剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
原作読んでた頃、このエピソードからナナホシさんを見る目が変わりました。懐かしい。
時系列はアスラ王国の戦いの後、ララが生まれる前くらいです。
「ぶげっ!?」
今日も今日とてオルステッドにボコられる修行日和。
本日はお腹に一発、顎に一発、側頭部に一発、三連パンチを叩き込まれ、空中で扇風機のように回転した後、地面に叩きつけられた。
「まだまだ! ほぎゃっ!?」
立ち上がって反撃しようとした瞬間、ベストタイミングで鼻に四発目をもらった。
前傾姿勢になってたせいで衝撃を逃せず、鼻血をまき散らしなからフライアウェイしてKOだ。
「ま、参った……」
震える手を顔面に持っていって無詠唱治癒。
潰れた鼻をどうにか元に戻す。
「ふぅ……」
「そういえば、エミリーって普通に無詠唱で治癒魔術使えるよな。やっぱり、転生者云々が理由じゃないのか……?」
最初はこの光景にドン引きしてたルーデウスも、今ではすっかり慣れて平常心だ。
「確かに、治癒は、無詠唱で、使いづらかった」
「あ、そうなのか。じゃあ、どうやって……」
「何百回も、かけてもらって、そのうち、感覚、掴んだ」
ブエナ村でルーデウスが出荷された後くらいからだ。
師匠が「ギレーヌと手合わせしたければオレに勝ってからだ!」 って言い出して、やる気がバーニングした私は、より一層の熱意を持って師匠に挑み、オルステッドにボッコボコにされる今みたいな毎日を送った。
結果、姉やゼニスさんのお世話になる回数が激増し、治癒魔術に関する感覚が研ぎ澄まされていって、いつしか無詠唱治癒ができるようになってたのだ。
「……拷問かな?」
「ルーデウスも、やる?」
「……遠慮しときます」
それは残念。
「じゃあ、私は、そろそろ、行く」
「行ってらっしゃい」
「オルステッド、今日も、ありがと」
「ああ。あいつによろしく頼む」
「ん」
暇な時はお昼や夕方までぶっ続けなこともある修行だけど、今日は三人とも用事があるからお昼前には切り上げる。
その後、グレイラット銭湯に入って、血と泥とゲロゲロだらけの服を着替え、向かう先は空中城塞。
『静香〜。来たよ〜』
『ぃ、ぃらっしゃぃ……』
『わーお。根詰めてるのが一目でわかる』
今の静香は、ペルギウスさんに召喚魔術の極意を学んでる住み込みの弟子みたいな感じだ。
教わることが死ぬほどあるみたいで、しょっちゅう目の下に隈を作ってる。
『息抜きをしよう。下界に降りるよ』
そんな静香を、私は空中城塞の外に連れ出した。
◆◆◆
『うひゃああああああ!?』
目的地近くの転移魔法陣に送ってもらい、そこから静香をお姫様抱っこして、花火で空中ダッシュ。
静香が空気抵抗にやられないように細心の注意を払い、上空をウヨウヨしてるドラゴンの相手もしないように低空を飛んで、やってきたのは中央大陸南部。
王竜王国の属国の一つ、キッカ王国。
私のお目当ては、そこのとある町にある食堂だ。
「らっしゃい」
「ケリースープ、二つ。ご飯、大盛りで」
席に座り、注文を済ませる。
静香は食堂というより居酒屋って感じの隠れた名店っぽさが珍しいのか、キョロキョロと店内を見回してた。
『ふっふっふ。静香、ここのケリースープは凄いよ。期待していい』
『…………』
静香はゴクリとツバを飲み込んだ。
ケリースープとは、静香がこの世界に広めたカレーモドキだ。
ただ、再現度はやっぱりモドキ止まりで、一番カレーに近かったアイシャちゃん作でもなんか違う。
まあ、あの子は、あと数年もあれば完成品を持ってきそうな凄みがあるけど、少なくとも今は違う。
「お待ちどう」
「!」
店主のお爺さんの手で運ばれてきたケリースープ。
その見た目と匂いに静香が反応。
『ぽい。凄くそれっぽい』
『でしょ?』
私、ドヤ顔である。
平皿の上に半分ライス、もう半分にケリースープを乗せてお出しされた品。
見た目は本物にウリ二つ。
けど、当然見た目だけじゃない。
『ふぁぁぁぁ……!』
一口食べて、静香の顔がパァァァっと明るくなった。
わかる。わかるよ。
私もこの前、初めて食べた時、雷に打たれたような衝撃を受けたもん。
『市販のルーみたいな味!』
『そう! そうなんだよ!』
まるでお母さんのカレーみたいな家庭的な味。
広範囲に広まり、各地の料理人の手で
ここの店主さんのアレンジは、奇跡的にお家カレーに近いレシピを引き当てたみたいで、私からすると最高なのだ。
「「おかわり!」」
「あいよ」
その後、私達は食べた。めっちゃ食べた。
見た目は華奢な少女二人の食べっぷりを見て、店主さんは嬉しそうにしてた。
『うぷ……。食べ過ぎた……』
『仕方ない。カレーは正義』
食べて食べて食べまくった結果、胃腸も頑丈な私はともかく、静香はノックダウン。
でも、凄く幸せそうな顔してる。
『お、美味しかったわ……。でも、家カレーレベルの味なんて、こっちの世界なら、もっと有名になってそうなものだけど』
『なんか店主さんに野心が無いっぽいんだよね。競い合いに疲れたとか言ってたから、元宮廷料理人とか、そういう感じなのかも』
『何それ、カッコイイ……』
だよね。
「ごちそう、さま」
「ごちそうさまでした。また来ます」
「まいど」
かなり色を付けた代金を支払い、迎えに来てくれたアルマンフィさんから渡された転移の魔道具で、私達は空中城塞に帰還。
やっぱり感動を分かち合える人と食べるご飯は美味しいと思った、とある日常の出来事だった。
・息抜きデート
かなりの頻度で行われている。
ナナホシだけでなく、エミリーにとっても良い息抜き。
・店主
元は料理界の七大列強みたいな人だったが、競争人生に疲れてこじんまりとした店の店主に収まった。
ランドルフさんの成功例。
・無詠唱治癒魔術
当時のゼニス「エミリーちゃんって、もしかして痛いのが気持ち良い子なんじゃ……」