剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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クリスマス短編です。
ネタが切れてきたので、もし来年もやるのなら、いい加減、性夜のネタから離れたい……。


番外 聖夜の悪夢

「メリークリスマス。エミリー」

 

 聖なる夜。

 『北神カールマン三世』アレクサンダー・ライバックは、シャリーアのとある高級レストランを訪れていた。

 

 修行中の身にはあまり縁のない、貴族のような仕立ての良い服を身に纏い。

 珍しく遠回りに段取りを踏んで、最愛の女性を食事に誘った。

 

「うん。今日は、ありがとう、アレク」

 

 そうして来てくれた彼女もまた、いつもの姿とは全然違う。

 大人っぽいシックな黒のドレスを着て、控えめに微笑む『妖精剣姫』。

 

 少しずつ、顔立ちから幼さが抜け、大人の女性に変わりつつある彼女は──美しかった。

 

 弟子を取り、重要な役割を任され、生きた時間相応の経験をして。

 精神面でも、表面上は昔と大して変わらないけれど、深いところが確実に成長して。

 今はそれが、雰囲気にも滲み出ていた。

 つまり、凄く綺麗だった。

 

「……君と出会って、何年になるかな。不死魔族の僕にとっては大した時間じゃないはずなのに、とても長く感じた気がするよ」

 

 きっと、それだけ密度の濃い時間を過ごしたのだ。

 ただ父を超えることだけを目指して、それっぽい偉業を求めてフラフラしていた停滞の時代。

 あれを全部ひっくるめても、今の暮らしの一秒にすら及ばない気がする。

 

「でもね。不思議と、君との日々は、とても短かったようにも感じるんだ」

 

 楽しい時間は、すぐに過ぎてしまうというやつだろうか。

 ……ああ、そうだ。

 楽しいんだ。

 エミリーとの時間は、どうしようもなく楽しいんだ。

 心に決めた誓いを、捻じ曲げてでも守りたいと思ってしまうくらい。

 

「……本当は、もっとカッコよく決めたかった。

 君と肩を並べるくらい強くなって。本物の英雄になって。

 君のピンチに颯爽と駆けつけ、共に強敵を打ち倒し、その流れで想いを告げられたら、最高だった」

 

 北神流が、魔王の血族が大好きな、コッテコテのシチュエーション。

 想像しただけでテンションが上がる、目指していた到達点。

 

「それを諦めてでも、取られたくない。奪われたくない。

 だから、不本意だけど、カッコ悪いけど──今、言うよ」

 

 覚悟を決めた、真剣な表情。

 そんな男の顔に、エミリーもまた背筋を伸ばして、その言葉を待った。

 

 

「──エミリー。君が好きだ。僕と、結婚してください」

「ごめんなさい」

「あれぇ!?」

 

 

 確定演出が入っていそうな告白への返事は、まさかのノータイムでの拒絶。

 エミリーはとても、とても申し訳なさそうな顔をして。

 冷や汗をダラダラ流し、目を思いっきり泳がせながら、お断りの理由を告げた。

 

「その、なんと、いうか……先約が、入っちゃった、というか……」

「先、約……。ま、まさか……!?」

「そのまさかですよ、アレクサンダー様」

「ッ!?」

 

 アレクの脳裏に浮かんだ、最悪の可能性。

 それが正解だと、残酷な真実を突きつける悪夢の化身が、降臨した。

 

「ごめんなさい。貰っちゃいました☆」

「ア、アリエルゥゥゥゥッッッ!!」

 

 降臨せし悪夢の女王、アリエル・アネモイ・アスラは。

 エミリーに後ろから抱きつきながら、勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

「残念でしたね。まあ、あなたには余るほどの時間があるのです。私が死んだ後に備えて、せいぜい自分磨きを頑張ってください」

「ッ〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 充分な時間があったのに、自分磨きにかまけてチャンスを逃したアレクへの強烈な皮肉。

 大勝利に浮かれているのか、いつにも増して悪い顔をしている。

 ビデオレターでも送りつけてきそうな顔だ。

 

「エ、エミリー……」

「……ごめん、アレク」

 

 すがりつくように彼女を見れば、返ってきたのは絶望的な言葉。

 

「もう、アリエル様の、テクじゃ、ないと、満足、できなくて……」

「あああああああああ!?」

 

 頬を赤く染めて俯くエミリー。

 あの妖精剣姫が、世界最強の女剣士が、雌の顔をしているぅぅぅぅ!?

 

「ふふふ。さあ、行きましょう、エミリー。これからは毎日、いっぱい可愛がってあげますからね♡」

「ま、待って……! 待ってくれぇぇぇ!!」

 

 

◆◆◆

 

 

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

 悲鳴を上げて、アレクは飛び起きた。

 ベッドから転げ落ち、勢い余って部屋の扉を突き破り、事務所の広間にまで吹き飛ぶ。

 

「!? な、なんだ!? 敵襲!?」

「うっわ……」

 

 広間には、修行終わりっぽい汚れた格好のアルスと、それ以上に汚れた姿で屍になっているララがいた。

 アルスは突然のアレクに純粋に驚き、ララは何かを察したように、どうしようもねぇものを見る目を向ける。

 

「ア、アルスくん! ララ殿! エミリーは!?」

「エミリー姉なら、アリエル様のところに行った」

「ま、正夢……!? そうはさせるものかぁ!!」

 

 アレクは、あまりにも、あまりにも必死の形相で、転移魔法陣の部屋に走っていった。

 

「……ララ姉。あの人、ちょっと見ないうちに、どうしちゃったんだ?」

「別に何も変わってない。埋まってた爆弾が炸裂しただけ」

 

 ララの説明に、アルスは愕然とした。

 彼はグレイラット・チルドレン戦闘組の中では、アレクとの関わりが薄い方だ。

 ひときわ大きな問題を抱えていたのもあって、最強ポンコツコンビの動向に、それほど注目もしていなかった。

 だからこそ、ただ純粋に、一人の剣士として、北神三世を尊敬していたのだが……。

 

「い、色ボケアホクサンダー……」

 

 残念。

 今日この時をもってメッキは剥がれ、アルスの中でのアレクサンダーのイメージはアホで固まってしまった。

 しかも、一度定着したこのイメージは、今後、数十年に渡って、長く尾を引くこととなる。

 

「言っとくけど、アルスは人のこと言えない」

「あぅ……」

 

 なお、ララの中ではこの弟も、色ボケで駆け落ちして失踪して、十代前半で子供まで作ってきた、アホクサンダーを全く笑えない同類認定である。

 反論のしようもなく、未来の七大列強アルス・グレイラットは、シュンとして小さくなった。




この物語はフィクションです。
無職転生にクリスマスはありませんし、剣姫転生にもクリスマスはありません。
……でも、『奴』の力を考えると、本編でも似たような展開になってる可能性も。


・アレク
とうとう手遅れになった。
自業自得のような気もするし、釣り合う男になってからという誓いを愚直に守った結果の悲劇という見方もできる。
作者的には、そういう不器用な奴は好き。


・アリエル
NTR成功! 大勝利! ……と思うかもしれないが、時系列的にエミリーを気に入ったのはアリエルが先なので、間男を退けて純愛を貫いたという見方もできる。
ロリ時代からベッドに誘っていたのを純愛と言えるかは、意見の別れるところかもしれない。


・アルス
剣姫転生のアレクは恋愛ブーストが入ってる上に、利き腕封印もなく実力が伸びてるので、仕事をしないアホクサンダーのイメージはない。(仕事ができるとは言ってない)
代わりに色ボケアホクサンダーのイメージが定着した。
人のことを言えない大失敗をやらかしたのは自覚しているが、恋愛での失敗体験を糧にした成長率はアレクの遥か上なので、卑下する必要は全くない。


・ララ
実は取り合われてる女との接点が一番多い。


・エミリー
籍は入ってないので、愛人関係。
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