剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「わふっ」
「…………」
ミリス大陸、大森林。
そこに今、一人の旅人と一匹のペットがいた。
14歳くらいに見える青髪の美少女、未来の救世主ララ・グレイラットと、その守護魔獣である『聖獣』レオだ。
「…………」
ララはレオの上に騎乗し、かなり警戒した様子で周囲を見渡す。
今の彼女は実家を飛び出し、旅を始めたばかりだ。
旅に出た理由は色々あるが、面倒なので割愛しよう。
とりあえず今は、魔力濃度の濃い土地を中心に、あっちこっち世界を回るつもりでいる。
魔力濃度の濃い土地と言えば、真っ先に思いつくのは魔大陸とベガリット大陸だ。
だが、どちらも世界屈指の危険地帯であり、駆け出しの旅人であるララには難易度が高い。
しかも、ベガリット大陸には行ったことが無いので土地勘が無いし、魔大陸には
ゆえに、それなりに魔力濃度が濃く、レオの故郷ゆえに多少は安心できる大森林を最初の目的地としたのだ。
「…………」
しかし、比較的安全な土地であろうとも、ララは最上級の警戒をしながら進む。
旅立ちの時、彼女の実母であるロキシーは言った。
『ララ、旅は案外楽しいものですが、気を抜くことだけはしないように。死ぬ時は一瞬ですから』
とてもよくできた娘であるララは、母の言葉を忠実に守っているのだ。
……と言いたいところだが、実際のところ、それは理由の半分でしかない。
もう半分の理由は、得意の占命魔術による占いによって、回避不可能の厄災の未来が見えたからである。
「!!」
「……来た」
そして、それは襲来する。
進行先の巨木の影から、無数の弾丸がララ目掛けて発射された。
岩石で作られた拳大の弾丸。
父ルーデウスが得意とする
さすがに七大列強である父に比べれば、弱々しいことこの上ない魔術だが、人一人を殺すには充分な火力。
「ワンッ!」
そんな岩砲弾の連射を、レオは軽やかなステップで避けた。
しかし、避けたところに次の攻撃。
平べったい板のような刃が複数、岩砲弾を回避した先へと的確に飛来する。
「『
それに対し、ララは旅立ちの際に父に貰った魔杖『
空気振動の盾が、飛来する刃を全て撃ち落とした。
「!」
「ッ!」
だが、次の瞬間、岩砲弾が飛んできた方向とも、刃が飛来した方向とも違う、全くの別方向から襲撃者が現れた。
黒装束を纏い、二振りの剣を両手に握った女。
そのスピードは相当速く、しかも片方の剣を投げつけてきた。
杖を向けて魔術を放つのは間に合わない。
ゆえに、ララは傲慢なる水竜王を握っているのとは逆の手で、腰に差していた剣を引き抜いた。
旅立ちの際に赤ママ……『狂剣王』エリス・グレイラットより授けられた、彼女のかつての愛剣を。
エリスが転移事件で魔大陸に飛ばされた時、そこで知り合ったロキシーの両親より譲られた、無銘の名剣。
元々、魔界の名工がロキシーの種族であるミグルド族のために造って贈った剣であり、その血を色濃く継承したララの手には、異様なくらいよく馴染んだ。
「水神流奥義『流』!」
その剣を使い、襲撃者の投げた剣を受け流す。
大した意欲を持って学ばなかったとはいえ、世界最強クラスのアホ師匠に、せめてこの技だけは鍛え上げろと言われて、徹底的に叩き込まれた奥義だ。
並大抵の攻撃では揺らがない。
「フッ!」
だが、この襲撃者は並大抵ではなかった。
剣を投げるために使った左手を、流れるように右手の剣の柄頭に持っていき、一瞬で両手持ちの形を作る。
両の手で握った剣から放たれるのは、数ある武術の技の中でも
「剣神流奥義『光の太刀』!」
「うっ!?」
放たれた剣神流の必殺剣を、それでもララは受け流した。
ただし、代償として剣は手から弾き飛ばされ、体勢も崩れに崩れる。
追撃が来たら、間違いなく終わりだ。
しかし、一撃を凌いだのは事実。
一発耐えれば、仲間の援護が間に合う。
「バウッ!!」
レオの噛みつき攻撃。
剣を振り切った直後の襲撃者は、体勢を崩しながら後ろに下がる。
しかし、そうなると今度は魔術師であるララの間合いだ。
傲慢なる水竜王が、襲撃者に牙を剥く。
「『
ルーデウスの開発した雷魔術が襲撃者を襲った。
闘気の鎧を貫通して肉体を痺れさせる魔術。
襲撃者はそれを……。
「『
己の体から離れた位置に作り出した水の盾で防いだ。
凄まじい剣術に加えて、ララと同じ無詠唱魔術まで使ってみせた。
尋常ならざる強敵。
これはヤバいと見て、ララは弾き飛ばされてしまった剣の代わりに、懐から祖父より託されたナイフを……。
「そこまで」
……取り出したところで、よく知った声が制止を呼びかけた。
「さすがに、それは、洒落に、ならない」
全く気配を感じなかったところから、一人の少女が現れる。
外見年齢は15〜16歳ほどの可憐な少女。
だが、その中身が見た目とは真逆の、極まった剣キチであることを、ララは知っている。
「まあ、合格点は、あげる。私に、何も、言わずに、行ったことは、許して、しんぜよう」
「エミリー姉……」
そこにいたのは、ララの師匠であり、血こそ繋がっていないが叔母でもあるエミリー。
占命魔術で襲来を予期した相手からお許しの言葉を貰い、ようやくララは肩の力を抜いた。
◆◆◆
「オリベイラも、お疲れ」
「いえ、
その後、疲れてぐで~っとするララをよそに、エミリーは持ってきたお弁当を取り出して、襲撃者役をやってくれたオリベイラと共に食べ始めた。
無論、ララにも「食え」と言って押しつけている。
「白ママの味だ」
「母の味。嬉しい、でしょ」
「いや、まだ旅立って三日も経ってないんだけど」
とか言いつつ、なんだかんだでララも美味しそうに、シルフィエット印のお弁当を食べていた。
なお、食べてる時の二人の表情はわりとソックリで、オリベイラは密かに「似てる」と呟いた。
「さて。じゃあ、総評。まず、オリベイラ。
最初の、時差式、魔道具を、使った、攻撃。
次に、カーブする、手裏剣で、ララの、目を、引いて、逆方向から、突撃。
最後の、雷魔術も、冷静に、対処、してた。
全体的に、良い感じ、だった。
これなら、近いうちに、帝級の、認可を、あげられそう」
「! ありがとうございます!」
オリベイラはガッツポーズを決めた。
歳下のジークハルトに先に帝級に上がられ、しかも、ジークはそのまま王竜王国に行って勝ち逃げされたため、実は密かに帝級の称号を切望していたのだ。
だからこそ、ことさらに嬉しかった。
「次に、ララ。いくら、レオが、いたとはいえ、今の、オリベイラと、あれだけ、戦えれば、上等。
━━安心したよ、バカ弟子」
「……エミリー姉、何か変なものでも食べた?」
「人が、せっかく、素直に、褒めたのに」
「あうっ!?」
神速でお尻を叩かれた。
昔から、ララに対する折檻はこれと相場が決まっている。
「これからも、油断、しないこと。油断して、死んだら、許さない」
「……はい。わかりました」
「ん。よろしい」
お弁当も食べ終わり、エミリーは椅子にしていた岩から立ち上がった。
「オリベイラ、帰るよ」
「はい! では、姉弟子殿。またどこかでお会いしましょう」
「うん。またね」
そうして、ララとエミリーの師弟は別れた。
次に会うのは十年後か、二十年後か。
少なくとも、ララは数十年は帰らないつもりで実家を飛び出した。
だが、お互いにそれなりに寿命の長い長命種だ。
オリベイラも言っていたように、またどこかで会えるだろう。
これは決して、今生の別れではないのだ。
その後。
ララの目撃情報を聞く度に、エミリーはララが弛んでいないかテストのために、抜き打ちで刺客を放ってくるようになり。
いい加減にしろアホ師匠と怒鳴り込むために、実家のあるシャリーアに突撃したのが、僅か数年後のことだった。
・ララが家族に持たされたもの
ルーデウス →
ロキシー → 帽子(原作通り)
シルフィ → レシピ本(原作通り)
エリス → 無銘の剣
パウロ → 特殊なナイフ
原作では、恐らく鳳雅龍剣の成れの果てと思われるナイフをエリスに貰っていたが、この世界線では鳳雅龍剣が折れていないので、代わりに幼少期を支えてくれた無銘の剣をララに。
元々、ミグルド族のために造られた剣なので、異様に手に馴染みます。
そして、パウロお爺ちゃんからのプレゼントが追加。
特殊なナイフ……いったい、どこの社長に折られた剣の成れの果てなんだ。
・ララとエミリー
アホ師匠だのバカ弟子だのと呼び合っているが、なんだかんだで仲は良い。