剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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14 ターニングポイント

「よ」

「ボギャアアアアア!?」

「ギャン!?」

「ギャウン!?」

「ギギャ!?」

 

 森から出てきた魔物、ターミネートボア一匹と、それに率いられたドーベルマンみたいな魔物であるアサルトドッグ三匹を一瞬にして斬り裂く。

 所要時間は一秒足らず。

 剣聖としてはまずまずのタイムだ。

 

 

 先日誕生日を迎え、10歳になった。

 最近の私の生活は充実してる。

 村では姉を鍛えつつ、私に追い越されて鍛え直してる師匠と共に研鑽を積む日々。

 

 月一でのボレアス家への訪問も恒例行事になってる。

 行く度にお嬢様が奇襲をかけてくるし、一回フィリップさんの厚意で泊めてもらった時には夜襲までかけてきたけど。

 あれはあれで不意討ち対策の練習になったし、それより何よりギレーヌという格上剣士に毎回シゴいてもらえるというのが、とんでもない幸運だ。

 上達の一番の秘訣は強い人の真似をすることと、強い人に相手してもらうこと。

 おかげで、ボレアス家に行く度に私の剣は磨かれ、この前、遂にギレーヌから一本取ることに成功した。

 たかが一本、されど一本。

 確実に自分の成長が感じられて嬉しかった。

 

 そして今、ターミネートボア達を狩ったみたいに、師匠と父の所属する自警団の狩りに交ぜてもらって、魔物相手の実戦経験も大分積み重ねた。

 最初は生き物を斬る感覚に抵抗があったけど、これは剣士を続けていく上で避けては通れないことだと覚悟を決めれば、割とすんなり受け入れられた。

 

 まあ、害獣駆除だしね。

 日本でだって普通に行われてることだと思えば、そこまで気が重くなるものでもない。

 最近では魔物を斬るのがちょっと楽しく……これは危ない人の兆候だから気をつけないと。

 

「ふぅ。最近はやけに魔物が多いな。大丈夫か、エミリー、ロールズ」

「問題なし」

「私も大丈夫です。娘には負けていられませんよ」

「ハハッ! 違いないな!」

 

 快活に笑う師匠と、大丈夫と言いながらも若干の疲労を顔に滲ませる父。

 師匠の言う通り、最近はなんか妙に魔物が活性化してて、体力のある私と師匠はともかく、父を含めた他の人達は結構疲れ気味だ。

 師匠も師匠で、魔物退治に駆り出されまくるせいで、ルーデウスの10歳の誕生日にも行けなかったって嘆いてた。

 どうも、この国では5歳、10歳、15歳の誕生日を盛大に祝う文化があるみたいで、親としてそれに出席できないっていうのはかなりショックみたい。

 

 ちなみに、我が家の場合は元々貧乏な上に、まさかの双子が生まれちゃったから家計が火の車で、5歳の誕生日はなけなしのお金で姉に緑髪を隠せるフード付きの上着を買ってくるのが精一杯だったらしい。

 緑髪のせいで起こるイジメを少しでもどうにかしようとした結果とはいえ、私にはプレゼントとか贈れなかったことを両親は今でも気にして謝ってきたりする。

 個人的には師匠への顔繋ぎをしてくれたのが最高のプレゼントだし、罪悪感抱くくらい大事にしてくれる両親のところに生まれられて幸せだ。

 前世の両親にも、もうちょっと親孝行したかったなと思ってしんみりはしたけど。

 

 あ、ちなみに私達の10歳の誕生日については、なんと師匠が私達一家を家に招いてお祝いしてくれた。

 両親は恐縮しきりだったけど、私は師匠達がまるで家族の一員みたいに扱ってくれたことが嬉しくて仕方なかったよ。

 姉も色々と教わってるゼニスさんやリーリャさん、その娘であるノルンちゃんやアイシャちゃんに祝福されて嬉しそうだった。

 誕生日プレゼントに、私は今魔物退治にも使ってる剣を、姉は主に水神流での護身に使う短剣を贈られて、更に嬉しさ天元突破だ。

 このプレゼントは大事にしなくては。

 ……でも、他所の家の子である私達がこれだけお祝いしてもらったのに、実の息子のルーデウスの誕生日が仕方なかったとはいえ祝われないのは、ちょっと気の毒すぎる。

 今度会ったら、もうちょっと優しくしてやろうと心に誓った。

 

 

 そんなこんなで、朝から元気に湧いてきた魔物どもの処理も終わり、村へと帰還。

 私と師匠、あと私達二人に守られてた父以外の人は、ゼニスさんのやってる治療院に向かった。

 姉も多分、お手伝いに向かってると思う。

 師匠もそんなゼニスさんのところへ向かうのか、それとも自宅に帰るのかは知らないけど、私達と別れて帰宅。

 私と父も母の待つ家へと帰った。

 

「おかえりなさい、エミリー、あなた」

「ただいま、ボニー」

「ただいま」

 

 10年経って、さすがに少しは流暢になった言葉でただいまを言う。

 古びたボロい一軒家だけど、家族が迎えてくれるこの場所が私は好きだ。

 この国では15歳で成人みたいだし、そのくらいの歳になったら武者修行の旅に出るつもりだけど、定期的に帰ってこようと思う。

 

「シルフィは?」

「いつも通り、ゼニスさんのお手伝いに行ったわ」

「そうか」

 

 父と母のそんな会話を聞きつつ、しばらくまったりする。

 平和だ。

 武者修行の旅に出たら、こんなにゆっくりできることってないかもしれないし、今のうちにこの平和を満喫しておこう。

 

「ん?」

 

 そうやってのんびりしてた時、ふと私の右眼が変な魔力の流れを捉えた。

 多分私と同じ眼を持ってるっぽいギレーヌは、自然界に満ちる膨大な魔力が見えちゃうらしくて、見え過ぎて疲れるって理由で普段は眼帯で魔眼を隠してる。

 でも、私の魔眼はギレーヌに比べて出力が低いのか何なのか、人の体から漏れ出す闘気や魔術の僅かな魔力しか見えない。

 

 そんな私の眼が、家の中に流れてくる魔力を捉えた。

 今までになかった事態、つまり異常だ。

 そういうのを感じた時は最大限の警戒をしろって師匠に叩き込まれたので、私は咄嗟に近くに置いてた誕生日プレゼントの剣を手に取り、次いでこの魔力が流れてきてる大元を探して眼を向けた。

 

「何、あれ……?」

 

 異常な魔力の大元は空だった。

 ここじゃない、恐らくはロアの街の真上あたりの空に、尋常ならざる魔力が雲みたいな形で渦を巻いている。

 出力の低い私の眼にすらハッキリと、眩しいくらいにハッキリと映し出される異常。

 ルーデウス曰く、魔術の師匠であるロキシーさんの卒業試験で、水聖級魔術とかいうとんでもない魔術を村の近くで使ったことがあるらしいけど、その時ですら私の眼は何も映さなかったというのに。

 

 しかも、その魔力の色もおかしい。

 魔力には色がある。

 透明に近い純粋な闘気の魔力、水や風なんかの属性に変換されて青や緑に変わる魔力。

 私が見たことある変な魔力は、せいぜいルーデウスが二種類の魔術を交ぜた時に見えるやつくらい。

 だけど、あの空に渦巻く魔力の色は二色どころじゃない。

 茶色、紫、黒、黄色。

 どれもルーデウスの魔術なんかとは比べものにならないくらい強くて濃い色が、うねるように混ざり合ってぐちゃぐちゃになっている。

 

 ヤバい。

 あれはヤバい。

 剣術とか魔術とか、そういう人間が行使し得る手段じゃどうにもならないタイプのやつだと直感した。

 大地震とか大津波とか巨大台風とか、そういう天災にカテゴライズされるやつだよ、あれは。

 

 そんな天災のごとき魔力が、私の見てる前で地面に落ちた。

 落ちた地点から爆発的に広がっていく魔力の津波。

 あれはここまで余裕で到達する。

 でも、何もできない。

 あれを前に、ちょっとファンタジー剣術が使える程度の人間が何かをできるわけがない。

 

 それでも私はせめてもの抵抗として、突然様子の変わった私を見て心配そうな顔をしていた両親に飛びついた。

 意味のない行動だと思う。

 あの魔力の津波がどんな現象を引き起こすのかわからないけど、なんにしても膨大な魔力にもみくちゃにされてすり潰される予感しかしない。

 でも、例えそうだったとしても、せめて手の届く場所にいる二人の助かる可能性を少しでも上げたくて、私は二人を地面に押し倒して身を屈めた。

 

 次の瞬間、私の意識は魔力の奔流に飲み込まれ、真っ白に染まった。

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