剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
今回も平和な日常回でしたねぇ。
しかし、見る分には好きなんだけど、書く方に回ると苦手分野だから、今回の番外編は徹夜仕事になってしまったぜ……。
時系列はアニメとほぼ同じ。
眠いから、所々変でも許して……。
この世界には、5歳、10歳、15歳の誕生日を盛大に祝う風習がある。
でも、転移事件という大災害のせいで、それどころじゃない日々が続いてた。
そんな日々の中に、祝うべき日が飲み込まれてしまったのだ。
なら、
大分遅れちゃったけど、今からでもお祝いしようよ! って意見が出てくるのは、当然のことだったんだと思う。
ルーデウスの発案により、サプライズで決行されることとなったお誕生日会。
発起人はその下準備にかこつけて、二人の妻とデートに出かけた。
……祝福はしてるんだけど、あのスケベな顔が姉とロキシーさんに向いてるのを見るのは、未だにちょっと複雑。
で、一方の私はというと。
「師匠、これ、どう?」
「お、値段のわりには悪くないな。けど、ちょっと重くないか?」
「むむむ……!」
ルーデウスのデートの裏で、師匠と買い物に出かけていた。
もちろん、こっちはデートじゃない。
お互い、更なる重婚にも年の差婚にも興味ないし、そもそも近くに父と母もいるからね。
「力、強いと、こういう時、不便……」
「あー、確かに昔から大変そうだったもんな。戦闘特化も楽じゃないか」
今日の目的は、プレゼント選び。
今は、意外にも剣士とか冒険者とかが好きだと判明した同志ノルンちゃんへ贈る剣を選定してるところだ。
でも、この怪力のせいで武器の重さを感じられない……!
私の体感だと羽のように軽いこの剣も、最近本格的に鍛え始めた一般11歳女子であるノルンちゃんからすると重いらしい。
能力値の偏りっていうのは、こういう日常の一コマにも影響を与えてくるのだ……。
「……しかし、懐かしいな。何年か前も、こんな感じで剣を選んでたっけ」
その時、師匠が懐かしむように目を細めた。
釣られるように、私の意識も、自分の腰の剣に向いた。
10歳の誕生日に、師匠にプレゼントしてもらった愛剣に。
これまでの戦いを支えてくれた相棒に。
「あの直後だったんだよな。転移事件が起きたのは。……今でも夢みたいだよ。また、こんな穏やかな気持ちでプレゼントを選べる日が来るなんて」
「師匠……」
「感謝してるぜ、エミリー!」
「わぷっ」
ちょっとだけ、しんみりした空気をごまかすように、師匠に乱暴に頭を撫でられた。
あの頃より、少しは身長差が縮まっていた。
……そっか。
あれから本当に、懐かしむほどの時間が経ったんだなぁ。
6年か、7年くらい。
プレゼントを贈られる側から、贈る側になるほどの時間。
それだけ経っても、子供時代の良い思い出は薄れてない。
「…………」
だからこそ、あの頃に感じた複雑な想いも覚えてる。
喉に刺さった小骨みたいな、少しの申し訳なさ。
今回は、これを清算できるチャンスでもあるのかもしれない。
「エミリー、パウロさん。アイシャちゃんのプレゼントに、こんなのはどうかな?」
「腕輪型の魔道具ですって。可愛い見た目なのに、暴漢対策もできるのよ」
「おお、実用的……!」
「…………お前らは昔よりたくましくなったよな。凄く」
父と母のチョイスに、ちょっとだけ苦笑する師匠。
でも、品物自体な「良いな!」と言ってくれた。
ってことで、アイシャちゃんへのプレゼントはこれで決定。
あとは、ノルンちゃんの剣を探して、それから──
◆◆◆
準備は整い、決行当日。
サプライズに拘るルーデウスの意向により、まずは本日の主役であるノルンちゃんとアイシャちゃんを外に連れ出す。
メンバーは二人の他に、ルーデウス、ロキシーさん、師匠、そして私。
父と母と姉とリーリャさん、それとゼニスさんは会場設営係だ。
特に父と母は、昔の借りを返すんだって張り切ってる。
なお、私がそっち担当じゃないのは、いても役に立たないからである。
能力値の偏りっていうのは、以下略。
「やるじゃねぇか、ロキシー!」
「慣れてますね……」
「一人旅の頃に鍛えられたので」
連れ出す項目として選ばれたのは、川での釣り。
まだちょっとぎこちなかったノルンちゃんとロキシーさんの間に師匠が入って、和気藹々と楽しんでる。
一夫一妻の掟があるミリス教徒のノルンちゃんと、二人目の妻であるロキシーさんの相性は良くない。
けど、それは肩書きの話であって、人間的な相性は別に悪くないように見える。
師匠いなくても良かったんじゃないかな? って思うくらいには、もう仲良しだ。
「エミリー……」
「エミリー姉……」
「うぬぬぬぬぬ……!」
一方、ルーデウスとアイシャちゃんと私のグループ。
こっちの方が問題だった。
「こんな、ことが……!?」
釣り竿の振り方は素振りに似てる。
だから、もしかしたら、私の得意分野の範囲内なんじゃないかと、密かな期待があった。
甘かった。
第一投。うっかり無音の太刀くらいのスピードで振るった釣り竿は、その負荷に耐えられず一瞬でへし折れた。
それをアイシャちゃんが修理してくれて、応急処置を施された釣り竿で第二投。
今度は細心の注意を払って、なんとか釣り針を川の中に投げ込むことには成功したんだけど……。
フィーーーーーッシュ! と思った瞬間、力が入って持ち手を握り潰してしまった。
ボロボロの釣り竿が、無情にも川に飲み込まれていく。
「釣りの、才能が、無い……!!」
「それ以前の問題だったねー」
「ド、ドンマイ……」
膝をついて悔しがってたら、グレイラット兄妹に優しく背中を撫でられた。
期待があっただけに、いつもより辛い……!
「このまま、終わって、堪るか……!」
「おお!!」
「ちょっ!? エミリー姉!?」
私は服を脱いだ。
ローブを脱ぎ、剣を外し、色気のない実用性重視の下着姿で川の中へダイブ!
目についた獲物を華麗なクロールで追いかけ、水神流『流』の要量で、逃げる力の方向を変えて打ち上げる!
「一匹、ゲット……!」
ふっふっふ。
前世の頃から、水泳はわりと得意な方だったのだ。
剣術特化とはいえ、我が身をダイナミックに使う感じの競技なら適性があるのだよ!
「これで、私も、戦える……!」
「うん! 凄く良いと思う!」
「お兄ちゃーん、ロキシー姉が複雑そうな目で見てるよー?」
「はっ!?」
「シルフィ姉さんにも、あとで報告しておきます」
「うぐっ!?」
「こういうとこは変わらねぇなー。さすが、オレの息子だぜ!」
なんか、地上でルーデウスがフルボッコにされていた。
……いや、これ、私もやっちゃったかな?
でも、本当に色気の無い、サラシとスパッツみたいな下着だよ?
だから、私は悪くない……ってことにならないかなぁ……?
◆◆◆
結局、もうちょっと恥じらいを持ってくれって、私も怒られてしまった釣りを終え。
必要な時間を稼ぎ切って帰宅。
ノルンちゃんとアイシャちゃんが扉を空けた瞬間──
「「「誕生日おめでとう!」」」
「「え……?」」
会場設営組がクラッカーの代わりに花びらを振りまいて、お誕生日会が始まった。
二人の驚いた顔見てると、サプライズの醍醐味を感じる。
後ろで師匠達が、凄い嬉しそうな顔してた。
「遅くなって、ごめんな。色々あった上に、帰ってきた後も大宴会とかあったから、なんか変なタイミングになっちまった」
「「お父さん……」」
「ノルン、アイシャ。大分ズレちまったが、10歳の誕生日おめでとう! こんなに大きくなってくれて、本当に嬉しい……!」
「「!!」」
少し涙の滲んだ、師匠の笑顔。
無事に育ってくれるのが当たり前じゃないって、ここにいる皆は嫌ってくらい理解してる。
だからこそ、皆揃ってお祝いできるのが奇跡だって、わかってるからこそ、本当に、凄く、凄く嬉しかった。
そして、皆がそれぞれ選んだプレゼントが二人に渡される。
ノルンちゃんには、カッコイイ色合いのコートと、私イチオシの剣。
アイシャちゃんには、お洒落なブーツと、可愛らしい飾りのついた腕輪。
あと、お揃いの刺繍が入ったハンカチ。
なお、アイシャちゃんの腕輪は、魔力を流すと前方に煙を噴き出す魔道具である。
まず最初にデザインを見て「可愛い! ありがとう!」と喜んでくれた後に、機能の方を説明すると「わ、わーい、ありがとう……」と何故か若干テンションが下がってしまった。
うーむ。
可愛いものは可愛いもので、護身グッズは護身グッズで分けるべきだったかもしれないと、私達は少し後悔した。
「ロキシー」
「?」
そして、サプライズは続く。
「これ、ボクらからロキシーに」
「えっ、はぁ、え、あの、何の?」
「結婚祝いだよ。ロキシー、ルディとの結婚おめでとう!」
二人の次は、姉とルーデウスからロキシーさんに、新しい魔女帽子が贈られた。
重婚に引け目を感じてたロキシーさんを、改めて迎え入れる。
改めて、家族になる。
「ロキシー。ボクらも、ゼニスさんとリーリャさんみたいになろうね」
「ありがとう、ございます。シルフィ……」
そんな意味のこもったプレゼントに、ロキシーさんは涙ぐんだ。
「ロキシーさん、これ、私達から」
「エミリーちゃん……!」
姉の想いを、私達も尊重する。
それに、重婚には思うところがあっても、ロキシーさんのことは好きなのだ。
私達、皆ね。
「衝撃波の、魔道具の、指輪。剣士に、近づかれた時、便利」
「なるほど……! 実用的ですね……!」
「……エミリー姉って、ホントにバトル脳だよね」
アイシャちゃんに、何やら含みのある視線を向けられてしまった。
やっぱり、プレゼントで渡すチョイスじゃなかったかな……?
でも、突然の転移事件で紛争地帯ってこともあるし、あった方が良いと思うんだけどなぁ……。
「それと、シルと、ルーデウスにも。はい」
「え……?」
「お、俺達にも……?」
「うん。結婚祝い、まだ、だったから。それと──」
師匠と、父と母の方を見る。
三人は力強く頷いて、言った。
「ルディ」
「「シルフィ」」
「「「15歳の誕生日おめでとう!」」」
「「!」」
祝うべき日が転移事件に飲み込まれてたのは、ノルンちゃんとアイシャちゃんだけじゃない。
特にルーデウスの方は、10歳の誕生日すら家族とは祝えなかった。
私とシルは師匠達に祝ってもらえたのに、実の息子は出荷されてて離れ離れ。
申し訳ないなって気持ちがあった。
喉に刺さった小骨みたいに、心の中で引っかかってた。
それを清算する意味でも、私達も三人の結婚を認めるよって、改めて伝える意味でも、ちゃんとお祝いしたい。
なんかケジメみたいになっちゃってるけど、まあ、いいや。
細かいことは気にしない!
「ありがとう、皆……! でもさ、エミリー」
「ああ。15歳おめでとうは、俺達だけじゃないだろ?」
「む……?」
姉とルーデウスが目配せする。
いや、違う。
師匠も、父も母も、リーリャさんとゼニスさんもだ。
察した感じのノルンちゃんとアイシャちゃんも巻き込んで、皆で口を揃えて、言ってくれた。
「「「エミリーも、おめでとう!」」」
「あっ……」
父と母が代表して、プレゼントを持ってきてくれる。
中に入ってたのは、緑色のローブだった。
ベカリットの旅を経て大分ボロボロになってたやつに代わる、多分風魔術への耐性がありそうな、結構良さげなやつ。
「そっか……。そういえば、私もだ」
素で自分のことを忘れてた。
転生者だからか、15歳の誕生日を過ぎたって自覚が、今一つ足りてなかったのかもしれない。
それにしても、アレだね。
ノルンちゃんとアイシャちゃんのお誕生日会の裏で、結構な数のサプライズが重複してたんだね。
私含めて、皆ちゃんと驚いてたし、お互いに自分が仕掛ける側だと思って、仕掛けられる可能性を見落としたのかな?
戦闘における学びになりそうだけど……まあ、今だけはいいや。
「あり、がとう……!」
だって、こんなに嬉しい……!
なんか、思った以上に胸が、心がポカポカして、温かい気持ちになる。
私は憧れに脳を汚染されてる。
剣の道を極めるのが楽しい。
強さを求め続けて「私強ぇ! カッケェ!」って思えるのが何よりの幸せ。
でも、そうやって身につけた力を、この幸せを守るために使えたのなら、もっと幸せだろうなって。
剣に狂う頭のおかしな奴なりに、そんなことを思った。
・ルーデウス夫妻へのプレゼント
お揃いの指輪。
夫婦といえば指輪だろうという発想から選ばれたが、エミリーなので実用性を考慮してる。
両親も紛争地帯の経験のせいで、こういう部分では頭エミリーになってるから止めてくれない。
ただ、ロキシーはともかく、無詠唱で衝撃波を使えるルーデウスとシルフィにとっては、ただの綺麗な指輪かもしれない。
なお、聖級剣士以上には効果が薄い。
さすがにそのレベルに通用するアイテムとなるとお金がね……。
・アイシャの腕輪
可愛いんだけど物騒。
この時はちょっと引いてしまったものの、傭兵団を率いるようになったあたりから、こういう護身は大事だなと改めて思うようになってくる。
でも、誕生日プレゼントとして適してるかどうかは、晩年まで疑問だったらしい。