剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
もう情緒がバグッて言葉が出てこない……!
一つだけ言えることがあるとすれば、無職転生は神ということです。
今回の時系列は、こっちの世界線でのパウロ死亡後。
今回ばかりはアニメのしんみりした空気を壊したくないので真面目にやります。
PS 甲龍歴と年齢の計算が間違ってたので修正しました。
締まらねぇ……。
「お疲れ、師匠」
甲龍歴479年。
ギースさんの死からきっちり50年。
宣言通り孫の孫の顔まで見てから死んだ師匠の墓前に私は来ていた。
享年91歳。
この世界の人族としては滅茶苦茶長生き。
最後の最後まで自分の足で歩き、寝込むことなく、剣を持ち続け、ハゲることもなく、カッコイイ爺として若い女の子にモテまくった。
「最初に、会った時、運命だと、思った。師匠の、剣が、カッコ良すぎて……」
墓石に思い出を語る。
なんとなく今日はそんな気分だった。
「師匠の、稽古、楽しかった。一つ、一つ、師匠の、剣を、学んで。自分が、ファンタジーな、剣士に、なってくのが、わかって。興奮しか、無かった」
今でも鮮明に思い出せる。
初めて見るファンタジー剣術の煌めきを。
速すぎる剣神流の太刀筋。
流れるような水神流の受け流し。
剣道じゃ絶対許されない北神流のアクロバティックさ。
その魅力を詰め込んだ天才剣士の姿を。
「浮気の、時は、酷かったね。ゼニスさん、ゴミを、見るような、目だった」
私もあの時は冷たい目をしてた覚えがある。
今ではもっと酷いクズを腐るほど見ちゃったから、浮気くらい可愛いもんだとしか思えないけど。
すっかり感覚がこの世界基準になってる。
「誕生日は、嬉しかった。あの剣は、私の、宝物」
十歳の誕生日に貰った剣。
数多の戦いを共にした私の相棒。
さすがに、あれから60年以上経った今は限界を迎えて、家の自室に飾ってある置物になっちゃったけど、そこに込められた思い出は何一つ消えない。
「その後、すぐに、転移が、起きて」
最悪の天災、フィットア領転移事件。
それで皆別々の場所に飛ばされて、師匠とは六年くらい会えなくなった。
「私も、色々あった。戦って、教わって、旅して、守って、遭難して……。やっと、再会して、皆で、ヒュドラ、倒して」
転移の迷宮の冒険。
今でも覚えてる宿敵ヌメヌメジュニア。
ヒュドラなんか比較にもならない苦い思い出。
「……私の、せいで、ルーデウスが、ロキシーさんと、遭難して、浮気して」
あの時は本当にいたたまれなかった。
修羅場の時なんか、土下座でグレイラット邸の床板に顔面をめり込ませて破壊しちゃったっけ。
で、ルーデウスも同じく土下座して。
ノルンちゃんが兄に向けるゴミを見るような目は、師匠が浮気した時のゼニスさんの生き写しみたいだったなぁ。
「その、数日後に、ルーシーが、生まれて。師匠も、父も、デレデレになって」
あの修羅場の直後に生まれてきた天使。
ついこの前まで荒ぶる神と化してたスーパーエルフ人が天使に浄化されていく様は不思議な気持ちにさせられた。
「その後は、剣の聖地に、送り出して、くれて。帰って、きたら、オルステッドと、戦う、ことに、なってて」
あの時、師匠は自分の気持ちを押し殺して、剣を託して引き下がってくれた。
でも、ピンチになればちゃんと駆けつけてくれた。
オルステッドの前に出てきた皆がそうだけど、カッコ良かったなぁ。
「アスラ王国の、戦いは、大活躍、だったね」
ピレモンさんとの兄弟の会話は胸に来るものがあった。
あれは人間として尊敬できた。
あと、ルークさんの説得、ピレモンさんの助命、アスラの貴族社会からのフェードアウト。
全部纏めて達成したのはすげぇと思った。
「……ミリスは、何が、あったか、見てないけど。辛かったよね」
ギースさんの裏切りが発覚したミリス神聖国。
他種族差別が面倒だし、ゼニスさんの実家に挨拶に行くのが目的だったから戦闘にはならないかなと思って参加しなかった出来事。
友が敵に回って苦悩しなかったはずがない。
「ビヘイリル王国。師匠、ギースさんに、容赦、なかったね」
そんな苦悩を踏み越えて、師匠はギースさんを斬った。
正しい行いだったのかはわからないけど、そうしてくれたからこそヒトガミとの戦いに一段落がついて平和な時代がやって来た。
……敵に回った友を斬れるか。
私は今でも自信が無い。
知り合いくらいの関係ならともかく、アレクやオリベイラみたいな相手が敵に回った時、殺してでも止められるのか。
きっと迷って、揺れて──師匠の勇姿を思い出す。
それで吹っ切れるかどうかは別問題だけど。
「その後も、色々あった」
師匠は下僕になったアレクによく絡んでた。
ノルンちゃんがルイジェルドさんと結婚した時は滝のような涙を流してた。
ルーシーが魔法大学に入った時は、ルーデウスと一緒にバカやってた。
アリエル様にチューされたって言った時は大爆笑された。
ララがやらかしたせいで巻き起こった魔法大学の決戦の時は、なんだかんだで楽しそうだった。
アイシャちゃんが駆け落ちした時は、自分も親と喧嘩して実家を飛び出した経験を活かして、心配しながらもどっしり構えてグレイラット家の柱になってた。
ルーシーが結婚した時は、迷走する
ジークがニートになった時は、孫の現状が自分の経験してきた人生と違い過ぎて、上手く力になれなくて悔しいって愚痴ってきた。
大列強舞踏祭が開催された時は、もういい歳だったのにはっちゃけてたなぁ。
最終的にララの『あまえる』でやられた時は何やってんのって思ったけど……。
母が寿命で死ぬ前に「最後のお節介」とか言ってウェディングドレスを着せられて、礼服姿のアレクの隣に並ばされた時は大爆笑された。
アリエル様にチューされたって言った時を思い出す大爆笑。
と思ったら、そのアリエル様が知らない間に現着してて、女王陛下を散々にディスった師匠が冷や汗を流したりなんてことも。
「楽しかったなぁ」
全ての思い出は過ぎ去って、師匠は墓石の下に眠った。
どうも師匠が死んだって実感が湧かなくて、時間を置いて墓参りに来て、色々と思い出して語ってみたけど──
「やっぱり、涙、出ないね」
不思議なほど悲しいと思わない。
一回死んだことがあるからか、今頃あの世で先に死んだ皆と仲良く飲んでるんだろうなーとしか思えない。
「でも──」
それは凄く良いことだと思う。
人間皆いつかは死ぬ。
死んだ人の笑顔ばかりが思い浮かぶのは、苦しそうな顔ばっかり思い浮かぶよりずっと良い。
「じゃあね、師匠。死んだら、また、稽古しよう」
そうして、私は師匠の墓石の前から立ち去った。
親世代の人族で一番長生きした師匠が死んで、同年代もそろそろ高齢者に突入してきてる。
ルーデウス、エリスさん、アリエル様あたりは、もういつ逝ってもおかしくない。
そして、もう既にラプラスがいつ復活してもおかしくない時期に入ってる。
長い長い
この先は戦争。
師匠のような死に方はまずできない時代。
私も、私の大切な人達も、どんな無惨な死に方をするかわかったもんじゃない。
「頑張ろう」
激動の時代のもう一つ先で、また幸せな時間を迎えられるように。
師匠に貰ったこの剣で、力の限り戦い抜いてやろう。