剣姫転生 〜エルフの娘は世界最強の剣士を目指す〜 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
ナナホシさんの慟哭、胸が痛かった……!
パウロの死に様の時もそうだけど、こういうシーンほどアニメ映えするというか、し過ぎて心を抉ってくるのが無職アニメクオリティですよね。
おかげで、なおのこと「友達があんな状態の時に何やってんだエミリー!?」って思ってしまいます。
というわけで、今回の番外編の時系列は、ナナホシさんが倒れた直後です。
「『魔界大帝』キシリカ・キシリスを訪ねてみようと思います」
甲龍歴425年。
空中城塞ケイオスブレイカーにて、七星静香が病に倒れた。
その病が治療法の忘れ去られた太古の病だと判明した時、ルーデウスは一つの決断を下した。
かつて出会った太古の時代の登場人物を頼るという決断を。
「ペルギウス様、俺達を魔大陸に送るのと、もう一つ頼まれてくれませんか?」
「何を望む?」
今回の目的地は魔大陸。
この世界で最も過酷とされる大地。
であるならば、強い護衛が多いに越したことはない。
……何より、倒れたナナホシの友として、声をかけないわけにはいかない。
「剣の聖地に滞在中の、エミリーという少女を呼び戻したいんです」
「ふむ。いいだろう。アルマンフィを遣わせる」
「ありがとうございます」
ペルギウスの12の使い魔の一人『光輝』のアルマンフィ。
光の速度で移動ができる、最速の伝令兵。
彼に転移魔術の魔道具を運ばせれば、一瞬にして最高戦力を呼び戻すことができる。
彼女の帰還と準備が完了するのを待って、魔大陸へ向かう。
それが当初のルーデウスの予定であった。
◆◆◆
「ヒャッハーッッッ!!」
「ぬぅ……!?」
偉大なる主の命令を受け、剣の聖地へ向けて飛び立ったアルマンフィ。
彼がそこで見たのは──地獄であった。
「『烈断』!!」
「!?」
アルマンフィの進行方向に、広範囲を薙ぎ払う巨大斬撃が出現した。
それによって弾き返され、大ダメージを負って地面に転がる。
「『光の太刀』!!」
「ッ!?」
今度は移動中のアルマンフィすら捕捉しかねない超速攻撃の連打。
近づけない……!
そこには、光速の移動能力をもってしても迂闊に近づけない、剣の結界があった。
「その程度かよ、エミリー!! もっと俺様を楽しませろ!!」
「まだ、まだぁ!!」
当代最強の剣士『剣神』ガル・ファリオンが戦っている。
七大列強第六位。
単純な個としての戦闘力であれば、主であるペルギウスをも凌駕する男が、たった一人の相手に向かって、かなり本気で斬りかかっている。
少女だ。
長い金髪に、尖った長耳、色違いの瞳。
空中城塞に滞在中のエリナリーゼ・ドラゴンロードとよく似た、彼女をひと回り小さくしたような外見。
だが、彼女とは比べ物にならない、七大列強と正面から激突できるほどの圧倒的な武力。
ルーデウス達に告げられた特徴と一致する。
間違いない。
あれがエミリーとやらだろう。
彼女に声をかけて空中城塞に連れ帰れば任務完了。
……なのだが、状況は最悪に近かった。
「おらおらおらおらおら!!」
「うりゃあああああああ!!」
「ぐ、ぅ……!?」
二人の剣士がぶつかり合う。
最高にイイ笑顔で、戦いを愉しんでいる。
飛翔する斬撃の流れ弾を、あちらこちらに撒き散らしながら。
見れば、大半の門下生は巻き込まれないように避難していた。
数名の高弟達だけが、この戦いを己の糧にしようと、かじりつくように見入っている。
そして、アルマンフィはそれどころではなかった。
「こんな、バカな……!?」
最初の一撃にうっかり事故で突っ込んだ結果、何かしらの機能を損傷したのか、光速移動が上手く行えない。
斬撃の暴風圏から抜けられない。
伝説の使い魔ともあろう者が、直接狙われているわけでもないのに、巻き添えなどという間抜け極まる死に方をしようとしている。
「お、おのれ……!」
その後、彼は這々の体で、どうにか化け物どもとの距離を確保。
少し休んで回復した能力を使い、空中城塞に帰還した。
だって、あいつら延々と戦ってるんだもん……。
◆◆◆
「悪いな、ルーデウス・グレイラット。貴様のもう一つの頼みは聞けなくなった」
「へ?」
その後、ペルギウスは凄く頭が痛そうな様子でルーデウスに謝罪した。
本当に、嫌なものを見たとばかりに、眉間に思いっきりシワが寄っていた。
「ど、どうしてですか!? まさか、エミリーに何か!?」
「そうではない。むしろ、元気すぎるほどに元気であったわ。……我が下僕がうっかり撃墜されてしまうほどにな」
「ほへ?」
ルーデウスが豆鉄砲を食らった鳩みたいな顔になった。
「精霊の修復にもコストがかかる。こんな形で消耗したくはない。何より……」
ペルギウスの顔が、更に歪んだ。
忌々しいものでも思い出すかのような、何とも言えない表情に。
「我はああいう女が、生理的に無理なのだ……!」
アルマンフィはペルギウスの眼。
下僕の精霊を通して見たエミリーの姿が、嫌な記憶と重なってしまった。
武力が知力を駆逐しているような、愉しそうな笑い声。
あの忌まわしい要塞と被って見える、暴力に支配された空間。
『甲龍王』ペルギウスの若き日のトラウマ。
忘れたくても忘れられない「アーハッハッハ!」という鳴き声を発する女魔王の姿が、嫌でも思い浮かんでしまう。
「えぇ……」
まさかの理由で拒絶してきた大英雄に、ルーデウスはどんな顔をしていいかわからなかった。
後日、生理的に無理な女が、入れたくもなかった空中城塞に自力で乗り込んでくる事件が発生。
庭園を荒らされ、アルマンフィは殴り飛ばされ、ペルギウスの堪忍袋の尾は切れかけた。
土下座とナナホシに免じて一度は許したが、その後も度々、この女は何かしらやらかすようになる。
それでも、不思議と完全に嫌いにはなり切れないまま、最終的に随分と長い付き合いになったのは、何故だったのか。
第一印象が最悪だっただけで、あの女魔王に比べれば、ちゃんと会話が成立する存在だったからか。
ナナホシとの仲睦まじい様子に毒気を抜かれたからか。
それとも、あのオルステッドの弟子のようなポジションに収まり、奴の見たこともない顔が引き出され続ける様子が愉快だったからか。
一つ言えることがあるとすれば。
『妖精剣姫』エミリーは『甲龍王』ペルギウス・ドーラを、良くも悪くも退屈させなかった。
よくよく考えてみれば光速のパシリ……最強の伝令兵がいたんだから、手紙なんかより早くエミリーを呼び戻して、アトーフェ編に参加させられたよなと今頃思う、間抜けな作者の辻褄合わせのごとき番外編でした。
あの頃の私はどうしてエミリーをフェードアウトさせたんだろう?
毎日更新で頭が茹だってたのかな?
・ペ様
ナナホシには悪いと思うけど、本当に無理。
一番頭が茹だってた頃のエミリーの戦闘中という一部分だけを切り取ると、本当にアトーフェ様を彷彿とさせてしまうので。
ネクロス要塞も、原作で北神流版の剣の聖地とか呼ばれてたし、ペルギウス様にとっては本気で相性が悪い。
ここからあの寛大な対応は、器の大きさの証だと思う。
・ルーデウス
最悪エミリーが帰ってこなくても、この世界線ではパウロ(しかも原作より強い)が生き残ってるので、護衛という意味では充分だと考えてもいる。
エミリーに太古の病をどうにかできるとは思えないし、人探しも苦手分野だろうし、もしかしたら魔眼は役に立つかもだけど、現時点の情報量だと、必須の人材とまでは言えない。
ナナホシのメンタルケアって意味では必須だが、『時間』のスケアコートという有能のおかげで余裕はあるから、手紙で帰ってきてくれれば充分。
ペルギウスの機嫌を損ねてまで早期帰宅にはこだわれなかった。
結果、とんでもねぇすれ違いに発展した。