気したみたいな気持ちになって上手く使えない。
根が意外と一途なのかもしれない。

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