剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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アニメ二十二話放送!
パウロ……! パウロォ……!
せめてこっちの時空では幸せになれ!

ということで、時系列はベガリットからの帰還直後。
パウロ生存の世界線です。


番外 パウロ・グレイラットの眠り

「んぁ?」

 

 パウロ・グレイラットは、柔らかなベッドの上で目覚めた。

 隣には最愛の妻、ゼニス。

 もう片方の隣には最愛の娘の一人、ノルン。

 二人とも安らかな寝息を立てて眠っている。

 

「ああ、そっか。終わったんだったな」

 

 転移事件から六年。

 この六年間、パウロは安眠とは無縁だった。

 

 唯一共に転移したノルンを抱えて、フィットア領に帰ろうと馬を走らせていた時。

 フィットア領捜索団を結成し、何度も顔見知りの死を確認し、まるで見つからない家族は既に彼らのようになってるんじゃないかと悪い想像ばかりしていた時。

 強引な難民救済で敵を作り、団員を死なせ、それでも救えなかった者達がいて、やるせない気持ちになっていた時。

 それでも家族は誰一人見つからず、辛さを忘れるために酒に溺れていた時。

 

 いつだって夢見は最悪だった。

 何度も悪夢に飛び起きた。

 辛くて辛くて堪らなかった。

 

 その後、ブエナ村自警団の同僚で友と呼べる間柄だったロールズ夫妻と再会できた。

 かつての仲間であるエリナリーゼやタルハンド、ルーデウスの家庭教師だったロキシーと共に。

 

 あの時は悪酔いしていたのもあって、つい家族を無事に見つけられたエリナリーゼやロールズに八つ当たりしてしまい、怒らせてしまった。

 それでもロールズ達は捜索団に残って、数少ない戦闘員として活躍してくれたし、エリナリーゼ達も魔大陸へ家族の捜索に行ってくれた。

 本当に救われた気持ちになった。

 

 更にその後、今度はルーデウスが現れた。

 呑気そうに旅してきたように見えた息子にキレて大喧嘩してしまったが、最終的にはどうにか仲直りできて、初めて見つかった家族との再会を喜べた。

 心の底から嬉しかった。

 

 その次はルーデウスが見つけてくれたリーリャとアイシャに会えた。

 やはり、あの息子は本当に頼りになる。

 同時に己の無能さを嘆きもしたが、それ以上に喜びが勝った。

 

 そして、魔大陸に行ったロキシー達が、魔界大帝の力を借りて最後の家族であるゼニスの居場所を突き止めてくれた。

 たまたま会えたルーデウスの仲間であるルイジェルドにノルンとアイシャを託し、ベガリット大陸へ。

 魔界大帝、ルイジェルド。

 運の良い出来事が続き、ここに来て全てが好転してきたような気がした。

 

 それでも、パウロの心は緩まなかった。

 まだ緩むわけにはいかなかった。

 ゼニスを見つけるまではと、気力を振り絞って走り続けた。

 

 ギースが合流し、ゼニスが転移の迷宮に囚われていることを知った。

 転移の迷宮は難攻不落で、攻略は遅々として進まない。

 だが、やはり風は自分達に吹いてくれていたようで、ギースが勝手に出した救援要請を見たルーデウスとエリナリーゼが爆速で合流。

 遭難していたというエミリーもようやく合流して、充実した戦力で転移の迷宮の守護者マナタイトヒュドラに最後の戦いを挑み。

 そして──

 

「やったんだなぁ……!」

 

 パウロはようやく心を緩められた。

 安眠を取り戻せた。

 迷宮から助け出したゼニスはまるで廃人のようになっていて、一時は希望と絶望の温度差で心がやばいことになったが。

 エミリーの魔力眼でゼニスが完全に何もかもわからなくなっているわけではないと知り、どうにか心の比率を希望に傾けることができた。

 

「うみゅ……。おはよう、お父さん」

「ああ。おはよう、ノルン」

 

 そして、今。

 同じベッドにゼニスとノルンがいて、隣の部屋にはリーリャとアイシャがいて、同じ家の中には息子夫婦がいる。

 新しい帰る場所として定めたシャリーアの中にはロールズ一家がいて、今はタルハンドやギース、捜索団で何度も助けられたヴェラやシェラも滞在している。

 全てとはいかないし、色々と変わってはいるが、ブエナ村にいた頃のような幸せが戻ってきた。

 戻ってきてくれた。

 

「さあ、母さんを起こして行こう。今日は──」

 

◆◆◆

 

「あー、皆! 今日はよく集まってくれた!」

 

 昼。

 シャリーアにある大きめの酒場に、結構な人数が集まっていた。

 発起人であるパウロに、リーリャ、ギース、タルハンド、エリナリーゼ、ロールズ夫妻、エミリー、ルーデウス、ロキシー、ヴェラ、シェラのベガリット組。

 ゼニス、シルフィ、ノルン、アイシャのグレイラット家。

 エリナリーゼの夫であるクリフの姿もあり、彼を呼ぶなら交流も兼ねて皆呼んで賑やかにしてしまえとばかりに、魔法大学でルーデウスが知り合った面々もいる。

 

「今回は本当に多くの助けのおかげで、オレは家族全員を見つけることができた。本当に、本当に感謝してる」

 

 昔は騒がしかった仲間達も、今ばかりは神妙な顔でパウロを見ていた。

 この六年の苦労を思い出し、万感の思いに浸りながら。

 

「ってことで、今日はオレの奢りだ! 存分に飲んで騒いで笑ってくれ! 今までの苦労と、これからの日々に! 乾杯!」

「「「かんぱーい!!」」」

 

 パウロに合わせて皆がジョッキを突き出した。

 酒豪のタルハンドとギースが真っ先に飲み干し、テンションの上がったエミリーが続く。

 それを見てイケる口と判断した二人が彼女に絡み始め、お婆ちゃんや両親もそこに釣られていく。

 

 エミリーの姉妹であるシルフィは現在妊娠中のため酒は飲めず、代わりにロキシーが飲んでシルフィへの罪悪感が爆発。

 心の底を暴露しながら泣くロキシーに、グレイラット家女性陣の好感度が上がった。

 他の面々も思い思いに仲の良い相手だったり、興味を引かれた相手のところで楽しそうにしていた。

 

「アハハハハハハ! 情ねぇぞ、ギース、タルハンド! 子供のエミリーに負けかけてんじゃねぇよ!」

「ぬぅぅ! まだまだぁ!」

「頑丈さの権化がなんぼのもんじゃあ!」

「ぷはぁ! もっと、持って、こーい!」

 

 パウロもまた、傍らのゼニスを気にしながらではあるが存分に飲み、それ以上に飲んでいる連中に茶々を入れて笑っていた。

 やがて酒好きではあっても耐性があるわけではないギースが倒れ、それどころか酒精に強いドワーフであるタルハンドまでダウン。

 エミリーが勝利のスタンディングを決め、パウロは爆笑した。

 

「…………」

 

 それを見ていたゼニスもまた、ほんの僅かではあるが、確かに微笑んでいた。

 パウロはしっかりそれに気づき、泣きそうな顔で、それでも幸せそうに笑った。

 

 その日の眠りは、人生最高の快眠だった。




・パウロ
ここを境に人間として一気に成長した。
ピレモンにあんな優しく向き合えたのもその賜物。
ホント、本編でもここを生き残れてたら、パウロにとってのターニングポイントになってたと思うんだよ……!


・ゼニス
傍でリーリャやエリナリーゼ、ロールズ夫妻なども見てくれてた。
まるで冒険者時代とブエナ村時代のいいとこ取りみたいな幸せな光景に表情筋が仕事した。
パウロと一緒に長生きしてほしい。


・エミリー
今回殆ど空気。酒臭い空気。
祝賀会の後は、体調不良で欠席したナナホシさんのところに料理を持っていったらしい。
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