剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
空中城塞、想像以上に大きくて綺麗だったなぁ。
エミリーはこれを荒したのか……。
ペルギウス様が寛大じゃなかったなら、絶対に土下座じゃ済まない……。
そして、ナナホシさんがあんなことになってる時も、奴はパラダイスでヒャッハーしてやがったんだ。
前世今世合わせて一番頭が悪くなってた時期をエンジョイしてやがったんだ。
肝心な時によぉ……!
ということで、今回の番外編は空中城塞……ではなく、ついにアニメで過去が語られたエリナリーゼさんで行きます。
前々からやりたかったネタだったのと、リクエストもあったので。
エリナリーゼ・ドラゴンロード。
Sランク冒険者『竜道』のエリナリーゼ。
彼女の人生は波乱に満ちていた。
彼女には子供時代の記憶が無い。
とある迷宮の奥底に囚われ、魔力結晶と同化し、救出された時には記憶も感情も失っていた。
後に仲間となるゼニスと同じように。
その後、外見的特徴からエルフの集落に預けられ、程なくして、迷宮の魔力によって患ったと思われる呪いが発動。
『定期的に男の精を受け入れ、子宮にある呪いの魔力を変質させて、魔力結晶として排泄しないと、魔力が飽和して死ぬ呪い』
これが彼女の人生を大波乱へと導いた。
最初の結婚相手は、高値で売れる魔力結晶の売却を繰り返した結果、強盗に襲われて死亡。
呪いのせいで性生活と無縁ではいられない彼女は、未亡人となった後、集落の風紀を乱しに乱しまくって、ついには追放処分を受けた。
世に放たれた後も、男を取っ替え引っ替えするビッチとして悪名を轟かせ。
その美貌も相まって、傾国の美女もかくやとばかりに、各地の人間関係をしっちゃかめっちゃかにして、多くの恨みを買った。
『エリナリーゼッッッ!!!』
『あんたのせいで……!! あんたのせいでぇぇぇ!!』
『お前みたいな奴の血を継いでるなんて、恥ずかしくて仕方がない……!!』
『消えろよ!! 頼むから消えてくれよぉぉぉ!!』
被害者達はもちろん、彼女の罪のせいで迫害を受けた子供や孫達にも、誇張なしに死ぬほど恨まれた。
憎まれた。嫌われた。殺されそうにもなった。
それでも呪いは消えない。
そう簡単に消えないからこその『呪い』なのだ。
そして、ヤルことをヤレばデキる。
不幸は連鎖し続けてしまう。
我が子に自分の名前すら明かさず、一人前になるまで育てたら縁を切った。
そんな生活を続けるしかないほどに『エリナリーゼ・ドラゴンロード』という名は、最悪の忌み名であった。
シルフィとエミリーの父、ロールズもそうして縁を切った子供の中の一人である。
「母さん!」
「ッ……!」
まだ自分の罪を知られる前。
母に甘えたがる無垢な時代の子供達を見る度に、心が痛んだ。
彼女は開き直っていた。
ビッチであることを受け入れ、男達との交わりを楽しんだ。
そうでなければ、とっくに心が壊れていただろう。
けれど、開き直ったからといって、心の痛みから完全に解放されるわけもない。
どれだけ割り切ったつもりになっても、ふとした瞬間に、痛みも恐怖も這い寄ってくる。
自分のせいで不幸にすることが確定している、我が子の笑顔なんて見た日には。
堰を切って、泣きたくなるほどの思いがあふれる日だってあった。
「母さん!? どうしたの!? どこか痛いの!?」
「だ、大丈夫……! 大丈夫ですのよ……!」
強がった。強がるしかなかった。
自分には泣く資格も、弱音を吐く資格すら無いのだから。
「ロールズ、剣の稽古を続けましょう」
「え!? で、でも……」
「お願い。続けさせて。……あなたが、一人でも生きていけるように」
……彼女は、我が子達を愛していた。
愛していたからこそ、苦しかった。
感情の振れ幅が大きい日には、いっそ死んでしまいたいと思うほどの、自責の念に駆られた。
けれど、何故なのか、自死だけは選ばなかった。
性格を歪めて、苦しみをごまかして、不幸を振りまき続けてでも、彼女は生きた。
死ぬのは、さすがに怖かったから?
未来では救われるかもしれないと、僅かな希望を抱いていたから?
それとも──
『────じゃあ、行ってくるよ。待っていてくれ、■■■■■■』
迷宮で失った記憶の中に、自死を思い留まるほどの何かがあったから?
複雑に絡まる自分の心を、この頃の彼女は理解し切れなかった。
◆◆◆
時は流れる。
彼女は相変わらず男に抱かれ、トラブルを巻き起こし、たまに子供を産んでは、最後には恨まれる。
そんな人生が変わり始めたのは──とある人族の少年との出会いから。
「オレとパーティーを組んでくれ!」
パウロ・グレイラット。
そして、彼が作った冒険者パーティー『黒狼の牙』
変人揃いの、はみ出し者揃い。
実力
エリナリーゼ・ドラゴンロードの悪名を消し去りはしないまでも、埋もれさせてしまうほどのインパクトがあった。
「うっし! 上手くいったぜ!」
「大量じゃねぇか! あいつら、結構隠し持ってやがったのな!」
「……こんなことをして良いのだろか? 師匠には人の物を盗るなと厳しく言われたんだが」
「まあまあ、いいじゃありませんの。あの男達とは遊んだこともありますし、その時の料金だと思えば良いんですわ」
「ハッ! ボッタクリもいいところじゃのう」
何より、気の合う仲間達との冒険の日々は、楽しかった。
カツアゲの記憶すら輝いて見えるほどに。
……結局、黒狼の牙は、最後のメンバーとして入ってきたゼニスにパウロが惚れて。
彼女の妊娠からの大喧嘩でパーティー解散という、苦い記憶によって終わってしまったのだが。
けれど、数年後。
間違いなく人生の転機だったパウロとの出会いは、思わぬ形で続きの物語を紡ぎ出した。
「ロ、ロールズ……!」
「……母さん」
転移事件。
アスラ王国フィットア領を襲った未曾有の大災害。
パウロとゼニスの一家もそれに巻き込まれ。
パウロは恥を忍んで、元仲間達に『助けてくれ』という伝言を残した。
なんだかんだで、仲間意識を捨て切れなかった彼女は、同じ思いだった元仲間のタルハンドと合流し。
フィットア領にて、目的を同じくするロキシーと出会い。
その時に得た情報で、息子一家も転移事件に巻き込まれたと知って。
彼らを探すための旅を始めた。
そして、想像以上に早く、息子一家と再会できてしまった。
「ぶ、無事で、無事で良かったですわーーー!」
「うわっ!?」
感極まって抱きついてしまった。
拒絶されて当然なのに、ロールズは彼女を振り払わなかった。
それどころか──
「はじめ、まして、お婆ちゃん。エミリー、です」
「!?」
ロールズの娘。
この可愛らしい孫娘は、自分に一切の敵意を抱いていなかった。
話を聞けば、なんと孫娘はパウロの弟子。
ギレーヌとも手合わせしたことがあると、キラキラした目で語っていた。
輝く瞳の中には、エリナリーゼ・ドラゴンロードへの、嫌悪も、憎悪も、何もない。
転移事件が起きるまでは、幸せに暮らしていたのだろうと思える希望が詰め込まれていて。
それが、どれだけ、どれだけ彼女の救いになったことか。
守らなければ。
助けなければ。
まだ行方不明のもう一人の孫娘を探し出し、奇跡のような息子一家の幸せを護らなければ。
彼女がそう決意したのは、至極当然のことであった。
「ルッ……!」
「はじめまして、ルーデウス・グレイラットです。
何事もなければ、来期からあなたの後輩になります。
何か至らないところがあればご指導ご鞭撻のほどお願いします」
「…………え? あ、は、はい。フィッツです。よろしく」
その誓いも、数年の時をかけて果たすことができた。
魔大陸の捜索中に出会った伝説の『魔界大帝』キシリカ・キシリスの持つ『万里眼』という魔眼により、パウロの家族と共に居場所の特定に至った孫娘、シルフィエット。
元気な姿を直接見られてホッとした。
緊急性と位置的な問題で、まずは冒険者をしていたルーデウスを回収してから魔法大学に向かったが、その判断は正解だったらしい。
ロールズの話で、幼少期のシルフィがルーデウスに惚れていたというのは知っている。
ルーデウスもまた、パウロとゼニスの息子。
彼女にとっては守るべき相手だ。
二人を無事に再会させられた時、本当に肩の荷が降りた気分だった。
(さて、では、シルフィに挨拶を……挨、拶、を……)
だが、ここでトラウマが疼く。
ロールズとエミリーが特殊だっただけで、彼女は基本的に、子孫達には罵倒されてきた。
知られていないのなら、知られないままの方が良いと思い続けてきた行動が、今は躊躇となって彼女の心を縛ったのだ。
(けれど、ロールズ達の無事を知らせないと…………でも、それはエミリーが伝えてますわね)
魔法大学で男漁りをするうちに、少し前まで、ここにエミリーがいたという情報が入ってきた。
『無言』のフィッツと呼ばれるシルフィとも仲が良かったという話だし、間違いなく姉妹での情報交換は済んでいる。
ならば、差し当たっての問題は無いのではないか?
自分はここで、ひっそりとシルフィとルーデウスを見守る。
それで良いのではないか?
変わらずやめられない男漁りと、既に流れてしまったビッチの噂もあって、日和る気持ちに拍車がかかってしまった。
それが憂鬱そうなオーラを彼女に付与し、その色香に惑わされたクリフがプロポーズしてきて、また人間関係がこんがらがり始めたのだが……。
今回ばかりは、本当に、本当に珍しいことに。
全てが良い方向に転がった。
◆◆◆
「お婆ちゃん、お婆ちゃん」
「あら? どうしましたの、エミリー?」
大体の問題が片づいた後。
温かな春の陽気に包まれた、魔法都市シャリーアの自宅にて。
「ドラゴンロードの、名字、ちょうだい」
「…………へ?」
訪ねてきたエミリーから、いきなりそんなことを言われた。
祖母におねだりする孫そのもののテンションで、とんでもないことを言い出した。
「……何がどうしてそうなりましたの?」
「龍神、配下、エミリー・ドラゴンロード。カッコイイ、から」
「…………」
エミリーの目はキラキラしていた。
カッコイイから。
それ以外の理由など存在しない。
そう言わんばかりの、一点の曇りも無い、とても綺麗な目をしていた。
「ふ、ふふふ……!」
「お婆ちゃん?」
思わず笑ってしまった。
『エリナリーゼ・ドラゴンロード』という名は、最悪の忌み名である。
今でこそ落ち着きはしたが、昔に蒔いた恨みの種が、どんな形で芽吹いて襲ってくるかわからない。
過去は消えない。
いつか向き合わなければいけない日が来るかもしれない。
「ご、ごめんなさい……! ツボに、入ってしまいましたわ……!」
「?」
なのに、そんな呪いの名前を、こんなキラキラした目で継ぎたいとか言ってくるなんて。
まあ、自分程度の悪名など、世界最強の女剣士からすれば取るに足りないのだろうが。
そう思えば、ますます笑えてくる。
「そうですわね。気が向いたら、譲ってあげますわ」
「やった!」
嬉しそうにガッツポーズする、永世名誉厨二病。
『妖精剣姫』『姫神』『姫龍帝』
様々な異名で呼ばれることになる女は、最高のタイミングでドラゴンロードを名乗る自分を、今から妄想し始めるのであった。
・エリナリーゼ
深く考えれば考えるほど、とんでもねぇ人生送ってきてるお方。
原作では元々エッチ好きだったとか、好き勝手生きてきただけとか言ってるけど、普通に考えると、おかしくならなきゃやってられないと思うんだ……。
もう幸せになってくれとしか言えない。
・エミリー
もちろん、そんなお婆ちゃんの事情を全く深く考えていない。
龍神陣営幹部でドラゴンロードとか、いかにも強キャラっぽくて良いね! と思っただけである。
……しかし、同じ金髪ロングのスレンダー美人ってことで、このポンコツ、エリナリーゼの容姿をかなり色濃く継承してるのだ。
それに思うところのある人はいるかもしれない。
・今回の番外編
前書きでも語ったけど、元々やりたかったネタだった+エリナリーゼ視点やってってリクエストがありました。
もう番外編50話くらいやってて、とっくにネタは切れてるので、そういうリクエストはありがたいです。
今回みたいに意欲とタイミングが合えば、ご期待に添える可能性もあるので、ネタを恵んでくれ……!