剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
本当は大晦日に投稿するつもりだったけど、思ったより早くできたので我慢が、その、ね……。
なお、今回はいつも以上にガッバガバです。
『そっか。もう今年も終わっちゃうのね。早いなぁ』
年の瀬、空中城塞ケイオスブレイカーにて。
静香が寂しそうにそう呟いた。
今の静香は不治の病の進行を遅らせ、来るべき未来に辿り着くため、ペルギウスさんの配下の力でコールドスリープ的なものについている。
目覚めは一ヶ月に一回だから、本当に一年なんてあっという間のはずだ。
どこか遠くを見るように寂しそうな顔をした静香の姿は、酷くもの悲しかった。
『年越し蕎麦食べたい……』
どうやら私の目の錯覚だったらしい。
お腹が空いてただけみたいだ。
今日もいっぱい食べたのに……。
ルーデウスが日本食の再現を始めてから、年々食い意地が張ってきてるような気がする。
『じゃあ、ちょっと探してみるね』
『……お願いしていい?』
『任せて。年末までには持ってくるよ』
とはいえ日本食が、というより故郷が恋しい気持ちはわかる。
難儀な運命を背負った友達のために、いっちょ頑張ろうと思った。
◆◆◆
さて、ということでお蕎麦探しの時間である。
まずは静香と一緒に紙と筆を持ってウンウンと悩み、確か蕎麦の原材料って、こんな感じの草花だったよねっていう絵を描き上げた。
これがうどんだったら小麦粉で一発というか、既にうどんはルーデウスがアイシャちゃんに依頼して再現成功してるんだけど、蕎麦となると原材料から探さないといけないから地味に難しい。
それと、ここが異世界である以上、この世界の蕎麦が前の世界と同じ形である可能性だって低い。
この時点で私は「あれ? もしかして、安請け合いし過ぎた?」と不安になり、静香も「やばい。無理なこと頼んだかも」みたいな顔をしてた。
開始数分で暗雲が立ち込めたものの、それでも他ならぬ静香の頼みなんだから、やってもみないうちから諦めるという選択肢は無い。
まずは精一杯これを探してみよう。
ということで、情報収集開始!
一番近くにいる上に、それなりに長生きしててもの知りなペルギウスさんへの聞き込みから始めた。
「ふむ。どこかで見た覚えがあるな」
「ホント!?」
なんと一発目からリーチがかかった。
凄い! さすが天下の甲龍王!
「四百年前のことだ。それなりに印象に残っているから覚えている。場所は、どこだったか……」
顎に手を添えて考えるペルギウスさん。
頑張って! 愛弟子の年越し蕎麦のために!
完成したらペルギウスさんにもあげるから!
「ああ、そうだ。思い出した。
中央大陸北部と天大陸の繋がる場所、その周辺の海域に浮かぶ群島のどこかに生えていたはずだ。
お前にもわかりやすく言うと、『鬼神』のいる鬼ヶ島の近くだな」
「おお!」
超ラッキー!
まさか私の知ってる場所どころか、事務所の転移魔法陣が設置されてる場所の近くにあるなんて!
「ありがとう! ペルギウスさん!」
ペルギウスさんにお礼を言って、私はシャリーアに送り返してもらった。
早速行くぞー! 待ってろ、お蕎麦!
「……しかし、あんな不可思議なものまで食べようとするとは、お前達の食への探究心には驚かされるな」
◆◆◆
事務所の転移魔法陣を経由して、やってきました鬼ヶ島!
すると、ビヘイリル王国の戦いが終わった後に仲間になった鬼ヶ島の主、『鬼神』マルタさんがニコやかに歓迎してくれた。
で、挨拶もそこそこに、早速マルタさんにも静香作のお蕎麦の絵を見せて知らないかって尋ねると、ちょっと驚いたように目を見開いた。
「知ってる。群島の、真ん中。時ヶ島に、生えてる」
「おお!」
ペルギウスさんでリーチがかかり、マルタさんでビンゴした。
今日の私は滅茶苦茶ツイてる!
「でも、あそこ、今迷宮。辿り着くには、朝ヶ島、昼ヶ島、夜ヶ島、三つの島の守護者倒して、道、開かねぇとなんねぇ」
「え……?」
な、なんか話が壮大になってきたぞ……?
え? その島にあるのお蕎麦だよね?
伝説の武器とかじゃないよね?
◆◆◆
「グギャアアアアアアアアアア!!?」
「ふぅ……」
数日かけて、どうにか三つの島の守護者を打ち倒した。
幸い、迷宮の深さはそれほどでもなくて、魔力眼を使えば外から心臓部である魔力結晶の位置がわかる程度だったから、破断で直進戦法で行けた。
ただ、迷宮の深さのわりに、守護者はやけに強かった。
具体的に言うと、一番弱い奴でも転移の迷宮のヒュドラの五倍は強かった。
一番強い奴だと、マルタさんでも勝てるかどうかわからないくらい。
お蕎麦の守護者にしては強すぎない?
いや、別にお蕎麦を守ってるわけじゃなくて、結果的に守られてる場所にたまたまお蕎麦があるだけだろうけど。
でも、これだけ苦労させられて、見た目が同じだけの別物でしたとかいうオチは、さすがに勘弁してほしい。
その可能性が結構高いっていうのが怖いなぁ……。
「……いざ」
ハズレを掴まされてもキレないように深呼吸を繰り返してから、私は最後の島に足を踏み入れた。
すると、確かにあった。
静香の描いたお蕎麦の原材料によく似た花が群生してた。
でも、一目でわかる。
これは違う。
「何、この、異様な、魔力……」
島の一面に咲き誇るお蕎麦モドキの花。
その一つ一つが、王竜剣をも超える魔力を内包して淡く輝いてた。
全部合わせれば、ルーデウスの化け物魔力総量すら軽く超えてるんですけど!?
なんや、この世界の特異点!?
「!?」
わけがわからなくてフリーズしてたら、なんかお蕎麦モドキが一斉に光り始めた。
それこそ転移事件の時みたいに、極光があたりを染め上げる。
そして、私の意識は暗転した。
◆◆◆
「え?」
気づけば、私はどこか知らない場所に立っていた。
周りの風景に一切の見覚えが無い。
更に、ふと空を見上げてみて、絶句。
空の色が──紫だった。
え? 何ここ? どこここ? 地獄?
第二次転移事件で、地獄に転移しちゃった?
「おおおおおおおおおお!!!」
「ぬぉおおおおおおおお!!!」
「!?」
立ち尽くして大混乱してたら、なんか遠くの方から声が聞こえてきた。
ついでに轟音も聞こえてきた。
戦闘音だ。
でも、音のする方向を見てみれば、行われてるのは私の知ってる戦闘じゃなかった。
規模が違う。あまりにも違う。
戦ってるのは、二人の人物。
片方は黒い肌、六本の腕、紫色の髪を持つ魔族の大男。
バーディさんにウリ二つだけど、実力が違い過ぎる。
あの『闘神』バーディガーディをも上回る身体能力に、あまりにも洗練され尽くした武術。
何千、何万年をかけて研鑽したんだってレベルの、まるでオルステッドのような動き。
しかも、オルステッドと違って、一切の温存を考えずに戦ってる。
彼の拳が大地を叩けば山が吹き飛び、外れた拳撃は雲を消し飛ばした。
世界観が違う……!
ド○ゴンボールの世界にでも飛んだの!?
「あああああああああああああああ!!!」
「ぬぅぅぅ……!?」
更に恐ろしいことに、そんな化け物と戦ってるのもまた化け物、というかそれ以上だった。
魔族の大男に対峙するのは、剣と盾を装備した、外見だけならどこにでもいそうな人族の男。
だけど、彼の剣は大男の体を容易く斬り裂き、構えた盾は大男の拳をあっさりと受け止める。
大男の方もバーディさんのごとく再生しまくってなんとか踏ん張ってるけど、明らかに劣勢だ。
ナニアレェ……。
「****!? **********!? ************!?」
ふと、すぐ近くから、多分魔神語と思われる言語で悲鳴が聞こえてきた。
そこにいたのは、扇情的な格好をしたボン・キュッ・ボンの魔族の美女。
でも、彼女を気にしてる余裕は無かった。
私の視線の先でついに決着がつき、人族の男が魔族の大男を完全消滅させる。
そして、殺意に満ちた目をしながら、こっちに向かってきた。
なんで、こっち来るの!?
「******! *******! *****、********!!」
「え? あ、ちょ……」
魔族の美女が、私の腰にすがりついて、何か叫んでる。
あ、もしかして、あの化け物の狙いってこの人の方?
じゃあ、私は関係な──
「最後の護衛か。死ね」
化け物が私に向かって剣を振り上げた。
ちょ!? 誤解! 誤解ですよ!?
「ッ!?」
でも、そう口にする暇も無い。
私は覚悟を決めて腰の後ろから魔剣『仙骨』を引き抜き、化け物に向かっていった。
距離を取っちゃダメだ。
向こうの射程は、拳撃を雲まで届かせた魔族の大男と打ち合えるくらい長い。
なら、超至近距離にしか私の勝機は無い!
「!?」
私のスピードが思ったより速かったのか、化け物は驚いたような顔をした。
見た目で侮ってくれたのかもしれない。
そうじゃなくても、大男との戦いで割と疲労困憊に見えるし、多少なり気力が途切れてたか。
どっちにしろチャンス!
剣神流『韋駄天』+北神流『幻惑歩法』!
「奥義『妖精の舞』!」
最近になって技名を付けた、私の得意技。
それで化け物の目測を外して、剣を空振りさせた。
私は盾を構えた化け物の左手側に跳躍し、化け物は咄嗟に私に対して盾を構える。
さっきの戦い、見てたよ。
凄いよね、その盾。
天を割り地を砕く大男の拳を、完璧に跳ね返してた。
私の攻撃力じゃ絶対に突破できない。
「けど……!」
だからって、私相手に安易に構えたのは失策だと思うよ!
私の体は小さい。
そこそこ成長した今でも姉より小さくて、せいぜい150センチくらい。
そんな私が身を屈めると、盾で見えなくなった死角の中に、すっぽりと体が収まってしまう。
この化け物は身体能力も技術も武器もおかしい。
でも、自分より小さい敵との戦いに慣れてないっぽい。
さっきの大男みたいに、自分より大きい敵ばっかり相手にしてきたのかなぁ!
そんな小さな小さな弱点に全力でつけ込み、千載一遇のチャンスを死力を尽くして狙いすました。
剣神流奥義『光の太刀』+北神流奥義『破断』+北神流『地走』!
「奥義『破光の太刀』!!」
「なっ!?」
破断の威力と、光の太刀の速度を両立させた必殺技が、地を這うような軌道で死角から化け物に迫り──その左足を切断した。
「ぐっ!?」
化け物が痛みに顔を歪める。
そして、そこからは完全に本気になって、私を殺しにきた。
「ハァアアアアアア!!」
「フッ……!」
化け物の間合いの内側、満足に剣を振れないほどの距離を死ぬ気でキープする。
油断と疲労につけ込んで、この位置を取れたことが最大の幸運。
逆に言えば、この間合いを崩された瞬間に、私の敗北が確定する。
それぐらいの実力差がある。
化け物に密着しながら剣を振るう。
やり辛そうに振るわれる不完全な斬撃、それでも私の破光の太刀以上の攻撃を、根性で受け流し続ける。
左足を斬り飛ばしたことで低下した機動力に全力でつけ込み続ける。
そこまでやって、どうにか『超劣勢だけど、一応は戦いが成立してる』レベル。
この化け物め……!
「楽しく、なってきた……!」
自分の口角が吊り上がっていくのがわかる。
わけがわからない状況。
それでも敗色濃厚な強敵との戦いに血湧き肉躍り、滾ってしまう剣士の血には嘘がつけない。
ああ、本当に、楽しい!
「****!! ***、*******!! ****!! *****!!」
そんな私達の戦いを見て、なんかあの魔族の美女が声を張り上げた。
感じからして声援だと思う。
応援ありがとう!
「! そうだ……! 俺の目的はお前じゃない……! 俺は、空を……!!」
その時、化け物の動きが変わった。
私に隙を見せるのを覚悟で、魔族の美女を狙った。
これは、止められない。
遥か格下の私にできるのは、大人しく差し出された隙を狙うことだけ。
「死ね!!」
「*? ********ーーー!?」
私の攻撃が化け物の背中を斬り裂くも、オルステッドばりに硬い闘気に阻まれて致命傷にはならず。
化け物の攻撃が、魔族の美女を消し飛ばした。
その瞬間、周囲に異変が発生。
魔族の美女がいた場所から七色の光が発生し、それに呼応するように紫色の空が、慣れ親しんだ青色に戻っていく。
え!? 何この怪奇現象!?
「!?」
最後に一層眩しく七色の光が周囲に飛び散る。
私の視界を潰すくらいの光量で。
それでも気配だけは見失わないように、私は全神経を研ぎ澄まして化け物の動きを──
「え!?」
見極めようとした瞬間、唐突に化け物の気配が完全に消えた。
同時に私の意識も再び暗転し──気づけばお蕎麦モドキのある元の場所にいた。
あの膨大な魔力は綺麗サッパリ無くなっており、発光していたお蕎麦モドキは、魔力眼で見ても殆ど魔力を感じない、ただの草花に成り果ててる。
「なんだったの……」
思わずそんな声が漏れた。
いや、本当にわけがわからない。
一から十まで、いやゼロから百まで意味がわからない。
「とりあえず……」
このお蕎麦モドキを回収して、オルステッドかペルギウスさんに見せよう。
話はそれからだ。
◆◆◆
「年越し草だな」
「年越し、草……?」
私が回収したお蕎麦モドキを見て、オルステッドはそう言った。
何その、微妙に年越し蕎麦とかかってるネーミングは……。
「普通に生えている分にはただの草花だが、なんらかの偶発的要因で大量の魔力を蓄えると、近くにいる者に過去の幻影を見せる」
「幻影……」
「ああ。だが、実体験に等しいレベルの幻影を見せるなど聞いたことが無い。
しかも話を聞く限り、お前が見たのは第一次人魔大戦の頃、何千年も前の幻影だ。
あそこに生えている年越し草は確かに特殊だが、そこまでの効果は無かったと記憶している。
これもお前やナナホシやルーデウスと同じ変化か……」
なんかオルステッドが考察モードに入っちゃった。
「ところで、これって、食べられるの?」
「……魔力を消費し切った年越し草は、ただの草花に戻る。食べても悪影響は無いと思うが、正気か?」
「さすがに、これを、食べようとは、思わない」
ということで、私はオルステッドに他の年越し草の場所を聞いて、ちゃんと花が散って実を付けてる収穫時期っぽいやつを取ってきた。
魔力アレルギーみたいな病気を抱えてる静香のために、なるべく魔力の宿ってないやつを。
それをルーデウスやアイシャちゃんに依頼して、蕎麦っぽく調理してみたら、なんか普通に蕎麦だった。
「えぇ……」
ここまで苦労させられたんだから、最後まで徹底的に調べてやらぁ! って気持ちでヤケクソ気味に依頼を出したけど、まさか本当に蕎麦になるとは思わなかったよ……。
まあ、何はともあれミッションクリアだ。
私は出来上がった蕎麦を空中城塞に持っていき、今回のエピソードを静香に報告しながら、一緒に麺をすすった。
『……待って。これ、そんな恐ろしい代物なの?』
『人体に害は無いらしいよ。現地の貧民の人達が継続的に食べてたみたいだけど、誰も変なことになってなかったし。
あと、クリフさんの識別眼とかその他諸々で確認したら、昔は普通にこうやって食べてたんだって。
私が見つけたやつは、あくまでも突然変異ってことだね』
『……そうであることを祈るわ』
静香は恐る恐るって感じで、それでもお蕎麦の誘惑には勝てなかった感じで、箸を動かした。
やっぱり、食い意地が張ってきてる……。
第一次人魔大戦のキャラ達は描写が無くて、詳細が全然わからないので、ほぼほぼ捏造です。
個人的な考察として、
社長マジモード≧魔龍王ラプラス>勇者アルス≧不死のネクロスラクロス>技神&魔神ラプラス
くらいだと思ってます。
八大魔王と五龍将の戦力は互角。
その八大魔王の生き残りであるネクロスは、元は五龍将で一番下っ端だったラプラスと互角くらいには強い。
ただ、神様達が死んでからは、ラプラスはひたすらの研鑽に努め、ネクロスはキシリカの子育てで停滞。
そのネクロスに勝った以上、アルスはそれより強い。
そんなアルス相手に善戦できたエミリーですが、もちろんアルスが疲労&油断してなければ一撃KOでした。
エミリーの力を読み違えた勇者さんですが、それだけ強い戦力がいるんだったら、ネクロスに加勢しろって話ですしね。
疲れてたんだし、間違えてもしゃあない。
ただ、もちろん、このアルスは私の想像上のアルス。
実際はこんなシチュエーションで戦ったわけじゃないかもしれないし、アルスには六人の仲間がいたって説もあるので、ネクロスは袋叩きにして倒しただけかもしれない。
その場合は、昔のこと過ぎたから、お蕎麦モドキがバグって誤情報を出したと思ってください。
追記:性夜の戯言は知り合いにバレると恥ずかしいので、ここにコッソリとリンクを残しておく形にしました。
https://syosetu.org/novel/333530/#