剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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なんか別作のダンまちの二次創作で、私が未来予知じみたことをやらかしたみたいなので、記念の番外編。
そうか。私はヒトガミだったのか。

時系列は、エミリー旅行中の直後くらいです。


番外 アレクの未来予知(?)

「うぅん……」

 

 ズキズキと頭が痛むのを感じながら、『北神カールマン三世』アレクサンダー・ライバックは目を覚ました。

 珍しい。

 頑丈を絵に描いたような、あるいは頑丈という概念が擬人化したような存在である不死魔族の血を引くアレクは、滅多に頭痛など起こさないのに。

 

「知らない天井だ……」

 

 更に、もう一つ違和感。

 目を開けて最初に飛び込んできた天井に見覚えが無かった。

 普段お世話になっているオルステッドの事務所の天井でもなければ、割とよく泊まりに行くエミリーの家の天井でもない。

 建築様式からしてシャリーアの家屋だと思うが、やけに新しい感じがする。

 まるで新築のようだ。

 

「おはよう、アレク」

「ああ、うん。おは、よう……!?」

 

 そして、トドメに決定的な違和感。

 起きたら隣にエミリーがいた。

 愛おしげな表情でアレクを見つめている。

 この時点で相当おかしいが、それすらも些事に思えてしまう特大の爆弾が目の前にある。

 

 エミリーは……裸だった。

 

 裸でアレクと同じベッドに横たわり、アレクのことを愛おしげな表情で見つめている。

 よく見れば自分も裸だった。

 裸の男女がベッドで二人。

 ルーデウスかナナホシが見たら、朝チュンと称しただろう。

 

「……………………あぇ?」

 

 アレクの思考は停止した。

 そんなアレクを見て、エミリーは訝しげな顔になる。

 というか、エミリーの姿もちょっとおかしい。

 アレクの知るエミリーより成長している。

 具体的には二十代中盤くらいだ。

 童顔なので、あどけない少女の面影を残しつつ、大人の女性の色香まで纏っている。

 正直に言って、ドストライクだった。

 いや、アレクでなくても、これは大抵の男のストライクゾーンに入るだろう。

 そんな破壊力抜群の美女が裸で隣に寝ているとか、たとえ思考回路がショートしていても、アレクのカールマン四世は嫌でも反応して……。

 

「あ」

「ッ!? こ、これは、その……!?」

 

 最悪なことがエミリーにバレた。

 アレクは飛び起きながら慌ててごまかそうとするも、混乱のあまり言葉が出てこない。

 エミリーは、そんなアレクの姿を見ながらクスリと笑って、

 

「別に、慌てること、ないのに」

「!? エ、エミリー!?」

 

 エミリーは裸のまま、飛び起きたアレクににじり寄ってくる。

 見えている。全部見えているのだ。

 成長しても残念だったが、それでもアレクを夢中にさせる胸部装甲も。

 それすらも愛おしいと思わせられた、いくつかの古傷も。

 あと、その、カールマン四世誕生のために必要なところも……。

 全部全部見えているのだ。

 

「ねぇ、アレク」

「は、はひっ!?」

 

 裸のまま抱きついてきたエミリーが、アレクの耳元で囁くように色っぽい声を出す。

 耳はダメだ。そこはアレクの弱点なのだ。

 というか、エミリーのせいで弱点になってしまったのだ。

 それを知っているかのように、エミリーは弱点を的確に攻めて……。

 

「昨日、あれだけ、頑張ったのに。アレクの、エッチ」

「ッーーー!?」

 

 効果は抜群だ!

 アレクに9999のダメージ!

 意味深な言葉による追加効果! アレクは死ぬ!

 

「まあ、エッチ、なのは、私も、だけど」

「へ?」

 

 次の瞬間……アレクはエミリーに唇を奪われた。

 

「!!!!????」

 

 アレクの脳は沸騰した。

 アレクに99999のダメージ!

 やめて! アレクのライフはもうゼロよ!

 

「ぷはっ。お婆ちゃんの、血が、完全に、覚醒、しちゃった。憂いが、無いと、病みつきに、なりそう」

「ぁ、ぇ……?」

「今日も、よろしくね。旦那様♪」

「━━━━━━━━━!!!」

 

 プツンと、アレクの中で何かが切れた。

 え? 何このエロ可愛い生き物?

 サキュバスなんて目じゃないぞ。

 最強か? 最強だったわ。

 もういい。もう何も考えなくていい。

 欲望を貫くのだ! 血の訴えに従順であれ! 渇望に忠実であれ! 求めることに純粋であれ!

 

「じゃあ、いただきます♪」

 

 そうして、アレクは最強のサキュバス(エミリー)に食われた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「『獄炎火弾(エクゾダスフレイム)』!!」

「熱ッッッーーー!?」

 

 その瞬間、アレクは全身が燃え上がるような灼熱の痛みに襲われ、転げ回りながら跳ね起きた。

 悶えながら地面を転がり、反射的に消火を試みるも、火力が凄まじいのか、まるで火が消えない。

 マズいマズい!

 このままでは不死魔族のクォーターと言えども、細胞を全て焼き尽くされて死ぬ!

 

「『水弾(ウォーターボール)』」

「うわっ!?」

 

 しかし、焼けながら地面を転げ回るアレクに向けて巨大な水の塊が放たれ、どうにか彼は九死に一生を得た。

 何がなんだかわからないが、どうやら自分は攻撃を受けたらしい。

 超一流の剣士としての鍛え上げられた条件反射により、アレクは即座に下手人に向けて剣……は無かったので拳を構えた。

 

「チィ。ダメ、でしょ」

「あうっ!?」

 

 だが、下手人は既に罰せられていた。

 12歳くらいの青髪の幼女に、二十代手前くらいの金髪の美少女が、結構強めのチョップを入れる。

 姫神三従士の一人『光と闇』のチィ・ターと、エミリーだ。

 あの二十代中盤のサキュバスエミリーではなく、ちゃんとアレクの見知った見た目のエミリーだ。

 

「けどよ、先生! このクソッタレの性欲魔神! あろうことか寝言で先生の名前呟きながら、○○○(ピー)をおっ勃ててやがったんだぜ!?」

「だからって、上級魔術で、燃やしちゃ、ダメ」

「汚物は消毒しなきゃならねぇんだよぉ! 先生は危機感が足りねぇんだ、クソがぁ!!」

 

 チィが普段のお淑やかな姿をかなぐり捨てて、まるで戦闘中のように荒ぶっている。

 これだ。この二面性のせいで、彼女は『光と闇』の二つ名で呼ばれるのだ。

 しかし、今は彼女の態度と行動よりも、発言の内容の方が気になって仕方がない。

 

「あの、エミリー=サン。僕は、まさか……!?」

「……ああ、うん。まあ、アレクも、男の子、だしね。……『そろそろ私も覚悟決めるべきなのかも』」

 

 後半、エミリーは日本語でボソッと呟いた。

 

「知らねぇんなら教えてやるよぉ! テメェは先生との模擬戦で頭をぶっ叩かれて気絶した後、気色悪くも先生の名前を寝言で呟きながらおっ勃てて、挙げ句の果てには夢せ……」

「そこまで」

「あうっ!?」

 

 チィが再びチョップを叩き込まれて黙らされた。

 だが、殴ってほしいのはアレクの方だ。

 なるほど、あれは夢だったのか。

 最初に頭が痛かったのは、気絶する前に頭を叩かれたからだったんだね。

 そんなことを考える余裕すら無い。

 今は無性に自刃したい気持ちでいっぱいだ。

 

「僕は、最低だ……。死のう……」

「待って」

「止めないでくれぇ!」

「落ち着け!」

「あうっ!?」

 

 アレクもチョップを叩き込まれて強制停止させられた。

 その後、エミリーは自分は気にしていないからと繰り返し説き、自殺しようとするアレクと、荒ぶるチィをなんとか説得。

 異様に疲れた、とある修行日和の午後のことだった。




・アレクの夢
少し前にエミリーの裸を見てしまったがゆえの煩悩の発露だったのか、それともヒトガミによる精神攻撃という名のマジモンの未来予知だったのか。
真相はヒトガミをぶち殺した後でしかわからない。


・サキュバスエミリー
伝説のビッチこと、祖母エリナリーゼ・ドラゴンロードの血が完全覚醒。
シルフィと違って100年近く剣術愛で蓋をされ、更に妊娠中はヒトガミに狙われやすいということで自重していた分、反動は凄まじいことになっている。
頑張れ、アレクくん。

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