剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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13 VS剣士&魔術師

「ガァアアアアアア!!!」

 

 雄叫びを上げて再度突進してくるお嬢様。

 もうこの人を貴族令嬢と考えるのはやめよう。

 お嬢様らしくドレスとか着たら化けそうなくらいには可愛らしい顔立ちしてるのに、浮かべた悪鬼のごとき形相が全てを台無しにしてる。

 まあ、剣術一筋でせっかくの顔面偏差値を死蔵してる私が言えた義理じゃないかもしれないけど。

 

 最短距離を駆けてくるお嬢様を、再び水神流の構えで迎え撃つ。

 でも、お嬢様が私に到達する前に、その後方から水の弾丸が私目掛けて飛んできた。

 ルーデウスの魔術だ。

 殺傷力の低い水魔術なのは、今でも幼女相手にヤバい攻撃をするのに忌避感があるのかな?

 

 まあ、なんでもいい。

 飛んできた水弾を受け流し、カウンターで飛ぶ斬撃をルーデウス目掛けて放っておいた。

 

「うわっ!?」

 

 フハハ!

 闘気のコントロールが上手くなった頃から、遂に私はファンタジー剣術の代名詞の一つ、斬撃飛ばしを会得することに成功したのだよ!

 原理としては、剣に纏わせた闘気を飛ばしてる感じ。

 実現せし我が夢の前に散るがいい、ルーデウス!

 まあ、斬撃飛ばしは直接斬るより遥かに威力も速度も落ちるし、しかも使ってるのが木剣の上に死なないように手加減してるから、散りはしないんだけどね。

 

「ルーデウス!?」

「よそ見、厳禁」

「ッ!?」

 

 互いの間合いに入る寸前だったのに、ルーデウスの方に意識が持ってかれた未熟なお嬢様の頭を木剣でスパーンと叩く。

 ダウンするほどの威力じゃない。

 まだロクに戦えてないんだから、ここで終わらせるのはもったいないからね。

 

 案の定、お嬢様はこれで諦めるとか痛みに怯むとか一切せず、叩かれた怒りに任せて攻勢に出てきた。

 それをさっきと同じように水神流の技で受け流す。

 このままなら結末はさっきと同じなんだけど、もちろんそうなることは私だって望んでないわけで。

 

「『水弾(ウォーターボール)』!」

「おっと」

 

 手を抜いてたとはいえ、私の遠距離カウンターを食らって割とすぐに復活してきたルーデウスが、側面から再び水弾の魔術を放ってきた。

 私の剣速ならお嬢様と打ち合いながらでも間に合うので、もう一回受け流して斬撃飛ばしカウンター。

 でも、今度は来るとわかってたからか、ルーデウスは即座に発動させた衝撃波の魔術で自分を吹き飛ばし、私のカウンターを躱してみせる。

 そして、衝撃波で移動した地点から再び援護射撃を開始した。

 

「へぇ」

 

 上手いね。

 衝撃波移動はルーデウスに教えられた姉も使う戦法だし、動きのキレも北神流を噛じってる姉の方がいいけど、今の魔術の連続発動速度には目を見張るものがあった。

 水弾を放った直後のタイミングとか、姉だったら絶対に発動が間に合ってない。

 発動速度がやたら早い……というより、二種類の魔術を同時に使ってるのか。

 このへんは戦士ではなく魔術師としての技量だね。

 

「ガァアアアアアア!!!」

 

 そして、ルーデウスによる援護射撃があると、途端にお嬢様の攻撃も脅威になる。

 一対一なら容易に捌ける相手でも、横から銃弾が飛んでくるような場所で相手したら、そっちにも注意を持っていかれて辛くなるのは当然だ。

 将棋で二面指しとかしてる人はこんな気持ちなのかもしれない。

 

 でも、まだまだ対応できる範囲内だ。

 さすがに水神流だけだと互角の勝負になっちゃってるけど、私は別に水神流の剣士じゃない。

 私はパウロ・グレイラットの弟子。

 三大流派全てを操る女だ。

 

「北神流『幻惑歩法』」

「なっ!?」

「うわっ!?」

 

 かつてギレーヌにも使った惑わしの歩法、幻惑歩法を使う。

 止まったと見せかけて加速し、加速すると見せかけて止まり、右に行くと見せかけて左に曲がり、後ろに下がると見せかけて前に出る。

 北神流上級の認可を受けて、あの頃とは比べものにならないほど上達した幻惑歩法は、予測不能とまでは言えないまでも、相手の目測を盛大に誤らせるくらいの惑わしっぷりを発揮してくれた。

 

 それによってルーデウスの魔術は当たらなくなり、お嬢様の剣も正確な位置に振るえなくなってるから、さっきよりずっと簡単に受け流せる。

 受け流すついでに、カウンターがポコポコ当てられるくらいに。

 

「痛っ!? あ痛っ!?」

「いっつ!?」

 

 至近距離で斬り合ってるお嬢様はもちろんとして、幻惑歩法のせいで遠距離カウンターが飛んでくる方向がわかりづらくなったルーデウスも結構被弾。

 これが実戦なら、二人とも今頃なます切りになってる。

 だけど、これは手合わせなので死ぬ心配はない。

 お嬢様とか、鏡餅みたいなタンコブの山を作られて激昂してるけど、まだまだ元気だ。

 

「殺してやるーーーーー!!!」

 

 ああ、でも遂に決定的な言葉が出たよ。

 やっていいってギレーヌに言われたからやったけど、やっぱりやめといた方が良かったかもしれない。

 権力使って殺されたらどうしよう……。

 ギレーヌに責任取って守ってもらおう、そうしよう。

 

 そんなことを考えながら、お嬢様が上段から振り下ろした一撃を受け止める。

 お嬢様が獣の勘と豪運で私の位置を特定したのと、権力にビビって一瞬動きが鈍ったせいで、受け流しじゃなくて受け止めた方がいい状態になってしまった。

 膂力でも私の方が上だから問題はないけど、こんなことで精神が揺らぐなんて、私もまだまだだなぁ。

 

「! エリス、下がってください! 『泥沼』!」

 

 む?

 お嬢様の攻撃で私が地面に縫い止められた瞬間、ルーデウスは地面に手をついて魔術を発動した。

 ここらの足場全体を泥沼に変える魔術だ。

 姉が使ってるところは見たことない、つまり私にとって馴染みの薄いほぼ初見の魔術。

 お嬢様の反応も中々のもので、ルーデウスを信頼してるのか、下がれと言われた瞬間にルーデウスの近くまで飛び下がっている。

 

 やられたなぁ。

 今の地面に向かって押し込まれたタイミングだと、効果範囲外に逃げるのは間に合わなかった。

 魔眼がルーデウスの魔力が地面に染みていくのを捉えたおかげで、初見にも関わらず咄嗟の判断でジャンプして上に逃れることはできたけど、お嬢様に上から押さえつけられてたせいで飛距離が足りず、足場にできそうなもののところまで跳べなかった。

 このままだと逃げ場の無い空中で、ルーデウスによる魔術の集中砲火を浴びてしまう。

 

「やりなさい、ルーデウス!!」

「これは正当防衛でしょ……。恨まないでくださいね!」

 

 お嬢様は勝利を確信したように壮絶に笑い、ルーデウスは若干苦い顔をしつつも魔術の発射態勢に入る。

 でも、勝敗が決したと思うのは早いよ二人とも。

 

「ハッ!」

「わっ!?」

「ッ!?」

 

 とりあえず、斬撃飛ばしで二人を牽制。

 相変わらず手加減した一撃だけど、少しの間二人の動きを止めることはできる。

 その間に、私も魔術の発動準備をする(・・・・・・・・・・・・)

 私は剣士だけど、魔術が使えないとは言ってない。

 

 もちろん苦手ではある。

 だけど、数年前にルーデウスから教わろうと思った時から諦めることなく、最近では姉に教えを乞うことで最低限の魔術は使えるようになったのだ!

 最初に魔術を覚えようとした時は、魔術を戦闘で使うつもりなんてなかったけど、剣術と魔術を融合させて戦う姉がカッコ良かったので、剣術の補助として使う分にはいいかなーと、最近意見が変わったのである。

 

「『衝撃波(エアバースト)』」

 

 使用したのは、姉も使っていた衝撃波を発生させる風の初級魔術。

 それをルーデウスと同じように、自分に向かって放つ。

 これによって弾き飛ばされた私の体は、斬撃飛ばしで体勢を崩したお嬢様のところに向かってかっ飛んだ。

 

「北神流『滑り雪崩』」

「うぎゃっ!?」

 

 敵の上空から襲いかかる北神流の技により、遂にお嬢様がノックダウン。

 それを見て、ルーデウスは衝撃波移動を使って距離を取ろうとした。

 正しい判断だよ。

 お嬢様とルーデウスはかなり近くにいた。

 つまり、そのお嬢様を叩いた私とルーデウスの距離はかなり近づいている。

 魔術師がこの距離で剣士に勝つことはできない。

 だからこそ、咄嗟に距離を取ろうとしたルーデウスは正しい。

 

 でも、お嬢様も倒れちゃったことだし、そろそろ終わりにしようか。

 

 ここまで有意義な戦いをしてくれたお礼だ。

 最後くらい、私の全力(・・)でお相手しよう。

 

「必、殺」

 

 私は剣を上段に構える。

 未熟な私では、まだこの体勢からしか放てない必殺技。

 だけど、その威力は絶大。

 何せ、あの師匠を下した技なのだから。

 

「ギレーヌ、もどき」

「!!?」

 

 正式名称すら知らない、2年前にギレーヌから盗み、そこから1年以上の時間をかけても劣化版しか覚えられなかった、未完の奥義がルーデウスに炸裂する。

 この技の特徴は、なんと言ってもその速さだ。

 ギレーヌに使われた時は目で追うことすらできなかった。

 私のこの劣化版ですら、適切なタイミングで放てば、あの師匠が防御も回避もできないくらいの圧倒的な速度が出る。

 

 技の発動に成功した時点で、そんじょそこらの相手なら確実な勝利が約束される、まさに必殺の一撃。

 それを受けてルーデウスは気絶した。

 もちろん手加減はしてるから死んでない。

 

「勝利」

 

 とりあえず、動かない二人を尻目に、ギレーヌに向かってピースしておいた。

 そんな私を、ギレーヌは唖然とした様子で見ている。

 

「最後のは『光の太刀』か? どこで覚えた?」

「光の、太刀? あれ、ギレーヌの、技。前に、会った、時に、見て、覚えた」

「…………お前は剣術においてはルーデウス並みにデタラメだな。エミリー、今日からお前は『剣聖』を名乗ることを許可する」

「へ?」

 

 剣聖?

 剣神流聖級ってこと?

 

「嬉しい、けど、そんな、簡単に、認めて、いいの?」

「構わん。光の太刀は剣神流の奥義。それを使えるようになることが剣聖昇格の条件だからな。少なくとも、あたしが修行した剣の聖地ではそうだった」

「へぇ」

 

 私はいつの間にかそんな大層な技を覚えてたのか。

 それにしても……ふ、ふふふ。

 剣聖、『剣聖』エミリーか。

 実にカッコ良くて素敵な響きだ。

 こういうカッコ良い呼び名で呼ばれるのも、私の夢の一つだった。

 世界最強の剣士になるって夢はまだまだ道半ばだけど、その中間目標にある夢の一つが叶ったのだ!

 超嬉しい!

 私は舞い上がった。

 

 

 

 

 

「ぶべっ!?」

 

 なお、そんな浮ついた気持ちは、お嬢様とルーデウスを起こしてから行われたギレーヌとの戦いであっさりと吹き飛びました。

 ギレーヌの圧倒的な剣速をどうにもできず、木刀で何度もぶっ叩かれ、顔が腫れ上がったり、全身が痣だらけになったり、ゲロ吐き散らしたりした。

 それを治癒魔術で治しながら根性で食らいついて、そこそこ粘りはしたけど、前回よりマジになったギレーヌには全然勝てなかったよ。

 結局、一度足りとも攻撃を当てることすらできなかった。

 世界は広い。

 

「よくやったわ、ギレーヌ!」

 

 ギレーヌにボッコボコにされる私を見て、お嬢様の溜飲が多少は下がったのが唯一の救いかな。

 これで権力に殺されることは無いと思う。

 まあ、お嬢様の好感度は依然マイナスに振り切れてて、盛大に嫌われたことには変わりないけどね。

 

 そんなこんなで、私のボレアス家への訪問は終わりを告げた。

 お嬢様に嫌われたのを除けば楽しかったよ。

 得るものも多かったし、月一くらいでまた来よう。


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