剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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また素敵な支援絵を貰ったので、記念の番外編やります!

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番外 甥っ子

 パックスが死んだ。

 享年41歳。

 人族にしても早すぎる死だけど、弱りに弱ってたわりにはよく生きたし、死に顔も穏やかな感じだった。

 

 そして、その一年後に事件は起きた。

 あれは小パックスが魔法大学を卒業する直前のこと。

 キッカケは王竜王国から留学してきた有力貴族のボンボン。

 なんか、そいつの実家は例のシーローン王国の一件のアオリで多大なダメージを受けた上に、権力争いにも負けて立場が悪くなったとかで。

 ボンボンは昔のアリエル様のごとく、緊急避難的な感じで魔法大学、というより王竜王国から遠く離れた土地に逃げてきたって話だった。

 

 で、まあ、そんな経緯があるから当然、ボンボンはシーローンの一件の元凶であるパックスへの恨み言を日常的に言ってたらしい。

 それ自体は仕方ないというか自業自得なんだけど、ここで話がややこしくなる事件が発生。

 

 パックスはともかくとして、その息子である小パックスは、かなり出来の良い子供である。

 真面目で、勤勉で、魔法大学ではウチのジークと一緒に生徒会に所属し。

 ちょくちょく正義感で暴走しそうになるジークを宥め(乗りこなし)、おかげで怖い刑事と優しい刑事みたいな要領で他の生徒にも慕われ、教師達からの受けも良い優等生。

 

 つまり、小パックスは結構目立つのだ。

 おまけに、彼を慕ってる生徒が多いってことは、当然彼をバカにすると怒る生徒も多いわけで……。

 

 はい。ボンボンに小パックスの正体がバレました。

 父親についてのことは、ロキシーさんとかザノバさんが必死で情報封鎖してたみたいなんだけど。

 やっぱり人の口に戸は建てられないみたいで、どこから漏れたのかは知らないけど、生徒の中にもそこそこ秘密を知ってるのがいた。

 

 で、その中でも特に小パックスを慕ってる一派が、あまりにも口が過ぎるボンボンの恨み言に、数ヶ月間必死で耐えた末に我慢の限界に達し、襲撃を決行。

 ボンボンは恐怖と共に小パックスの正体を知り、当然のごとくその情報を本国の実家に手紙で送信。

 

 ボンボンの実家は失った権力を取り戻すべく、パックス一家を責めに責めて、責任の所在をパックスの護衛として無断で国を去ったランドルフさん、ひいてはランドルフさんをスカウトしたシャガール将軍とやらに取らせようとした。

 どうも、そのシャガール将軍とやらがボンボンの実家の政敵らしい。

 責められる口実があれば、なんでも良かったんだろうって。

 相変わらず怖いね、貴族。

 

 それで、その後はランドルフさんの言い訳タイムがスタート。

 曰く「本国には申し訳ないと思っていますが、全ては先々代国王陛下に守ることを命じられたパックス陛下とそのご家族を守るため、仕方のなかったこと」でゴリ押すつもりみたい。

 私にはよくわかんないんだけど、意外と有効な詭弁らしいよ。

 

 王竜王国の先々代国王は、シーローンの一件と時を同じくして暗殺(下手人・オルステッド)されてしまった。

 指示を仰ぐべき主がいなくなってしまったので、ランドルフさんは自己判断で王の最期の命令を続行。

 パックスを守るために最善の手段を模索した結果、龍神陣営の庇護を受けるしか無いと考えた。

 まだ先々代国王を暗殺した犯人も見つかってない王竜王国に戻るのは危険だし、ちょうど良いから自分達は戦争で死んだことにして、パックス達と共にシャリーアに逃げることにした。

 全ては先々代国王陛下への忠義ゆえに。

 

 すっごい苦しい言い訳だって私でも思う。

 でも、王竜王国側はその言い訳を受け入れてくれた。

 色んな思惑とかパワーバランスとかがこんがらがった結果らしい。

 細かいところは私の頭じゃ理解できなかった。

 

 で、言い訳を受け入れた上で王竜王国は「任務ご苦労。じゃあ、そろそろ帰ってこれるよね?」と言ってきた。

 向こうは諸々飲み込んででも、『死神』ランドルフという特級の戦力を取り戻すことを選んだのだ。

 

 まあ、これは仕方ない。

 ということで、ランドルフさんは王竜王国に戻ることになった。

 ラプラスとの決戦でまた会おう!

 

 あの人に関してはそれで良いとして。

 でも、一番の問題は、自力でどういう風にでも生きられるランドルフさんじゃない。

 建前上、ランドルフさんと一緒に王竜王国に行かざるを得ない、小パックスとそのお母さんであるベネディクトさんをどうするかだ。

 

 当初、ウチの陣営では、なんのかんのと理由をつけて二人を守るつもりだった。

 しかし、これを待ったをかけたのは、まさかの小パックス本人。

 彼は言った。

 

「僕は父の汚名を雪ぎたいんです。

 間違え続けるばかりの人生だったと後悔し続けていた父の代わりに、期待を裏切ってしまったと謝り続けていた王竜王国で、パックスの名を知らしめたい。

 それが僕の夢なんです」

 

 なんでも、それは本当に幼少期から持ち続けていた、小パックスの生涯の目標だったらしい。

 彼の決意は強く、固かった。

 状況が状況だっただけに、誰もその決意に水を差すことはできず、小パックスは魔法大学卒業と同時に、ランドルフさんやベネディクトさんと一緒に王竜王国へ旅立った。

 

 あと、なんか別れの時に、一番の仲良しだったジークとの間に何かがあったみたいで、ジークは心ここにあらずって感じで魔法大学を卒業。

 グレイラット家の通例に従い、アスラ王立学校に進学。

 大丈夫かなって心配してたんだけど……。

 

「え? ジークが?」

「はい。緑の髪と、あと、その、ちょっとヤンチャをしてしまったせいで、皆さん怖がられてしまいまして……」

 

 定期的に遊びに来てるアスラ王国で、私はアリエル様の娘であるサリエルから、ジークが学校で孤立してるって話を聞いた。

 なんでも、入学直後に昔の姉みたいに緑の髪のせいで避けられた上に、その状態で魔法大学時代みたいなヒーロー活動をしちゃったらしい。

 

 ジークの憧れるア○パンマン……チェダーマンのような正義の味方。

 困ってる人を助け、悪い奴をチェダーパンチでやっつける、愛と勇気が友達のヒーロー。

 でも世の中は、特に王立学校を含む貴族社会っていうのは、正義の味方にとって死ぬほど生きづらい。

 

 私も語れるほど貴族社会について知ってるわけじゃないけど。

 昔からしょっちゅう聞かされた姉やアリエル様の愚痴を聞いてるだけでも、あそこがいかにドロドロの腹黒い思惑を中心に回ってるのか、少しは理解できる。

 

 そんな中で絵に描いたようなヒーロー活動なんかしたら、出る杭として打たれまくるに決まってる。

 アスラ王国だとシャリーアほどにはルーデウスの威光も届かないし、さぞ滅多打ちにされたことだろう。

 

 心配だ。

 ジークは私の血を色濃く継承する剣の天才で、15歳にして『北王』の認可を受けるほど強い。

 けど、体の強さと心の強さは別問題。

 ただでさえ小パックスの件で弱ってるのに、追い打ちまでかけられたんじゃ、どうなってることか……。

 

 ということで、会いに行くことにしました。

 

 私はアリエル様にお願いして、ほっぺにチューと引き換えにアスラ王立学校の制服とお忍びの入校許可証をゲットした。

 それに着替え、ここだとエルフはちょっと目立っちゃうから、髪型チェンジと二つのデカリボンで長耳を隠す。

 

「よし」

「コフッ……」

 

 結果、鏡に写ったのは、やたらメルヘンチックなご令嬢。

 格好を変えるだけで随分と印象が変わる。

 アリエル様を失神させるくらいには新しいイメージになってるみたいだし、自信を持って若者達の中に突撃するとしよう。

 

 私は15歳、私は15歳、私はピッチピチの15歳。

 アラフォーで制服なんか着て痛々しくないのとか言う、脳内のバカ弟子みたいな奴はぶっ飛ばす。

 よし。

 

「おい、あれ」

「ほう。中々……」

 

 校内を歩くと、見慣れない私に視線が集まるのがわかった。

 ……さすが変態だらけのアスラ貴族の通う学校と言うべきか、昔のルーデウスみたいな目を向けてくるエロガキの多いこと多いこと。

 ルーシーとか大丈夫だったのかな?

 

 そんなことを考えながらジークを探すこと、しばらく。

 ようやく見つけた。

 我が甥っ子は、学校の裏庭に寝転がって空を見てた。

 

「ジーク」

「何、エミリー姉? …………エミリー姉? え!? なんで!?」

 

 声をかけると、ワンテンポ遅れてから驚かれた。

 北王とは思えないくらい反応速度が遅い。

 鈍ってるなぁ。

 

「授業、出ずに、サボりとは。中々、良い根性」

「……叱りに来たの?」

「違う。今のは、褒めてる。ジークは、大物に、なるよ」

 

 金持ち学校で堂々と授業をボイコットして昼寝とかロックじゃん。

 勉強大ッ嫌いだったのにサボる勇気が無かった前世の私なんかより、よっぽど大物になる。

 

 それにジークは姉に似てイケメンだし、背も高いし、鍛え上げられた筋肉はセクシーだし、そこに不良属性追加とか絶対モテるよ。

 グレイラット家の女好き遺伝子を一手に引き受けた兄のアルスに追いつけ追い越せだ。

 ……いや、ここでモテたら変態淑女ばっかり引き寄せそうだし、それはそれで怖いな。

 

「よっと」

 

 そんなことを思いながら、私はジークの隣に寝転んだ。

 

「悩み、あるなら、聞くよ」

 

 そして、本題を口にした。

 いつもアレな感じで、子供達から舐められ気味の私だけど。

 今回ばかりは真剣なのを感じ取ったのか、ジークは凄く悩ましげな顔になった。

 悩んで、悩んで、悩んだ末にジークは、

 

「…………やめとくよ。エミリー姉、口軽そうだから。他の人に知られたら困る」

「ぐふっ!?」

 

 な、何も言い返せねぇ……!

 確かに、どこかでポロッと口を滑らせる自分の姿が鮮明にイメージできる……!

 

「……なら、せめて、気晴らしに、付き合う」

 

 私は土魔術で二本の石剣を作った。

 最近、特に力を入れて鍛えてる魔術だ。

 これができると、出張先で有望そうな子とか見つけた時に便利なんだよね。

 

「今はそんな気分じゃ……」

「いいから。体、動かすのは、最高の、ストレス発散」

「脳筋……」

 

 うっさい。

 

「行くよ!」

「あ、ちょっ……!?」

 

 問答無用で攻撃開始!

 ジークも、さすがに大人しくやられるほど腑抜けてはいないみたいで、しっかりと応戦してきた。

 

 真っ向勝負で剣をぶつけ合う。

 私同様、ラプラス因子の影響で強い腕力を持つジーク。

 今回はそれを受け流したり避けたりすることなく、同じく怪力で真正面から激突する。

 剣士のサガなのか、ジークの口元は少しだけ笑っていた。

 

 

 

 結局、私がしてあげられたのはそれくらいだ。

 ジークの悩みを解決するどころか、吐き出させてあげることすらできなかった。

 状況は何も好転せず、ジークは王立学校での三年間、更にシャリーアに帰ってきてからも一年くらいウジウジし続けた。

 

 でも、最後にはちゃんとルーデウスと話し合って悩みを解決し、ジークは小パックスを追いかけて王竜王国に向かった。

 

「ありがとう、エミリー姉。なんだかんだで、一緒に体動かしてた時は救われてたよ」

 

 旅立ちの時、そんなことを言われて、不覚にもちょっとウルッと来た。

 

 その後、ジークは小パックスの仲間になり、王竜王国の騎士になった。

 で、一応は王竜王の血を引く王子(ベネディクトさんが先々代国王の娘)である小パックスは、色々と複雑な立場のせいで疎まれ、遠ざけられ、赤竜の下顎のあたりにあるちっちゃい領地の領主に任命されて左遷。

 ジークもそれについて行った。

 

 聞いた時は「あちゃー……」と思ったけど。

 なんだかんだで僻地という言葉すら生温い悲惨な領地を、めっちゃ頑張って、すっごい盛り上げて頑張ってる。

 立派に育ってくれて、私はホロリときた。




支援絵に制服着てるエミリーがいたので、安易に学校関係の番外編をやろうと思ったら、何故かいつの間にかジョブレス・オブリージュの話になってた……。
あとエミリーさん、やっぱり37歳にもなって、若者だらけの王立学校で制服はキツ(殴


・小パックス
アスラ王立学校には通えなかったが、代わりに魔法大学に七年通ったので、知識的には原作と大差無い。
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